碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『不適切』『虎』『ダイヤモンド』は、 なぜ「今年を代表する」ドラマになったのか?

2024年12月21日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

『不適切』『虎』『ダイヤモンド』は、

ぜ「今年を代表する」ドラマになったのか?

 

今年も、あと10日となりました。この1年のドラマを振り返ってみたいと思います。

笑いのある批評『不適切にもほどがある!』

能登半島の地震で始まった2024年。その1月期で光っていたのが『不適切にもほどがある!』(TBS系)でした。

脚本は、クドカンこと宮藤官九郎さん。主人公は1986(昭和61)年から現在へとタイムスリップしてきた、体育教師の小川市郎(阿部サダヲ)です。

市郎は、いわば生粋の「昭和のおじさん」であり、当初、彼にとって「未来の日本」である令和の世界では浮いた存在でした。

しかし市郎は、拭(ぬぐ)えない違和感に遭遇するたび、「なんで?」と問いかけていきます。

何となく「当たり前」のことだと思っていた令和の人々も、本質的な疑問を共有することになりました。

この辺りが、クドカンの見事な手際だったりするのですが、このドラマは、時代や社会をストレートに「批判」するのではなく、笑いながら「批評」していったのです。

しかも、その批評の対象が「令和」と「昭和」の双方になっていたことに注目です。

時代や世代や個人間に「ギャップ」があるのは当たり前。

「差異」を否定し合うのではなく、違いを前提に話し合いを重ねて、徐々に「共通解」を探り、「共存」していこうとする市郎が新鮮でした。

画期的な社会派の朝ドラ『虎に翼』

4月から9月まで放送された、NHKの連続テレビ小説は『虎に翼』。

ヒロイン・寅子(ともこ/伊藤沙莉)のモデルは、実在の三淵嘉子(みぶち よしこ)です。戦前に初の女性弁護士の一人となり、戦後は初の女性判事となりました。

司法界の「ガラスの天井」を打ち破っていった嘉子の軌跡は、戦前・戦後の昭和における「試練の女性史」です。

それはドラマにも十分反映されており、画期的な社会派の朝ドラとなりました。

一見、堅苦しくなってもおかしくない物語でしたが、吉田恵里香さんの精緻な脚本と伊藤さんの硬軟自在な演技に救われました。

寅子が納得のいかない事態に遭遇した時に発する「はて?」は、見る側の心の声も代弁する名セリフとなっていきます。

とはいえ、さすがに後半は少し詰め込みすぎだったかもしれませんね。

「戦争責任」「原爆裁判」「尊属殺(そんぞくさつ)の重罰」「少年法改正」などが並び、さらに「同性婚」「夫婦別姓問題」といった現在につながる課題も取り込んでいったからです。

しかし、それも制作陣の確信犯的仕掛けだったはずです。

憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は、どのような経緯をたどってきたのか。

そして、今の社会においてさえ、本当に実現されているのか。この問いかけこそ、本作を貫く大きなテーマでした。

際立つ『海に眠るダイヤモンド』

今期放送のドラマでは、22日(日)に最終回を迎える日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)が、やはり際立っています。

1950~60年代の炭鉱の島と2010年代の東京を舞台に、異なる時間と場所に生きる人々の人間ドラマが展開されていく。

描かれるのは、主人公の鉄平(神木隆之介)をはじめとする若者たちの恋愛模様だけではありません。

脚本の野木亜紀子さんは、風化させてはいけない出来事としての「戦争」、「原爆被爆」、「産業問題」などを、物語の中に丁寧に織り込んできました。

地続きとしての「昭和」

これら3本のドラマに共通するのは、令和という現在の社会や人間を、昭和という過去との「地続き」という視点で、相対的に捉(とら)えていることではないでしょうか。

過去は単なる「過ぎ去った時間」ではない。過去は、現在に繋がる重要な「足場」であること。

何が変わり、何が変わっていないのか。何を変えるべきで、何を変えるべきではないのか。検証すべきことが多々あることを示しています。

来年は「昭和100年」に当たります。その意味で、3本とも「昭和99年」である2024年にふさわしいドラマだったのではないでしょうか。

さらに共通するのは、終わってしまうと寂しくなる、もっと見続けたいと思えるような作品だったこと。来年もまた、1本でも多く、そういうドラマに出会えることを祈っています。

