[12月30日04:30.天候:晴 東京中央学園上野高校・体育館]
夏ならば夜も白み始める頃、未だに闇に包まれた学校。
そんな漆黒の闇を体現するかのようなローブを身にまとった死神が現れた。
身の丈は3mほどあり、両手にはこれまたその体のサイズに合う大きな鎌を持っている。
キノ:「オメェがラスボスか!?江蓮を解放しろと言いてぇところだが、素直に返すガラじゃねぇな。後でブッ飛ばしてやるから、その前にどうして江蓮をさらったか話してもらおうか?」
死神:「ウウ……!」
死神は答える気が無いようだ。
大きな鎌をゆっくりと持ち上げ、キノの頭上に振り落した。
キノ:「おっと!」
キノがいた所に鎌が突き刺さる。
キノは軽い身のこなしで、鎌を避けた。
死神は再び鎌を振り上げる。
だが、とても俊敏な動きとはお世辞にも言い難い。
鎌を持ち上げる時も、フラフラと重い鎌に振り回されているようだ。
キノ:「でやぁーっ!」
キノは踏み込んで、死神の上半身と下半身を真っ二つにするかのように斬り込んだ。
妖刀が青白く光る。
確かに妖刀は、死神の体を斬り裂いた。
……はずだった。
稲生:「!?」
鎌がドンと床に落ち、上半身と下半身が真っ二つになった死神は下半身を床に横たえ、上半身はゆーらゆーらと宙に漂った。
だが、少しすると下半身が起き上がり、上半身が吸い寄せられるように下半身と融合した。
そして鎌を拾い上げ、何事も無かったかのように再び鎌を振り上げた。
キノ:「ちっ!首を取らねぇとダメか!」
死神の動きには無駄な物が多い。
重い鎌に自分が振り回されている。
キノが俊敏な動きをするので、死神は狙いを定められない。
だからなのか、今度は稲生に狙いを定めた。
稲生:「わああっ!」
稲生も逃げ回る。
だが、動きなどは普通の人間と大して変わらぬ稲生であっても、死神の動きを交わすことができた。
例えば、一瞬煙となって消え、逃げ回るキノ達に先回りをして攻撃する。
そんなことができても良さそうなのに、この死神はそれをしない。
できないのだろうか、或いはただ単に様子見をしているのか、もしくはナメて掛かっているだけか。
キノ:「うらぁーっ!!」
キノは体育館のステージに上ると、そこからジャンプして、死神の首を狙った。
確かにキノは死神の首を落とした。
だが、死神は首が無くても動けた。
まるで落としたボールを拾うかのように自分の頭を拾うと、それをトンと自分の首の上に乗せた。
そしてまた何事も無かったかのように、鎌を振り上げて襲って来るのだった。
キノ:「参ったな。どこを狙いやいいんだ?もしかして、こいつは偽者で、どこかに本体がいるって話じゃねーだろうな?」
稲生:「ええっ!?」
キノ:「ユタ、こいつはオレが相手にしている。オメェはどこかにいるかもしれねぇ本体を探せ」
稲生:「ちょ、ちょっと待って。今更、こんな広い校内を探すなんて……」
キノ:「馬鹿野郎!いつまでもこんなデカ物と遊んでる場合じゃねーだろ!」
稲生:「た、確かに……!」
稲生は体育館の外に出るべく、引き戸式の鉄扉に駆け寄った。
ところが、だ。
稲生:「あ、開かない!?」
キノ:「どうした、ユタ!?」
稲生:「鍵が開かないんだ!」
キノ:「はあ?内鍵だろ!?鍵を回せばいいだろうが!」
稲生:「回らないんだよ!どっちに回しても!」
キノ:「他のドア試してみろ!」
稲生は隣の鉄扉も、その隣の鉄扉も試してみた。
だが開かなかった。
キノ:「開錠の魔法は!?」
稲生:「僕はまだ使えない!」
キノ:「使えねーな!」
死神:「我ハ不死身ダ……!観念シテ、ココデ死ネ……!」
キノ:「喋れんのかよ!だったら、オメェは何でこんなことしてんのか答えやがれ!」
死神:「七不思議ヲ知ッタ者ニハ死ヲ!コレガ、昔カラノ理!!」
キノ:「訳の分かんねーことほざいてんじゃねぇ!」
稲生:(あれ?今の死神の言葉、どこかで聞いたような……?)
