日本学科学部三年の「日本思想史」にしても応用言語学科英語・日本語併修コース学部一年の「日本文明入門」にしても、私が得意とするお固いお話が続いてしまうと、学生たちは、ごく一部の意識高い系の学生を除いて、当然のことながら、すっかり飽きてしまうわけです。もろに彼らの顔に出ますから、瞬時にわかります。
そこで、いわゆる教育的配慮から、授業内容に工夫が求められるわけです。って、上から強制されているわけではありませんが、自分でそう思うわけです。
この二十年余り、そのような工夫を私なりにさまざまに凝らしてまいりましたが、今年度の「新機軸」として、K‐pop を授業の「箸休め」として導入することにしました。というのも、K‐pop の人気は、日本学科の学生たちの間でさえ、J‐pop のそれを上回っていることが多いので、学生たちの関心を惹きやすいからです。
K‐pop は最初から世界戦略を目指しているので曲作りにJ‐pop よりも「普遍性」がある一方、他方では日本市場への進出を目論んで日本向け特化した発信も怠っていません。
NewJeans が今年6月にリリースしたシングル Supernatural は日本語聴解教材として初歩段階にとって手頃です。この曲の歌詞には、5つの日本語表現が織り込まれていますが、それが英語と韓国語の歌詞と見事に融合しているので、日本語初心者にはよほどよく注意して聴かないとそれらを識別できません。
そこで学生たちにこの曲のミュージク・ビデオを観せながら、その5つの日本語表現を識別させるのです。すでにこの曲を知っている学生たちには無意味な練習のですが、それでもまあ「遊び」としては彼らにとって楽しいわけです。
まだこの曲をお聴きになっていらっしゃらない方、こちらのリンクで視聴できますから、その5つの表現すべてを一回聴いただけで聴き取れるかどうか、お試しになってみてはいかがでしょうか。彼女たちの発音は文句なしですから、発音の悪さで聴き取れないということはありません。英語と韓国語の歌詞とのあまりにも自然な連続性が聴き取りを難しくしているのです。
このような「多言語融合」時代が来るなんて、日本に居た頃には想像できませんでした。暗黒の未来しか見えない悲観論に深く染められた私の陽のあたらない心も、この曲を視聴するとき、少しだけ明るくなります。