碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「下北沢ダイハード」・・・演劇の街で聞く「ここだけの話」

2017年08月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

日刊ゲンダイに連載中のコラム「TV見るべきものは!」。

今週は、ドラマ「下北沢ダイハード」について書きました。

 

テレビ東京系「下北沢ダイハード」

演劇の街で「ここだけの話」を聞いているような快感

 「下北沢ダイハード」は、今期ドラマにおける“企画大賞”である。テーマは、演劇の街・下北沢を舞台にした「人生最悪の一日」。脚本は小劇場の人気劇作家11人による書き下ろし。「真夏の演劇フェスティバル」みたいなお祭り感だ。

第1話「裸で誘拐された男」の脚本は、演劇チーム「TAIYO MAGIC FILM」の西条みつとし。SM趣味の国会議員・渡部(神保悟志)が、女王様(柳ゆり菜)の命令で全裸のままトランクに詰め込まれる。ところが、そのトランクが紛れ込んだのは誘拐事件の現場だった。

第2話「違法風俗店の男」の脚本・演出は、ユニット「男子はだまってなさいよ!」の細川徹だ。ドラマ「バイプレイヤーズ」と同様、光石研が俳優・光石研を演じるという仕掛け。たまたま行った風俗店で、光石は警察の手入れに遭遇する。

第3話「夫が女装する女」を書いたのは、劇団「サンプル」を主宰する松井周。主人公は、女装癖の夫(野間口徹)をもった妻(麻生久美子=写真)だ。ママ友たちと歓談中の喫茶店に女装した夫が入ってきたから、さあ大変。“コメディエンヌ・麻生久美子”を堪能できた。

各回をつなぐのは、スナックのカウンターをはさんで会話する、常連客の古田新太とママの小池栄子。下北沢で芝居を見た後に立ち寄った店で、「ここだけの話」を聞いているような快感がある。

(日刊ゲンダイ 2017.08.09)


【気まぐれ写真館】 戦後72年8月9日 合掌

2017年08月09日 | 気まぐれ写真館


放送から50年、ウルトラセブン「アンヌ隊員」に出会った!

2017年08月09日 | テレビ・ラジオ・メディア
『三田評論』10月号に掲載予定
「三人閑談:ウルトラセブン50年」



ウルトラ警備隊の友里アンヌ隊員こと、ひし美ゆり子さん



左は慶應MCCシニアコンサルタントの桑畑幸博さん





週刊朝日で、ドラマ「黒革の手帖」についてコメント

2017年08月08日 | メディアでのコメント・論評


武井咲(23)が希代の悪女を演じるドラマ「黒革の手帖」(テレビ朝日系)が好調だ。原作は昭和の巨匠、松本清張のピカレスク・サスペンス小説。銀行の派遣社員、原口元子が横領した1億8千万円を元手に、最年少の銀座の高級クラブのママに転身。銀行の借名口座を記した“黒革の手帖”を武器に、夜の世界でのしあがってゆく物語だ。

過去4回にわたりドラマ化され、時代を象徴する女優がヒロイン・元子を演じてきた。その全てを視聴した碓井広義上智大学教授(メディア文化論)は語る。

「なんといっても1982年に元子役に挑戦した山本陽子さんが印象に残る。OL経験があるだけに楚々とした銀行員を演じる一方で、銀座のママとして魅せた艶やかさが良かった。84年の大谷直子さんは、まさに社会の底辺から這い上がる松本清張のピカレスク小説を体現していました」

96年には浅野ゆう子、そして、2004年の米倉涼子による元子は記憶に新しい。

「それまで米倉さんの芝居は、さほどでもなかった。だが、このときは体を張って元子を演じ切る気迫が伝わってきました」


不朽の名作だけに、過去の女優との比較はつきもの。だが、武井も負けていない。7月10日の記者会見で、「できるの?と、試すような目が多い気がする。元子のように打ちのめしたいなって思っています」と、射ぬくような視線を見せた。宣戦布告どおり、7月20日の初回視聴率は、11.7%(ビデオリサーチ社調べ)と合格ラインの2桁発進。27日の2話はさらに数字をあげた。コラムニストのペリー荻野さんもこう分析する。

「武井さんには、米倉さんのように、仁王立ちする強さはない。しかし、まだ美少女のしっぽが残る危うさが、素人から最年少の銀座のママに転身する元子の役柄にうまく重なっている」

