[1月1日15:13.天候:晴 宮城県仙台市 JR仙台駅]
稲生家とマリアを乗せた仙山線快速電車は、順調に仙台市内を走行をしていた。
愛子駅から先の各駅に停車する度、沿線からの乗客を拾い集めて行く。
4両編成の電車は満席になるばかりでなく、ドア付近などに立ち席客が集中するほどになった。
〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、左側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙石線、仙台空港アクセス線、地下鉄南北線と地下鉄東西線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
首都圏のJR電車の自動放送と同じ声優、そして似た言い回しの自動放送が流れる。
その後で英語放送が流れ、車掌の乗り換え案内放送が流れるのはお約束だ。
運転室からATSの警告音が流れてくるが、これもまたお約束。
電車はゆっくりホームに入線した。
〔せんだい、仙台。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ぞろぞろと乗客達が降りて行く。
勇太達も後から続いた。
勇太:「ホテルはビジネスホテル?」
宗一郎:「ああ。そこしか取れなかったんだ。仕方が無いだろう。温泉は、どこか日帰りの所でも探そう」
今更、スーパー銭湯に行く気にはなれない。
長野への帰り際、大宮の方に行く気はあるけれど。
マリアの体中に付いている痣や傷痕を見た佳子(勇太の母親)は驚いたそうだ。
もちろん、基本的に今は痛みは無い。
だが、何かトラウマに触れたり、過去の悪夢を見るようなことがあれば、傷痕が疼くことはある。
魔道師になれば契約した悪魔との関係からか、普通の人間と比べて極端に体の成長・老化が遅くなる。
これは悪魔にとっても魔道師と契約できれば大きなステータスと考えているようで、簡単に死なれないようにする為の特典であるとされる。
しかしそのせいで、体の治癒力も極端に悪くなる為、そういった傷痕が消えにくいのが短所だ。
魔法使いが回復魔法(ホ◯ミ、べ◯イミ、◯ホマ、ケ◯ル、◯アルガ、ケア◯ラ等)を使えるというのは、こういう所に理由がある。
従って、温泉に入ってそういった傷痕を癒そうというのは、はっきり言って気休めにしかならない。
だが、マリアにとっては、そういった気づかいが嬉しかった。
稲生家の面々とマリアは、正月で混雑する仙台駅構内を西口に向かって進んだ。
[当日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台駅西口中央]
勇太:「よく取れたねぇ……こういう所」
宗一郎:「さすがに秋保温泉とかは無理だった」
勇太:「そうでしょうとも」
マリア:「同じホテルの別の店に行ったことがあるなぁ……」
マリアが稲生に耳打ちした。
稲生は頷いた。
勇太:「確か、仙台駅東口の方でしたよ。向こうより、こっちの方が新しそうですね」
宗一郎がフロントに行っている間、残った面々はロビーの椅子に座って待つ。
佳子:「随分と線路に近い所だけど、騒音とか大丈夫なのかしら?」
勇太:「そういう所の部屋の方がむしろ空きやすいのかもね。僕はいいんだけど……」
佳子:「そりゃ、勇太は電車好きだからねぇ……」
佳子が苦笑いする。
しばらくして、宗一郎が鍵を3つ持ってきた。
宗一郎:「ツインは父さんと母さんが取って、シングルは勇太とマリアさんだ。それはいいが、ツインは12階でシングルは8階になるそうだが、大丈夫かな?」
勇太:「いいよいいよ」
勇太は鍵を受け取った。
マリアの部屋とは隣り合わせになっている。
宗一郎:「夕食は牛タンでも食べに行こう。フロントで場所を聞いてきたから、それでいいかな?」
勇太:「うん」
4人はエレベーターに乗り込んだ。
宗一郎:「夕食は6時に予約したから、ロビーに5時45分に集まろう」
勇太:「分かった」
8階と12階のボタンを押す。
ホテルのエレベーターにしては珍しく、マンションのエレベーターのように、ドアに窓が付いているタイプだった。
勇太:「じゃ、また後で」
マリア:「失礼シマス」
勇太とマリアは8階でエレベーターを降りた。
勇太:「えーと……ここですね」
マリア:「せっかくの家族旅行が、とんでもないことになってしまって申し訳無い」
勇太:「いえいえ、マリアさんのせいじゃないですよ。悪霊に憑依された人をどうするかって、いつの間に試験にされていたのやら……」
もちろんイリーナが意図したわけではなく、あくまで事件の概要を精査した上で、もしこれが昇格試験だったとしたら落第だと言ったのである。
別に、仕組まれたわけではない……はずだ。
勇太:「昨年泊まったホテルと同じ使い勝手のはずですよ」
マリア:「分かった。それじゃ、また」
……マリアは勇太と別れると、その隣の部屋に入った。
