[12月31日17:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”]
マリアは温泉から上がると、脱衣所の洗面台の前で髪を乾かしていた。
あえて入浴前に現れた幽霊の所を使っている。
地縛霊というのがいるが、どうもこのペンションに現れるのは地縛霊ではないらしい。
いや、このペンション内に括られていることは間違い無いだろうから、広義の意味では地縛霊になるのだろうが……。
マップ移動すると現れなくなるのが狭義の地縛霊なら、意味は違ってくる。
そして今は、マリアの前にはいないようだった。
その幽霊は今のところ、マリアには用が無いらしい。
だが、どこかで見られている気はした。
直接的に用は無いが、何らかの理由で監視対象とはなっているのだろう。
それは魔道師としての魔力だろうか。
だがこの魔力を妖怪などに狙われても、幽霊に狙われる理由にはならないのだが(霊能者の持つ力は魔力では無い)。
マリア:(よく分からないな。ある程度、何かの怨念は持っているようだ。ただ、それを私や勇太……引いては、ユウタの両親に向けるつもりはないらしい)
自分達に危害が及ばないなら放置OKが方針のイリーナ組である。
但し、それを解決してくれというオファーが出たら別だが。
もちろん、報酬は頂く。
勇太:「あ、マリアさん」
脱衣所の外に出ると、勇太が待っていた。
マリア:「あ、ゴメン。待たせた?」
勇太:「いえ、別に大丈夫ですよ」
マリアは白いブラウスの長袖を捲っていた。
さすがに風呂上がりで暑いというのがある。
本当はニットのベストも脱いでも良かったのだが、それだと下着が透けて見えてしまう恐れがあった為、躊躇した。
???:「マリア……?」
マリア:「!?」
マリアは地の底から聞こえてくる、自分を呼ぶような声がしたので振り向いた。
今、温泉には誰もいないはずだ。
もちろん、人の姿は無かった。
勇太:「何かあったんですか、マリアさん?」
マリア:「気のせいか……」
マリアは首を傾げた。
大浴場からロビーへ戻る途中には厨房やスタッフルーム、そしてオーナーの部屋のある廊下を通らなくてはならない。
厨房からは食欲をそそる良い香りが漂っていた。
勇太:「お、誰か来てる」
ロビーに戻ると、フロントから話し声が聞こえて来た。
複数の女性達のようだ。
今、到着した宿泊客だろうか。
???:「あっ!もしかして、稲生勇太君!?」
フロントにいた宿泊客は3人。
年代は勇太やマリアとあまり変わらない。
そのうちの1人が勇太を見て、パッと顔を明るくさせた。
勇太:「えーと……?」
勇太が記憶の糸を手繰り寄せる。
女友達の多くない勇太にとって、記憶のダウンロードは早目のはずだが……。
ナウ・ローディングの状態でいると、フロントにいた女性が助け船を出してくれた。
それは大森オーナーの妻で、雪子という。
オーナーの大森次郎は食事の支度中なので、その間は妻の雪子がフロント業務に当たるとのこと。
雪子:「高校生の頃、助けた女の子がいなかった?」
勇太:「高校の頃……?」
勇太はその時の記憶を辿ってみた。
東京中央学園の現役生として、威吹や新聞部のメンバー達と怪奇現象に立ち向かった記憶しか無いが……。
???:「埼玉の彩の国女子学園の島村真理愛だよ。忘れちゃった?」
勇太:「彩の国女子学園!?あの時か!」
勇太は思い出した。
東京中央学園新聞部の噂を聞きつけて、そこに除霊の依頼をしてきた女子高生達がいたのだ。
しょうがないので、女子バスケ部の交流試合の取材にかこつけて向かった。
ただ、場所が女子高である為、例え新聞部の取材であっても男子の入校は認められなかった。
女子部員だけで向かったのだが、とても苦戦した為、仕方なく威吹が対応した。
威吹は勇太の言う事しか聞かなかった為(逆に勇太の言う事なら何でも聞く)、勇太も行かざるを得なかった。
何とかバレずには済んだものの……。
島村:「化け物に捕まってて危うく死ぬ所だったのを助けてくれたんだよ」
