碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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テレビ界を描く小説『虚像(メディア)の砦』

2009年05月08日 | テレビ・ラジオ・メディア
札幌に来ている。

思ったよりも暖かくて、桜も終わったらしい。残念。


羽田へのリムジンバスと、千歳に向う機内で、ずっと読み続けていたのが、真山仁さんが4年前に出した小説『虚像(メディア)の砦』だ。

最近の真山さんといえば、外資系投資ファンドと日本経済を描いた『ハゲタカ』で知られるが、『虚像の砦』の舞台はテレビ界である。

誰しも「自分がよく知る世界」を描いた小説を読んだ時、何かしら違和感というか、「ちょっと違うんだよなあ」というモドカシサに襲われることは、よくある。

私も、これまで、テレビ界を舞台とした作品には、ソレを感じることが多かった。

しかし、『虚像の砦』は違った。

その“リアル”に感心したのだ。

海外での人質事件。

テレビ局内の権力闘争。

財務問題。

放送免許の再交付。

24時間テレビ。

カルト教団による殺人事件とテレビの関係・・・。

この一作の中で、複数の「テレビの現実」が交錯する。

それは、単にこの小説に登場する出来事が、実際にあったものを彷彿させるといったレベルの話ではない。

登場人物たち、たとえばテレビ局に所属する報道ディレクター、芸能プロデューサー、その上司の局長や社長、さらにキャスターも、皆それぞれ、確かに“生きて”いるのだ。

それは総務省の人間なども同様だ。

テレビが抱える危うさが、いやというほど出てくるけれど、それを非難したり告発するというスタンスではない。

「なぜそうなっているのか」を、小説という装置を生かして解明しようとしているのだ。

しかも、その底流には、テレビという“荒野”で、何かを為そうとする人たちに対する厳しい愛情がある。

専門的な話をわかりやすく織り込みながらの、巧みなストーリーテリングが見事。

本当に、読み出したら止まらなかった。

テレビ好きにも、その逆の人にも、自信をもっておススメできる一冊だ。

虚像(メディア)の砦 (講談社文庫)
真山 仁
講談社

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今日と明日で、いつものようにテレビ3本とラジオ1本の生出演だ。

本日(金)、午前中はUHB「のりゆきのトークDE北海道」。

午後はHTB「イチオシ!」。

明日(土)は、12時からHTB「スキップ」。

午後4時15分から、FMノースウエーブで「大人塾リターンズ」だ。

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