ペリーさんは、決して勧善懲悪ではない、悪をもって悪をたたく、松本清張作品ならではの魅力を存分に魅せてほしいと話す。

「米倉さんは、『黒革の手帖』で平均視聴率15%を稼ぎ出し、女優として確固たる地位を確立させました。06年には同じ清張作品の『けものみち』で夫殺しの女を演じています。2人は、同じオスカープロモーション所属の先輩、後輩の関係。武井さんにも、米倉コースで女優として脱皮するのを期待しています」

次は、武井の「けものみち」を期待したい。

(週刊朝日 2017年8月11日号)

武井咲主演『黒革の手帖』が大健闘している理由とは!?

2017年08月07日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


35年の歴史をもつドラマ『黒革の手帖』

木曜ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)の好調が伝えられています。主人公の原口元子(武井咲さん)は銀座にある高級クラブ「カルネ(手帖の意味)」のママ。しかし、元々は東林銀行で働くマジメな銀行員でした。それがある日、銀行が隠す不正な架空名義預金を横領し、それを元手に店をオープンしたのです。

原作は1980年に出版された、松本清張さんの同名小説です。これまでに何度もドラマ化され、その時代にふさわしい「元子」が登場してきました。

中でも、1982年の山本陽子さんが印象に残っています。女優になる前にOL経験があった山本さん。その銀行員姿は凛としており、また銀座のママとしての艶やかさも抜きん出ていました。

2004年の米倉涼子さんは記憶に新しいですね。この時の米倉さんは、「元モデルの女優」から「本格女優」へのジャンプを決意したのだと思います。身体を張って元子を演じる米倉さんの気迫は、画面からも伝わってきました。

そして、今回の武井咲さんです。この役を武井さんが演じると報じられた際は、「若過ぎるだろう」とか「銀座のママのイメージと違うよね」といった声も聞こえましたが、ほぼ杞憂だったようです。普通の学生やOL役などでは、やや浮いてしまいそうな武井さんの美貌が、夜の銀座という“異世界”で大いに生かされているからです。


原作とは異なる「オリジナル部分」

もちろん、今回の武井咲主演版が予想以上に大健闘している理由は、それだけではありません。このドラマでは、脚本の羽原大介さんが仕掛けた、原作とは異なる「オリジナル部分」が、物語と登場人物の造形に功を奏しているのです。

現在までのところ(この後も出てくるはずですが)、オリジナル部分の大きなポイントは4つあります。まず、原作では「銀行の正社員」だった元子を、「派遣の銀行員」としたことです。

松本清張さんがこの小説を週刊誌に連載していたのは1970年代末のこと。当時はまだ、銀行における女性行員は、適当な年齢になったら結婚退職していくものとされていました。また、たとえ辞めなくても、男性行員と違って出世とは無縁の状態に置かれていました。原作の元子は入行して15年のベテランであり、そのことに不満と絶望感を抱えていたのです。
 
ドラマの元子は、派遣であるために、不祥事を起こした女性行員の代わりに罪をなすりつけられ、いきなり契約を切られてしまいます。銀行が隠している架空名義預金1億8千万円の横領を決行するのは、”派遣切り”された直後です。「派遣」という設定は、元子がそれなりに「弱者」の立場だったことを、見る側に印象づけました。

第2のオリジナル部分は、亡くなった父親が残した借金のために、元子と母親が苦労した「過去」をきちんと描いたことです。母親は、夫に代わって借金を自分が背負う「念書」を書かされます。これはずっと尾を引いて、母親の後は、大人になった元子が引き継ぐことになります。借金と念書の怖さを象徴する場面は、繰り返し挿入されました。そのため、本来は悪女であるはずの元子に、見る側がどこか“肩入れ”する余地が生まれたのです。


「銀座で一番若いママ」という<意味>

そして、有効なオリジナル部分の3番目は、「銀座のママ」としては若い、23歳という武井さんの実年齢を逆手にとって、「銀座で最年少のママ」という設定にしたことです。

元子を演じた先輩女優たち(山本陽子さん、大谷直子さん、米倉涼子さんなど)と比べて、武井咲さんが若いことは、まぎれもない<事実>です。しかし、このドラマでは、その事実を、「銀座で一番若いママ」という<意味>に変えてしまったわけです。

