ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

光の量と植物プランクトン

2018-08-26 10:43:13 | 自然
川や湖に発生するアオコや海の赤潮はともに植物プランクトンの異常増殖ですが、最近東京大学の研究グループがこの植物プランクトンと光の量との関係を明らかにしました。

水中の生態系にとって、植物プランクトンは重要な存在で、水面近くの浅いところに届く太陽の光を吸収し、植物特有の光合成で栄養分を作り出します。これを食べた動物プランクトンを小魚などが食べ、それがさらに大きな動物の餌になっていきます。こういった生き物たちに必要な栄養の大本を作るのが、この植物プランクトンとなるわけです。

植物プランクトンは太陽の光を受けて栄養分を作るので、太陽光がよく当たれば増えていくと考えられていました。研究グループが池で実験したところ、そうではなく太陽光を増やすと植物プランクトンは減り、代わりにそこの水草が増えていることが分かりました。

アオコは、植物プランクトンが異常に増殖した状態で、畑の肥料や家庭からの汚れた水が流れ込むことなどで湖や池の栄養が増え過ぎることが原因とされています。これが海だと赤潮となり、その色は植物プランクトンの種類で決まります。

このように湖水の栄養分との関係は良く研究されていましたが、光の量との関係についてはあまりなかったようです。

研究グループが実験したのは、アメリカニューヨーク州にあるコーネル大学の実験池で、1辺が30メートルの正方形の池で、中央の最深部は1.5メートルと水温などが水面近くと底とであまり違わない浅い池でした。

この池を6つ使い、このうち2つは水面の4分の3をシートで覆い、これが光の少ない池としました。もう2つは6割ほどを覆った光が中程度の池と、残りの2つはシートで覆いませんでした。

この状態で2015年7~9月実験を行いました。結果は、予想に反して、光の少ない池の方が植物プランクトンの量が増え、光が中程度の池の2~3倍にもなりました。その代り、底に生えているシャジクモなどの水草が少なくなりました。

植物プランクトンと水底の水草がどうも競合しているらしい結果となりました。この競合の仕組みを数式で表し解いてみた結果、光の量が少ないと水底まで届く光が減って水草が育たなくなり、そのぶん植物プランクトンが栄養分を得やすくなって増殖することが分かりました。

その他面白い事として、シートで被わなかった35個の池を調べたところ、水草の多い池と少ない池の2種類に分かれ、中間型はありませんでした。この様に中間型は不安定で、すぐ水草優位か植物プランクトン優位に分かれてしまうようです。

このように2通りがあっても、ちょっとした条件が違うだけでどちらかに急激に偏るという結構きわどい世界に私たちは暮らしているようです。


黒カビから脳梗塞の治療薬

2018-08-25 10:09:43 | 化学
バイオベンチャーのティムスは、沖縄の西表島で見つかった黒カビを使った急性期脳梗塞の治療薬の開発に取り組んでいます。

黒カビを培養して取り出した化合物が、血栓を溶かす身体の動きを促進します。血管が詰まって起こる炎症を抑える効果もあるため、脳梗塞発症後4時間半に制限されている投薬の時間を延ばせると期待されています。

今回の黒カビは「スタキボトリスミクロスポラ」という種類で、大阪の発酵研究所が1973年に西表島の川岸で亜熱帯照葉樹の落ち葉から見つけたものです。ティムスが同研究所から譲り受けた1500株のカビの中から、2010年に脳梗塞の治療に生かせる効果のある化合物を見出しました。

これは自然界からの薬物探索ということになりますが、現在でも製薬メーカーが力を入れている探索研究の一つです。現在使用されている医薬品の3分の1は、こういった天然の微生物などの生産物となっており、まだまだ知られていない生理活性物質は多く存在すると考えられています。

私が勤務していた研究所もこういった分野に力を入れており、主に各地の土壌から新しい微生物を探索し、その生産物を調べていました。私もその協力として、出張や私用で地方に行ったりした時は、地表から5センチ程度のところの土をスプーン1杯ぐらい持ち帰るということをずいぶんやっていました。

海外からも持ち込んだりしていたようですが、本来これは禁止されており、やや気持ち悪いところもありましたので、私はやりませんでした。こういった天然物の探索研究の難しさや面白さは、また別な機会に書くかもしれません。

