報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「屋敷へ到着」

2017-01-31 19:12:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日06:23.天候:晴 長野県白馬村 白馬八方バスターミナル]

 バスは順調に終点のバスターミナルに到着した。
 今日は晴れているのか、まだ薄暗い時間帯なのに、雪に僅かな光が反射してそんなに暗いとは感じない。
 稲生はずっとマリアと手を繋いでいたせいか、そんなによく眠れなった。
 それでも何故か、眠くて気だるい感じはしない。
 バスを降りて、預けていた荷物を受け取る。

 稲生:「迎えの車は……」
 マリア:「勇太、その前にトイレに行きたい」
 稲生:「あっ、そうですね」

 薄暗くも夜が明けつつある中、2人はターミナルの中に入る。
 本来はインフォメーションセンターであり、あくまでその1つにバスターミナルとしての機能もあるということである。
 先にトイレから出て来たのは稲生だった。
 自動販売機で缶コーヒーを買っていると、迎えの車の運転手がやってきた。
 まるでバスの運転手のような出で立ちで、帽子を深く被っている。
 正体が、とても魔法で作り出した幻獣とは思えない。

 稲生:「ああ、今マリアさんがトイレに行ってるんで、もう少し待っててください」

 稲生が言うと、寡黙な運転手は大きく頷いた。
 暖房がよく効いた屋内、ついついまた眠くなりそうな温度である。
 しばらくしてマリアが戻って来ると、稲生は残った缶の中身を一気飲みした。

 マリア:「お待たせ」
 稲生:「じゃ、行きましょう。もう迎えが来てますよ」
 マリア:「そう」

 バスが停車している前を通り、建物の裏手に回ると黒塗りの車が止まっている。
 マリアの魔力が使われている為か、ロンドンタクシー(オースチン)のような車種である。
 後ろに荷物を乗せると、すぐに車に乗り込んだ。
 ザザッと雪をかき分ける音が聞こえた。

 マリア:「師匠はまだ寝てるだろうから、入る時は静かにね」
 稲生:「あっ、そうですね」

 車は夜が白み始める村内を郊外に向かって進んだ。

[同日07:00.天候:晴 マリアの屋敷]

 マリアの屋敷に至る際、普通の人間が行こうとするならば、何メートルも積もった雪に阻まれることとなるだろう。
 しかし稲生達が乗った車が通過する際は、まるでどこかの宗教に伝わる海が割れる現象の如く、雪が割れて車を通すのだ。
 で、通った後は閉じる。サリーちゃんの家なんざ、目じゃないぜ。ヒャッハー!

 マリア:「さっきも言った通り、師匠は寝てるだろうから、静かにね」
 勇太:「もちろんです」

 車が家の正面玄関の前に到着した。
 早速、車から荷物を降ろして中に入る。

 勇太:「どうします?先にマリアさんの部屋に行くと、先生が寝てらっしゃるわけですよね?」
 マリア:「私の荷物はリビングに入れてくれる?」
 勇太:「分かりました」

 エントランスホールから左手の観音扉を開けると、大食堂がある。
 昨年のクリスマスパーティは、ここがメイン会場になった。

 イリーナ:「やあやあ、お帰り。よく無事に帰って来れたねぇ」
 マリア:「師匠!?」
 稲生:「先生!?」
 イリーナ:「ん?なぁに?どうしてそんなにびっくりしてるの?」
 マリア:「いや、師匠のことだから多分、寝てると思って静かにしようと思ってたのに……」
 稲生:「そうですよ。でも、もしかして、起こしちゃいました?」

 イリーナは目を細めたままだ。
 それはつまり、別に怒っているわけではないということだ。

 イリーナ:「心配無いよ。さっきからずっと起きてたから」
 マリア:「そうですか。それならいいんですけど」
 稲生:「あ、お土産あるんですけど、少し待ってください。後で届くと思うんで」
 マリア:「エレーナのことだから、パクったりしなきゃいいけど……」
 稲生:「大丈夫でしょう。それでも万が一の為に保険は掛けておきました」
 マリア:「保険?」
 稲生:「エレーナにもお土産を送ったのはその為です」
 イリーナ:「おお〜、さすが勇太君。段々と分かってきたみたいだねぇ……」
 稲生:「あれがとぅございまふ……」