稲生は鏡に近づいた。
そこには江蓮とマリアが捕らえられている。
彼女らの助けを求める声は聞こえない。
江蓮は固唾を飲んで戦いを見守ってるようだったし、マリアは必死で稲生とコンタクトを取ろうとしていた。
稲生:「マリアさんが何かを伝えようとしている?」
完全に魔法もシャットアウトされているのだろう。
水晶球にもスマホにも、何の着信も無い。
マリアが口をパクパク動かしている。
稲生はマリアが英語で喋っていることに留意した。
稲生:「Aim at a sickle!?」
稲生がマリアの唇の動きを読み上げた。
その言葉に反応するかのように、死神は稲生に突っ込んで行く。
稲生:「うわああっ!?」
キノ:「ユタ!」
死神は鎌を前に突き出して、稲生の所に突進する。
稲生は急いで避けた。
だが、止まり切れなかった死神は鏡に激突する。
鏡の中から出て来たはずだが、何故か今度は激突した。
当然、鏡が粉々に割れる。
が、そのおかげで鏡の中に閉じ込められていた2人の女性が出て来た。
稲生:「マリアさん!」
キノ:「江蓮!」
そこで稲生、体勢を立て直す死神の動きを察知する。
稲生:「キノ!鎌だ!鎌を狙ってくれ!!」
キノ:「なにっ!?」
稲生:「よく分からないけど、マリアさんが言うには鎌を狙えってことだった!」
キノ:「あー、確かによく分かんねーな!だが、一応やってみるぜ!」
体勢を立て直した死神だったが、動きの俊敏なキノに鎌の刃を蹴られた。
その音は金属音ではあったが、鎌が赤茶色の光を一瞬放った。
死神がまたバランスを崩して倒れる。
キノ:「あぁっ!?効いてんのか!?」
今度は拳を作って刃を殴り付けた。
またもや、死神はガクッと膝をついた。
キノ:「死ねや、コラーッ!!」
キノは刀を抜いて、死神の刃に斬り付けた。
稲生:「効いてるぞ!」
キノ:「トドメだ!!」
キノが再び鎌の刃に刀を振り下ろした。
キノ:「あ゛っ!?」
キノは信じられないという顔をした。
……刀が折れた!
キノ:「か、完!w」
キノはあまりの運とタイミングの悪さに笑みを浮かべてしまうほどだった。
死神の鎌もだいぶズタボロになってはいるものの、まだ稲生達を攻撃できる力は残っているようだった。
キノ:「く、くそっ!鈍ら刀支給しやがって!!」
閻魔庁からの官給品らしい。
死神は空洞になっているはずの両目を光らせて、倒れている女性達に向かって鎌を振り上げた。
キノもまた絶望に駆られて、動けなくなっている。
稲生:「う……うわあああああっ!!」
稲生は叫びながら、自分の魔法の杖を思いっ切り死神に向かって投げた。
杖と言っても、警備員や警察官の警棒くらいの長さしか無い。
死神はそれを体で受け止めた。
普通は鎌で受け止めるだろうに、キノの刀といい、それをしなかったのは、偏に鎌が弱点だったからだ。
体に当たったのでは意味が無い。
……のだが、稲生の杖が青白く光った。
そしてそれが回転しながら死神の体から離れたと思うと、勢い良く鎌に当たった。
鎌は赤茶色の鋭い光を放って粉々に砕けた。
死神は、「うそォ!?こんなんアリか!?」といった表情をドクロの顔で表したかと思うと、そのまま床に崩れ落ち、2度と起き上がって来ることは無かった。
そしてシュウシュウという音と共に死神の体が煙と化し、その姿を完全に消した。
稲生:「終わった……」
キノ:「ふはっ!ふふ……ははははははははは……!とんでもねぇ……!とんでもねぇよ、ユタ……!イブキの気持ちが、ようやっと分かったぜ……。そりゃ、オメェに手出しできねぇってもんだ」
キノは床に仰向けになってそんなことを言い放った。
稲生:「それより、早いとこ2人を連れてここから出よう。早くしないと……」
マリア:「……体力回復薬がまだ残っている。それを使おう」
稲生達が現役生だった頃に塞いだはずの魔界の穴、それがどうしてまた開いたのか、現時点では分からない。
そして、あの死神が結局何だったのか、どうして現れたのかもまだ分からない。
