内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「世界の微笑がひそんでいる」― 谷川俊太郎「ありがとうの深度」より

2024-11-29 16:58:34 | 読游摘録

 『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波書店、2023年)電子書籍オリジナル版には、岩波文庫版(2013年)の同名詩集には収録されていない2013年以降の作品が以下の11冊の詩集から26篇追加収録されている。『ミライノコドモ』(岩波書店、2013年)、『こころ』(朝日新聞出版、2013年)、『おやすみ神たち』(ナナロク社、2015年)、『詩に就いて』(思潮社、2015年)、『あたしとあなた』(ナナロク社、2015年)、『いそっぷ詩』(小学館、2016年)、『バウムクーヘン』(ナナロク社、2018年)、『普通の人々』(スイッチ・パブリッシング、2019年)、『ベージュ』(新潮社、2020年)、『どこからか言葉が』(朝日新聞出版、2021年)、『虚空へ』(新潮社、2021年)。
 毎日それらの作品のうちのいくつかを谷川俊太郎自身の朗読で聴き、自分でも声に出して読んで味わっている。

 

ありがとうの深度

心ここにあらずで
ただ口だけ動かすありがとう
ただ筆だけ滑るありがとう
心得顔のありがとう

心の底からこんこんと
泉にように湧き出して
言葉にするのももどかしく
静かに溢れるありがとう

気持ちの深度はさまざまだが
ありがとうの一言に
ひとりひとりの心すら超えて
世界の微笑がひそんでいる


The Depths of “Thank You!”

“Thank you!” with no heart,
Just lips.
“Thank you!” just smoothly written.
“Thank you!” proudly expressed on a face.

“Thank you!” calmly overflowing,
welling up like a fountain
from the depths of the heart,
impatiently waiting for utterance.

Though the depths of feeling are different,
in this sound of “Thank you!”
the world’s smile is hidden,
transcending even each person’s heart.