報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「最初の犠牲者」

2017-01-16 19:23:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日20:15.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”2F 客室フロア]

 勇太は部屋に戻ると、部屋のカーテンを閉めた。
 幸い、窓の外から幽霊が覗き込んでくるようなことは無かった。
 準備と言っても、勇太の場合はいつもの服の上からローブを着込んで、魔法の杖を用意すれば良い。
 杖は普段は収縮しており、腰のベルトに吊るせるようになっている。

 勇太:「よし。これでいいな」

 勇太が洗面台の鏡で身だしなみを確認していると、部屋が急に明るくなった。
 そう、停電が復旧したのだ。

 勇太:「何だ。大したことは無かったんだ……」

 勇太が安堵の独り言を呟いている時だった。

 ガッシャーン!

 勇太:「!?」

 どこからか、ガラスの割れる音が聞こえて来た。
 少なくとも、この部屋ではない。
 ということは……?
 勇太は魔法の杖を持って、部屋の外に飛び出した。

 宗一郎:「一体、何事だね!?せっかく、停電が復旧したというのに……!」

 近くの部屋のドアから顔を出す宗一郎。

 元木:「この部屋から聞こえたよ!」

 元木も部屋から飛び出してきた。
 元木が指さした部屋にいるのは……。

 勇太:「あのスーツの人か!」

 階段の下から大森が駆け登って来た。

 大森:「何かありましたか!?」
 元木:「この部屋からガラスの割れる音がしたんですよ!」

 大森はその部屋のドアをノックした。

 大森:「鈴木様!鈴木様!何かありましたか!?」

 しかし、中からは何の応答も無い。

 大森:「鈴木様!?」
 元木:「オーナー、マスターキーは?それで開けてみましょう!」
 大森:「しかし……」
 宗一郎:「少なくとも、この部屋の窓ガラスが割れたんだとしたら異常じゃないか」
 元木:「オーナー、稲生専務の仰る通りです。開けてみましょ……」

 元木が言い終わろうとした時だった。
 中から男の叫び声がしたのだ。
 それは、断末魔のようにも聞こえた。
 女子大生の本田と渋谷は、びっくりして2人して抱き合ったくらいだ。

 マリア:「凄い霊気だ!」

 マリアが水晶球を片手に部屋の前に立ち尽くした。
 水晶球が赤い光を鈍く点滅させている。

 小久保:「オーナー、マスターキーっス!」
 大森:「早く開けろ!」
 小久保:「はいっス!」

 小久保は急いで鈴木の部屋を開錠した。

 マリア:「待ッテクダサーイ!マダ中ニ悪霊ガイルカモシレナイデス!」
 大森:「バカなこと言わないでください!」

 大森は急いで鈴木の部屋のドアを開けた。

 大森:「失礼します!鈴木様!大丈夫ですか!?」

 ドアを開けると、一陣の風が廊下を吹き抜けて行った。
 確かに、鈴木の部屋の窓ガラスが割れていた。
 そこから吹き込む吹雪がとても寒い。
 加えて、この部屋の装飾はとてもおかしかった。
 まるで赤いペンキをぶちまけたように……って、それは装飾ではない。

 勇太:「血だ……!」
 マリア:「!!!」

 201号室は凄惨なことになっていた。
 室内のあっちこっちに鈴木のバラバラ死体が散乱していた。

 大森:「こ、小久保君!警察だ!警察を呼べ!お、お客様が殺されたと……!」
 小久保:「は、はいっ!」
 大森:「早くここから出てください!この部屋は立入禁止にします!」
 マリア:「……!!」

 マリアはグラッと目まいのようなものを起こすと、水晶球を落としてしまった。
 ゴンッと床から鈍い音がする。
 水晶球はもう赤い光は放っていないものの、今度は黄色い光を点滅させていた。
 これは『注意』を意味する。
 さっきの赤い光が『要警戒』だから、少し幽霊は離れたのか。

 勇太:「大丈夫ですか、マリアさん?」
 マリア:「久しぶりにグロテスクなもの見た……。勇太は平気なのか?」
 勇太:「グロテスク過ぎて、却って麻痺したのかもしれません。火サスですら、全身死体は出てきても、バラバラ死体は出てきませんから」

