内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

情緒論素描(十七)― エートスと性格の違い

2020-10-09 23:59:59 | 哲学

 エートスがいわゆる性格と異なる点は、それがある価値観を自ずと表現する行為として実践されなければならないところにある。単に、快活、穏やか、几帳面、神経質等々の性格はエートスではない。
 エートスとは、ある行為がある価値観を表現していることであって、価値観そのものをそれとして表明することではない。エートスは、一回的な行為として表現されるのではなく、一定の持続的あるいは反復的な活動を経て習慣化された行為として表現される。その習慣化された行為から抽出された価値がエートスなのではない。
 エートスが良い方向で形成されるかどうかは、さまざまな要因に左右される。本人が自覚的にその都度の場面で善悪の判断を下すようになる以前からエートスの形成は始まる。家庭環境、社会的条件、時代の状況などによっても形成の方向は変わってくる。教育がその方向の決定に大きく関わっていることは間違いない。
 教育とはいっても、何か一定の型や知識を身につけさせるということに尽きるわけではない。その基底にもやはり情緒がなくてはならないと思う。
 9月22日の記事で、情緒を「諸感情の基底にあるより根源的な人間の存在様態のようなもの」と定義した。それは「いつまでもそこにいたい」「いつまでもその側にいたい」「いつまでも一緒にいたい」という意味での「なつかさ」として実感される。
 これは言葉で説明して理解してもらうことではないし、知識として身につけることでもない。どうすれば情緒が養われ、自ずと発露するようになるのだろうか。