報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大宮旅情」

2017-01-27 21:08:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日21:34.天候:晴 東北新幹線“やまびこ”56号→JR大宮駅]

 夜の闇の中であっても、利根川のトラス橋を渡る様は何とか分かる。
 利根川を渡って埼玉県に入ると、すぐ左手にボウリングのピンのオブジェが乗っかった遊興施設が見える。
 ラウンドワン栗橋店である。
 それから列車は南下を続け、東北自動車道のオレンジ色の街灯がきれいに並ぶ上を通過する。
 少し経つと左手に上越新幹線(北陸新幹線)が合流してきて、更にその外側にニューシャトルが並行してくるようになると大宮駅は近い。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、長野新幹線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 勇太:「マリアさん、そろそろですね」
 マリア:「うん」

 マリアはボーッと外を眺めていたが、勇太に促されて脱いでいたローブを羽織った。
 その間に車掌の乗換案内放送が流れる。
 そろそろ上越新幹線や北陸新幹線は、最終列車に注意しなくてはならないようだ。
 川越線はほぼ20分に1本しか無いのはセオリー。
 新幹線から見れば、宇都宮線や湘南新宿ライン、他の鉄道会社はオミットされている。
 列車は段階的に速度を落とす。
 ATCブレーキによる原則に任せているようだ。
 運転士が手動でブレーキハンドルを操作するのは、時速30キロ以下になってからだという。
 大栄橋が見えて来た辺りで席を立つと、だいたいちょうど良い。

〔ドアが開きます〕

 列車がホームに止まってドアが開くと、大宮駅での下車がそこそこ多いのが分かる。
 勇太達もゴロゴロとキャリーバッグを引いて、エスカレーターに乗った。
 改札口に向かうまでの間、新幹線ホームからは大宮駅唯一の発車ベルが聞こえてくる(在来線でも回送電車のみベルが短く鳴る)。

 宗一郎:「何だか久しぶりに帰って来た気がするねぇ……」
 佳子:「そうねぇ」
 宗一郎:「荷物も多いし、家までタクシーで帰るか」
 勇太:「異議なーし」
 マリア:「異議ナシ、デス」

[同日21:55.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 宗一郎:「ああ、ここでいい」
 運転手:「よろしいですか?」

 稲生家の前にタクシーが止まる。
 宗一郎が料金を払っている間、勇太達は先に降りて、トランクに積んだ荷物を降ろしていた。

 勇太:「今度はアンナの嫌がらせは無いみたいですね」
 マリア:「あったら私が文句言うから心配しないで」

 アナスタシア組の末席に在籍しているアンナだが、アナスタシア組には珍しく、呪術を得意とする(アナスタシア組は攻撃魔法を得意とする武闘派である)。
 ミステリアスな雰囲気はアナスタシアによく似ていて、同じロシア人ということもあってか、末席とはいえ、除け者にはされていない。
 人間時代のトラウマか、嘘を付かれたり、チャラ男が嫌い。
 勇太は見た目も中身もチャラ男ではないが、アンナにしてみれば見た目で判断するわけにはいかないと、勇太を試したことがある。
 過去に起きた男女の痴情のもつれによって発生した流血の惨の話を勇太に聞かせ、又聞きの追体験のはずなのに、あたかも本当に体験しているかのように話の内容を侵食させるという変わった呪術である。
 話の内容は分岐していて、聞き手にどの選択肢を選ぶか決めさせるのだが、もし勇太がチャラ男が選ぶような選択肢を決めていたら、そのまま殺していたという。
 話の最後は女が男をメッタ刺しにして殺すという結末で、本来なら又聞き者には何のダメージも無いはずなのだが、気がついてみれば、話の中の男と同じ運命を辿るのだという。
 そんなアンナの表の顔は占い師。
 依頼者に様々な質問をして選択肢を選ばせ、その答えの内容によって未来を占うという比較的なオーソドックスなもの。
 しかし裏の顔は、女をヤリ捨てる男に流血の惨を味わわせる魔女である。
 人間時代、恐らく自分がそうされたのだろう。
 とにかく、勇太がそんな粛清対象の男ではないということが分かったアンナはそれ以上何もしてきていない。

