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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

桜井ユキさん、「東京ガスCM」でも存在感

2019年11月13日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

 東京ガス

「家族の絆 母のチーズケーキ」編

深まる秋に、家族の物語

 

結婚披露宴のテーブルにチーズケーキが出てくる。しかも新郎が慣れ親しんできた、亡き母(寺島しのぶ)の手づくりの味だ。驚く新郎。

新婦(桜井ユキ)が立ち上がり、話し始める。「結婚式には出られませんが、あなたに一つ、お願いがあります」という書き出しの手紙に、レシピが添えられていたのだ。そのチーズケーキは息子が何かで頑張った時、母が必ず作る「ご褒美」だった。

寺島さんの淡々とした演技は見事と言うしかない。一方、出ている時間は短いのに、強い印象を残す桜井さんも只者ではない。

7月クールの主演作「だから私は推しました」(NHK)は、第17回コンフィデンスアワード・ドラマ賞の優秀作品賞を受賞。桜井さんは、地下アイドルを応援することで徐々に自分を解放していくアラサー女子を好演していた。

息子の妻へと渡された一皿のバトン。そこに込められた母の思い。深まる秋にふさわしい「家族の物語」だ。

日経MJ「CM裏表」2019.11.11)


言葉の備忘録114 自分の・・・

2019年11月12日 | 言葉の備忘録

 

 

自分の仕事をしろ!

 

 

ドラマ「グランメゾン東京」




<ときどき記念写真> 慶大「児童文化研究会」同期会

2019年11月11日 | 大学

 


言葉の備忘録113 何か大事なことを・・・

2019年11月10日 | 言葉の備忘録

札幌2019

 

 

何か大事なことを

決めようと思ったときはね、

まず最初は

どうでもいいようなところから

始めたほうがいい。

 

村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」


コンフィデンスアワード・ドラマ賞「優秀作品賞」を受賞、『だから私は推しました』の魅力とは!?

2019年11月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

コンフィデンスアワード・ドラマ賞

「優秀作品賞」を受賞した、

『だから私は推しました』の魅力とは!?

 

2019年7月クールのドラマから選ばれる、第17回コンフィデンスアワード・ドラマ賞。その「優秀作品賞」を、よるドラ『だから私は推しました』(NHK)が受賞しました。あらためて、このドラマの魅力を振り返ってみたいと思います。

ちなみに、もう1本の「優秀作品賞」は『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。そして「最優秀作品賞」を受賞したのは『凪のお暇』(TBS系)でした。

「地下アイドル」と「ドルオタ女子」の物語

よるドラ枠で放送された、桜井ユキ主演『だから私は推しました』(全8話)は、1人の地下アイドルと、彼女を推す(特定のアイドルを熱烈に応援する)ドルオタ(アイドルオタク)女子の物語ですが、当初の予想をいい意味で裏切る展開に目が離せない作品でした。

主人公の遠藤愛(桜井ユキ)は、一見どこにでもいそうなOLさん。いきなり失恋するのですが、その原因のひとつは、SNSでの自己アピールに夢中になりすぎたこと。常に「いいね!」を熱望する、その過剰な「承認欲求」に、彼氏があきれたのでした。

愛は、スマホを落としたことをきっかけに、偶然入った小さなライブハウスで、初めて「地下アイドル」なるものに出遭います。

一方の栗本ハナ(白石聖)は、地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」のメンバー。ただし、歌もダンスも不得意な上に、コミュ障気味という困ったアイドルでした。そんなハナを見て、愛は思います。「この子、まるで私だ」と。それ以来、ハナを全力で応援する日々が始まったのです。

まず、このドラマで描かれる「地下アイドルの世界」が興味深い。ライブ会場の雰囲気、終演後の「物販」、「厄介なファン」の存在、アイドルたちの経済事情などが、かなりリアルでした。

アイドルの「地上」と「地下」

たとえばAKB48や乃木坂46が「地上」のアイドルだとすれば、「地下」の最大の特色は、アイドルとファンの「距離感」です。

普通、地下アイドルの公演は、武道館や東京ドームなどの大会場で行われたりしません。ほとんどは、それこそ地下にある小さなライブハウスだったりします。キャパが小さい分、アイドルとの物理的距離も近いのです。

