内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

谷川俊太郎「ありがとう」

2024-11-27 23:59:59 | 詩歌逍遥

 弊日本学科の現代文学史の授業で詩が取り上げられることはほとんどない。その大きな理由の一つとして時間が足りないということは確かにあるが、そもそも小説や批評に比べて詩が軽視される傾向があることも否めない。これは古典文学史との大きな違いである。
 今週、学部三年生と修士の一・二年生に、日本の現代詩人で知っている名前があるかと訊ねてみたら、誰も一人も挙げることができなかった。一人、「サ、サイギョウ?」と呟いていた学生がいたが……。
 学生たちが少しでも現代詩に関心を持ってくれるようになればと、吉野弘の「I was born」や「夕焼け」を私の授業で紹介したことはあったが、文学史の授業でもなく単発に終わった。
 今月13日にまさに国民詩人の名にふさわしい谷川俊太郎が亡くなられて、この機会にせめて彼の名前は覚えてほしいと思い、今担当しているすべての授業で、先日引用した「おばあちゃんとひろこ」を紹介した。まず私が一行ずつゆっくりと読み、それから谷川俊太郎自身の朗読の録音を聞かせた。まだ彼らに感想を聞く機会はないが、どう思ったかぜひ聞いてみたいと思っている。

 

ありがとう

空 ありがとう
今日も私の上にいてくれて
曇っていても分かるよ
宇宙へと青くひろがっているのが

花 ありがとう
今日も咲いていてくれて
明日は散ってしまうかもしれない
でも匂いも色ももう私の一部

お母さん ありがとう
私を生んでくれて
口に出すのは照れくさいから
一度きりしか言わないけれど

でも誰だろう 何だろう
私に私をくれたのは?
限りない世界に向かって私は呟く
私 ありがとう


Thank You!

Thank you, Sky,
for being above me today!
I know, even if cloudy,
that you are spreading blue to the universe.

Thank you, Flowers,
for blooming today! 
Tomorrow you may be falling.
But your odor and color are already part of me

Thank you, Mother,
for bearing me.
I say this only once
because it’s embarrassing.

But who is it, what is it,
that gave me Me?
I murmur to the infinite world,
“Thank you, Me!”