「銀座で一番若いママ」を、セリフとして真矢ミキさん演じるベテラン銀座ママなどに何度も言わせることで、武井咲版「元子」の若さや、幼さや、背伸びや、強がっている様子などに、「何しろ最年少だから」という納得感、リアル感を与えました。

そういえば「最年少」は、将棋の藤井聡太四段(15)に代表される、今年のキーワードの一つです。巨人・坂本勇人選手(28)が、右打者史上最年少で1500安打達成。幸英明騎手(41)のJRA通算1万8000回騎乗が最年少記録。市川海老蔵さんと故・小林麻央さんの長男、勸玄(かんげん)ちゃん(4)が史上最年少で宙乗りを披露。「最年少の銀座ママ」は、しっかりトレンドに乗っているのです(笑)。

さらに4番目の変更点は、ホステスの波子(仲里依紗さん)。原作では、飛び込みでホステスを志願してきた女性でした。それを元子と同じ銀行で働いていた、(同じく派遣の)銀行員としたことです。一緒に派遣切りに遭った波子は、銀座に来てから徐々にその本性を現していきますが、元子の過去を知る人間が近くにいることで、物語に緊張感が生まれました。仲里依紗さんは、『あなたのことはそれほど』(TBS系)の“夫に浮気された妻”も怖かったですが、このドラマでも腹の底の見えない怖さがあります。

そんな仲里依紗さんをはじめ、脇役陣も充実しています。銀座ママの真矢ミキさん(やはり『ビビット』より似合います)、病院長の奥田英二さん(いまや女優・安藤サクラさんの父)、議員秘書の江口洋介さん(『ひとつ屋根の下』のあんちゃんも49歳)、銀行次長の滝藤賢一さん(登場するだけで不穏な空気が漂う名脇役)、そして看護師長の高畑淳子さん(復活ですか?)など、いかにも“らしい”面々が、「若き座長」武井咲さんを支えています。

ひとまず、執念の「成り上がり」を達成したかのように見える元子ですが、無理を重ねてきた分、この先に試練が待ち受けていることは必至。だからこそ、当分、目が離せません。

【気まぐれ写真館】 今年も猛暑 戦後72年8月6日 合掌

2017年08月06日 | 気まぐれ写真館






















NEWSポストセブンで、『黒革の手帖』の脇役たちについて解説

2017年08月06日 | メディアでのコメント・論評



黒革の手帖 好調理由の1つは
脇固める役者のキャスティングの妙

武井咲(23)主演の『黒革の手帖』(テレビ朝日系)が好調だ。平均視聴率は初回放送が11.7%、第2回が12.3%とともに二桁越えをマーク。下馬評では「CM女優のイメージが強い武井にこの大役は務まらないのでは?」との声も多かったが、「銀座のママ」という色気ある役どころで新境地を開拓している。

ただ、忘れてはならないのは彼女の脇を固める俳優陣の活躍。元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア文化論)の碓井広義さんも、好調な滑り出しを見せた要因の一つは「キャスティングの妙にある」と分析する。

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今回の『黒革の手帖』放送前には、23歳の武井さんが銀座のママを演じるのは「若すぎる」という指摘がありました。正直私も「大丈夫かな」と思いましたが、ふたを開けてみたら「大健闘」といえる内容だと思います。ただ、武井さんが「若い」というハンデを克服できたのは、彼女の裏で支える制作陣の創意工夫があったことも忘れてはいけません。

まず挙げられるのは、「銀座最年少のママ」という設定です。将棋の藤井聡太四段に代表されるように、今年のキーワードの一つは「最年少」。その言葉ををさりげなく入れているのがいいですよね。2004年放送の『黒革の手帖』で主演を務めた米倉涼子さんの強烈な印象を払拭するのに、「いい設定を見つけたな」と思います。

そして武井さんの脇を固める俳優陣のキャスティングにも光るものがありました。武井さんは彼らが引き起こす波に乗っかるだけで充分というくらい、一人ひとりが見事にそのキャラクターを演じきっています。

真矢ミキさん(53)は、お母さん役からキャリアウーマン役まで幅広くこなしますが、銀座のママがぴったり似合います。「こんなママがいるお店に通ってみたいな」と思わせるくらいの風格が漂っています。「古きよき銀座のママ」を演じている時の真矢さんは、『ビビット』(TBS系)に出ている時よりも生き生きしているように見えます(笑い)。

