内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

コロナ禍の渦中で書かれた心優しい学生からの公開書簡

2021-02-18 16:21:25 | 講義の余白から

 コロナウイルス感染拡大が少しずつではあるが沈静化の方向に向っており、ワクチン接種も促進されつつある。とはいえ、ここで諸規制を緩和し、日常的な予防対策に緩みが出てしまっては、再度の感染拡大も誘発しなかねない。いまだ緊迫した状況であるから、大学での対面授業再開には慎重にならざるをえない。しかし、弊学科でも三月一日から一年生を主な対象とした対面授業の部分的な再開の具体的検討に入った。
 学生たちも半数以上は対面授業への復帰を望んでおり、教育的効果の面からもその方が望ましいと考える教師がほとんどである。特に自律学習の習慣がまだできていない学生たち(小学生かよと思われた方もいらっしゃるかも知れないが、現実には大学生でも少なくない)には、やはり教室での教師との直接のやり取りと学生同士のコミュニケーションがモチベーションを維持するためには必要なのである。
 こんな状況で勉強を続けるのは、学部最高学年である三年生にとっても決して容易ではない。それに、彼らにとっては今学期が学部最後の学期なのであるから、キャンパスでの対面授業を望む気持ちは彼らにも強くある。ただ、彼ら自身のうちの何人かが証言しているように、今年の学科三年生三〇名ほどはとても仲が良い。お互いに助け合いながらここまできた。それは、対面時の教室の雰囲気・リアクションから私も感じていたことだ。おそらくそのおかげもあるだろう、ここまで脱落者がほとんどいない。
 一昨年度から二月に学生たちにライティング実習として手紙を書かせている。昨年は、ロックダウン前だったので、手書きの手紙を自由な発想で書かせた。それについては、昨年2月17日の記事で話題にした。今年は遠隔授業の中での課題提出なので、添付書類として送るか、MOODLE上に提出するようにさせた。手書きで書いてスキャンして送ってくれてもいいと言ったのだが、皆PCを使って書いて送ってきた。その分味わいには大幅に欠けるのだが、内容はなかなか読ませるものが多く、皆時間をかけて書いたことがわかる。特に、未来の自分宛てという想定で、今の状況を客観視しようと努めている何通かの手紙が印象に残った。
 最初は下書きを送らせ、それに私が若干の訂正・コメント・ヒント・助言を付して返す。それを踏まえて、彼らは清書する。その清書にも間違いがある場合は、また直させる。かなりよくできる学生でも下書きと清書だけで済まない。たいていさらに自分で一二回訂正させる。二グループ担当しているから、計四十数人を相手にこの作業を繰り返す。締め切りが近づくと、私もかなり忙しい。しかし、一回ごとの直しは長くても十五分程度で済むから、それほど負担というわけでもなく、むしろ彼らが自分で文章を推敲していく過程がわかって面白い。
 今日が最終締め切り、現時点で三分の二強の学生が清書の最終版を提出済み。その中から、学科の教師とクラスメート宛ての公開書簡という想定で書かれた一通を全文紹介したい。


日本学科三年担当の先生方と生徒の皆様,

 窮地にもかかわらず、皆様お元気でお過ごしでしょうか。この数年間の感謝の気持ちを込めて、この公開書簡を書いています。入学当初、大学に馴染むのは大変でしたが、LLCERのクラスのおかげもあり、今も元気にやっています。
 急に時間が過ぎて、それぞれが違う道を歩んでいこうとしている今、胸が締め付けられる思いです。一年生の頃のことを今でも覚えている方もいれば、残念ながらすぐにはご縁がなかった方もいます。
 また、この手紙を通して、このような緊密で献身的なグループであることに感謝したいと思いました。残念ながら、多くの場合、教室で生徒同士が邪魔をして、競争原理が支配し、教室の雰囲気がストレスになっています。しかし、私たちのクラスでは、「お互いに助け合う」ということがクラスを最もよく定義する言葉です。
 同じように、私たちに最高の知識資源を提供してくださる先生方、日々、私たちのことを心配してくださっている先生方、そして危機管理に疲れ果てている先生方にも思いを馳せています。私たちの話を聞いてくれる。また、私たちがやる気をなくそうとしていると、私たちの状況を考慮してくれて、ありがとうございました。私たちはそれが先生方にとって容易ではないことを知っていますが、それにもかかわらず、健康危機に直面して、仕事ために本当にありがとうございました。
 また、対面授業に戻るかもしれないという話も聞いていますし、ストラスブールから遠く離れた場所に住んでいるにもかかわらず、週のうち一日でも授業に戻れるようになればいいなと思っています。これにより、対面授業の復活に少しでも希望を持ち続けることができます。
 また、早く再会して、この危機も終息することを願っています。
 皆様、気をつけてください 。