しかし毎日まいにち暑い。日々今年の最高気温を更新しているのだとか・・・。
そんなある日、ふと空を見上げた俺は、ぎらぎら照りつける太陽に一瞬、目が眩んだ。
一瞬、何かが逆転したような感じのあと、気が付くと、俺はどこかの家の前にいた。
その家からは、何か懐かしい、囲炉裏の炎と煙の香りが漂ってきた。何がなんだか分からず、おそるおそる、その煙に招かれるように家に入っていった。
しかしそこには誰もいなかった。しかし、ここが現代の世界とは違うことだけは確かなようだ。
不思議に思いながら、外へ出ると、またあたりが変わって、こんどはある古風な家の前に立っていた。
家の中からピアノの流麗な音が洩れている。その音の主を捜そうと家の中に入っていく。
「ここは、どこなんですか」
洋間の奥にあるピアノを弾いていた若い女性に、俺はおそるおそる聞いてみた。すると、女性はフフフッ、と笑い、
「あなたは、どこからきたのかわからないのね」とだけ答え、フフとすこし笑ったあと、彼女はまたピアノを弾きはじめた。顔は見せてはくれなかった。
納得いかないまま、俺はその家をでた。
森と緑と、蝉の声と、古風な建物が続く道を、額から吹き出る汗をおさえつつ、なにか手がかりがないか歩いていると、やがて街に出てきた。
街のいきどまりに、懐かしい銭湯がみえた。
小さい頃、祖母の家に遊びに行くと、必ずと言っていいほど連れていってもらった銭湯。今も憶えている。
汗もかいていたし、すでに今とは違う、どこか懐かしい雰囲気が気に入った俺は、陽気な鼻歌とカランをころがす音が鳴り響く中にとびこんでいた。
さっぱりした気分で、サイダーをついでに買ってでてきた。
ふたたび古い写真のような街を闊歩していた俺は、あの女性のことばをふと思い出した。
俺はどこから来て、どこへ行くべきだろう?どこへ帰るべきだろう??
けんぱっ、けんけんぱっ・・・
といつしか懐かしい遊びも思いだし、ふたたび手がかりを探すために、街のはずれにある交番で尋ねてみることにした。そこにはいかつい憲兵がいた。
「貴様、自分が何者か分からないとな?」そういうと彼は大声で高らかに笑いはじめた。その態度にちょっとだけ頭来た俺は、本当に困っているんです、と照りつける太陽のごとく、彼の胸ぐらをつかみかかろうとしていた。
しかし彼は屈強な男で、簡単に俺を突き放した。
「あいや、すまんかった。ここは、そもそもそなたの作り出した世界なのじゃ。しかるに、そなたが何者かも、どこへ行くべきかも、本当はわかっておろうに」
まだ分からない様子だった俺に、憲兵はたたみかけた。
「見よ、あそこの市電を。あれに乗れば、そなたが帰るべき世界に帰れる筈じゃ。終車じゃから、走れば間に合うかもしれないぞ」
それを聞いて、俺はまっすぐ、市電の待つ停留所へ走った。「待ってくれーーー!」
しかしそこでまた視界が歪みはじめた・・・。
「待ってくれ!」
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今回の内容は、97%フィクションでございます。あとの3%は「フフフ・・・」でございます(^^;
ちなみに、ロケ地はここでございました。なかなか楽しかったっす。