豊田市美術館で開かれている「クリムト展~ウイーンと日本1900」を見てきました。
金箔を使った女性像など「黄金様式画家」として知られ、19世紀末のウイーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862~1918)の没後100年の記念展。作品に添付された平易なコメントや事前のトークに参加したこともあって、収穫の多い鑑賞になりました。
今回のクリムト展は朝日新聞社などが主催。日本では過去最多のクリムト作品が展示され、すでに終わった東京都美術館と現在催されている豊田市美術館での開催です。
また豊田市美術館は、名古屋の愛知県美術館などで開催される「あいちトリエンナーレ2019」(8月1日~10月14日)の会場でもあり、クリムト展もトリエンナーレに連動した企画。クリムト展を一足先に開いており、閉幕はトリエンナーレと同じ10月14日です。
展示されているのは全部で120点。うちクリムト自身の油彩画は日本でのクリムト展では最多の25点以上。
クリムトの代表作とされる金箔で装飾した女性像「ユディトI」、豊田市美術館が所蔵する「オイゲニア・プリマフェージの肖像」、愛知県美術館所蔵の「人生は戦いなり(黄金の騎士)」などが並んでいます。
さらに鉛筆やカラーリトグラフ、黒チョーク、パステルなどによるクリムト作品が15点ほど。
他にクリムトの弟や工房の仲間、35歳の時にウイーンの保守的な画家たちに反発したいわゆる分離派の作家らの作品が並んでいます。
会場を一巡して、クリムトに対する僕の認識は一変しました。
クリムトは「キンキンキラキラの金箔で、女性の裸体を官能的でエロチックに描いた」「生涯独身だったとはいえ10数人の女性と関係を持つドンファンだった」などのイメージが先行して、画家クリムトの絵画に取り組む姿勢や生き様をほとんど知らなかったからです。
①クリムトもモネやゴッホと同様に、浮世絵や東洋の陶磁器などに強い関心を持ちモチーフとして使っていたこと。豊田市美術館所蔵の「オイゲニア・プリマフェージの肖像」には日本の工芸品を描き入れ、性愛画には日本の春画を積極的に取り入れたことがうかがえます。
市松模様や銀色の点々を描き入れた表現も日本の影響でしょう。「赤子(ゆりかご)と題する作品の赤ちゃんをくるむ色とりどりの布は、日本の着物の端切れのように思えました。
②女性だけでなく男性の肖像画も描いていたこと。仲間と運営する工房を維持するためにも受注に力を入れていたのでしょう。
③風景画も描いていたこと。雨の後の庭の風景や家畜小屋の牛たちを力強く描いた絵が展示されています。
④生と死に対する強い関心。生後間もなく亡くなった息子の肖像画や死の床にある老人を描いた絵、医学のための習作といった作品もありました。
幼い女の子と母、年老いた老女を描いた「女の三世代」と題する絵はクリムトの「生命の円環」を端的に表現した傑作でしょう。
もう一つ、鑑賞する前に聞いた西田兼・島根大学准教授のトークで知ったことですが、クリムトは絵画に入る前に手掛けた彫刻や装飾を通して古代の陶器などに描かれた絵や模様を研究、それを絵画の中の脇役として描き入れることで絵の持つ寓意性を高めていること。
チケットにもなっている絵「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」に蛇が描かれている意味も理解できました。
鑑賞に出かけた日は朝から台風6号による荒れた天気でしたが「来てよかったな」の思いで帰途につくことができました。
※掲載した絵の写真は展覧会のパンフのものです