勇太:「そう、だったっけ?」
確かにあの時、何人かの女子生徒が獲物として捕まっていたような気がする。
ただ当時の勇太は、いかに女子校への侵入がバレないか、威吹がいかに迅速にカタを付けてくれるか、そればかりを気にしていた。
なので、全員救出することはできたが、あとは逃げるようにして帰ったのである。
そんな記憶しかない。
島村:「ちゃんとした御礼を言えなくて……。あ、この友達2人も助けられたんだよ。こっちが本田倫、そっちが渋谷麻央」
島村が黒のロングなのに対し、本田はショートで眼鏡を掛けている。
渋谷はセミロングで茶色に染めていた。
本田:「あの時はありがとう」
渋谷:「ありがとう。逃げなくても上手く、私達から先生には誤魔化したのに……」
勇太:「さすがに女子校に男2人がこっそり入ったこと自体が犯罪みたいなものですから……。それに、活躍したのは僕じゃないですよ。威吹って、僕の友達です。キミ達も見ていたと思うけど、あの銀髪に着物を着て、刀を持っていたヤツね。僕はただ威吹を学校に連れて行って、化け物の居場所まで誘導しただけです」
島村:「でも、的確にアドバイスしてたじゃん!」
渋谷:「うん。それに、刀持った人が戦っている隙に私達を助けてくれた作戦は良かったと思うね」
本田:「化け物、すっかり刀の人に気を取られてたもんね!ナイス作戦だったよ!」
勇太がいきなりチヤホヤされたもので、蚊帳の外に追いやられたマリアだった。
マリア:「……勇太っ!」
勇太:「あっ、はいっ!」
マリア:「早く部屋に戻ろう!」
島村:「勇太君、この外人さんは?」
勇太:「えーと……何て説明したらいいのかな?……実は僕、大学出てから魔道……あ、いや、世界的に有名な占い師の先生の所に弟子入りすることになって、この人はマリアンナ・スカーレットさんって言って、その先生の弟子の先輩」
本田:「お〜、しまむーと同じ名前じゃん!」
渋谷:「いや、少し違うから。真理愛は真理愛。この人はマリアンナさん」
マリア:「マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ。イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の1番弟子」
本田:「イリーナ……?あっ、もしかして、ロシアのプーチン大統領の占いをした人!?」
マリア:「その通り」
島村:「じゃ、占ってください」
マリア:「で、何を?」
島村:「私と稲生勇太君との関係が上手く行くかどうか!」
マリアのこめかみにピシッと怒筋が浮かんだ。
渋谷:「あ、あのさ、そういうのはやめた方がいいと思うよ」
この3人の中では渋谷が1番クールで空気解読が上手いらしい。
マリア:「……最悪だという結果が出ている。あと、これからこのペンションで大きな災厄が訪れるということも。今のうちに去った方がいいだろう……!」
勇太:「ま、まあまあ。それより、皆はどうしてこのペンションに?」
勇太が話題を変えた。
島村:「このペンションのオーナー、私の親戚の叔父さんなの」
勇太:「そうだったんだ!」
本田:「そう。で、冬休みを利用して、しまむーの帰省にくっついてきたってわけ」
勇太:「帰省って、キミ達はいいの?」
本田:「私も麻央っちも実家暮らしだから、たまには年末年始、旅行先で過ごすのも悪くないかなーなんて思ったってわけ。ペンションなら客として泊まれば、しまむーの帰省の邪魔にもならないしぃ!」
本田はこの3人の中ではあっけらかんとしている。
いずれにせよ、ダンテ一門の魔女達にはいないタイプだろう。
勇太より2つ年下で、今は大学生とのこと。
確かに、勇太が高校3年生の頃の話だ。
勇太:「じゃあ僕達、ちょっと部屋に戻るから」
勇太は不機嫌な顔をしているマリアの背中を押しながら言った。
島村:「えっ、一緒の部屋!?」
勇太:「いや、もちろん別」
本田:「私達、209号室だから、いつでも遊びに来てね!」
勇太:「どうもどうも」