◆私生活の鬱憤を晴らすかのような高畑淳子の迫力

奥田瑛二さん(67)は第2話での中心人物。単なるお金持ちのクリニック院長ということではなく、「女好き」というところが奥田さんの私生活と重なって見えて面白い。安藤和津さん(69)にバレないようにこういうことをしてきたのかな、と思っちゃいますよね(笑い)。ちなみにクリニック院長が「国有地をタダで手に入れる」というエピソードは、まさに森友学園問題とリンクするタイムリーなネタで、ドラマはこうあるべきだと改めて思いました。作品の中に風刺を入れてチクチクやるのは、歌舞伎も同じですから。

そして高畑淳子さん(62)は、私生活の鬱憤を晴らすかのような鬼気迫る演技を見せてくれました。奥田さん演じる院長を長く支えてきた看護師長であり、愛人という役どころで、最初は悪役のようなキャラでしたが、院長に裏切られた途端に人間らしい一面が垣間見えて「これはつらいよなぁ、かわいそうだなぁ」と同情を誘いました。やはり息子さんの不祥事の余韻が残る中での出演ですから、幸せオーラのある女を演じるわけにはいかない。そういう意味ではいいポジションに収まったと思います。

若手の中では仲里依紗さん(27)が光っています。『あなたのことはそれほど』(TBS系)に続いて重要な役どころで、じわじわ来ている感じがあります。女優としての彼女の武器は、素朴なキャラから悪役にギアが入る時の表情の変化です。派遣銀行員の時は気弱だった女性が、ホステスに転身して男を手玉に取る女に豹変する。したたかで現実的な女性の二面性をうまく出しながら、主人公・元子の足元をすくう最大のライバルになりそうです。

◆今後の展開に期待を抱かせる滝藤賢一、高嶋政伸

登場回数はまだそれほど多くないキャストも、この後の展開で何かとんでもないことを起こしそうな雰囲気をすでに感じさせています。元子に嵌められた銀行員を演じる滝藤賢一さん(40)なんかは、出てくるだけで「ただごとでは済まないな」という空気になる。予備校理事長を演じる高嶋政伸さん(50)も、独特の怪しさがあって“冬彦さん”を彷彿させるところがあります。伊東四朗さん(80)はまさに政界のフィクサーという感じ。「いかにもな感じだなあ」と思いますね。江口洋介さん(49)演じる代議士秘書も、腹に一物ありそうですね。亡くなった議員の地盤を継いで秘書が立候補するというくだりは、故・中川一郎氏と鈴木宗男さんの関係をなぞっているかのようです。

派遣銀行員が1億8000万円の横領をして銀座のママになるという、現実離れした設定ながらも、話の節々に現実とリンクする場面があるのが今回の『黒革の手帖』の見どころだと思います。

今後のストーリーの展開として、元子に嵌められた人たちの復讐が始まるでしょうが、脇役といっても一人ひとりが濃いエピソードを持っていそうなキャラばかりなので、一筋縄ではいかないと思います。何も持たない元子がゼロから這い上がり、叩き落されてはまた這い上がる。そののぼりくだりの人生を視聴者も楽しむというドラマ。個性的なキャラたちが次はどんな波乱を巻き起こすのか、いろんなパターンが考えられるので最後まで目が離せません。


(NEWSポストセブン 2017.08.02)

「黒革の手帖」武井咲の“銀座で一番若いママ”

2017年08月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、ドラマ「黒革の手帖」について書きました。


テレビ朝日系「黒革の手帖」
米倉涼子のイメージ払拭
武井咲に“銀座で一番若いママ”の貫禄

ドラマ「黒革の手帖」(テレビ朝日系)が好調だ。原口元子(武井咲)は銀座にある高級クラブのママ。しかし以前は派遣の銀行員だった。銀行が隠す不正な預金を横領し、それを元手に店をオープンしたのだ。

原作は1980年に出版された松本清張の同名小説で、これまでに何度もドラマ化されてきた。中でも13年前の米倉涼子主演作の印象が強い。同じ役を武井が演じると報じられた時は、「若過ぎる」とか「銀座のママのイメージと違う」といった声も聞こえたが、杞憂だったようだ。

