碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 上野千鶴子『マイナーノートで』ほか

2024年12月07日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

上野千鶴子『マイナーノートで』

NHK出版 1980円

著者はジェンダー、女性学などで知られる社会学者。その鋭い論考に納得しながら、うつむき加減になる男性は少なくない。そして思う。「上野千鶴子とは何者なのか」と。このエッセイ集では自身を率直に語っている。父との確執。男性優位のアカデミズム。「研究は究極の極道」と言い切る覚悟。「想像力より現実のほうが、もっと豊かだ」という確信。やはり、ただの「おひとりさま」ではない。

 

河崎秋子『私の最後の羊が死んだ』

小学館 1650円

著者は今年、『ともぐい』で第170回直木賞を受賞した小説家だ。前職は何と「羊飼い」。羊を家畜として飼育していたのだ。本書はその体験を記録する、エッセイ風ノンフィクション。ニュージーランドで修業し、他人の牧場で実習に励み、やがて自分の羊を持つ。小説を書きながら、羊を食肉にする現場にも立ち会ってきた。「命」を見つめるのは紛れもない作家の目だ。

 

加藤智見『図説 ここが知りたかった! 歎異抄』

青春出版社 1925円

『歎異抄』は、親鸞の門弟の唯円が師の言葉や教えを書きしるし、当時の異説を批判した書だ。本書では、親鸞の歩みと「念仏」「本願」「他力」などのキーワードを抑えた上で、序文に始まる全十八条から奥書までを読み解いていく。誤解されやすい「悪人正機説」の真意や、親鸞が度重なる挫折から得た真理も明かされる。巻末には「原文」が付されており、声に出して読むと一層理解が深まる。

 

高橋裕史:編

『「海」から読みとく歴史世界~海は人と、人は海とどのように関わってきたか』

帝京選書 2970円

帝京大学出版会は昨年秋に創設された。本書は一般教養書と専門書の橋渡しを目指す「選書」の一冊。歴史の切り口としての「海」に着目した研究成果が並ぶ。ヨーロッパによる海の支配が日本に与えた影響を探る「大航海時代と日本をめぐる海の攻防」。また、海底の沈没船と積載品は〈水中文化遺産〉と呼ばれる歴史の証人だ。論考「水中に残された歴史を読みとく」が新たなロマンをかき立てる。

(週刊新潮 2024.12.05号)


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