 稲生はお礼の言葉と欠伸が両方出た。

 イリーナ:「夜行バスであんまり眠れなかったかねぇ……。少し寝ときな。修行の再開は午後……いや、明日からでもいいか」
 勇太:「いえ、午後からお願いします」
 イリーナ:「熱心だねぇ……。じゃ、昼まで寝ていいよ。ランチを皆で取った後、再開しましょう。その代わり、今日の修行は軽めでね」
 勇太:「はい。じゃ、僕、マリアさんの荷物を置いた後、部屋に戻りますので」
 イリーナ:「うんうん、ご苦労さんね」

 勇太が更に奥の部屋に向かうと、マリアはイリーナと向き合った。

 マリア:「師匠、取りあえずこの日誌に、今回の旅行のことが全部書いてありますので」
 イリーナ:「“Tabi Diary”か。いいタイトルだね」
 マリア:「あと、バスでのことなんですが、勇太がドリーム・トラップに掛かりそうになって……」
 イリーナ:「ほお……。うちのコをトラップに掛けるなんて、いい度胸してるじゃない。で、どこの誰?」

 イリーナは糸のように細くしていた目を半分開けた。
 そして、不敵な笑みを浮かべる。

 マリア:「まだ確たる証拠は無いですが、恐らくアン組の誰かかと」
 イリーナ:「フム。確率が1番高い所だね。勇太君が起きてきたら、話を聞いてみましょう。後で厳重に抗議してやるわよ」
 マリア:「よろしくお願いします」
 イリーナ:「ほんの僅かだけど、体の傷痕が消えたみたいだね。この調子だよ」
 マリア:「は、はい!」
 イリーナ:「他のコ達は羨ましがったり、前向きに捉えてるみたいだけど、まだまだそんなことは考えられないコ達もいるからね。気を付けるのよ」
 マリア:「分かってます」
 イリーナ:「じゃ、マリアも少し休んできなさい」
 マリア:「師匠は?」
 イリーナ:「アタシはもう十分寝たから、しばらく他の部屋にいるさねー」
 マリア:「はあ……」

 無事に帰り着いた稲生達であったが、他の魔道師団の存在や、本来は禁止されている『門内折伏』を行おうとする者がいるなど、まだまだ周囲の状況は予断かつ油断ならぬものであるようだ。
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“大魔道師の弟子” 「帰途の魔女」

2017-01-31 12:29:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]

 稲生達を乗せた高速バスが2回目の休憩箇所に入る。
 この辺りまで来ると、さすがに積雪を見ないことはない。
 バス会社や便によっては乗務員だけの休憩で、乗客は降りれないことも多いが、このバスにおいては昼行便同様、降りて休憩することができる。

 稲生:「ん……?」

 稲生はそこでふと目を覚ました。
 まだ車内は暗く、通路を照らすランプしか点灯していない。
 しかし走行音は聞こえて来ず、聞こえてくるのは停車中のアイドリング音や暖房の風の音だけである。

 稲生:(ちょっと降りてみるか……)

 稲生は自分の魔道師のローブを羽織ると、狭い通路を進んでバスから降りた。
 バスの乗降ドアの前には、4時に出発する旨の表示がしてあった。
 最初の停留所が安曇野スイス村だから、だいぶ速く走れたのか、それともこれで定時なのか分からない。
 少なくとも、15分停車ということは今遅延しているというわけではないようだ。
 それにしても冬の朝4時前……というか、まだ夜中だから当たり前だが、外はとても暗い。
 地方のサービスエリアとはいえ、オレンジ色や白色の街路灯が煌々と照らしていてもいいはずなのに……。

 稲生:「何だ!?」

 バスを降りると、そこは辺り一面雪景色だった。
 いや、もう冬の長野県北部にいるのだから、それは当たり前だろう。
 そうじゃなくて、夜中でも多くの車が往来するサービスエリアにしては除雪が全くされていないのだ。
 それどころか……。

 稲生:「建物はどこだ!?」

 辺りを見回しても、売店やレストランのある建物が見当たらなかった。
 それどころか、他に止まっている車が見当たらない。
 ここは稲生達が乗って来た高速バスの他に、色々な高速バスが休憩するポイントとなっている。
 他のバスも全くいないし、長距離トラックの姿も見当たらない。

 稲生:「な、何だ!?」

 バスに戻ろうとした稲生だが、そのバスも無くなっていた。
 黒と白の世界に取り残されたのだ!