 部屋の外に出た。

 大森:「皆さん、停電が復旧したのにあいにくですが、警察が来るまで1階ロビーで待っていて頂けませんか?」
 宗一郎:「うむ。その方がいいだろう」

 宗一郎は大きく頷いた。

 マリア:「私がただの人間だった頃、行った復讐劇で……首を刎ねられたヤツがいて、それを見た以来かな……ふふふ……」
 勇太:「マリアさん……。あれ?島村さんは?」
 本田:「しまむーなら、さっきトイレに行ってたけど……」
 渋谷:「ちょっと様子見て来るか」

 本田と渋谷は1度自分の部屋に戻り、残りの宿泊客は1階ロビーに向かった。

 小久保:「オーナー、大変っス!」
 大森:「何だ?」
 小久保:「電話が通じないんス!」
 大森:「ウソだろ?」
 小久保:「マジっスよ!」

 大森はフロントの上にある固定電話を取った。

 大森:「う、本当だ……」
 小久保:「でしょ?でしょ?」
 元木:「停電は復旧したのに、おかしいですね」

 電話線の先を見ると、それは繋がっていた。

 勇太:「あれ!?僕のスマホも電波が入らない!」
 宗一郎:「私のもだ!一体どうなってる!?」

 マリアの水晶球が再び赤く光る。
 電話の方に向けると、尚一層強く光った。

 マリア:「ちょっと貸して!
 小久保:「あっ……!」

 マリアは小久保から電話の受話器を奪い取った。
 それを耳に当てる。

 マリア:「悪霊め!フザけるなよ!一体、何が目的だ!?

 マリアは英語で電話線の向こうに問い詰めた。
 しかし、何の応答も無い。

 マリア:「私はダンテ門流イリーナ組のロー・マスター、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ!悪霊め、そこにいるのは分かってる!いい加減に応答しろ!

 すると電話の向こうから、何か声が聞こえて来た。

 ???:「マリア……!」
 マリア:「お前は誰だ?ペンションの宿泊客を殺して、何が目的だ?答えないと滅するが良いか?
 ???:「違う……!」
 マリア:「違う?何が違う?答えろ
 ???:「お前は……マリアじゃない……。私の……マリア……」

 これ以上の話は不可能と分かったマリアは電話の受話器を切った。

 大森:「マリア……さん?何かありましたか?」
 マリア:「オーナー、このペンションに『マリア』に纏わるものは無いですか?
 大森:「えっと……?」
 勇太:「ああ、僕が訳します!このペンションに、『マリア』と名の付くものは無いですか?だそうです」
 大森:「いや、特に無いですね。私達夫婦も小久保君も篠原さんも、別にクリスチャンってわけではないですし……」
 勇太:「マリアさん、島村さんのことじゃないですか?島村さんの下の名前、真理愛ですよ?」
 元木:「あれ?そういえばあのコ達、下りて来ないな?どうしたんだろう?」

 大森は電話の受話器を取った。
 外線は相変わらずダメだが、内線なら通じる。
 だが……。

 大森:「おかしいな?呼び出し音は鳴っているのに、誰も出ないぞ?」
 小久保:「ま、まさか、鈴木さんを殺したヤツに……?」
 大森:「バカなことを言うんじゃない!きっとまたテレビに夢中になっているんだろう。或いは、部屋に籠もることが安全だと思っているのか……。とにかく、ここに来てもらうんだ。小久保君」
 小久保:「お、俺っスか?」
 勇太:「僕も一緒に行きましょうか?」
 小久保:「よ、よろしくっス!」
 篠原:「度胸無いなぁ……」

 篠原は宿泊客にコーヒーを入れながら言った。
 この時はまだ、例え凄惨で不可解とはいえ、何だか得体の知れない怪しい男が殺されたというだけで、どこか他人事でいられたのかもしれない。
 小久保と勇太が階段を上って、209号室に向かう。

 宗一郎:「ダメだ。ネット回線に繋いでも、メールとかが送れなくなっている。これでは警察に通報できないぞ!」
 マリア:(ここまでの徹底ぶり……。私達が外部と連絡を取れなくなるようにしている。これは一体、何を意味してる?)

