[12月31日20:15.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”2F 客室フロア]
勇太は部屋に戻ると、部屋のカーテンを閉めた。
幸い、窓の外から幽霊が覗き込んでくるようなことは無かった。
準備と言っても、勇太の場合はいつもの服の上からローブを着込んで、魔法の杖を用意すれば良い。
杖は普段は収縮しており、腰のベルトに吊るせるようになっている。
勇太:「よし。これでいいな」
勇太が洗面台の鏡で身だしなみを確認していると、部屋が急に明るくなった。
そう、停電が復旧したのだ。
勇太:「何だ。大したことは無かったんだ……」
勇太が安堵の独り言を呟いている時だった。
ガッシャーン!
勇太:「!?」
どこからか、ガラスの割れる音が聞こえて来た。
少なくとも、この部屋ではない。
ということは……?
勇太は魔法の杖を持って、部屋の外に飛び出した。
宗一郎:「一体、何事だね!?せっかく、停電が復旧したというのに……!」
近くの部屋のドアから顔を出す宗一郎。
元木:「この部屋から聞こえたよ!」
元木も部屋から飛び出してきた。
元木が指さした部屋にいるのは……。
勇太:「あのスーツの人か!」
階段の下から大森が駆け登って来た。
大森:「何かありましたか!?」
元木:「この部屋からガラスの割れる音がしたんですよ!」
大森はその部屋のドアをノックした。
大森:「鈴木様!鈴木様!何かありましたか!?」
しかし、中からは何の応答も無い。
大森:「鈴木様!?」
元木:「オーナー、マスターキーは?それで開けてみましょう!」
大森:「しかし……」
宗一郎:「少なくとも、この部屋の窓ガラスが割れたんだとしたら異常じゃないか」
元木:「オーナー、稲生専務の仰る通りです。開けてみましょ……」
元木が言い終わろうとした時だった。
中から男の叫び声がしたのだ。
それは、断末魔のようにも聞こえた。
女子大生の本田と渋谷は、びっくりして2人して抱き合ったくらいだ。
マリア:「凄い霊気だ!」
マリアが水晶球を片手に部屋の前に立ち尽くした。
水晶球が赤い光を鈍く点滅させている。
小久保:「オーナー、マスターキーっス!」
大森:「早く開けろ!」
小久保:「はいっス!」
小久保は急いで鈴木の部屋を開錠した。
マリア:「待ッテクダサーイ!マダ中ニ悪霊ガイルカモシレナイデス!」
大森:「バカなこと言わないでください!」
大森は急いで鈴木の部屋のドアを開けた。
大森:「失礼します!鈴木様!大丈夫ですか!?」
ドアを開けると、一陣の風が廊下を吹き抜けて行った。
確かに、鈴木の部屋の窓ガラスが割れていた。
そこから吹き込む吹雪がとても寒い。
加えて、この部屋の装飾はとてもおかしかった。
まるで赤いペンキをぶちまけたように……って、それは装飾ではない。
勇太:「血だ……!」
マリア:「!!!」
201号室は凄惨なことになっていた。
室内のあっちこっちに鈴木のバラバラ死体が散乱していた。
大森:「こ、小久保君!警察だ!警察を呼べ!お、お客様が殺されたと……!」
小久保:「は、はいっ!」
大森:「早くここから出てください!この部屋は立入禁止にします!」
マリア:「……!!」
マリアはグラッと目まいのようなものを起こすと、水晶球を落としてしまった。
ゴンッと床から鈍い音がする。
水晶球はもう赤い光は放っていないものの、今度は黄色い光を点滅させていた。
これは『注意』を意味する。
さっきの赤い光が『要警戒』だから、少し幽霊は離れたのか。
勇太:「大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「久しぶりにグロテスクなもの見た……。勇太は平気なのか?」
勇太:「グロテスク過ぎて、却って麻痺したのかもしれません。火サスですら、全身死体は出てきても、バラバラ死体は出てきませんから」
