もう20年以上も前のことですが、
高校1年生の担任だったときです。
古い木造校舎が教室として使われていました。
教室の窓側の庭は隣のビルにはさまれて鬱蒼として
誰も入り込まないところです。
その庭に生徒の誰かが、鳩の屍骸を窓から見つけて
ちょっとした騒ぎになりました。
5,6人の生徒らが窓に寄って
ああだこうだと騒いでいると
一人の男子生徒がすっと教室を出て
回り込んで、庭へ入り込み、
何をするかと思うと、
鳩のそばで土を掘りだしました。
そうしてその死んだ鳩を埋めてあげたのです。
それが、何のてらいもない
実に自然な行為のように見えました。
いつも寡黙な子でありましたが、
その自然に身についたかのような素直な所作に
感じ入り、いまだに印象に残っています。
高校卒業後の数年たって、その君は、
「大学には行かず、インドを放浪しているらしい、」
という噂を誰からか耳にしました。
「へぇ~、彼らしいということかね。」
と、思いました。
またしばらくしてのち、
「インドから戻って、吉野で林業やってるみたいよ。」
と、噂を聞きました。
「おうおう、なるほどね。いかにも彼らしいね。」
と、またまた思いもし、感心もしたのであります。
とまあ、そんな彼のことを思い出しながら
読んだ本が、これね。↓
何だか漫画を読むような軽妙なのり。
(良質な漫画ですけど。)
林業に飛び込んだ若者の青春小説ですかね。
それでいて、十分繊細な深みも備えています。
あの中上健次描くところの
熊野の世界の荒々しい神秘性も
柔らかく包み込んで軽妙なタッチで
あしらっているような気さえいたします。
マイナーなお仕事の世界を、こんなに魅力的に
すすーっと堂々たる表舞台に押し出してみせる
三浦しをんの力量はなかなかであります。
うれしくなりますね。
そこで、話題になった「舟を編む」。
文庫になるまで待とうと思っていたのですが、
待てないで単行本を買ってしまいました。
さらに面白うございましたね。
両方とも、
良質な進路ガイダンスの本として
高校生あたりにに読ませたいですよね。
(ところで、その後の彼、
どうしてるんでしょうかね。)