 稲生:「しまった!魔法の杖が無い。だ、誰か!いませんか!?」

 稲生が助けを呼んだが、返って来る答えは無かった。
 いや……。

 ???:「もし……そこの人……。何か、お困りですか……?」

 そこへ、か細い女の声が聞こえてきた。
 振り返って見ると、黒いローブを羽織って、フードを深めに被っている魔女の姿があった。
 手には魔法の杖。

 稲生:「魔道師さんですか!助かりました!僕はダンテ門流の魔道師でイリーナ組に所属している稲生勇太と申します!いきなりこの世界に閉じ込められてしまって……!助けてもらえませんか!?」
 魔女:「おやおや……。一介の人間を捕らえるつもりが、それに近い者を捕らえてしまったようねぇ……。やはり、運命というものは信じるべきかしら?」

 魔女はズイッと稲生に近づいた。
 それでもフードのせいで、顔の上半分は分からない。
 が、歪んだ笑みを浮かべているのは分かった。

 稲生:「あ、あの……」
 魔女:「出口はこっちよ。ついてきなさい」
 稲生:「は、はい!」

 稲生はホッとして魔女の後ろを付いて行こうとした。

 マリア:「ついていくな!勇太!戻れ!」
 稲生:「マリアさん!?」
 魔女:「チッ……!」

[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]

 稲生:「……!!」
 マリア:「勇太、大丈夫か?」

 稲生が目を開けると、マリアが顔を覗き込んでいた。

 稲生:「ゆ、夢……!?」
 マリア:「様子が変だと思っていたら、誰かの“ドリーム・トラップ”に入ってしまったようだな」
 稲生:「そ、そうだったんですか……。助かりました」
 マリア:「それより、バスが止まって何のアナウンスも無いんだけど、何かあったのか?」
 稲生:「えーと……」

 稲生は自分の腕時計を見た。
 時計は夢の世界と同じ時間を指している。

 稲生:「きっと……所定の休憩箇所に止まったんでしょう。降りることができますよ」
 マリア:「じゃあ、降りてみる」

 2人はバスの乗降口に向かった。
 夢の世界と同じように、全く同じ位置に全く同じ字体で休憩時間が掲示されている。
 今度はマリアも一緒のおかげか、闇の世界ということはなかった。
 積雪は相変わらずだが、ちゃんと除雪されているし、ベタな夜中のサービスエリアの法則通りだ。
 高速バスが休憩箇所に選ぶだけあって、その規模は大きいものだった。
 東北自動車道の那須高原サービスエリアみたいなものか。
 ドッグランまである。

 稲生:「ちょっとトイレに行ってきます」
 マリア:「私も」

 トイレに向かっている間、2人は夢の話をした。

 マリア:「たまたま夢の波長が、あの魔女と合ってしまったんだね。……いや、最初から勇太を狙っていたのかもな」
 稲生:「何なんですか、あれ?」
 マリア:「“ドリーム・トラップ”。本来はサキュバスなどの夢魔が使用する妖術を、魔道師用に転用したもの。あれを得意とする組は……日本にはいない」
 稲生:「え?」
 マリア:「このタイミングでたまたま日本にいた、普段は日本にいない組……」
 稲生:「アナスタシア組ですか?」
 マリア:「いや、あれはちょくちょく日本に来ている。アン組か……」
 稲生:「あ、あの、エルザさん!?」
 マリア:「……か、どうかは分からないけどね。夢の魔女、ホウキは持ってた?」
 稲生:「いや、無かったですね」
 マリア:「じゃあ、違うヤツだな」
 稲生:「おちおち寝てもいられないですねぇ……」
 マリア:「屋敷の中は師匠の魔法で守られているから、そこにいる分には心配無い。……よし、バスに戻ったら手を繋ごう。私の魔力のプラスすれば何とかなる」
 稲生:「は、はい」
 マリア:(もっとも、もう私にバレたからには、2度と来ることは無いだろうけど)

 稲生とマリアはトイレの入口で別れた。
 女子トイレに入ったマリアは、

 マリア:(油断も隙も無い奴らだ)

 魔女達に対する憤りで個室のドアを閉めてからふと気づく。

 マリア:(……私も、つい最近までそうだったっけ。とんだブーメランだった)

 魔女達の情報だが、早い者は早い。
 マリアが早くも人間時代からの呪い(トラウマや傷痕)から回復しつつあることは広まっており、中にはそれを快く思わない者もいる。
 所詮は、“七つの大罪”に捕われた魔女達なのだ。

 稲生:(マリアさんと手を……)

 一方、男子トイレに入った稲生。
 お湯の出る洗面台で、しっかり手を洗っていた。
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