ただ1つはっきり言えること、それは江蓮とマリアを救出できたことは1つの勝利と言えるだろうということだ。
夏ならば夜も白み始める頃、未だに闇に包まれた学校。
そんな漆黒の闇を体現するかのようなローブを身にまとった死神が現れた。
身の丈は3mほどあり、両手にはこれまたその体のサイズに合う大きな鎌を持っている。
キノ:「オメェがラスボスか!?江蓮を解放しろと言いてぇところだが、素直に返すガラじゃねぇな。後でブッ飛ばしてやるから、その前にどうして江蓮をさらったか話してもらおうか?」
死神:「ウウ……!」
死神は答える気が無いようだ。
大きな鎌をゆっくりと持ち上げ、キノの頭上に振り落した。
キノ:「おっと!」
キノがいた所に鎌が突き刺さる。
キノは軽い身のこなしで、鎌を避けた。
死神は再び鎌を振り上げる。
だが、とても俊敏な動きとはお世辞にも言い難い。
鎌を持ち上げる時も、フラフラと重い鎌に振り回されているようだ。
キノ:「でやぁーっ!」
キノは踏み込んで、死神の上半身と下半身を真っ二つにするかのように斬り込んだ。
妖刀が青白く光る。
確かに妖刀は、死神の体を斬り裂いた。
……はずだった。
稲生:「!?」
鎌がドンと床に落ち、上半身と下半身が真っ二つになった死神は下半身を床に横たえ、上半身はゆーらゆーらと宙に漂った。
だが、少しすると下半身が起き上がり、上半身が吸い寄せられるように下半身と融合した。
そして鎌を拾い上げ、何事も無かったかのように再び鎌を振り上げた。
キノ:「ちっ!首を取らねぇとダメか!」
死神の動きには無駄な物が多い。
重い鎌に自分が振り回されている。
キノが俊敏な動きをするので、死神は狙いを定められない。
だからなのか、今度は稲生に狙いを定めた。
稲生:「わああっ!」
稲生も逃げ回る。
だが、動きなどは普通の人間と大して変わらぬ稲生であっても、死神の動きを交わすことができた。
例えば、一瞬煙となって消え、逃げ回るキノ達に先回りをして攻撃する。
そんなことができても良さそうなのに、この死神はそれをしない。
できないのだろうか、或いはただ単に様子見をしているのか、もしくはナメて掛かっているだけか。
キノ:「うらぁーっ!!」
キノは体育館のステージに上ると、そこからジャンプして、死神の首を狙った。
確かにキノは死神の首を落とした。
だが、死神は首が無くても動けた。
まるで落としたボールを拾うかのように自分の頭を拾うと、それをトンと自分の首の上に乗せた。
そしてまた何事も無かったかのように、鎌を振り上げて襲って来るのだった。
キノ:「参ったな。どこを狙いやいいんだ?もしかして、こいつは偽者で、どこかに本体がいるって話じゃねーだろうな?」
稲生:「ええっ!?」
キノ:「ユタ、こいつはオレが相手にしている。オメェはどこかにいるかもしれねぇ本体を探せ」
稲生:「ちょ、ちょっと待って。今更、こんな広い校内を探すなんて……」
キノ:「馬鹿野郎!いつまでもこんなデカ物と遊んでる場合じゃねーだろ!」
稲生:「た、確かに……!」
稲生は体育館の外に出るべく、引き戸式の鉄扉に駆け寄った。
ところが、だ。
稲生:「あ、開かない!?」
キノ:「どうした、ユタ!?」
稲生:「鍵が開かないんだ!」
キノ:「はあ?内鍵だろ!?鍵を回せばいいだろうが!」
稲生:「回らないんだよ!どっちに回しても!」
キノ:「他のドア試してみろ!」
稲生は隣の鉄扉も、その隣の鉄扉も試してみた。
だが開かなかった。
キノ:「開錠の魔法は!?」
稲生:「僕はまだ使えない!」
キノ:「使えねーな!」
死神:「我ハ不死身ダ……!観念シテ、ココデ死ネ……!」
キノ:「喋れんのかよ!だったら、オメェは何でこんなことしてんのか答えやがれ!」
死神:「七不思議ヲ知ッタ者ニハ死ヲ!コレガ、昔カラノ理!!」
キノ:「訳の分かんねーことほざいてんじゃねぇ!」
稲生:(あれ?今の死神の言葉、どこかで聞いたような……?)