近いからこそ、応援する自分を「推し(応援しているアイドル)」が認識してくれるし、その応援に対してアイドルからの「レス(ファン個人への反応)」が来たりもします。応援とレスの相互作用は、地下アイドルの世界ならではの醍醐味だと言えるでしょう。

まだ楽曲も売れていないし、有名ではないし、パフォーマンスも稚拙だったりするのですが、そういうことさえ、地下アイドルファンには応援する「動機」となります。また、ファンもたくさんはいないので、「物販」と呼ばれるライブ後のグッズ販売や、サインや握手などを通じて、本人との、かなり密接なコミュニケーションが可能となるのです。

そんな状況が、このドラマでは細部までリアルに描写されていて、多分、本物のドルオタの皆さんが見ても、その再現度の高さに納得するのではないかと思うほどでした。

先の読めない「オリジナル脚本」

脚本は森下佳子さんの「オリジナル」です。昨年夏に放送された『義母と娘のブルース』(TBS系)同様、ヒロインたちの心理が、丁寧に書き込まれていました。

また、ドラマの冒頭、ヒロインは警察の取調室にいます。ある事件の容疑者だったんですね。その事件とはどんなもので、なぜ彼女がここにいるのか。そういったことが徐々に明らかになっていく、サスペンス性も十分なストーリー展開でした。

漫画や小説などの原作がない、「オリジナル脚本」のドラマだからこそ、最後までどんな展開になるのか、予測できない面白さがありました。たとえば、いくつかの誤解や行き違いもあって、愛とハナの「蜜月」的関係が崩れ、それぞれの本音が露わになっていくところなど、実に見応えがありました。

さらに、地下アイドルについても、十分な取材を行っていることがうかがえ、感心しました。このドラマには、「地下アイドル考証」として、本物の地下アイドルである「姫乃たま」さんの名前がクレジットされています。地下アイドルに関する著作もある姫乃さんが、その体験と知見で、ドラマのリアルを下支えしていたわけです。

「女優・桜井ユキ」という逸材

女優陣も大健闘で、徐々に自分を解放していくアラサーのドルオタ女子を、メリハリのある芝居で好演していた桜井ユキさん。そして、自分に自信の持てない、弱気な地下アイドルがぴったりだった白石聖さん。2人の拮抗する熱演は特筆モノでした。

特に桜井さんは、これまで多くのドラマに出演してきましたが、今回は「主役」という形で、その存在感を見せつけました。

現在放送中の『G線上のあなたと私』(TBS系、主演:波留)で、バイオリン講師を演じている桜井さんですが、正直言って、この役ではちょっともったいない(笑)。今後、「演じるべき役柄」と遭遇すれば、より大輪の花を咲かせそうな逸材です。


散らかし放題の小ネタが楽しい「時効警察はじめました」

2019年11月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

オダギリジョー主演「時効警察はじめました」

醍醐味は散らかし放題の小ネタにあり


連ドラとしては12年ぶりの復活だ。「時効警察はじめました」(テレビ朝日系)である。すでに時効となっている未解決事件。その真相を探るのが趣味だという警察官、霧山修一朗(オダギリジョー)が主人公だ。

まず、総武警察署時効管理課という舞台も、捜査の女房役である三日月しずか(麻生久美子)、いつもうるさい又来(ふせえり)、表情から感情が読めないサネイエ(江口のりこ)、そして大抵の発言が皆から無視される課長の熊本(岩松了)といった面々も変わっていないのがうれしい。

ドラマの構成も見慣れたものだ。ほとんどはゲストが真犯人で、今回も小雪(新興宗教の教祖)、向井理(ミステリー作家)、中山美穂(婚活アドバイザー)ら豪華な顔ぶれが並ぶ。むしろ犯人がわかっているので、見る側は安心して霧山の推理を楽しめるのだ。

そして何より、このドラマの醍醐味は全編にちりばめられた、いや散らかし放題の小ネタにある。事件現場の最寄り駅の名前が「手賀刈有益(てがかりあります)」だったり、捜査に同行した刑事課の彩雲(吉岡里帆)が意味なく「わんこそば」を食べ続けたり。また、三日月が霧山との接近をほくそ笑む、「ウッシッシ」の元祖は大橋巨泉だ。

わかる人がいようといまいと本気で面白がっている制作陣。ふと仲間由紀恵と阿部寛の「トリック」を思い出した。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2019.11.06


ゼミのゲストに、UHB加藤寛アナウンサー

2019年11月06日 | 大学

寛さん、ありがとうございました!

