樹木は自然の最初の実験室である。光化学の実験が実際にそこで行われ、太陽の光エネルギーを化学的に吸収し、地球を緑化した。人類が地球上に登場する前に成功を収めたこの樹木による大実験が人類の誕生の可能性の条件の一つである。
人類を生かしている樹木の諸特性と無尽蔵性がそれとして人類によって認識されるようになるのは十九世紀末からのことに過ぎない。神話的世界像からも宗教的世界観からも解放され、樹木のものは樹木に返すことを人類ができるようになったのは二十世紀に入ってからだ。
ところが、二十世紀後半から現在までの数十年間は、森林破壊の時代であり、その深刻化は地球の生態系を脅かしている。人類は自分たちのために一方的に樹木を利用することばかりを考えてきた結果として、自らの生の基盤を破壊しようとしているのだ。
樹木に関する科学の最新の知見を謙虚に学びながら、哲学がなすべきことはなにか。それは、人間中心的な世界像を根本から問い直すことを私たちに促し続けている樹木の沈黙の声を聴き取り、それを人間の言葉で表現することである。