「週刊新潮」に寄稿した書評です。
石井光太『本を書く技術~取材・構成・表現』
文藝春秋 1760円
著者は『こどもホスピスの奇跡』などで知られる作家。創造活動を支える思想と技術を開陳したのが本書だ。ノンフィクションに不可欠な要素が三つあるという。独自の視点、構成力、そして普遍性だ。具体的な方法論としては、対象が常識や制度を超えた人物・出来事であることや、タブーに踏み込むことなどを挙げる。ノンフィクションを書こうとする人はもちろん、読む側にも大いに参考となる。
本間ひろむ
『日本の指揮者とオーケストラ~小澤征爾とクラシック音楽地図』
光文社新書 968円
山田耕筰は大正8年にニューヨークのカーネギーホールの指揮台に立った。そのニュースに触発されて指揮者を目指した朝比奈隆は、京都帝大で音楽部に所属する。大正13年、日本人として初めてベルリン・フィルを振ったのは近衛秀麿。それから42年後、齋藤秀雄門下の小澤征爾がこの名門管弦楽団で指揮者デビューを果たした。日本の西洋音楽を牽引した指揮者たちとオーケストラの歴史物語だ。
橋爪大三郎
『上司がAIになりました~10年後の世界が見える未来社会学』
KADOKAWA 1870円
マルクスの『共産党宣言』に倣えば、「生成AIという妖怪が世界をさまよっている」。社会学者である著者が、この新技術は新しい未来をつくり出す可能性があるかを考察する。会社ではマネジメントの自動化・無人化が進む。教育現場では生成AI教育ソフトの導入で学年制が消滅。さらに国際社会は世界共通法と移動の自由によってフラット化されるという。それはユートピアか、それとも…。
(週刊新潮 2024.11.28号)