 


『グランメゾン東京』木村拓哉が演じる「尾花夏樹」

2019年11月05日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 


週刊テレビ評

「グランメゾン東京」 

「俳優・木村拓哉」と名脇役陣

 

TBS系の日曜劇場「グランメゾン東京」が始まった。10月20日の初回冒頭は、堂々の海外ロケでパリだ。主人公の尾花夏樹(木村拓哉)はパリで評判の店「エスコフイエ」の実力派シェフ。店ではフランス大統領ら要人たちの会食が行われるまでになったが、その当日、料理にアレルギー食材が混入していたため大騒動となる。尾花はフランスの料理界を追われた。

それから3年後のパリ。尾花は、三つ星レストランの採用面接に挑んでいた早見倫子(鈴木京香)と出会う。彼女は日本で10年間やってきた店を閉め、パリで一から修業したいと思ったのだが、叶(かな)わなかった。そんな倫子を尾花が誘う。「レストラン、やらない? 俺と」「2人で世界一のグランメゾン、つくるっての、どう?」

もしも以前の木村がこんなセリフを口にしていたら、見る側は「ああ、またキムタクドラマか」と白けていたかもしれない。過去、パイロットやアイスホッケー選手など、どんな役を演じても木村本人にしか見えず、視聴者はドラマに集中できなかった。キムタクドラマと揶揄(やゆ)された所以(ゆえん)だ。

しかし、2015年の「アイムホーム」(テレビ朝日系)あたりから、「俳優・木村拓哉」としての存在感を示すようになる。ただし、その後の「A LIFE~愛しき人~」(TBS系)や「BG~身辺警護人~」(テレ朝系)では、時々昔の木村が顔を出し、ハラハラさせた。

今回、第2話までを見る限りだが、演技に変な力みやクセがない。目の前にいるのは尾花夏樹を演じる「木村拓哉」ではなく、木村拓哉が演じる「尾花夏樹」だ。それくらい木村の演技に、また他の出演者との掛け合いに無理がない。最大の関門、もしくは懸念を払拭(ふっしょく)したことになるのではないか。

すでに舞台は東京だ。尾花は倫子の家の車で寝泊まりしている。ある日、2人は評判のフレンチの店「gaku」に出かけた。そこで再会したのが、かつて尾花と一緒にパリの店をやっていた京野(沢村一輝)だ。しかも、シェフはパリの修業仲間で、尾花をライバル視する丹後(尾上菊之助)だった。結局、京野は尾花たちの新しい店「グランメゾン東京」に参加することになる。

このドラマ、かつての挫折から立ち上がり、夢に向かって再チャレンジしようとする者たちの群像劇だ。主演の木村を囲む鈴木、沢村、尾上。さらにパリ時代からの知り合いで、料理研究家の相沢を演じるのは及川光博だ。力のある食材、いや脇役がそろったことで、全体から美味(おい)しそうな「大人のドラマ」の香りが漂ってきた。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2019.11.02)

 

 


現代人の常識を問う「同期のサクラ」

2019年11月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

 現代人の常識を問う

「同期のサクラ」

 

脚本家の遊川和彦が手掛けるドラマのタイトルには、一見ふざけた駄じゃれのようなものが多い。「家政婦のミタ」、「過保護のカホコ」、そして「ハケン占い師アタル」などだ。しかし、それに惑わされてはいけない。実は意外に骨太な問題作だったりするからで、今回の「同期のサクラ」(日本テレビ―STV)もまさにそんな1本である。

主人公の北野サクラ(高畑充希)は、故郷の離島に橋を架ける仕事がしたいと、大手建設会社に入社した。10年前のことだ。現在、彼女は入院中で、脳挫傷による意識不明の状態が続いている。見舞いにやってくるのは清水菊夫(竜星涼)や月村百合(橋本愛)といった同期の仲間だ。なぜ、そんなことになったのか。10年の間に一体何があったのか。その謎が徐々に明かされていく仕掛けだ。

このドラマの最大の特色は、ヒロインであるサクラの強烈な個性にある。普段はほとんど無表情。おかっぱ頭にメガネ。一着しかない地味なスーツを寝押しして使っている。加えて性格が変わっており、超がつく生真面目で融通がきかない。正しいと思ったことはハッキリと口にするし、相手が社長であっても間違っていれば指摘する。場の「空気」を読むことや、いわゆる「忖度」とも無縁だ。