さて今回の薬剤ですが、脳梗塞の治療に使われる血栓の溶解剤は、発症による炎症で血管がもろくなり、出血リスクが高まるため発症後4時間半までしか使えないとされています。今回ティムスが開発する治療薬は、血栓の溶解に加え、炎症を抑える働きもあり、発症後12時間まで活用の幅が広がると期待されています。

同社は東京大学医学部で健常者を対象にした臨床試験で安全性を確認しています。発症後12時間の有効性などを調べる第2段階の臨床試験に着手しています。

本年6月には、アメリカ製薬大手のバイオジェンと契約し、一時金約4億円を受け取り、開発や販売が成功すればさらに資金が得られるようです。

共同研究者の東京農工大学は、創薬には時間がかかるが、早ければ5年後には実用化のめどがつけられると述べています。やはり新薬の開発には非常に長い時間と膨大な費用が掛かりますが、こういったベンチャー企業の挑戦的な取り組みには応援しながら期待したいと思っています。

白髪が告げる老化しそうな臓器

2018-08-24 10:41:05 | 自然
「白髪は老化の象徴」といわれるようですが、なぜ白髪になりそれは身体のどこの老化を象徴しているのでしょうか。

本来髪の毛に色はなく、髪の毛を作る毛包という組織の色素幹細胞が色素細胞を生み出し、その色素細胞がメラニン色素を作って髪の毛に供給することで髪は黒くなります。

白髪になるのは色素細胞の数が減ったり、消滅して色素を作れなくなるからといわれています。これは色素幹細胞が分裂しにくくなり、その主な原因が加齢です。若白髪のように遺伝的要素から色素幹細胞の寿命が早い人もいますが、紫外線や体内の酸化、精神的ストレスなども関係しています。

また毛包内の色素幹細胞を守るニッチといわれる微小環境が障害されたり、遺伝子の変異でも幹細胞が分裂しにくくなり、色素細胞が減少します。この色素細胞は髪の毛だけでなく体のあちこちにあって、一定のつながりを持っていると考えられています。

例えば皮膚、網膜の奥、内耳、髄膜など様々なところに存在しています。白髪は、こういった体のあちこちに存在する色素細胞の減少や機能低下を意味するのかということになります。この点に関してははっきり証明されているわけではないのですが、色素細胞の病気が身体全体の病気に関わる場合もあるようです。

原田病という病気は、突然両目に網膜剥離が生じて見えにくくなる病気ですが、目だけのものではなく同時に髄膜炎、難聴を生じ、その後に皮膚の白斑、白髪、脱毛などが生じます。この病気は色素細胞に対する自己免疫疾患だといわれており、原田病では色素細胞を標的として病気が起こることから、メラニン色素が多い組織に炎症が起きるといわれています。

原田病では目に症状が出てくる前に、風邪をひいたときのような頭痛やめまい、微熱、全身倦怠感などといった髄膜炎症状が見られ、やがて両目の充血かすみ、視力低下が現れます。発症後半年から数年後には皮膚の白斑、白髪が見られ、まつげや眉毛も白くなったりします。

また色素細胞は心臓にもあり、その異変は心房細動由来の不整脈発症などに影響するという報告もあります。色素細胞の変異マウスでは繁殖能力の低下を伴うことも多く、不妊につながっているのではないかという見方もあります。

これまで色素細胞の喪失の結果として表れる白髪は、単なる老化として片づけられてきましたが、今後の研究次第では病気の予兆ととらえられるかもしれません。

しかし私はもう髪の毛全体が白の強いグレーになっていますが、白髪のなり方は個人差も多く、病気の予兆である可能性はかなり低いと思われます。


熱中症対策と低ナトリウム血症

2018-08-23 10:26:52 | 健康・医療
非常に暑い今年の夏は、多くの人が熱中症を発症し、さまざまな注意喚起がなされています。

熱中症の予防として水分補給が重視されていますが、この方法を一歩間違えると全く別の疾患を患う恐れがあるようです。

今年の首都圏は、平年より22日も早く梅雨が明け、その後外気温が35℃以上を記録する「酷暑」が訪れる異常事態となっています。そのため急激な気温の変化に対応できず、熱中症に倒れる人が続出しました。

熱中症は高温多湿の環境下で起きる身体障害の総称ですが、急な環境の変化に身体がついていけずに発症する病です。人間の体は暑い日になると、皮膚からの放熱や発汗、息による蒸発で体温を調節します。

