碓井広義ブログ

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『事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇』が迫った、指名手配犯「最期の日々」

2025年03月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

『事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇』

桐島の最期の訴えは、

「自分の名前で最期を迎えたい」

 

昨年1月、神奈川県内の路上で倒れていた男が救急搬送された。内田洋という70歳のがん患者だ。入院から11日後、内田は突然「警察を呼んでくれ」と言い出し、自分の本当の名前は桐島聡だと告白した。しかも、その数日後に死亡してしまう。

1974年から翌年にかけて発生した連続企業爆破事件。桐島は犯行グループの一人であり、50年近くも逃亡を続けてきた。それがなぜ自ら名乗り出たのか。2月24日に放送された「事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇」(NHK)は、その最期の日々に迫っていた。

番組は桐島の軌跡を辿りながら、どんな人間だったのかを探っていく。彼が40年以上も住んでいたアパートにも初めてカメラが入った。残された便箋には「やみだ。やみが人間を創造する」などと記されていた。

驚いたのは宇賀神寿一が証言したことだ。桐島と同じ「東アジア反日武装戦線/さそり」のメンバーで、20数年前に刑期を終えて出所している。桐島は真面目で思いやりのある人間だったと回想し、「無名戦士として死にたくなかったのだろう」と語っていた。

また「自分の名前で最期を迎えたい」という桐島の言葉を聞いた看護師によれば、それは逃亡完遂の勝利宣言などではなく、辛い人の最期の訴えだった。そこにあるのは、真相を明かすことなく逝った指名手配犯が見つめた「闇」の深さだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.03.04)

 


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