明後日に迫った博論の口頭審査の講評と質問は一応仕上がった。あとは午後にパリに移動する明日に最終的な確認をするだけである。当日その場で講評および質問を読み上げている間や、審査対象の博論提出者からの応答に応じて付け加えることは出てくるだろうが、それらはそれこそその場になってみなければわからない。
私を含めて審査員は五人だが、審査開始直前に審査委員長を互選する。発言の順序は、審査委員長が最後と決まっている以外は、やはり審査直前に決められる。どうやって順番が決まるかというと、私のこれまでの経験からだと、その場の「阿吽の呼吸」である。
その順番によっては準備した原稿を修正する必要も出てくる。まったく同じ講評や質問というのは考えにくいが、自分より先に発言した審査員の講評や質問と自分のそれらとの間に重複があれば、それら重複部分は省略しなくてはならないからである。
審査員の顔ぶれからして、私はおそらくトップバッターかニ番目だろう。重複をまったく気にする必要がないトップバッターを期待している。
講評および質疑応答は一人当たり20~30分くらいが目安だが、トップバッターだと短くても長くてもよいという気楽さもある。というのも、度外れに長いのはさすがに慎むべきだが、多少長めでも、逆に短めでも、審査時間全体が予定された時間枠に収まるようにする調整はニ番目以降の審査員と特にトリをつとめる審査委員長に任せればよいからである。
今回、仕上げに時間がかかったヘーゲルとその同時代のドイツロマン主義との関係についての質問の準備のために文献調査をしているとき、電子書籍版や PDF・WORD 版が使える文献はほんとうに時間の節約に多大な貢献をしてくれた。
例えば、昨年邦訳が出た Philippe Lacoue-Labarthe / Jean-Luc Nancy, L’absolu littéraire. Théorie de la littérature du romantisme allemand, Éditions du Seuil, « Poétique » の原本は留学してすぐに購入した1978年刊行の初版が手元にあるのだが、その索引は実に「大雑把」(失礼!)で、あまり使いものにならない。驚いたことに、ヘーゲルは立項されてさえいないのである。
そこで、電子書籍版を購入して、Hegel を検索したところ45箇所ヒットした。実際、それらの箇所の中には、案の定、ヘーゲルとドイツロマン主義との間の微妙な関係に関する重要な指摘がいくつもあった。そこから今回の審査に必要な箇所をコピーするのに(そう、書き写す手間さえいらない)ものの数分もあればよかった。
もし本文が400頁を超える紙の原本でヘーゲルへの言及箇所を探すとなれば、少なく見積もって数日はかかるであろうし(そんな時間は、ナイ)、見落としも避けがたいであろう。
ただ、キンドル版には一つ大きな難点がある。最近気づいたのだが、検索を掛けた語の直後に注番号が振られていると、検索から漏れてしまうのである。これは注番号も含めて一語と認識されてしまうためである。その注番号をあらかじめ知ることはできないから、これが原因の検索漏れを探すとなれば、すべての注を確認しなければならない。注が多数付されている書籍の場合、これは一仕事になってしまう。ぜひ改善を望みたいところである。
ついでに言えば、その他にも検索漏れが発生する場合があるのだが、その原因はまだよくわからない。
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