勇太はマリアの背中を押し、途中で手を引きながら階段を駆け登った。
マリアは温泉から上がると、脱衣所の洗面台の前で髪を乾かしていた。
あえて入浴前に現れた幽霊の所を使っている。
地縛霊というのがいるが、どうもこのペンションに現れるのは地縛霊ではないらしい。
いや、このペンション内に括られていることは間違い無いだろうから、広義の意味では地縛霊になるのだろうが……。
マップ移動すると現れなくなるのが狭義の地縛霊なら、意味は違ってくる。
そして今は、マリアの前にはいないようだった。
その幽霊は今のところ、マリアには用が無いらしい。
だが、どこかで見られている気はした。
直接的に用は無いが、何らかの理由で監視対象とはなっているのだろう。
それは魔道師としての魔力だろうか。
だがこの魔力を妖怪などに狙われても、幽霊に狙われる理由にはならないのだが(霊能者の持つ力は魔力では無い)。
マリア:(よく分からないな。ある程度、何かの怨念は持っているようだ。ただ、それを私や勇太……引いては、ユウタの両親に向けるつもりはないらしい)
自分達に危害が及ばないなら放置OKが方針のイリーナ組である。
但し、それを解決してくれというオファーが出たら別だが。
もちろん、報酬は頂く。
勇太:「あ、マリアさん」
脱衣所の外に出ると、勇太が待っていた。
マリア:「あ、ゴメン。待たせた?」
勇太:「いえ、別に大丈夫ですよ」
マリアは白いブラウスの長袖を捲っていた。
さすがに風呂上がりで暑いというのがある。
本当はニットのベストも脱いでも良かったのだが、それだと下着が透けて見えてしまう恐れがあった為、躊躇した。
???:「マリア……?」
マリア:「!?」
マリアは地の底から聞こえてくる、自分を呼ぶような声がしたので振り向いた。
今、温泉には誰もいないはずだ。
もちろん、人の姿は無かった。
勇太:「何かあったんですか、マリアさん?」
マリア:「気のせいか……」
マリアは首を傾げた。
大浴場からロビーへ戻る途中には厨房やスタッフルーム、そしてオーナーの部屋のある廊下を通らなくてはならない。
厨房からは食欲をそそる良い香りが漂っていた。
勇太:「お、誰か来てる」
ロビーに戻ると、フロントから話し声が聞こえて来た。
複数の女性達のようだ。
今、到着した宿泊客だろうか。
???:「あっ!もしかして、稲生勇太君!?」
フロントにいた宿泊客は3人。
年代は勇太やマリアとあまり変わらない。
そのうちの1人が勇太を見て、パッと顔を明るくさせた。
勇太:「えーと……?」
勇太が記憶の糸を手繰り寄せる。
女友達の多くない勇太にとって、記憶のダウンロードは早目のはずだが……。
ナウ・ローディングの状態でいると、フロントにいた女性が助け船を出してくれた。
それは大森オーナーの妻で、雪子という。
オーナーの大森次郎は食事の支度中なので、その間は妻の雪子がフロント業務に当たるとのこと。
雪子:「高校生の頃、助けた女の子がいなかった?」
勇太:「高校の頃……?」
勇太はその時の記憶を辿ってみた。
東京中央学園の現役生として、威吹や新聞部のメンバー達と怪奇現象に立ち向かった記憶しか無いが……。
???:「埼玉の彩の国女子学園の島村真理愛だよ。忘れちゃった?」
勇太:「彩の国女子学園!?あの時か!」
勇太は思い出した。
東京中央学園新聞部の噂を聞きつけて、そこに除霊の依頼をしてきた女子高生達がいたのだ。
しょうがないので、女子バスケ部の交流試合の取材にかこつけて向かった。
ただ、場所が女子高である為、例え新聞部の取材であっても男子の入校は認められなかった。
女子部員だけで向かったのだが、とても苦戦した為、仕方なく威吹が対応した。
威吹は勇太の言う事しか聞かなかった為(逆に勇太の言う事なら何でも聞く)、勇太も行かざるを得なかった。
何とかバレずには済んだものの……。
島村:「化け物に捕まってて危うく死ぬ所だったのを助けてくれたんだよ」
勇太:「そう、だったっけ?」