部屋の外に出た。
大森:「皆さん、停電が復旧したのにあいにくですが、警察が来るまで1階ロビーで待っていて頂けませんか?」
宗一郎:「うむ。その方がいいだろう」
宗一郎は大きく頷いた。
マリア:「私がただの人間だった頃、行った復讐劇で……首を刎ねられたヤツがいて、それを見た以来かな……ふふふ……」
勇太:「マリアさん……。あれ?島村さんは?」
本田:「しまむーなら、さっきトイレに行ってたけど……」
渋谷:「ちょっと様子見て来るか」
本田と渋谷は1度自分の部屋に戻り、残りの宿泊客は1階ロビーに向かった。
小久保:「オーナー、大変っス!」
大森:「何だ?」
小久保:「電話が通じないんス!」
大森:「ウソだろ?」
小久保:「マジっスよ!」
大森はフロントの上にある固定電話を取った。
大森:「う、本当だ……」
小久保:「でしょ?でしょ?」
元木:「停電は復旧したのに、おかしいですね」
電話線の先を見ると、それは繋がっていた。
勇太:「あれ!?僕のスマホも電波が入らない!」
宗一郎:「私のもだ!一体どうなってる!?」
マリアの水晶球が再び赤く光る。
電話の方に向けると、尚一層強く光った。
マリア:「ちょっと貸して!」
小久保:「あっ……!」
マリアは小久保から電話の受話器を奪い取った。
それを耳に当てる。
マリア:「悪霊め!フザけるなよ!一体、何が目的だ!?」
マリアは英語で電話線の向こうに問い詰めた。
しかし、何の応答も無い。
マリア:「私はダンテ門流イリーナ組のロー・マスター、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ!悪霊め、そこにいるのは分かってる!いい加減に応答しろ!」
すると電話の向こうから、何か声が聞こえて来た。
???:「マリア……!」
マリア:「お前は誰だ?ペンションの宿泊客を殺して、何が目的だ?答えないと滅するが良いか?」
???:「違う……!」
マリア:「違う?何が違う?答えろ」
???:「お前は……マリアじゃない……。私の……マリア……」
これ以上の話は不可能と分かったマリアは電話の受話器を切った。
大森:「マリア……さん?何かありましたか?」
マリア:「オーナー、このペンションに『マリア』に纏わるものは無いですか?」
大森:「えっと……?」
勇太:「ああ、僕が訳します!このペンションに、『マリア』と名の付くものは無いですか?だそうです」
大森:「いや、特に無いですね。私達夫婦も小久保君も篠原さんも、別にクリスチャンってわけではないですし……」
勇太:「マリアさん、島村さんのことじゃないですか?島村さんの下の名前、真理愛ですよ?」
元木:「あれ?そういえばあのコ達、下りて来ないな?どうしたんだろう?」
大森は電話の受話器を取った。
外線は相変わらずダメだが、内線なら通じる。
だが……。
大森:「おかしいな?呼び出し音は鳴っているのに、誰も出ないぞ?」
小久保:「ま、まさか、鈴木さんを殺したヤツに……?」
大森:「バカなことを言うんじゃない!きっとまたテレビに夢中になっているんだろう。或いは、部屋に籠もることが安全だと思っているのか……。とにかく、ここに来てもらうんだ。小久保君」
小久保:「お、俺っスか?」
勇太:「僕も一緒に行きましょうか?」
小久保:「よ、よろしくっス!」
篠原:「度胸無いなぁ……」
篠原は宿泊客にコーヒーを入れながら言った。
この時はまだ、例え凄惨で不可解とはいえ、何だか得体の知れない怪しい男が殺されたというだけで、どこか他人事でいられたのかもしれない。
小久保と勇太が階段を上って、209号室に向かう。
宗一郎:「ダメだ。ネット回線に繋いでも、メールとかが送れなくなっている。これでは警察に通報できないぞ!」
マリア:(ここまでの徹底ぶり……。私達が外部と連絡を取れなくなるようにしている。これは一体、何を意味してる?)
