『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』36

2022-10-03 08:55:13 | 創作

 

* 36 *

 昨日の寝る前の「私」と起きた後の「私」は明らかに別人ですし、去年の「私」と今年の「私」も別人のはずです。

 しかし、朝起きるたびに、生まれ変わった、という実感は湧きません。

 これは脳の働きによるものです。

                                  養老 孟司

 

 *

 父の名をかざした対AI棋戦の『永世八冠記念杯』は、全将棋ファンばかりでなく、野次馬根性のマスコミまで巻き込んで、列島の注目を浴びた。

 そこで、人々が目撃したのは、これまでの将棋の定石から外れた唖然とする妙手の複雑な組み合わせであった。 

 プロ棋士はもとより、将棋通もアタマをひねる超難解さで、棋界史上すべての棋譜を読み込んだディープ・ラーニング済みのマシンでさえも、あまりの複雑怪奇な「新手順」に翻弄され、明らかな「悪手」のスパイラルに墜ち込んだ。

 そうして、あっけなく、「ソータ&カナリ」組にねじ伏せられて連敗したのであった。

 それは、あたかも、二次元の将棋世界という「迷路」を、三次元の上空からバーズアイですべてを見透かしているかのような指しまわしだった。

 世間は、改めて、「ソータ&カナリ」の天才師弟、天才親子の将棋に舌を巻いた。

 十社以上のスポンサーがついたエキシビション・マッチだったので、勝者側は賞金の3千万を獲得した。

 世界最強のソフトを作り上げたプログラマーは、【超 人】の持つ無限の「潜在力」に打ちのめされて声もなかった。

 

「お母さん。

 ボーナス入ったから、みんなで温泉にでも行きましょうよ」

 と、カナリは今や娘のマネージャーとなった愛菜に言った。

「そうね・・・。

 お父さんとは、そんなノンビリ旅行したこともなかったものね・・・。

 じゃ、いい処、探してみるね・・・」

 と、言って、ソータが遺したモンスター・マシンで検索を始めた。

 カナリが自室で研究に励んでいると、妹と弟ふたりが珍しく揃ってやってきた。

「今、いい・・・?」

 と遠慮がちに聡美が尋ねると

「どうぞ、どうぞ!」

 と姉は嬉しそうに二人を歓待した。

 見ると、聡美はスナックの袋を、竜馬は飲み物のペットボトルを3本携えていた。

「なーに。小学生がお姉ちゃんと酒盛りでもしようっていうの?」

「ううん。

 こないだのプレゼントのほんのお返しです(笑)」

 と竜馬が言った。

 カナリが臨時収入から、聡美には欲しがってたアニメのボックスセットを、竜馬にはマウンテンバイクを買ってあげたのだった。

「あーら、義理堅いのねぇ。ふたりとも・・・」

「いつも、お世話になってますから・・・」

 と、竜馬が笑いながら言った。

 そして、聡美も

「なんたって、お姉ちゃんは、うちの大黒柱だもんね・・・(笑)」

「そっかぁ・・・。あたしって、柱だったんだぁ・・・。

 でも、人柱よりも、いっかぁ・・・(笑)」

 と言うと、三人とも、グヒヒヒ・・・と、お父さんそっくりの笑い方をした。

「八冠」制覇を為し遂げたカナリは、父と同じく4億円超えプレイヤーとなった。

 そして、マネージャーの愛菜の元には、数社からのCMオファーも来ていた。

 

       
      「わたしも、AMDのライゼンを使っています・・・」

 


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