 相変わらず、水晶球は黄色い光と赤い光を繰り返していた。
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“大魔道師の弟子” 「停電」

2017-01-16 10:06:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日19:45.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”1F・ロビー]

 突然ペンション内に襲って来た闇。
 それは停電に他ならなかった。

 宗一郎:「な、何事だね、これは!?」
 佳子:「あなた!」
 大森:「皆さん、落ち着いてください。今、懐中電灯を持って来ます。この場から動かないでください」

 大森が手探りの状態で奥へ向かった。

 マリア:「勇太、油断しないでよ?闇に乗じて襲って来る恐れがあるから!
 勇太:「分かってます!
 宗一郎:「何の話だね?」

 魔道師2人が臨戦態勢に入ろうとしているのを、宗一郎は見とがめるように言った。
 しかし、光は階段の上からやってくる。

 島村:「ちょっとォ!何があったの!?」
 本田:「マジ、停電って……最悪なんスけど」
 渋谷:「取りあえず、1階に避難しよう」

 客室でテレビの年末特番を観ていた女子大生3人組だった。
 1つの懐中電灯の明かりを頼りに、階段を下りてくる。
 どうやら客室内に、停電用の懐中電灯が備え付けられているらしい。

 小久保:「お待たせしましたーっ!」

 小久保が懐中電灯を持ってきた。
 だがどういうわけだか、懐中電灯を顎の下から照らしてホラーを演出している。
 階段を下り切った女子大生達は、それにびっくりしてキャーキャー叫び声を上げた。

 篠原:「っ!懐中電灯を下から照らすな!!」

 篠原は持っていたマグライトで小久保の頭をボコッとやる。

 小久保:「いてっ!?……き、緊張をほぐしてあげるサービスのつもりだったんスけど……」
 渋谷:「いや、笑えないから」
 大森:「小久保君、いいから早く石油ストーブ持って来て!」
 小久保:「あ、はい!」

 入れ替わりに大森が戻ってくる。
 手には大きめのランタンを手にしていた。
 電池式ではなく、本格的な石油燃料のランタンである。

 大森:「せっかくお寛ぎのところ、皆さん申し訳ありません。実はこの停電は毎冬に1回くらい、猛吹雪の時に発生する事故なんですよ。大抵はものの数分で復旧するんですが、数年に1度は電線や電柱自体がやられてしまって、長時間の停電になることもあります。今回の停電がどんなものなのかは分かりませんが、長時間に及ぶ恐れがありますので、そうなってしまった場合、早めにお休み頂いた方がいいかもしれません」
 島村:「えーっ!?テレビいい所だったのにぃ!」
 渋谷:「この停電じゃ、しょうがないって」
 本田:「そうだよ。それなら、ワンセグで観ればいいじゃん。こんなこともあろうかと、タブレット持って来たよ」
 島村:「おお〜、さすが倫ちゃん!」
 小久保:「いや、多分ムリっスよ。ここ、電波入らないんで」

 小久保が石油ストーブを持って来ながら言った。

 渋谷:「は!?」
 小久保:「だからここ、専用のアンテナ付けて、Wi-Fiも入れてるんスけど、どれも停電じゃ使えないっスし……」
 勇太:「本当だ!電波が入らない!」