相変わらず、水晶球は黄色い光と赤い光を繰り返していた。
勇太は部屋に戻ると、部屋のカーテンを閉めた。
幸い、窓の外から幽霊が覗き込んでくるようなことは無かった。
準備と言っても、勇太の場合はいつもの服の上からローブを着込んで、魔法の杖を用意すれば良い。
杖は普段は収縮しており、腰のベルトに吊るせるようになっている。
勇太:「よし。これでいいな」
勇太が洗面台の鏡で身だしなみを確認していると、部屋が急に明るくなった。
そう、停電が復旧したのだ。
勇太:「何だ。大したことは無かったんだ……」
勇太が安堵の独り言を呟いている時だった。
ガッシャーン!
勇太:「!?」
どこからか、ガラスの割れる音が聞こえて来た。
少なくとも、この部屋ではない。
ということは……?
勇太は魔法の杖を持って、部屋の外に飛び出した。
宗一郎:「一体、何事だね!?せっかく、停電が復旧したというのに……!」
近くの部屋のドアから顔を出す宗一郎。
元木:「この部屋から聞こえたよ!」
元木も部屋から飛び出してきた。
元木が指さした部屋にいるのは……。
勇太:「あのスーツの人か!」
階段の下から大森が駆け登って来た。
大森:「何かありましたか!?」
元木:「この部屋からガラスの割れる音がしたんですよ!」
大森はその部屋のドアをノックした。
大森:「鈴木様!鈴木様!何かありましたか!?」
しかし、中からは何の応答も無い。
大森:「鈴木様!?」
元木:「オーナー、マスターキーは?それで開けてみましょう!」
大森:「しかし……」
宗一郎:「少なくとも、この部屋の窓ガラスが割れたんだとしたら異常じゃないか」
元木:「オーナー、稲生専務の仰る通りです。開けてみましょ……」
元木が言い終わろうとした時だった。
中から男の叫び声がしたのだ。
それは、断末魔のようにも聞こえた。
女子大生の本田と渋谷は、びっくりして2人して抱き合ったくらいだ。
マリア:「凄い霊気だ!」
マリアが水晶球を片手に部屋の前に立ち尽くした。
水晶球が赤い光を鈍く点滅させている。
小久保:「オーナー、マスターキーっス!」
大森:「早く開けろ!」
小久保:「はいっス!」
小久保は急いで鈴木の部屋を開錠した。
マリア:「待ッテクダサーイ!マダ中ニ悪霊ガイルカモシレナイデス!」
大森:「バカなこと言わないでください!」
大森は急いで鈴木の部屋のドアを開けた。
大森:「失礼します!鈴木様!大丈夫ですか!?」
ドアを開けると、一陣の風が廊下を吹き抜けて行った。
確かに、鈴木の部屋の窓ガラスが割れていた。
そこから吹き込む吹雪がとても寒い。
加えて、この部屋の装飾はとてもおかしかった。
まるで赤いペンキをぶちまけたように……って、それは装飾ではない。
勇太:「血だ……!」
マリア:「!!!」
201号室は凄惨なことになっていた。
室内のあっちこっちに鈴木のバラバラ死体が散乱していた。
大森:「こ、小久保君!警察だ!警察を呼べ!お、お客様が殺されたと……!」
小久保:「は、はいっ!」
大森:「早くここから出てください!この部屋は立入禁止にします!」
マリア:「……!!」
マリアはグラッと目まいのようなものを起こすと、水晶球を落としてしまった。
ゴンッと床から鈍い音がする。
水晶球はもう赤い光は放っていないものの、今度は黄色い光を点滅させていた。
これは『注意』を意味する。
さっきの赤い光が『要警戒』だから、少し幽霊は離れたのか。
勇太:「大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「久しぶりにグロテスクなもの見た……。勇太は平気なのか?」
勇太:「グロテスク過ぎて、却って麻痺したのかもしれません。火サスですら、全身死体は出てきても、バラバラ死体は出てきませんから」
部屋の外に出た。