普通のOL役では、やや浮いてしまうような武井の美貌が、夜の銀座という“異世界”で存分に生かされている。また衣装やメークだけでなく、その落ち着いた立ち居振る舞いと表情によって「銀座で一番若いママ」を見事に造形している。

さらに今回のドラマ化のオリジナル部分として、亡くなった父親が残した借金のために、元子と母親が苦労した過去をきちんと描いている。そのため悪女であるはずの元子に、見る側が“肩入れ”する余地が生まれた。羽原大介の脚本の功績だ。

脇役陣も充実している。銀座ママの真矢ミキ、病院長の奥田瑛二など、いかにも“らしい”面々が若い武井を支えている。成功を収めたかに見える元子だが、試練が待ち受けていることは必至。当分は目が離せない。

(日刊ゲンダイ 2017.08.02)

【気まぐれ写真館】 ホテルニューオータニ ガーデンラウンジ  2017.08.03

2017年08月04日 | 気まぐれ写真館

西に住む友と、久しぶりの再会。

夕暮れのガーデンラウンジでお茶を飲む。

明朝、仕事で英国へ向かうという。

”東京トランジット”の貴重な時間。

「会おうよ」と立ち寄ってくれたことが嬉しい。


同じ年の生まれ。

同じ年の大学入学。

日吉の丘、三田の山という風景の共有。

卒業後は西と東で仕事。


そして今、就職した会社の経営者となった友。

大学で仕事をしている私。

違った場所にいるからこそ、どんな話もできる。

しかも、30年前に偶然出会ってから、互いに中身はほとんど変わっていないのだ(笑)。


楽しい時間は早く過ぎる。

次に会えるのは、いつになるのか、わからない。

それもまたよし。

よき旅を祈る。




80年代の原作を生かして、現代を描くドラマ2本

2017年08月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「黒革の手帖」と「ハロー張りネズミ」について書きました。


「黒革の手帖」「ハロー張りネズミ」
80年代の原作を生かして現代を描く

ドラマ「黒革の手帖」(テレビ朝日―HTB)が好調だ。原口元子(武井咲)は銀座にある高級クラブのママ。しかし以前は派遣の銀行員だった。銀行が隠す不正な預金を横領し、それを元手に店をオープンしたのだ。

原作は1980年に出版された松本清張の同名小説で、これまでに何度もドラマ化されてきた。中でも13年前の米倉涼子主演作の印象が強い。同じ役を武井が演じると報じられた時は、「若過ぎる」とか「銀座のママのイメージと違う」といった声も聞こえたが、杞憂だったようだ。

普通のOL役では、やや浮いてしまうような武井の美貌が、夜の銀座という“異世界”で存分に生かされている。また衣装やメイクだけでなく、その落ち着いた立ち居振る舞いと表情で造形された「銀座で一番若いママ」が見事にはまった。

さらに今回のドラマ化のオリジナル部分として、亡くなった父親が残した借金のために、元子と母親が苦労した過去をきちんと描いている。そのため、悪女であるはずの元子に、見る側が“肩入れ”する余地が生まれた。脚本の羽原大介の作戦勝ちである。成功を収めたかに見える元子だが、この先に試練が待ち受けていることは必至で目が離せない。

瑛太主演「ハロー張りネズミ」(TBS―HBC)の原作は弘兼憲史の漫画。こちらも80年代の作品だ。やはり何度か映像化されているが、今回の演出・脚本は、「まほろ駅前番外地」(テレビ東京―TVH)や「リバースエッジ 大川端探偵社」(同)の大根仁監督である。

「あかつか探偵事務所」は、所長の風かおる(山口智子)、調査員の七瀬五郎(瑛太)と木暮久作(森田剛)という3人だけの小さな所帯だ。大手が請け負わない「こぼれ仕事」や「汚れ仕事」が回ってくる。

たとえば交通事故で娘を失った男(伊藤淳史)の依頼は、同じ事故で危篤状態の妻に、娘の元気な姿を見せたいというものだ。五郎たちは、その娘に似た女の子を求めて奔走する。また自殺した父親(平田満)の汚名を晴らそうとする娘(深田恭子)が現れる。こちらは前後編で、爆破シーンもある豪華版だ。深田の「謎の美女」ぶりも板についている。