 


【気まぐれ写真館】 寒い朝

2024年12月20日 | 気まぐれ写真館

2024.12.20

 


言葉の備忘録419 人生の・・・

2024年12月20日 | 言葉の備忘録

2024.12.19

 

 

 

 

「人生のすべてを味わって!」

 

 

 

映画『ダンサー イン Paris』

 

 

 

 

 


【気まぐれ写真館】 2024年師走の多摩川

2024年12月19日 | 気まぐれ写真館

2024.12.19

 


言葉の備忘録418 文化とは・・・

2024年12月19日 | 言葉の備忘録

庭で拾った落葉

 

 

 

 

「文化とは日々の暮らしよ」

 

 

 

  白洲正子の言葉

  川村二郎『いまなぜ白洲正子なのか』より

 

 


「宙(そら)わたる教室」今年後半の収穫と言える一本!

2024年12月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

今年後半の収穫と言える一本!

窪田正孝主演

「宙(そら)わたる教室」

 

先週、ドラマ10「宙わたる教室」(NHK)が完結した。

舞台は新宿にある夜間定時制高校。年齢も経歴もさまざまな生徒たちが学んでいる。そこに赴任してきたのが理科教師の藤竹(窪田正孝)だ。

藤竹は部活としての「科学部」の立ち上げを呼びかける。参加したのは読み書きが苦手な岳人(小林虎之介)。40代女性のアンジェラ(ガウ)。保健室登校の佳純(伊東蒼)。そして、中卒で集団就職した70代の長嶺(イッセー尾形)だ。

物語のタテ軸は、火星の重力下でクレーターを再現する実験。ヨコ軸はそれぞれに抱える葛藤と向き合う生徒たちだ。実験の試行錯誤と並行して、岳人と不良仲間の関係や、長嶺の自分に対する怒りなどが描かれていく。

藤竹は一方的に指導したりしない。学びながら自分を変えていこうとする彼らを見つめ続ける。教室は彼らが自分自身で「あきらめていたものを取り戻す場所」だからだ。

また、思うようにいかない実験も、失敗などあり得ない。なぜなら、「誰もやったことがないこと」を試みているからだ。

大団円は学会での発表だった。岳人は「1年前には想像できなかった場所に立っている」と目を輝かせ、藤竹は「どんな人間にも必ず可能性はあります」と断言する。

原作は伊予原新の同名小説。脚本は澤井香織。今年後半の収穫と言える一本になった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.12.17)

 


『海に眠るダイヤモンド』で光る 「池田エライザ」を開花させたもの

2024年12月17日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『海に眠るダイヤモンド』で光る

「池田エライザ」を開花させたもの

 

終盤へと向かっている、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)。

主要キャストの一人として、見る側に強い印象を与えているのが、リナ役の池田エライザさんです。

背負ってきた重い過去。鉄平(神木隆之介)の兄・進平(斎藤工)との出会い。新たな暮らしと出産。そして、進平が巻き込まれた炭鉱事故……。

諦めていた人生を、愛する人と共に再生していこうとする女性を、池田さんは懸命に演じています。

そんな池田さんには、この役柄に結びついた重要な作品があります。

それが、今年2月から4月にかけて放送された連続ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK・BS)です。

ドラマ『舟を編む』

2017年、ファッション雑誌の編集者だった岸辺みどり(池田)は、突然、辞書編集部への異動を命じられます。

そこでは作業開始から13年、刊行は3年後という中型辞書『大渡海』の編集が行われていました。

当初は戸惑ったみどりですが、変わり者の主任・馬締(まじめ/野田洋次郎)、日本語学者の松本(柴田恭兵)など言葉を愛する者たちに刺激され、いつの間にか「辞書作り」にハマっていきます。

原作は、12年に本屋大賞を受賞した、三浦しをんさんの『舟を編む』です。この小説では、営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが本線となっていました。