大森:「皆さん、停電が復旧したのにあいにくですが、警察が来るまで1階ロビーで待っていて頂けませんか?」
宗一郎:「うむ。その方がいいだろう」
宗一郎は大きく頷いた。
マリア:「私がただの人間だった頃、行った復讐劇で……首を刎ねられたヤツがいて、それを見た以来かな……ふふふ……」
勇太:「マリアさん……。あれ?島村さんは?」
本田:「しまむーなら、さっきトイレに行ってたけど……」
渋谷:「ちょっと様子見て来るか」
本田と渋谷は1度自分の部屋に戻り、残りの宿泊客は1階ロビーに向かった。
小久保:「オーナー、大変っス!」
大森:「何だ?」
小久保:「電話が通じないんス!」
大森:「ウソだろ?」
小久保:「マジっスよ!」
大森はフロントの上にある固定電話を取った。
大森:「う、本当だ……」
小久保:「でしょ?でしょ?」
元木:「停電は復旧したのに、おかしいですね」
電話線の先を見ると、それは繋がっていた。
勇太:「あれ!?僕のスマホも電波が入らない!」
宗一郎:「私のもだ!一体どうなってる!?」
マリアの水晶球が再び赤く光る。
電話の方に向けると、尚一層強く光った。
マリア:「ちょっと貸して!」
小久保:「あっ……!」
マリアは小久保から電話の受話器を奪い取った。
それを耳に当てる。
マリア:「悪霊め!フザけるなよ!一体、何が目的だ!?」
マリアは英語で電話線の向こうに問い詰めた。
しかし、何の応答も無い。
マリア:「私はダンテ門流イリーナ組のロー・マスター、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ!悪霊め、そこにいるのは分かってる!いい加減に応答しろ!」
すると電話の向こうから、何か声が聞こえて来た。
???:「マリア……!」
マリア:「お前は誰だ?ペンションの宿泊客を殺して、何が目的だ?答えないと滅するが良いか?」
???:「違う……!」
マリア:「違う?何が違う?答えろ」
???:「お前は……マリアじゃない……。私の……マリア……」
これ以上の話は不可能と分かったマリアは電話の受話器を切った。
大森:「マリア……さん?何かありましたか?」
マリア:「オーナー、このペンションに『マリア』に纏わるものは無いですか?」
大森:「えっと……?」
勇太:「ああ、僕が訳します!このペンションに、『マリア』と名の付くものは無いですか?だそうです」
大森:「いや、特に無いですね。私達夫婦も小久保君も篠原さんも、別にクリスチャンってわけではないですし……」
勇太:「マリアさん、島村さんのことじゃないですか?島村さんの下の名前、真理愛ですよ?」
元木:「あれ?そういえばあのコ達、下りて来ないな?どうしたんだろう?」
大森は電話の受話器を取った。
外線は相変わらずダメだが、内線なら通じる。
だが……。
大森:「おかしいな?呼び出し音は鳴っているのに、誰も出ないぞ?」
小久保:「ま、まさか、鈴木さんを殺したヤツに……?」
大森:「バカなことを言うんじゃない!きっとまたテレビに夢中になっているんだろう。或いは、部屋に籠もることが安全だと思っているのか……。とにかく、ここに来てもらうんだ。小久保君」
小久保:「お、俺っスか?」
勇太:「僕も一緒に行きましょうか?」
小久保:「よ、よろしくっス!」
篠原:「度胸無いなぁ……」
篠原は宿泊客にコーヒーを入れながら言った。
この時はまだ、例え凄惨で不可解とはいえ、何だか得体の知れない怪しい男が殺されたというだけで、どこか他人事でいられたのかもしれない。
小久保と勇太が階段を上って、209号室に向かう。
宗一郎:「ダメだ。ネット回線に繋いでも、メールとかが送れなくなっている。これでは警察に通報できないぞ!」
マリア:(ここまでの徹底ぶり……。私達が外部と連絡を取れなくなるようにしている。これは一体、何を意味してる?)
相変わらず、水晶球は黄色い光と赤い光を繰り返していた。