瑛太の飄々とした演技が心地よく、また森田と山口も大根演出のおかげで、笑える“ヤンチャ感”が出ている。さらに情報屋がリリー・フランキー、平田満の右腕だった男が吹越満といったキャスティングも効いている。猥雑さや品のなさを作品の熱量に転化させる“大根ワールド”全開の一本だ。

(北海道新聞 2017年08月01日)



「ACジャパン・NHK 共同キャンペーン」の飯豊まりえさん

2017年08月03日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、ACジャパン・NHK 共同キャンペーン「合言葉 家族を守る愛言葉」篇について書きました。


ACジャパン・NHK
「合言葉 家族を守る愛言葉」篇
実の孫のような飯豊さんの笑顔

家族などをかたる振り込め詐欺の手口を聞くと、「なぜ引っ掛かるのか」と思ったりする。しかし侮ってはいけない。昨年度の被害額は何と375億円。しかも被害者の多くが高齢者である。

その対策として有効なのが家族の間で決めた合言葉、いや愛言葉だ。たとえばこのCMの飯豊まりえさんは、一人暮らしのおばあちゃんにかけた電話で、「タマ(祖母の飼い猫)、まっしろけ」と言う。これで本人と確認できるのだ。優しくて、気が利いて、お茶目なおばあちゃんと談笑する飯豊さんは、まるで本当の孫のように見える。

この夏、飯豊さんはドラマ『パパ活』(dTV)で親子ほど年の離れた大学教授(渡部篤郎さん)を好きになる女子大生。また『マジで航海してます。』(TBS系)では、船を操縦する航海士を目指す女子学生を演じている。シリアス系とコミカル系、どちらもイケる実力派として今後が楽しみだ。

(日経MJ 2017.07.31)


ゴールまで2ヶ月。猛暑に負けない熱気を帯びてきた『ひよっこ』

2017年08月02日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


ゴールまで、あと2ヶ月となったNHK連続テレビ小説『ひよっこ』ですが、このところ、猛暑に負けないほど熱気を帯びてきています。

物語の厚みが増してきた『ひよっこ』

奥茨城から集団就職で上京した主人公、谷田部みね子(有村架純)。最初に勤めたトランジスタラジオの工場が閉鎖されてしまい、現在は赤坂にある洋食店のホール係をしています。

舞台が赤坂に移ってから、物語の厚みがぐっと増したように思います。みね子が働く「すずふり亭」店主・牧野鈴子(宮本“夏ばっぱ”信子)や、鈴子の息子でシェフの省吾(佐々木蔵之介)たちが、右肩上がりの経済成長に浮かれる当時の世の中において、地に足をつけて生きる大人の世界を見せてくれています。

また、みね子が住むアパート「あかね荘」では、謎のOL・久坂早苗(シシド・カフカ)や漫画家志望の若者たちなど、多彩な青春像が描かれています。 加えて人気女優・川本世津子(菅野美穂)の出現と、思いがけないテレビ出演も、みね子の人生を大きく左右しそうです。

しかも、みね子はこの町で恋をしました。相手は同じアパートの住人で、慶応大学の学生である好青年、島谷純一郎(竹内涼真)。地方で会社を経営する名家の後継ぎ息子です。

しばらくの間は幸せな2人でしたが、純一郎の実家が経営する会社が傾き、父親から“政略結婚”ともいえる縁談が舞い込みます。悩んだ純一郎は、親と縁を切ってでも、みね子と一緒にいることを選ぼうとしました。

市井に生きる私たちの物語

7月24日放送の第97回。

純一郎は、みね子に事の経緯を説明し、自分の意思を伝えます。

「大学もやめる。仕事も探さなきゃ。貧乏になっちゃうかもしれないけど、ごめんね。でもさ、いいと思うんだ。お金なんてなくてもさ、自分らしく生きられれば」

そんな純一郎に対し、今度はみね子が決意を込めた表情で語り始めます。それは2分を超える長いセリフであり、このドラマの「本質」に迫る一人語りでした。流れては消えてしまうドラマの言葉ですが、今回は、あえて以下に完全再現してみたいと思います。

