けっこう突っ込みどころ満載だが、細かいことを抜きにして、全体としては雰囲気の良い作品だ。主人公は私とほぼ同世代。親の介護という事情が無いとしても、自分の人生の着地をどうするか、自然に考えてしまう年頃だ。あくまでスポンサーあっての映画なので、そこは希望の持てる話に仕上げる必要があることは理解できるし、実際にそういう作品になっている。気分良く観終わることができるのだが、観終わって考え始めると、やっぱり違うんじゃないかとの違和感が湧き上がってきてしまう。
百歩譲って、自分が好きなことを仕事にして、家族からの支持も得るとする。しかし、50歳目前で電車の運転手になったとして、定年まで10年か、せいぜい15年だ。運転手に応募するに際して辞めた前の職場では、早期退職優遇制度を利用したので退職金の加算があり、それで住宅ローンの返済は終わったとする。妻も働き、子供も大学を卒業して就職するので、経済的にはさし当たって問題はない。しかし、勤続10年や15年では運転手を辞めたときの退職金はそれほど期待できるものではないだろう。妻の仕事はハーブティー・カフェの経営で、しかも店舗は賃貸のようなので固定費を考えるとそれほど儲かるものでもあるまい。子供は新卒で、勤続10年程度では自分のことで精一杯程度の所得だろう。とすると、運転手を定年退職した後はどうなるだろう。
結局、メーカー勤務から鉄道会社勤務に変ったというだけで、組織依存型の生活であることには変わりはない。勤め人として働くことのできる最後の10年かそこらを好きなことに打ち込むというのも悪くはないだろうが、それで終わればその先が無い。映画のなかでは主人公は実家のある松江で暮らすことになっていて、実家もあれば、自給自足の真似事くらいはできそうな農地もあり、何よりも地縁に恵まれている。一応の設定としては無理がないように見える。しかし、妻のほうも東京で事業を始めたばかりで、ようやく軌道に乗りかかっているような雰囲気だ。それまですれ違いを重ねてきて生じていた所謂「夫婦の危機」を乗り越えたものの、この先も平穏に東京と松江の二重生活が続くわけではあるまい。明るく描かれている物語なのだが、どこかすっきりとしないのは、登場人物の根本的な課題が残されたままになっているからなのだろう。
観終わったときには希望があっても、いざ考え始めると課題が次々に浮かんできて暗澹たる思いに変わってくる。そういう面白さのある作品だ。
百歩譲って、自分が好きなことを仕事にして、家族からの支持も得るとする。しかし、50歳目前で電車の運転手になったとして、定年まで10年か、せいぜい15年だ。運転手に応募するに際して辞めた前の職場では、早期退職優遇制度を利用したので退職金の加算があり、それで住宅ローンの返済は終わったとする。妻も働き、子供も大学を卒業して就職するので、経済的にはさし当たって問題はない。しかし、勤続10年や15年では運転手を辞めたときの退職金はそれほど期待できるものではないだろう。妻の仕事はハーブティー・カフェの経営で、しかも店舗は賃貸のようなので固定費を考えるとそれほど儲かるものでもあるまい。子供は新卒で、勤続10年程度では自分のことで精一杯程度の所得だろう。とすると、運転手を定年退職した後はどうなるだろう。
結局、メーカー勤務から鉄道会社勤務に変ったというだけで、組織依存型の生活であることには変わりはない。勤め人として働くことのできる最後の10年かそこらを好きなことに打ち込むというのも悪くはないだろうが、それで終わればその先が無い。映画のなかでは主人公は実家のある松江で暮らすことになっていて、実家もあれば、自給自足の真似事くらいはできそうな農地もあり、何よりも地縁に恵まれている。一応の設定としては無理がないように見える。しかし、妻のほうも東京で事業を始めたばかりで、ようやく軌道に乗りかかっているような雰囲気だ。それまですれ違いを重ねてきて生じていた所謂「夫婦の危機」を乗り越えたものの、この先も平穏に東京と松江の二重生活が続くわけではあるまい。明るく描かれている物語なのだが、どこかすっきりとしないのは、登場人物の根本的な課題が残されたままになっているからなのだろう。
観終わったときには希望があっても、いざ考え始めると課題が次々に浮かんできて暗澹たる思いに変わってくる。そういう面白さのある作品だ。