また、13年に松田龍平さん主演で映画化された際も、ほぼ原作通りでした。

一方、このドラマの主人公は、原作の後半から登場する、みどりです。

ヒロインを通じて・・・

しかし、彼女は馬締のような言葉の天才ではありません。ごく普通の女性です。

見る側は、みどりを通じて言葉の面白さや奥深さを知り、辞書を編むことの意味を身近に感じることができました。

例えば、「恋愛」の「語釈」(語句の意味の説明)を任されたみどりは、既存の辞書が恋愛を「男女」や「異性」に限定していることに気づきます。

実際に『広辞苑』で「恋愛」を引いてみると、「男女が互いに相手をこいしたうこと」とあります。

みどりは、時代感覚を反映し、異性を外しても成立する恋愛の説明を探っていきます。

彼女の提案を元に、「恋愛」について次のような秀逸な語釈が仕上がりました。

「特定の二人が互いに引かれ合い、恋や愛という心情の間で揺れ動き、時に不安に陥ったり、時に喜びに満ちあふれたりすること」

3年に及ぶ編集作業の中で、みどりはいくつものハードルを越えていきます。

すべての言葉には、生まれてきた理由があること。人が何かを伝えたい時、誰かとつながろうとする時、「言葉の持つ力」が助けとなること。さらに、「紙の本」ならではの価値や魅力も描かれてきました。

女優「池田エライザ」の深化

辞書とそれを編む人たちへの敬意にあふれる、静かな秀作だったこのドラマ。その軸となったのが、池田さんの好演です。

当初、部署異動への不満を抱えて頑(かたく)なだった、みどり。その内面が、少しずつ変化していく様子を、池田さんは繊細な演技で表現していったのです。

それは、現在の『海に・・・』でより深化したものとなっています。ある時代を体現する女性として、物語の中で存在感を示す、リナ。そんな池田さんの演技を、最後まで見届けたいと思います。

 


【気まぐれ写真館】 今年最後の「満月」

2024年12月16日 | 気まぐれ写真館

2024.12.16

 


【新刊書評2024】 『小林旭回顧録 マイトガイは死なず』ほか

2024年12月16日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

小林 旭『小林旭回顧録 マイトガイは死なず』

文藝春秋 2420円

昭和30年代半ば、小林旭は4年間に47本もの作品に主演。体を張った命がけのアクションで人気を博した。また浅丘ルリ子との悲恋、美空ひばりとの結婚・離婚、ゴルフ場経営の失敗や黒い交際疑惑もあった。心の支えとなったのは病没まで連れ添った妻の青山京子だ。そんな話をマイトガイは包み隠さずに明るく語っていく。思い入れのある映画と音楽についての「本人による作品解説」も貴重だ。

 

堀内正美『喪失、悲嘆、希望~阪神淡路大震災 その先に』

月待舎 1980円

俳優である著者が東京から神戸に移住したのは1984年。95年の阪神淡路大震災直後からボランティア活動を始め、2002年にはNPO法人「阪神淡路大震災1・17希望の灯り」を立ち上げた。本書は自身が体験した震災と復興と風化の記録だ。災害現場で何が起きるのか。当事者は何を思うのか。ボランティアは何ができるのか。災害に限らず、喪失と悲嘆を経験した人たちへのメッセージだ。

 

倉本 聰『海の沈黙~公式メモリアルブック』

マガジンハウス 1980円

公開中の映画『海の沈黙』。世界的な画家の贋作事件をきっかけに、「美」をめぐる緊迫のドラマが繰り広げられる。モチーフとなったのは約60年前に起きた「永仁の壺事件」と呼ばれる古陶器の真贋騒動だ。名のある評論家が認め、権威者たちが太鼓判を捺せば何億という値がつく美術品。では、美とはいったい何なのか。本書には倉本の脚本と主要キャストなどのインタビューが収められている。

(週刊新潮 2024.12.12号)

 


「つないできた時間」が『海に眠るダイヤモンド』を 特別な「日曜劇場」にする

2024年12月15日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

「つないできた時間」が、

『海に眠るダイヤモンド』を

特別な「日曜劇場」にする

 

日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)から、ますます目が離せなくなっています。

やがて「廃墟」となる島で

1955年、大学を卒業した鉄平(神木隆之介)は故郷の長崎県・端島(通称・軍艦島)に戻りました。父(國村隼)や兄(斎藤工)が炭鉱員として働く鉱業会社に職員として就職したのです。