物語はまず10年前の入社時にさかのぼり、毎回1年ずつ、サクラと同期たちのエピソードが描かれる。土木部志望だったサクラは人事部に配属され、社内の様々な部署と接触していく。営業部では同期の清水が、上司の無理難題に応えようとして心身ともに疲労の極致だ。サクラはこの上司とやり合うが、同時に清水に対しても、自分と仕事の関係を見直すよう促す。

また広報部にいる月村は、与えられたイメージと素の自分とのギャップに悩み、結婚退社で逃げようとしていた。引き止めたいサクラは本音を月村にぶつける。働く女性にとって社会や組織が障壁となるだけでなく、女性自らの中にも「内なる壁」が存在することを示して秀逸なシーンだった。

サクラというキャラクターは明らかに難役だ。しかし高畑は荒唐無稽の一歩手前で踏み留まり、独特のリズム感と演技力によってサクラにリアリティを与えている。本来は真っ当であるはずのサクラが、どこか異人に見えてしまう社会や組織。また、すべてを常識という物差しで測ろうとする現代人。サクラと同期たちが過ごした10年には、私たちが物事を本質から考え直すためのヒントが埋め込まれているかもしれない。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2019年11月02日)

 


11月のUHB北海道文化放送「みんテレ」

2019年11月03日 | テレビ・ラジオ・メディア


【書評した本】 西垣 通、河島茂生『AI倫理』

2019年11月02日 | 書評した本たち

 

 

人間とAIの関係を根本から問う警世の書


西垣 通、河島茂生

『AI倫理~人工知能は「責任」をとれるのか』

中公新書ラクレ 929円

 

18歳で運転免許を取った頃、クルマのギアはマニュアルだった。その後、オートマが当たり前になったが、今でも時々、シフトレバーを握る左手がむずむずする。

最近はEV(電気自動車)もたくさん見かけるようになった。11万キロ走ってきたガソリン車から、「クルマも家電の時代ですか」と横目で眺めているうちに、今度は「自動運転」だそうだ。

確かにテレビでも、ドライバーがハンドルから手を離して走るCMが繰り返し流され、メーカーは「近い現実」としてのアピールに余念がない。まさにAI(人工知能)サマサマだ。

しかし、素朴な疑問がある。万一、自動運転車が事故を起こしたら、責任は誰がとるのだろう。ドライバーは乗っているだけで、運転していない。だからと言って免責なのか。ならば自動車メーカーや販売店が背負うのか。それともAIが責任をとってくれるのか。

いや、それは無理だ。そもそもAIが人間に代わってクルマを運転するなら、そこで生じるはずの責任、また倫理や道徳の問題を無視することは出来ない。だが、AIをめぐる技術開発の根底にあるべき倫理については、きちんと論じられないままだと著者は言う。

西垣通、河島茂生『AI倫理』では、「AI倫理とは何か」に始まり、近代社会における倫理思想の流れ、AIロボットと人格、生物と機械の差異など、緻密な考察が重ねられていく。自動運転の例も含め、これからの人間とAIの関係を根本から問う警世の書だ。

(週刊新潮 2019年10月17日菊見月増大号)

 

 

AI倫理-人工知能は「責任」をとれるのか (中公新書ラクレ (667))
西垣 通,河島 茂生
中央公論新社

 


『ドクターX』が今回も「快進撃」を続ける理由

2019年11月01日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

 

 

米倉涼子主演『ドクターX』が

今回も「快進撃」を続ける理由

 

第6シーズンとなる、米倉涼子主演『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)。「失敗しない」どころか、今回も快進撃が続いている。それを可能にしているのは、一体何なのか。

ヒットシリーズが衰退する要因は、皮肉なことに、「長く続いた」がゆえに生じるものが多い。しかし最も怖いのが、制作側とキャストの「慢心」だ。レギュラー出演者やスタッフの緊張感が緩み、ストーリーはワンパターンとなり、視聴者は飽き始める。シリーズ物こそ、現状維持どころか、「進化」が必要なのだ。

ただし、ベースとなる「世界観」は変えずに、細部は時代や社会とリンクさせながら、柔軟に変えていく。つまり「流行と不易」のバランスである。それをしっかり実現しているのが、このドラマなのだ。あらためて、近年の軌跡を振り返ってみたい。