稲生は鏡に近づいた。
そこには江蓮とマリアが捕らえられている。
彼女らの助けを求める声は聞こえない。
江蓮は固唾を飲んで戦いを見守ってるようだったし、マリアは必死で稲生とコンタクトを取ろうとしていた。
稲生:「マリアさんが何かを伝えようとしている?」
完全に魔法もシャットアウトされているのだろう。
水晶球にもスマホにも、何の着信も無い。
マリアが口をパクパク動かしている。
稲生はマリアが英語で喋っていることに留意した。
稲生:「Aim at a sickle!?」
稲生がマリアの唇の動きを読み上げた。
その言葉に反応するかのように、死神は稲生に突っ込んで行く。
稲生:「うわああっ!?」
キノ:「ユタ!」
死神は鎌を前に突き出して、稲生の所に突進する。
稲生は急いで避けた。
だが、止まり切れなかった死神は鏡に激突する。
鏡の中から出て来たはずだが、何故か今度は激突した。
当然、鏡が粉々に割れる。
が、そのおかげで鏡の中に閉じ込められていた2人の女性が出て来た。
稲生:「マリアさん!」
キノ:「江蓮!」
そこで稲生、体勢を立て直す死神の動きを察知する。
稲生:「キノ!鎌だ!鎌を狙ってくれ!!」
キノ:「なにっ!?」
稲生:「よく分からないけど、マリアさんが言うには鎌を狙えってことだった!」
キノ:「あー、確かによく分かんねーな!だが、一応やってみるぜ!」
体勢を立て直した死神だったが、動きの俊敏なキノに鎌の刃を蹴られた。
その音は金属音ではあったが、鎌が赤茶色の光を一瞬放った。
死神がまたバランスを崩して倒れる。
キノ:「あぁっ!?効いてんのか!?」
今度は拳を作って刃を殴り付けた。
またもや、死神はガクッと膝をついた。
キノ:「死ねや、コラーッ!!」
キノは刀を抜いて、死神の刃に斬り付けた。
稲生:「効いてるぞ!」
キノ:「トドメだ!!」
キノが再び鎌の刃に刀を振り下ろした。
キノ:「あ゛っ!?」
キノは信じられないという顔をした。
……刀が折れた!
キノ:「か、完!w」
キノはあまりの運とタイミングの悪さに笑みを浮かべてしまうほどだった。
死神の鎌もだいぶズタボロになってはいるものの、まだ稲生達を攻撃できる力は残っているようだった。
キノ:「く、くそっ!鈍ら刀支給しやがって!!」
閻魔庁からの官給品らしい。
死神は空洞になっているはずの両目を光らせて、倒れている女性達に向かって鎌を振り上げた。
キノもまた絶望に駆られて、動けなくなっている。
稲生:「う……うわあああああっ!!」
稲生は叫びながら、自分の魔法の杖を思いっ切り死神に向かって投げた。
杖と言っても、警備員や警察官の警棒くらいの長さしか無い。
死神はそれを体で受け止めた。
普通は鎌で受け止めるだろうに、キノの刀といい、それをしなかったのは、偏に鎌が弱点だったからだ。
体に当たったのでは意味が無い。
……のだが、稲生の杖が青白く光った。
そしてそれが回転しながら死神の体から離れたと思うと、勢い良く鎌に当たった。
鎌は赤茶色の鋭い光を放って粉々に砕けた。
死神は、「うそォ!?こんなんアリか!?」といった表情をドクロの顔で表したかと思うと、そのまま床に崩れ落ち、2度と起き上がって来ることは無かった。
そしてシュウシュウという音と共に死神の体が煙と化し、その姿を完全に消した。
稲生:「終わった……」
キノ:「ふはっ!ふふ……ははははははははは……!とんでもねぇ……!とんでもねぇよ、ユタ……!イブキの気持ちが、ようやっと分かったぜ……。そりゃ、オメェに手出しできねぇってもんだ」
キノは床に仰向けになってそんなことを言い放った。
稲生:「それより、早いとこ2人を連れてここから出よう。早くしないと……」
マリア:「……体力回復薬がまだ残っている。それを使おう」
稲生達が現役生だった頃に塞いだはずの魔界の穴、それがどうしてまた開いたのか、現時点では分からない。
そして、あの死神が結局何だったのか、どうして現れたのかもまだ分からない。
ただ1つはっきり言えること、それは江蓮とマリアを救出できたことは1つの勝利と言えるだろうということだ。