「島谷さん。まだ子供なんですね、島谷さん。そんな簡単なことじゃないです。貧しくても構わないなんて、そんな言葉、知らないから言えるんです。貧しい、お金がないということがどういうことなのか、わからないから言えるんです。いいことなんて一つもありません。悲しかったり、悔しかったり、さみしかったり、そんなことばっかしです。お金がない人で、貧しくても構わないなんて思ってる人はいないと思います。それでも明るくしてんのは、そうやって生きていくしかないからです。生きていくのが嫌になってしまうからです。そうやって頑張ってるだけです。私は貧しくて構わないなんて思いません。それなのに島谷さんは持ってるもの捨てるんですか? みんなが欲しいと思っているものを自分で捨てるんですか? 島谷さん、私・・私・・親不孝な人は嫌いです」

みね子の、ささやかな、いじらしい「赤坂の恋」は終わりを告げます。

しかし、近年の朝ドラで、これだけ真実味のあるセリフを聞いたことがありません。ドラマというフィクションだからこそ伝えられる人生のリアルであり、生きることの重みが込められていました。

この秀逸な脚本を書いているのは、『ちゅらさん』などを手がけてきた岡田恵和さん。ヒロインの谷田部みね子は、『とと姉ちゃん』の小橋常子や、『べっぴんさん』の坂東すみれのように、「功成り名遂げた実在の人物」がモデルではありません。『ひよっこ』は、いわば市井に生きる私たちの物語なのです。


オープンキャンパス2017 新聞学科「体験授業」 満員御礼!

2017年08月02日 | 大学





















































書評した本: 『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』ほか

2017年08月01日 | 書評した本たち


「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

勇気づけられる天才気象学者の軌跡
佐々木 健一 
『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』

文藝春秋 1,944円

1997年6月、『天気に捧げた我が人生』という特番の制作で、オクラホマ大学を訪れた。当時、ここは竜巻研究の一大拠点。映画『ツイスター』のモデルにもなった、「トルネード・チェイサー」と呼ばれる研究チームが活動していた。彼らはドップラー・レーダーなどの機器を満載した車で命がけの観測を行う。そのデータは、気象庁が出す竜巻予報や避難勧告に生かされていた。

取材した佐々木嘉和名誉教授やジョス・ワーマン助教授との会話に、「F」という言葉が何度も出てきた。これは竜巻の強さを示す尺度で、F0からF5まである。たとえばF2は毎秒50~69メートルの風速で、列車脱線や大木倒壊が起きる規模だ。この「Fスケール」の生みの親がシカゴ大学の藤田哲也博士であり、Fは藤田の頭文字からきていた。

本書は、藤田哲也という天才気象学者の軌跡を追ったものだ。しかも「Mr.トルネード」とまで言われた竜巻研究の陰に隠れた、もう一つの偉大な功績にスポットを当てている。それは70年代に多発した飛行機事故の原因究明だ。着陸直前、突然コントロール不能に陥った事故の背景に、「ダウンバースト」という猛烈な下降気流があることを突きとめたのだ。その後、様々な対応策が講じられるようになり事故は激減していく。

「Fスケール」、そして「ダウンバースト」の藤田哲也。ノーベル賞級の人類への貢献であり、日本でその名が知られていてもおかしくない。しかし、なぜかほぼ無名だ。著者は彼の歩みを丹念に追い、「Mr.トルネード」が日本だけでなく、アメリカの学界においても微妙な位置にあったことを明らかにしていく。そこには、あまりに独創的な研究方法とユニーク過ぎる研究者の姿がある。

98年に藤田が没してから約20年。本書によって、ようやく正当な評価と共に実像が示された。あらためて、「こんな日本人がいた」事実に驚かされ、勇気づけられるのだ。



アンディ松本 
『勝新秘録 : わが師、わがオヤジ勝新太郎』

イースト・プレス 1,620円

俳優・勝新太郎はなぜ魅力的なのか。妥協を許さない演技。豪快にして繊細な人柄。そして男としての愛嬌かもしれない。著者は元マネージャー。『影武者』降板騒動や勝プロの倒産から私生活までを語っている。「プラマイゼロ」の人生観が、いかにも勝新らしい。


平川克美 
『「移行期的混乱」以後』

晶文社 1,728円

約7年前の『移行期的混乱――経済成長神話の終わり』では、社会運営の考え方自体が変化している現代を、パラダイムの移行による混乱期と位置づけていた。本書はその続編だ。人口と家族、日本人の家族観などを検証しながら、家族再生への道を探っている。

(週刊新潮 2017年7月27日号)