遊びをせんとや

毎日できるだけアンテナを張って
おもしろがりながら楽しみたい。
人は「遊びをせんとや生まれけん」です。

三本の縄~1年の授業・木彫①

2009-02-15 06:44:27 | 美術教育
 美術の時間にできるだけ様々な材料を触らせたい。
紙は当然の事。紙粘土。金属。木。石。

木を彫るのは楽しい。よく切れる彫刻刀で無心にさくさくと彫っていく。
その手ごたえが気持ちいい。という事で必ず1年生では木彫で小物掛けを
制作する。

 
 木彫に取り組む時、正倉院の建物の木は何千年と生きているがそこに
使われている鉄の釘の方が
早くさびてぼろぼろになる、と言う話や
木という自然の物を人間の勝手で命を奪うのだからその木が生きてきた分
作った物が生かさなければならない
という話もする。

 導入の部分では以前、安野光雅が「たのしい木彫」という本に書いた
一文を使っていました。この本は素人に木彫の楽しさを紹介するために
絵本作家の安野光雅が初めて木彫に挑戦した時に感じた事を元に編集されています。
なんと43年前に発行された本ですが、木彫の初心者にはうってつけの一文です。

 二ューギニアの原住民の木彫作品を見て『彼らは全く彫刻の天才です。
しかし、ひょっとすると、私たちも彫刻の天才なのかもしれないのです。
 数代も飼いならされて、もう穴を掘って巣を作る必要が
なくなった家畜のウサギでも地面に放すと巣のための穴を掘るそうです。
ウサギに伝わる習性の血が、ウサギとして生きてきた習性を呼び覚ますのだと説明されています。
 してみると、私たち人間に彫刻のひらめきがあるのは、魚を釣り、鳥をうつ
狩猟人の心が生きているからかもしれません。
 だまされたと思って、彫刻刀を買い、それをとぎすまして木を彫ってみて下さい。
 かつて木を彫り、洞窟に絵をかいたわれわれ祖先の心がよみがえってくるに違いないのです。
 もともと私たちは、に二ューギニア土人のように彫刻の天才だったのです。』
 この一文はもっと続くのですが、要するに無心に一度やってみてという事を強調
します。

 「刃物のはなし」
 『日本の刃物と西洋の刃物とでは構造が違います。(中略)
日本の刃物は刃金と地金とから成り立っているのです。
 包丁や彫刻刀をよく見ると、切れる部分のきらっと光っているところ、
これが刃金で、その他の部分が刃金をささえる地金です。
 刃金と地金は、ちょうど夫婦のようなものです。刃金は、先頭に立って働き、
鋭く、堅い、しかし柔軟性に乏しい、妻の地金は、やわらかく、柔軟性に富んで
いて折れにくい、この二つの性質が相まって、よく切れる刃物となっているわけです。
 (中略)小学校の頃、よい点がもらえなくて工作がいやになったと言う人が
ずいぶんありますが、結局それはその人が悪いのではなくて刃物が切れなかった
からです。
 刃物さえよければ、点がよかろうと悪かろうと、おもしろさが先にたって、
物を作ることが嫌いになるはずがないのです。』

 この話をして日本の彫刻刀のよさを強調します。

 肝心な彫刻刀なのですが、私も色々試してみました。パワーグリップやらなんやら、
プラスチックの滑り止めのような物がついた物まで試しましたが、
あまりに高価な物も買えません。
かと、言って安物ではすぐに切れ味が悪くなります。
なかなか空き時間に40の彫刻刀セットを研いでいる時間も取れません。
授業中研磨機を持ち出して研いでやったりもしながら、
結局、落ち着いたところは天竜彫刻刀5本組。
あまりに刃こぼれがひどい時には単品で買い換えていくという事で。

 木彫のデザインですが、なんでもありの時もあったし、最近は厚み1cmの中で
透かし彫りとカマボコ彫りを身につけさせたいので「三本の縄」というテーマを
設定しました。
 生徒たちになんでもいいので縄状の物を挙げさします。色々出てきます。
うどん、土管、髪の毛、リボン、電線、腕、電信柱、鉛筆、紙テープ etc

 と言う中から一つを選んで構図用紙の中に3本からませながら構成していきます。
この時、必ず縄の太さを2cm以上と設定します。そうでないと後で浮き彫りが
とてもやりにくくなります。なんせ中1。版画は経験があっても木彫は初めて。
しかも厚さ1cmの中に三本の高低を表現するのですからあまりに
複雑だと彫りで挫折します。最初の成功体験はとても大切です。
 当然電動糸鋸もばんばん使いますから、なかを切り抜く所と縁を切り抜く所を
決めさせます。縄以外全部切り落としてもかまわないのですが、そうなると
残る部分がぐっと少なくなるので透かし彫りとして切り抜いてしまう所は2箇所
縁は三箇所くらいと最初は限定します。本来、構図の段階で縄部分が太ければ
大丈夫なのですがね。
 電動糸鋸は7台同時に動かせますが、今の学校の生徒はどんどん切っていきます。
前任校で何度かヒューズが飛んだこともあります。(その時同時に調理実習で炊き込み
ご飯を炊いていたので、、、。)
作業が停滞しないように彫りの説明をして、教材についているビデオで説明をして
すぐに電動糸鋸の説明をしてすぐにきらせます。三箇所切ったら黒板に書いてある
順番の子の名前を呼びという具合に全員が一応三箇所切るまで回します。
その間、なんとかカマボコ彫りの第一段階まで進めるようにすると彫ってる子
電動糸鋸で切っている子と言う具合に飽きもきません。
ここで厚みの半分まで彫り下げる事を強調します。後の仕上げがなかなか
想像できないのでここが勝負どころだという事を力説します。
全員一応糸鋸で切った段階くらいで電動ドリルで穴を空け、中切りに挑戦します。
透かし彫りの部分が5箇所もあるとそれだけで1時間くらいたってしまうので
2~3箇所限定にします。後でどうしても切り抜きたいと言えば快くOKを出します。

 電動糸鋸で全て切り終わるとどんどん彫りも進みます。
角を平刀を裏向けてカーブをつけるのを「100角形は円に近い」という例を
黒板で説明して丸みをつけさせます。
ここで初めて第一段階でなぜ厚みの半分彫り下げなければならなかった
かという事を生徒たちは実感として知るのです。