一方、2018年の東京に暮らすホストの玲央(神木の二役)は、会社経営者のいづみ(本名・池ケ谷朝子/宮本信子)と知り合い、彼女の秘書となりました。

物語は2つの時代と場所を行き来しながら展開されていますが、軸となるのは昭和30年代の「炭鉱の島」です。

鉄平、彼とは幼なじみの朝子(杉咲花)、百合子(土屋太鳳)、そして賢将(清水尋也)などの恋愛模様だけでなく、この時代を生きる人たちの「現実」と痛切な「心情」が丁寧に映し出されていきます。

戦争と原爆

たとえば、鉄平の家では20歳だった長兄がビルマで戦死しています。父は、名誉なことだと信じて息子を戦場に送った自分を、ずっと責め続けてきました。

しかも、会社の幹部の子弟は、戦争で死なずに済んでいる。「格差社会」という言葉もない時代の、理不尽な格差でした。

そして百合子は、母や姉と出かけた長崎の街で被爆しています。姉はその時に亡くなり、生き残った母も長く患った末に白血病で逝きました。

いつか自分も発症するのではないか。百合子はその恐怖を抱えながら生きてきました。戦後10年が過ぎても、彼らの戦争は終わっていないのです。

鉄平が、胸の中で問います。

「お国の偉い人たちがいつの間にか始めた戦争が、勇ましい言葉と共に国じゅうに沁(し)み込んでいった。日本は戦争に負けた。人を殺して、殺されて、たくさんの国に恨まれて、何が残った?」

経済成長の影

さらに、島での「労働争議」も描かれました。賃上げを要求する労働組合が「部分ストライキ」を起こしたのです。

完全なストだと賃金が出ません。そこで編み出されたのが、働いて賃金をもらいつつ部分的に操業を止める「部分スト」です。会社側はこれを認めず、入鉱禁止の「ロックアウト」を断行。両者は激しくぶつかりました。

このストは、全国組織である「全日本炭鉱労働組合」の指令によるものでしたが、突然中止となります。中央(東京)の上層部では、すでに話がついていたらしい。

しかし端島の組合員たちは、地域の事情への配慮もなく、横並びで動かされる自分たちの「立場」に憤ります。当時の労働現場の内実を、ここまで活写したドラマはあまり例がありません。

繋(つな)いできた時間

戦争も、原爆も、経済成長の影も、単なる「過去」ではない。それは現在と地続きになっている。

2018年に生きる朝子が言うところの「繋(つな)いできた時間」です。

それを現在の私たちは忘れているのではないか。しっかりと向き合わず、風化させているのではないか。

野木亜紀子さんの脚本には、強い「怒り」と鋭い「問いかけ」があります。

「昭和99年」である今年、このドラマが特別な「日曜劇場」となっているのは、そのためだと思えるのです。

 


映画『海の沈黙』パンフレットへの寄稿

2024年12月14日 | 映画・ビデオ・映像

 

 

映画『海の沈黙』

脚本:倉本 聰

出演:本木雅弘、小泉今日子、中井貴一

監督:若松節朗

 

 

この映画のパンフレットに、

「美は利害関係があってはならない」

と題するコラムを

寄稿させていただきました。

 

 

 


言葉の備忘録417 他者を・・・

2024年12月13日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

他者を気遣い、

自分をも気遣う、

この気遣いこそ、

シフトダウンの神髄。

 

 

五木寛之『百歳人生の愉しみ方』

 

 

 


今年起きた、『セクシー田中さん』問題とは何だったのか?

2024年12月12日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

今年起きた、

『セクシー田中さん』問題とは

何だったのか?

 

『セクシー田中さん』は、2023年10月2日から12月24日まで、日本テレビ系の「日曜ドラマ」枠で放送されました。

派遣社員の倉橋朱里(生見愛瑠)は、会社の同僚・田中京子(木南晴夏)の秘密を知ります。仕事は完璧ですが地味で暗い「田中さん」には、セクシーな「ベリーダンサー」という別の顔があったのです。

「ベリーダンスに正解はない。自分で考えて、自分で探すしかない。私は自分の足を地にしっかりつけて生きたかった。だから、ベリーダンスなんです」と田中さん。それは彼女が自分を解放する魔法でした。