しかし急激に気温が上がった場合には、身体が暑さに対応できず、汗をかいて体温を下げることができず熱中症になってしまいます。熱中症対策の大切さは言うまでもありませんが、水分補給としてやみくもに「水だけを飲む」のは望ましくないようです。

水分の取り方を間違えると「低ナトリウム血症」という、全く別の疾患を発症してしまうリスクがあります。低ナトリウム血症の症状は、軽症の場合はめまいや脱力感、疲労感のみですが、症状が進行すると頭痛や悪心、嘔吐、意識の混濁のような傾眠傾向が出現します。

重症例では重い意識障害、性格変化、痙攣や昏睡を引き起こし、命の危険もあるようです。低ナトリウム血症は、熱中症だけでなく心不全、腎疾患など様々な要因で発症し、特に体温調節がしにくい高齢者や幼い子供は発症リスクが高くなっています。

この低ナトリウム血症を防ぐためには、当然塩分を含む飲み物や食べ物を選ぶのがポイントです。ですから日中暑い場所で作業する際には、塩分を含む経口補水液を500ml程度を目安に飲むと熱中症対策となるようです。麦茶やブレンド茶など、ノンカフェインでミネラルを含むお茶類も有効としています。

また手軽に塩分補給ができる食材として「塩昆布」が有効なようです。水と一緒に水筒に入れておけば手軽に水分と塩分を取ることができます。

私もいつも飲んでいるスポーツドリンクは、摂取量に注意が必要なようです。スポーツドリンクはナトリウムだけでなく、糖類を多く含んでいるので、大量に飲むと糖分の取りすぎにつながるとしています。

このように熱中症対策にはいろいろな注意事項があるようですが、現在は非常に多くの種類のペットボトルが売られていますので、適当に飲んでいてもそれほど問題になることはないと思われます。ちなみに私は外に出て暑く感じたときは、冷たい缶コーヒーを飲んでいます。


地球温暖化はもう手遅れか?

2018-08-22 10:44:17 | 自然
最近オーストラリアを中心とした国際研究グループが、たとえ人類がCO2排出を減らしていったとしても、世界平均気温が産業革命前よりも4~5℃高い「ホットハウス・アース」の状態へ地球が移行を始めるスイッチが入ってしまう可能性があると発表しました。

世界平均気温は産業革命前からすでに1℃上昇しており、その主な原因は人間活動(特に化石燃料の燃焼に伴うCO2などの温室効果ガスの排出)である可能性が極めて高いとされています。

人類はこの気温上昇を2℃よりも十分低いところで止めるため、今世紀後半に世界全体で温室効果ガスの排出を正味ゼロにすることを目指す「パリ協定」に2015年に合意しています。ところがこの論文では、世界平均気温上昇を2℃前後に抑えたとしても、ホットハウス・アースへの移行が始まるとしています。いわば人類にとって温暖化は手遅れだということになります。

この温暖化の可能性の根拠となっているのは、(1)過去の地球の状態との比較、(2)温暖化を増幅する様々なフィードバックの評価、(3)フィードバックの連鎖の可能性の指摘、となっています。

この前提となるのが、現在の地球が「人類世」と呼びうる、人類という特定の生物種が気候形成に顕著な影響をもたらすようになった、新たな地質時代に入っているという認識です。

論文ではこの人類世の行く末を、過去の地球が経験してきた状態との比較より考察しています。気候変動のスピードが過去に例がないほど速いことなどから、現在の温暖化がある臨界点を超えると、中新世中期(1500から1700万年前)に近い状態に移行するまで安定化しないだろうと結論しています。

中新世中期はCO2濃度が500ppm程度で(現在は400ppm)、世界平均気温は現在より4~5℃高く、海面水位は10~60メートル高かったと考えられています。これがホットハウス・アースのモデルとなります。

次に温暖化を増幅する生物地球物理学的フィードバックとして、永久凍土の融解によるメタンやCO2の放出、海底のメタンハイドレートからのメタン放出、陸上と海洋の生態系によるCO2吸収の減少、アマゾン熱帯雨林の大規模な枯死などを評価しています。

その他いろいろな状況からすでにこのフィードバックのスイッチは入っており、ホットハウス・アースへの移行が止められなくなる可能性があるとしています。ただしこれらのフィードバックの多くはゆっくり進行するため、この移行は数百年以上の時間をかけて起こるようです。

ですから危機的状況といってもかなり先の話で、現在の世代には関係ないといっても良いようです。