内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

反時代的考察を深めるために碩学たちの声に耳を傾ける ― リークル vs カストリアディス、レヴィ・ストロース、ノルベルト・エリアス

2017-02-05 20:52:48 | 読游摘録

 EHESS 出版局から刊行されている叢書の一つに « Audiographie » という袖珍本シリーズがある。8ユーロから9,8ユーロと値段も手頃。2011年に創刊され、年二~四冊という刊行ペースで、これまでに十七冊出版されている。近現代の碩学たちが講演、談話、講義、対談等の形で当初口頭で発表した言説、あるいはそれまで一般には公表されていなかった音声記録の公刊がその目的である。それらの記録から起こされた原稿の前に、それぞれの碩学をよく知るスペシャリストによるかなり詳細な解説的序論が付されるというのが一冊の基本的な体裁である。
 昨年は三冊出版された。カストリアディスとリクールとの1985年の対談 Dialogue sur l’histoire et l’imaginaire social、レヴィ・ストロースのモンテーニュに関する二つの講演(1937年と1992年)を収めた De Montaigne à Montaigne、ノルベール・エリアスの1985年の講演 Humana conditio の三冊である。
 最初の一冊は、リクールが当時 France Culture で担当していたラジオ対談シリーズ « Le bon plaisir » にカストリアディスが招かれたときの両者の対談。同番組でのリクールは、彼の著作が与えるイメージとは異なって、対談相手にかなり鋭く迫ることも度々あったようだ。例えば、相手がレヴィ・ストロースのような巨匠であったとしても。カストリアディスとの対談も例外ではない。社会改革の直接的実践についてラディカルな姿勢を崩さないカストリアディスに対して、リクールはそれに劣らぬ徹底性をもって媒介性の必然性を擁護する。
 二冊目は、後の著名な人類学者になる前の若き日の講演と公衆の面前での最後の講演の一つが収録されている。そのいずれもがモンテーニュを主題としており、レヴィ・ストロースの人類学的思考の根本にモンテーニュ的な人間の生態への眼差しがあることがわかる。
 三冊目は、87歳のエリアスが1985年に第二次世界大戦後四十年という機会に請われて行った講演記録。この講演の全原稿が仏訳され公表されるのはこれが初めて。この講演の中で、この二十世紀を代表する社会学者は、なぜ戦争は起こるのか、なぜ人類は繰り返し野蛮へと逆行するのか、という今もなお根本的であり続ける問いを正面から問う。そこに最終的に提示されているのは、しかし、一つの希望の倫理である。それは次の一言に集約されている。「人間たちは死をなくすことはできない。しかし、殺し合いを止めることは確かにできる。」