[1月2日10:15.天候:晴 地下鉄仙台駅東西線ホーム]
少し遅めにホテルをチェックアウトした稲生家とマリアは、荷物を持って地下鉄のホームに向かった。
宗一郎:「しまったな。この荷物、コインロッカーに預けて来るんだったな」
勇太:「それもそうだね。しょうがないから、荒井駅のコインロッカーに預けたら?」
宗一郎:「それしか無いか」
路線自体は新しい為、エスカレーターやエレベーターが完備されている。
だからキャリーバッグを引いて歩いていても、階段に差し掛かって持ち上げなくてはならないということはない。
〔3番線に、荒井行き電車が到着します。……〕
アルカディア・メトロ(魔界高速電鉄)の地下鉄とは明らかに明るいホームで電車を待っていると、接近放送が聞こえてきた。
地下鉄ならではの轟音と強風を引き連れて入線してくるが、4両編成しか無い小さなものだ。
〔せんだい、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
ターミナル駅ということもあってか、この駅での乗り降りは多い。
(仙台市地下鉄東西線の車内。JR在来線の規格より明らかに小型サイズ。荒井駅で撮影)
勇太達は先頭車に乗り込んだ。
空いている座席に両親が座り、ユウタとマリアは車椅子スペースの所に立った。
〔3番線から、荒井行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
短い発車メロディがホームに響き渡る。
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
2打点チャイムが4回響くと、乗降ドアが閉まる。
ホームドアが付いている為、ワンマン運転でも一呼吸のブランクがあってから走り出す。
〔次は宮城野通、宮城野通。ユアテック本社前です〕
〔The next station is Miyagino-dori.〕
〔今日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。……〕
勇太:「前にもイリーナ先生と行ったことのある場所で、目新しい所ではないんですけど……」
マリア:「いや、いいよ。屋敷から出る機会があるだけでも、素晴らしいことだと思う」
勇太:「そうですか」
マリア:「そうだよ」
マリアは窓の下に付いている手すりに寄り掛からながら、窓の外を見た。
トンネルの中なので、当然ながら定期的に通過する蛍光灯の明かりしか見えない。
窓ガラスには、マリアと勇太の姿が映るだけである。
マリア:「多くの魔女は、人間時代のトラウマから、引きこもりになることが多いんだよ」
勇太:「そうなんですか?」
マリア:「分からないか?私を屋敷という穴蔵から連れ出してくれたのは、あなただよ」
勇太:「えっ?」
マリア:「ありがとう」
勇太:「えっ?いや、うん……」
[同日10:30.天候:晴 地下鉄荒井駅]
東西線の西側は川を渡る時に地上に出るのに対し、東側は出入庫線以外は地上に出ることが無い。
〔まもなく荒井、荒井、大成ハウジング本店前、終点です。お出口は、右側です。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、荒井に到着です。この電車は荒井駅到着後、回送電車となります。お近くのドアからお降りください」〕
電車がゆっくりとホームに入る。
因みにこの時点では、車内は閑散としていた。
ドアが開くと、勇太達は電車を降りた。
近くのエスカレーターで地上に上がる。
地下駅と言っても、市街地の駅のように地下深くにあるわけではない。
エスカレーターの1つでも上がれば、すぐ地上に出て改札口があるくらいである。
宗一郎:「コインロッカーはどこだ?」
勇太:「あっちあっち」
改札口を出て、更に駅舎内の東に向かうとコインロッカーがあった。
宗一郎:「ここか。最低限の物だけ持って、あとはこの中に入れておこう」
佳子:「そうね」
マリアのスーツケースからは、ミクとハクが出て来た。
勇太:「ついてくる気か……」
マリア:「まあ、私のファミリア(使い魔)だから……」
多くはベタな法則で黒猫やカラスだが、他には黒い犬や、機械人形(ゴーレム)またはマリアのような手作り人形もいる。
ミクとハクは、マリアのハンドバッグの中に入った。
勇太:(明らかにバッグのサイズと人形のサイズが合わず、シュールレアリスムみたいな感じで入ったような……?)