2014年〜病院が舞台の「仁義なき戦い」

「国立高度医療センター」という新たな舞台を設定し、手術室などの施設や設備を含め、病院としてのスケールをアップさせたのが、5年前の第3シーズンだ。

また、そこに居並ぶ面々も豪華だった。いきなり更迭される総長に中尾彬。入れ替わる新総長は北大路欣也。そして次期総長の座を狙うのが古谷一行である。

ライバル関係が続く外科部長は、伊武雅刀と遠藤憲一。また、前シリーズで帝都医大を追われながら、しっかり西京大病院長に収まっている西田敏行も“健在”だった。

しかも男たちの権力争いは、往年の「東映やくざ映画」のようにむき出しで、遠慮がなく、分かりやすい。すべてはヒロインを引き立てるためであり、おかげで実質的「紅一点」としての大門未知子の印象が一層鮮やかになっていく。

舞台の病院が変わろうと、男たちの争いが激化しようと、大門=米倉は決して変わらない。超のつく手術好き、天才的な腕前、少しヌケた男前な性格。このブレなさ加減こそが、このシリーズの命だ。

2016年〜「権力とビジネスの巨塔」大学病院

第4シーズンでの進化は、「登場人物」だった。アクが強く、アンチも少なくない、あの泉ピン子を副院長役に抜擢したのだ。「権力とビジネスの巨塔」と化した大学病院で、副院長と院長(西田敏行)の脂ぎった対決が展開された。

また、米国の病院からスーパードクターとして戻ってきた、外科医・北野(滝藤賢一)の投入も有効だった。

さらに肝心の「物語」も進化していた。たとえば第7話では、当初、耳が聞こえない天才ピアニスト・七尾(武田真治)が患者かと思われたが、七尾は中途半端な聴力の回復よりも、自分の脳内に響くピアノの音を大事にしたいと手術を断ってしまう。大門はその過程で、七尾の女性アシスタント(知英)の脳腫瘍を見抜き、彼女の命を救っていく。

この回の寺田敏雄をはじめとするベテラン脚本家たちが、「必ず大門が手術に成功する」という大原則を守りつつ、より豊かな物語を模索していたのが印象的だ。そうした努力があるからこそ、『ドクターX』一座の興行は継続可能なのだ

 2017年〜「女性リーダー」「ゆとり世代」も取り込む時代性

第5シーズンの冒頭、舞台となる東帝大学病院に、「初の女性院長」である志村まどか(大地真央)が登場した。

彼女のモットーは、某都知事がアピールしていた「都民ファースト」ならぬ「患者ファースト」。医学界や医師たちに清廉性を求めることから、「マダム・グリーン」ならぬ「マダム・クリーン」のニックネームがついていたりして、しっかり笑わせる。

結局、初の女性院長は、キャスターも務めるジャーナリストとの不倫問題で首を切られてしまうが、シーズン開幕のインパクトとしては十分だった。

普通なら、この女性院長を数週間は活用するところだが、わずか1週で舞台から下げたことも驚きだ。「もったいない」と考えるより、優先したのは「贅沢感」。そして「スピード感」を大事にした、余裕の構えだった。

また、このシリーズから、「ゆとり世代」の若手医師たち(永山絢斗など)が入ってきた。その中のひとり、伊東亮治(野村周平)は、自分の母親(中田喜子)の難しい手術を担当して、自らの力不足を痛いほど思い知る。

もちろん大門の活躍で母親は命拾いするのだが、この「ゆとり君」は医師をやめて、なんとミュージシャンを目指すと言い出すのだ。初回の大地に続き、好演した野村も1回限り。あらためて贅沢感とスピード感を見せつけた。

一方、ブレない大門はもちろん、「あきらさ~ん!(by 大門)」こと神原晶(岸部一徳)、仕事仲間の麻酔科医・城之内博美(内田有紀)、院長に返り咲いた蛭間(西田敏行)とその取り巻きたち(遠藤憲一など)といった面々の“変わらなさ”に、見る側はホッとした。

 2018年〜『リーガルV』というトリッキーな戦略商品

すでに忘れている人も多いのではないかと思うが、1年前の2018年秋、米倉涼子主演の連ドラ『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子(たかなし・しょうこ)~』(テレ朝系)が放送されていた。