一方、誰からも好かれる朱里ですが、特定の誰かに「本当に好かれた」実感がありません。また不安定な派遣の仕事を続ける中で、リスク回避ばかりを意識してきました。

他人にどう思われようと気にしない田中さんと出会ったことで、朱里は徐々に変わっていきます。このドラマは、2人の女性の成長物語として秀逸でした。

原作者・出版社・テレビ局の関係

ところが同名漫画の作者、つまり「原作者」である漫画家・芦原妃名子(あしはらひなこ)さんは、ドラマの内容に違和感を覚え、最後の2話分の「脚本」を自ら書いていました。

しかも、その経緯をSNSで説明した後、今年の1月29日に遺体で発見され、自殺とみなされています。

日本テレビは、番組サイトで「映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」と説明。

出版元の小学館は「編集者一同」名義で、「個人に責任を負わせるのではなく、組織として今回の検証を引き続き行って参ります」とコメントしました。

その後、5月31日に日本テレビが社内特別調査チームの報告書を公表。6月3日に小学館も特別調査委員会の報告書を明らかにしました。

しかし、「制作サイドが提案した改変は許される」という日本テレビと、「原作者の世界観をいかに守るか」とする小学館の姿勢は異なります。

中でも、原作者が持っている作品の「同一性保持権」の順守について、日本テレビ側の認識が希薄であることが目立ちました。

「オリジナル」に対する<敬意>と<誠意>

ドラマの根幹は、「どんな人物」が「何をするのか」です。漫画などの原作がある場合は、創造の「核」となる部分を原作から借りることになります。

難しいのは、原作をそのまま脚本化すれば、いいドラマになるとは限らないことでしょう。

制作サイドは通常、様々な要素を考慮し、映像化する際にドラマ的なアレンジを加えます。

芦原さんは日本テレビに対し、ドラマ化の条件として「漫画に忠実」であることを提示し、了承を得ていたとしています。

しかし、思うようには進まなかったようです。「忠実」の意味合いや度合いについてのすり合わせが足りなかったと思われます。

いずれにせよ、原作者である漫画家が脚本を執筆する事態になったことは極めて異例です。

やはり、ドラマの責任者であるプロデューサーなどが原作者と脚本家の間に立って、もっと丁寧に調整する作業が必要だったと言わざるを得ません。

今後は、「原作者」とその「創造物(オリジナル)」に対する<敬意>と<誠意>という基本を、これまで以上に踏まえたドラマ制作が強く望まれます。

 


「それぞれの孤独のグルメ」淡い一期一会が心地よい

2024年12月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

淡い一期一会が心地よい

孤独のグルメ特別編

「それぞれの孤独のグルメ」

 

ドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京系)がスタートしたのは2012年だ。12年前だから干支(えと)も一回りしたことになる。今期は「それぞれの孤独のグルメ」と題した特別編を放送中だ。

趣向はシンプル。たまたま主人公の井之頭五郎(松重豊)と同じ店で食事をする、さまざまな職業の人物たちの「独り飯」を見せていくのだ。

ただし、ここが大事なところだが、彼らと五郎がからむわけではない。いや、あえてからませない。それぞれに食べ、それぞれに味わい、食後はそれぞれの世界に戻っていく。この淡い一期一会が心地よい。

印象に残った回がいくつかある。東京・神保町の焼肉店に入ったのは、看護師の板谷由夏だ。救命救急センターでの夜勤を終えた彼女を、「上タン塩」と「ゲタカルビ」が優しくねぎらう。

また客室乗務員の比嘉愛未は、空港スタンバイの終了間際に出雲行きが決まってしまう。フライトを終え、出雲市にある店で選んだのは餃子と白飯。特に「しそ餃子」との出会いが感動的だ。 

さらに、千葉県香取市のドライブインで空腹を満たす女性トラックドライバーは黒木華だ。見た目も態度も言葉もトラッカーとしか思えない黒木が、ガッツリ系の「豚肉キムチ卵炒め定食」を見事に平らげていた。

同じ役柄で主演ドラマが出来そうな女優陣に拍手を送りつつ、五郎単独の新シーズンを待ちたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.12.10)

 


言葉の備忘録416 前を・・・

2024年12月10日 | 言葉の備忘録

2024.12.09

 

 

 

 

前を見て胸を張って生きろ

 

 

石川九楊の父・平三郎の言葉

石川九楊『九楊自伝―未知への歩行―』