 勇太:「マリアさんの荷物も少し重くなりましたねぇ……」
 マリア:「ちょっと色々と買い過ぎたかな……。やっぱり、後でエレーナに送ってもらおう。直接頼むと高いから、宅配便経由で」
 勇太:「あ、なるほど」

 勇太はマリアの荷物も一緒に家の中に運び込んだ。
 家の中も異常は無い。
 そんな勇太の後ろ姿を追いながら、マリアはある懸念をしていた。
 実際、既にリリアンヌがやってしまったのだが、段々と勇太が魔女達にモテだしたこと。
 メンヘラの多い魔女達にモテだすということは、逆に命に関わるということだ。
 最初は憎悪の対象にされて襲われることが多かったが、今度は逆に気に入られ過ぎて殺されそうになるという……。
 もちろん、内部にもマリアが特定の彼女ということになっているので、表向き一線を越えてくる者はいない。
 リリアンヌも表向きには、未成年にも関わらず飲酒してしまったが故の暴走ということになっている。
 こういう時、『魔女』ではないエレーナが中立的に入ってくれると助かるのだが、そのエレーナまで勇太にちょっかい出してくる始末だ。
 もちろん、半分冗談だというのは分かっているのだが……。

 勇太:「荷物は客間に置いておきますね」
 マリア:「ああ、ありがとう」

 マリアが寝泊まりしている部屋は、かつて妖狐の威吹が寝泊まりしていた部屋だ。
 畳敷きの部屋にカーペットを敷いて、その上に折り畳み式ベッドを使用している。
 威吹がほぼ専有していた頃はそのベッドではなく、直接布団を敷いていた。

 勇太:「お風呂はどうします?」
 マリア:「うーん……もう温泉に入ったからなぁ……。あ、そうだ。2階のシャワー使わせて」
 勇太:「2階の、ですか?」
 マリア:「そう!」
 勇太:「い、いいですよ」

 勇太が困惑したのは、そのシャワールームは洗面台があったスペースを改築したものだ。
 何故そうなったのかは割愛するが、まあ、威吹が居候していた頃は、他の妖怪からの襲撃がちょくちょくあった。
 その対策の1つとして、そうなったのである。
 東京中央学園の魔界の穴対策を始めたのも、学校で勇太の霊力に目を付けた妖怪が家にまで付いてきたからだ。
 威吹が睨みを効かせて追い払ったものの、それでもそこや他の場所からのちょっかいは絶えなかった。
 そこで威吹としても妖狐の威光を復活させる為、勇太と協力して魔界の穴からやってくる妖怪達を排除することになったのである。
 稲生家で行った当時の妖怪対策の名残が、まだ一部に残っている。
 勇太の部屋の前にシャワールームがあるのだが、脱衣所は無い(すぐ隣はトイレ)。
 勇太が使用していた頃は、部屋からタオルだけ持って出入りしていた。

 マリア:「服はトイレで脱ぐからいいだろう?」
 稲生:「え、ええ」

 それでもトイレからシャワーまでの一瞬の間、真っ裸の状態になるのは避けられない。
 マリアは客間で持ってきたパジャマに着替えると、2階のシャワールームに向かった。

 佳子:「マリアちゃん」

 2階への階段を上がる時、勇太の母親の佳子に呼び止められる。

 佳子:「お風呂なら、向こうのを使ったら?」
 マリア:「Ah... 温泉ニ入ッタノデ、少シダケシャワーニシヨウカト……。勇太君モ、使ッテイイトイウコトデシタノデ……」
 佳子:「全く。あのコは何を考えてるのかしら。まあ、どっちでも好きな方使っていいわ。それより明日、洗濯機回すから、服とか洗濯したいものは出しておいて。もうしばらくここにいるんでしょ?」
 マリア:「4日ノ夜ニ出マス」
 佳子:「それなら明日、洗濯するから」
 マリア:「アリガトウゴザイマス」

 マリアは礼を言って、階段を上がった。

 マリア:(そういえば、替えの下着があと1着しか無かったんだっけ。助かった……)

 マリアはホッとして2階への階段を登った。
コメント
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