確かにあの時、何人かの女子生徒が獲物として捕まっていたような気がする。
ただ当時の勇太は、いかに女子校への侵入がバレないか、威吹がいかに迅速にカタを付けてくれるか、そればかりを気にしていた。
なので、全員救出することはできたが、あとは逃げるようにして帰ったのである。
そんな記憶しかない。
島村:「ちゃんとした御礼を言えなくて……。あ、この友達2人も助けられたんだよ。こっちが本田倫、そっちが渋谷麻央」
島村が黒のロングなのに対し、本田はショートで眼鏡を掛けている。
渋谷はセミロングで茶色に染めていた。
本田:「あの時はありがとう」
渋谷:「ありがとう。逃げなくても上手く、私達から先生には誤魔化したのに……」
勇太:「さすがに女子校に男2人がこっそり入ったこと自体が犯罪みたいなものですから……。それに、活躍したのは僕じゃないですよ。威吹って、僕の友達です。キミ達も見ていたと思うけど、あの銀髪に着物を着て、刀を持っていたヤツね。僕はただ威吹を学校に連れて行って、化け物の居場所まで誘導しただけです」
島村:「でも、的確にアドバイスしてたじゃん!」
渋谷:「うん。それに、刀持った人が戦っている隙に私達を助けてくれた作戦は良かったと思うね」
本田:「化け物、すっかり刀の人に気を取られてたもんね!ナイス作戦だったよ!」
勇太がいきなりチヤホヤされたもので、蚊帳の外に追いやられたマリアだった。
マリア:「……勇太っ!」
勇太:「あっ、はいっ!」
マリア:「早く部屋に戻ろう!」
島村:「勇太君、この外人さんは?」
勇太:「えーと……何て説明したらいいのかな?……実は僕、大学出てから魔道……あ、いや、世界的に有名な占い師の先生の所に弟子入りすることになって、この人はマリアンナ・スカーレットさんって言って、その先生の弟子の先輩」
本田:「お〜、しまむーと同じ名前じゃん!」
渋谷:「いや、少し違うから。真理愛は真理愛。この人はマリアンナさん」
マリア:「マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ。イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の1番弟子」
本田:「イリーナ……?あっ、もしかして、ロシアのプーチン大統領の占いをした人!?」
マリア:「その通り」
島村:「じゃ、占ってください」
マリア:「で、何を?」
島村:「私と稲生勇太君との関係が上手く行くかどうか!」
マリアのこめかみにピシッと怒筋が浮かんだ。
渋谷:「あ、あのさ、そういうのはやめた方がいいと思うよ」
この3人の中では渋谷が1番クールで空気解読が上手いらしい。
マリア:「……最悪だという結果が出ている。あと、これからこのペンションで大きな災厄が訪れるということも。今のうちに去った方がいいだろう……!」
勇太:「ま、まあまあ。それより、皆はどうしてこのペンションに?」
勇太が話題を変えた。
島村:「このペンションのオーナー、私の親戚の叔父さんなの」
勇太:「そうだったんだ!」
本田:「そう。で、冬休みを利用して、しまむーの帰省にくっついてきたってわけ」
勇太:「帰省って、キミ達はいいの?」
本田:「私も麻央っちも実家暮らしだから、たまには年末年始、旅行先で過ごすのも悪くないかなーなんて思ったってわけ。ペンションなら客として泊まれば、しまむーの帰省の邪魔にもならないしぃ!」
本田はこの3人の中ではあっけらかんとしている。
いずれにせよ、ダンテ一門の魔女達にはいないタイプだろう。
勇太より2つ年下で、今は大学生とのこと。
確かに、勇太が高校3年生の頃の話だ。
勇太:「じゃあ僕達、ちょっと部屋に戻るから」
勇太は不機嫌な顔をしているマリアの背中を押しながら言った。
島村:「えっ、一緒の部屋!?」
勇太:「いや、もちろん別」
本田:「私達、209号室だから、いつでも遊びに来てね!」
勇太:「どうもどうも」
勇太はマリアの背中を押し、途中で手を引きながら階段を駆け登った。