今日紹介する本は、昨年11月にあるシンポジウムで発表したときに、その原稿を準備する段階で参照した本の中の一冊です。より正確には、「参照した」というよりも、その本のタイトルを自分の発表のタイトルとして「拝借した」と言ったほうがいいでしょう。ただ、発表の際には、ちょっと格好をつけて、それをラテン語に訳して« Inventio naturae » として、仏語のタイトルは括弧に入れましたけれど。
その本とは、Nadeije Laneyrie-Dagen, L’invention de la nature, Flammarion, coll. « Tout l’art », 2010(1re édition 2008)です(こちらが著者の履歴書です)。
この本の主題は、中世末期からルネッサンス初期にかけて起こった自然像の根本的転換を絵画の歴史の中で追究することです。中世末期までは、抽象的に考案され思念されてきた構成要素「地・水・火・風」による理論的な考察の対象であった自然が、まさに目の前に展開される或いは現に自分たちを取り巻いている自然として、注意深い観察の対象となっていくルネッサンス期に起こる世界像の根本的な転換を、豊富な絵画の実例を美しい図版で示しながら論証していきます。美術史の豊かな学殖と文明史的な深い洞察とが見事に調和した名著です。
中世末期からルネッサンス初期にかけて起こった自然像の転換(それは取りも直さず世界像の転換でもあります)において決定的に重要な役割を果たしたのは画家たちであったと著者は主張します。十四世紀から、ジオット、アンブロージョ・ロレンツェッティ、そしてリンブルク兄弟、ヤン・ファン・エイク、ついにはデューラー、レオナルド・ダ・ヴィンチへと至る画家たちは、己の画家としての仕事の目的として、取り巻く自然物を模倣することを己に課しました。彼らはもはや〈地〉〈水〉〈火〉〈風〉を想起することなく、波、急流、水滴、湖などをそれぞれに区別し、様々な形に変化する雲、強かったり穏やかだったりする風をそれぞれに表象し、泥、岩、炎、煙突の中の煙、家屋を焼く火事を描き分けます。
これらの画家たちの作品がそれを観るものに自覚させたことは、世界の美しさと同時にその壊れやすさでした。〈自然〉という感情は、おそらく、この目に見える危機(それは取りも直さずヨーロッパの危機にほかなりません)から、この時に生まれたのだろうと著者は言うのです。
本書は、自然の風景というジャンルの起源を探索することをその主たる目的としていますが、その作業を通じて目指されているより深い目的は、環境問題と自然破壊の恐怖に付き纏われている、私たちが現に生きている近代世界の起源の探究にほかなりません。