このドラマのことを知った時は、ドクターXこと大門未知子先生が、副業で弁護士事務所でも開いたのかと思った。手術続きで、さすがの天才外科医も疲れたのか。それとも同じ役を続けてイメージが固まることを主演女優が嫌ったか。

おそらく制作側が提案したのだろう。「今度は医者ではなく弁護士です。ただし手術室ならぬ法廷に立つ必要はありません。なぜならヒロインの小鳥遊(米倉)は弁護士資格をはく奪されてますから」とかなんとか。

弁護士ドラマの主人公が、弁護士として活躍できない。この一見矛盾した「異色の設定」こそが、『リーガルV』の面白さを支えていた。

本人は「管理人」という立場で、法律事務所のメンバーを集める。それもクセのある人物ばかりだ。

所長の京極(高橋英樹)は法学部教授で法廷の経験はない。大鷹(勝村政信)は大失敗をして検事を辞めたヤメ検弁護士。そして若手の青島(林遣都)は、まだ半分素人。パラリーガルも現役ホスト(三浦翔平)や元ストーカー(荒川良々)といった問題児たちだが、小鳥遊は彼らをコキ使って事実を洗い直していく。

このドラマは、「チーム小鳥遊」とでも呼ぶべき集団の活躍を見せる群像劇になっていた。そこにはスーパーヒーロー型の『ドクターX』や、バディー型の『相棒』との差別化を図る効果も織り込まれている。
 
また、大門の神技的外科手術と組織内の権力闘争などが見せ場である『ドクターX』と異なり、『リーガルV』では訴えた側、訴えられた側、それぞれの人間模様が描かれた。まさに人間ドラマとしての見応えがあったのだ。

たとえば第3話では、裁判の行方を左右する重要証人、被告の恩師(岡本信人)の偽証を見事に覆した。夫の浮気に気がついていた妻(原日出子)の応援を得た結果だ。

そして第4話では亡くなった資産家(竜雷太)の莫大な遺産をめぐって、死の直前に入籍した若い女(島崎遥香、好演)と一人息子(袴田吉彦)が対立する。遺産目当てと思われた結婚の背後には意外な真相があった。

大事な局面では直感と独断でしっかり存在感を示すヒロイン。小鳥遊はドクターXの不在を埋める「もう一人の大門」であり、いわば戦略商品だった。しかし、その後、続編とかシリーズ化という話は聞かない。視聴者はやはり、「もう一人の大門」より、「本物の大門」のほうを求めていたのだ。

 2019年〜「流行と不易」の見事なバランス

今回の第6シーズンでも、大門未知子の「目ヂカラ」と「美脚」と「手術好き」は、2012年の放送開始当時と変わらない。いや、ますます磨きがかかっている。

舞台は東帝大学病院。人事にも「流行と不易」のバランスが見える。ニコラス丹下(市村正親)という投資・再生事業のプロが、院長代理として辣腕を振い始めた。また総合外科部長の潮一摩(ユースケ・サンタマリア)、総合内科部長の天地真理ならぬ浜地真理(清水ミチコ)といった新顔たちも、何かと大門を圧迫してくる。

そうそう、蛭間院長(西田敏行)の筆頭家老だった蛯名(遠藤憲一)は、ヒラの医師に降格。逆に「腹腔鏡の魔術師」加地(勝村政信)のほうは、部長に昇格している。このあたりも、「知った顔」を変えないだけでなく、視聴者を飽きさせないための細かい工夫だ。

物語においては、最新AI(人工知能)が手術の現場を仕切っている。執刀医たちはAIの指示に従って動くロボットのようだ。しかも、AIの言いなりになっているうちに、患者の命が危うくなる。それを救うのは、もちろん大門だ。

第2話では、2人の患者に対する肝臓移植をダブルで行う、「生体ドミノ肝移植」という荒業も披露された。しかも、治療で優遇される富裕層と、病室から追い出される貧困層を対比させ、「命の格差」をしっかり描いて秀逸だった。

AIにしろ、格差社会にしろ、今どきのリアルを巧みに織り込んだ物語展開。そして視聴者が見たい、大門の変わらぬ天才外科医ぶり。2つの面白さが両輪となって、この鉄板ドラマをぐいぐいと推し進めていく。

おかげで、いまやエンディングの名物である、晶さんの「風呂敷メロン」と「高額請求書」と「ひとりスキップ」を、今回もまた毎週楽しむことができそうだ。