勇太が首を傾げていると、セカンドバッグだけ持った宗一郎が自分の荷物をコインロッカーの中にしまった。
宗一郎:「よーし、これでいい。あとはバスに乗るだけだな。バスはどこだ?勇太は前に乗ったことがあるんだろう?」
勇太:「まあね。あっちだよ」
勇太達は駅の外にあるバスプールに向かった。
[同日10:45.天候:曇 仙台市営バス15系統車内]
閑散とした大型のワンステップバスに乗り込んだ。
1番後ろの席に座る。
バスは定刻通りに発車した。
〔毎度、市営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは15系統、宮城運輸支局前先回り、鶴巻循環です。次は荒井矢取、荒井矢取でございます。……〕
少し日が翳った。
しかし天気予報では、雨も雪も降らないそうなので、傘の心配は無いだろう。
バスはまだ都市開発の途中と思われる場所を進む。
開発が進んでこの辺りの人口が増えたら、バスの本数も増えるだろうか。
マリア:「目的地の近くには、勇太の昔の実家があったんじゃなかったか?」
勇太:「まあ、そうですね。でも今は跡形も無いので、特に行く必要は無いですよ」
マリア:「そう、か……。妖狐と出会った場所も?」
勇太:「あの神社も震災で跡形も無くなりました。まあ、威吹にとっては何百年間もの間、暗闇に閉じ込められていた嫌な思い出の場所なので、清々したでしょうね」
マリア:「そうか。バァル大帝と大師匠様は旧友だから、バァル大帝の揺さぶりに関しては、ダンテ一門の魔道師としては他人事じゃないんだけど……」
バァル大帝怒りの魔術により、魔界と人間界との均衡が大きく揺さぶられ、それによって発生した大地震であるという。
宗一郎:「うわ、映画館の方は休業らしいな。こりゃ、温泉だけで時間を過ごす方法を考えなくてはならんよ」
佳子:「他に遊興施設は無いの?」
宗一郎:「確か、ボウリングくらいあったはずだ」
佳子:「そうなの……」
大きくて太い腕乗せを挟んで隣に座る両親は、旧・実家の全壊に関してはあまり関心が無いようだった。
少し遅めにホテルをチェックアウトした稲生家とマリアは、荷物を持って地下鉄のホームに向かった。
宗一郎:「しまったな。この荷物、コインロッカーに預けて来るんだったな」
勇太:「それもそうだね。しょうがないから、荒井駅のコインロッカーに預けたら?」
宗一郎:「それしか無いか」
路線自体は新しい為、エスカレーターやエレベーターが完備されている。
だからキャリーバッグを引いて歩いていても、階段に差し掛かって持ち上げなくてはならないということはない。
〔3番線に、荒井行き電車が到着します。……〕
アルカディア・メトロ(魔界高速電鉄)の地下鉄とは明らかに明るいホームで電車を待っていると、接近放送が聞こえてきた。
地下鉄ならではの轟音と強風を引き連れて入線してくるが、4両編成しか無い小さなものだ。
〔せんだい、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
ターミナル駅ということもあってか、この駅での乗り降りは多い。
(仙台市地下鉄東西線の車内。JR在来線の規格より明らかに小型サイズ。荒井駅で撮影)
勇太達は先頭車に乗り込んだ。
空いている座席に両親が座り、ユウタとマリアは車椅子スペースの所に立った。
〔3番線から、荒井行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
短い発車メロディがホームに響き渡る。
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
2打点チャイムが4回響くと、乗降ドアが閉まる。
ホームドアが付いている為、ワンマン運転でも一呼吸のブランクがあってから走り出す。
〔次は宮城野通、宮城野通。ユアテック本社前です〕
〔The next station is Miyagino-dori.〕
〔今日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。……〕
勇太:「前にもイリーナ先生と行ったことのある場所で、目新しい所ではないんですけど……」
マリア:「いや、いいよ。屋敷から出る機会があるだけでも、素晴らしいことだと思う」
