「週刊新潮」に寄稿した書評です。
藤原貞朗『ルーヴル美術館~ブランディングの百年』
講談社選書メチエ 2200円
ルーヴル美術館は、なぜ多くの人の関心を引く「売れる」ブランドとなったのか。そのブランディングの歴史を検証したのが本書だ。大きな飛躍が3回あった。創設から百年後、1930年代の大改造。60年代に文化大臣アンドレ・マルローが主導した文化政策。そして80年代に断行された、ミッテラン大統領による「偉大なルーヴル計画」だ。何を捨て、何を得て、その「魔力」を増幅させていったのか。
小宮正安『ベートーヴェン《第九》の世界』
岩波新書 1056円
すでに日本の風物詩として定着した、ベートーヴェン「交響曲第九番」の年末演奏。そもそも「第九」とはどのような楽曲なのか。音楽評論家の著者は、創造の源泉となったシラーの詩「歓喜に寄す」をはじめ、フランス革命やナポレオンとの関係、「喜びの歌」とそっくりなメロディが登場するモーツアルトの作品、さらに現在まで続く数々の影響なども考察。その型破りなスケールが見えてくる。
朝日新聞取材班『ルポ 京アニ放火殺人事件』
朝日新聞出版 1980円
京都アニメーション・第1スタジオで、放火殺人事件が起きたのは2019年7月。青葉真司被告に死刑判決が下ったのは24年1月だ。本書では事件が「なぜ起きたのか」という最大の疑問への答えを探っている。生い立ちから事件までの経緯。被告が裁判で語ったこと。それを聞いた遺族や負傷者たちの思い。記者による面接の中身も明かされる。果たして事件は被告個人が引き起こしたものだったのか。
四元康祐『詩探しの旅』
日本経済新聞出版 2420円
詩人である著者は長年アメリカやドイツに住んできたが、4年ほど前に帰国した。本書は海外生活の頃からの体験を元にした、詩をめぐる旅の記録である。軸となるのは、詩の朗読会やシンポジウムが行われる「国際詩祭」というイベントへの参加。オランダ、ポーランド、ボスニア、イスラエル、アイルランドなどで出会う、海外の詩人たちとその作品が刺激的だ。詩で繋がった、一種の共同体を思わせる。
(週刊新潮 2024.12.19号)