 勇太は自分のスマホを見て愕然とした。

 本田:「マジ、ツいてねぇ……」
 大森:「一応、お部屋用の照明として、小型のランタンをお配りします」

 それは電池式のものだった。

 宗一郎:「うーむ……。これでは確かに、さっさと寝てしまった方がいいかもしれないねぇ……」

 宗一郎は腕組みをして残念そうに言った。

 大森:「せっかくお寛ぎのところ、申し訳ありません。早ければ、こうしてお話ししている間にも復旧してしまうんですが、どうやら今回は長引くパターンのようです」

 マリアだけは周囲を警戒している。
 あの幽霊が、この闇をチャンスにしないわけがない。

 渋谷:「しょうがない。これも1つの思い出だと思って、さっさと寝ようか。実は少し疲れちゃったし……」
 本田:「麻央っちはお気楽だねぇ……」
 渋谷:「いや、気楽とかそんなんじゃないから。他にすること無いからって話」
 篠原:「そういえば、鈴木さんは大丈夫なんですか?」
 宗一郎:「鈴木さん?」
 大森:「あのスーツの男性のお客様ですよ。きっと、もうお休みになられているんでしょう。フロントで対応した時も、何だかお疲れの様子でしたし」
 宗一郎:「ふーむ……。あれ?それと、元木さんってやらはどこだ?さっきから姿が見えないが……?」
 勇太:「あれ?」

 すると、正面玄関からゴォーッという風が吹き込んで来た。
 その風に乗るようにして、元木が入って来た。

 大森:「元木さん!?」
 元木:「いやあ、凄い吹雪です。実は停電の原因を探りに行ったんですが、このペンションのブレーカーも異常は無いし、外側の電線が切れているような感じもしませんでした。こりゃ、変電所辺りから既に原因があるんじゃないですかね」
 勇太:「すると停電しているのは、このペンションだけじゃないってこと……?」
 元木:「そういうことになるね。このペンションに続く一本道も、街灯が全く点いてないし、ということは……」
 大森:「元木さん、そういうムチャはやめてください。今、外に一歩でも出たらすぐ凍死するようなレベルなんですよ?当ペンションでお客様が事故に遭われたら大変なんですから」
 元木:「すいません。性分なもので」
 マリア:(魔界に行ったら、結構稼げるトレジャーハンターになれそうだな、この男は……)

 マリアは呆れ顔だった。

 マリア:(……にしても、幽霊は何を企んでいる?相変わらず霊気は強いままだし、しかし今襲って来る気配は無い。あの強さなら、このペンションを停電させることも可能だろう。いや、実際に停電させた可能性が高い)

 元木:「体が冷えちゃったから、温泉入ってこようかな。源泉かけ流しだから入れますよね?」
 大森:「暗くて危険なので許可しかねます!今、温かいお飲み物を持ってきますから」
 勇太:「ガスは無事なんですか?」
 小久保:「ここ、プロパンガスっスからね。電気は基本関係無いっスよ。それに、それもダメになった場合に備えて、卓上コンロもあるんで」
 勇太:「へえ……」
 篠原:「街から遠く離れてますからね、食料なんかも十分に備えてあるんですよ。ですから雪に閉ざされたりしたとしても、復旧するまで落ち着いて待つことができんです」
 宗一郎:「それなら安心だな」

 マリアが勇太に耳打ちする。

 マリア:「今のところは何も無いが、でも絶対に何かが起こる。1度部屋に戻って、準備しようと思う」
 勇太:「分かりました。……父さん、僕達、部屋に戻るから」
 宗一郎:「その方がいいな。よし、私達も戻ろう」
 大森:「申し訳ありません。お部屋にあるセラミックヒーターは充電式でして、今フル充電してありますので、翌朝まで使えます」
 宗一郎:「それまでに、復電してくれるといいがな」
 大森:「もし寒いようでしたら、このロビーは一晩中ストーブを焚いておきますし、食堂にある暖炉も使おうと思いますので」
 宗一郎:「了解だ」

 ロビーにいた宿泊客は、ぞろぞろと階段を上って行った。
 手には各部屋用の電池式ランタンを持って。

 元木:「幽霊さん、襲って来なかったねぇ……」
 勇太:「えっ!?」
 元木:「本当はロビーに全員で集まっていた方がいいと思うんだけど、話の流れからしてしょうがないかな」
 勇太:「そ、そうですねぇ……」
 マリア:(この男、何かを知っている……?)
 元木:「それじゃ、気をつけて」

 元木はそう言って、自分の部屋に入った。

 勇太:「僕達はどうします?」
 マリア:「準備ができたら、ロビーで待機しておいた方がいいかもしれないな」
 勇太:「分かりました。着替えたら、すぐに行きます」

 勇太達はそれぞれ自分の部屋に入って行った。
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