勇太:「そうですか」
マリア:「そうだよ」
マリアは窓の下に付いている手すりに寄り掛からながら、窓の外を見た。
トンネルの中なので、当然ながら定期的に通過する蛍光灯の明かりしか見えない。
窓ガラスには、マリアと勇太の姿が映るだけである。
マリア:「多くの魔女は、人間時代のトラウマから、引きこもりになることが多いんだよ」
勇太:「そうなんですか?」
マリア:「分からないか?私を屋敷という穴蔵から連れ出してくれたのは、あなただよ」
勇太:「えっ?」
マリア:「ありがとう」
勇太:「えっ?いや、うん……」
[同日10:30.天候:晴 地下鉄荒井駅]
東西線の西側は川を渡る時に地上に出るのに対し、東側は出入庫線以外は地上に出ることが無い。
〔まもなく荒井、荒井、大成ハウジング本店前、終点です。お出口は、右側です。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、荒井に到着です。この電車は荒井駅到着後、回送電車となります。お近くのドアからお降りください」〕
電車がゆっくりとホームに入る。
因みにこの時点では、車内は閑散としていた。
ドアが開くと、勇太達は電車を降りた。
近くのエスカレーターで地上に上がる。
地下駅と言っても、市街地の駅のように地下深くにあるわけではない。
エスカレーターの1つでも上がれば、すぐ地上に出て改札口があるくらいである。
宗一郎:「コインロッカーはどこだ?」
勇太:「あっちあっち」
改札口を出て、更に駅舎内の東に向かうとコインロッカーがあった。
宗一郎:「ここか。最低限の物だけ持って、あとはこの中に入れておこう」
佳子:「そうね」
マリアのスーツケースからは、ミクとハクが出て来た。
勇太:「ついてくる気か……」
マリア:「まあ、私のファミリア(使い魔)だから……」
多くはベタな法則で黒猫やカラスだが、他には黒い犬や、機械人形(ゴーレム)またはマリアのような手作り人形もいる。
ミクとハクは、マリアのハンドバッグの中に入った。
勇太:(明らかにバッグのサイズと人形のサイズが合わず、シュールレアリスムみたいな感じで入ったような……?)
勇太が首を傾げていると、セカンドバッグだけ持った宗一郎が自分の荷物をコインロッカーの中にしまった。
宗一郎:「よーし、これでいい。あとはバスに乗るだけだな。バスはどこだ?勇太は前に乗ったことがあるんだろう?」
勇太:「まあね。あっちだよ」
勇太達は駅の外にあるバスプールに向かった。
[同日10:45.天候:曇 仙台市営バス15系統車内]
閑散とした大型のワンステップバスに乗り込んだ。
1番後ろの席に座る。
バスは定刻通りに発車した。
〔毎度、市営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは15系統、宮城運輸支局前先回り、鶴巻循環です。次は荒井矢取、荒井矢取でございます。……〕
少し日が翳った。
しかし天気予報では、雨も雪も降らないそうなので、傘の心配は無いだろう。
バスはまだ都市開発の途中と思われる場所を進む。
開発が進んでこの辺りの人口が増えたら、バスの本数も増えるだろうか。
マリア:「目的地の近くには、勇太の昔の実家があったんじゃなかったか?」
勇太:「まあ、そうですね。でも今は跡形も無いので、特に行く必要は無いですよ」
マリア:「そう、か……。妖狐と出会った場所も?」
勇太:「あの神社も震災で跡形も無くなりました。まあ、威吹にとっては何百年間もの間、暗闇に閉じ込められていた嫌な思い出の場所なので、清々したでしょうね」
マリア:「そうか。バァル大帝と大師匠様は旧友だから、バァル大帝の揺さぶりに関しては、ダンテ一門の魔道師としては他人事じゃないんだけど……」
バァル大帝怒りの魔術により、魔界と人間界との均衡が大きく揺さぶられ、それによって発生した大地震であるという。
宗一郎:「うわ、映画館の方は休業らしいな。こりゃ、温泉だけで時間を過ごす方法を考えなくてはならんよ」
佳子:「他に遊興施設は無いの?」
宗一郎:「確か、ボウリングくらいあったはずだ」
佳子:「そうなの……」
大きくて太い腕乗せを挟んで隣に座る両親は、旧・実家の全壊に関してはあまり関心が無いようだった。