リーズナブルなホテルのせいか、室内の造りはシンプルなものだ。
ドア横にキーを差し込むと、室内の照明が点灯する。
マリアはローブを脱いで室内のクロゼットに掛けると、窓の外を見てみた。
マリア:「おっ?」
窓の外は東北新幹線の高架線があった。
防音窓になっているのか、こっちが静かにしていれば、そんなに通過音が響いてくるわけではない。
駅に近いので、列車自体が速度を落としているからというのもあるだろうが。
マリア:(これは勇太が喜びそうだな)
室内のエアコンは家庭用のものが設置されている。
あと、室内の壁には時計が掛けられていた。
ロビーに集まるまで、あと2時間近くある。
マリア:(シャワーでも浴びて少し休むか。さすがに今、あまりMPが回復していない状態だと……)
MP、マジックポイント。
魔法使いをプレイヤーキャラとして操作できるゲームならお馴染みだが、別にダンテ門流でそのような用語を公式に使っているわけではない。
初出は勇太。
魔法の使用に必要な魔力をゲームでは便宜上数値化しているが、実際は数字で測れるものではない。
その魔力を半ば冗談としてMPと勇太が呼んだ為に、マリアやイリーナが真似をして、エレーナが真似をして……的に広がり、MPという言葉と意味を知っている若い魔道師達まで使うようになった。
いっそのこと、本当に数値化する魔法具でも作ろうかと、魔法具の開発・研究をしているチームが半分本気で言ったくらいである。
そんなことを考えながらマリアは着ている服を脱いで一糸まとわぬ姿になると、早速シャワーを浴びた。
その後で、また服を着るとベッドの上に寝転がったのである。
マリア:「ミカエラ、5時半になったら起こしてね」
ミク人形は人形形態のまま、ライティングデスクの椅子に座った。
そして、女主人の命令にコクコクと頷いたのである。
稲生家とマリアを乗せた仙山線快速電車は、順調に仙台市内を走行をしていた。
愛子駅から先の各駅に停車する度、沿線からの乗客を拾い集めて行く。
4両編成の電車は満席になるばかりでなく、ドア付近などに立ち席客が集中するほどになった。
〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、左側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙石線、仙台空港アクセス線、地下鉄南北線と地下鉄東西線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
首都圏のJR電車の自動放送と同じ声優、そして似た言い回しの自動放送が流れる。
その後で英語放送が流れ、車掌の乗り換え案内放送が流れるのはお約束だ。
運転室からATSの警告音が流れてくるが、これもまたお約束。
電車はゆっくりホームに入線した。
〔せんだい、仙台。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ぞろぞろと乗客達が降りて行く。
勇太達も後から続いた。
勇太:「ホテルはビジネスホテル?」
宗一郎:「ああ。そこしか取れなかったんだ。仕方が無いだろう。温泉は、どこか日帰りの所でも探そう」
今更、スーパー銭湯に行く気にはなれない。
長野への帰り際、大宮の方に行く気はあるけれど。
マリアの体中に付いている痣や傷痕を見た佳子(勇太の母親)は驚いたそうだ。
もちろん、基本的に今は痛みは無い。
だが、何かトラウマに触れたり、過去の悪夢を見るようなことがあれば、傷痕が疼くことはある。
魔道師になれば契約した悪魔との関係からか、普通の人間と比べて極端に体の成長・老化が遅くなる。
これは悪魔にとっても魔道師と契約できれば大きなステータスと考えているようで、簡単に死なれないようにする為の特典であるとされる。
しかしそのせいで、体の治癒力も極端に悪くなる為、そういった傷痕が消えにくいのが短所だ。
魔法使いが回復魔法(ホ◯ミ、べ◯イミ、◯ホマ、ケ◯ル、◯アルガ、ケア◯ラ等)を使えるというのは、こういう所に理由がある。
従って、温泉に入ってそういった傷痕を癒そうというのは、はっきり言って気休めにしかならない。
だが、マリアにとっては、そういった気づかいが嬉しかった。
稲生家の面々とマリアは、正月で混雑する仙台駅構内を西口に向かって進んだ。
[当日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台駅西口中央]
勇太:「よく取れたねぇ……こういう所」
宗一郎:「さすがに秋保温泉とかは無理だった」
勇太:「そうでしょうとも」
マリア:「同じホテルの別の店に行ったことがあるなぁ……」
マリアが稲生に耳打ちした。
稲生は頷いた。
勇太:「確か、仙台駅東口の方でしたよ。向こうより、こっちの方が新しそうですね」
宗一郎がフロントに行っている間、残った面々はロビーの椅子に座って待つ。
佳子:「随分と線路に近い所だけど、騒音とか大丈夫なのかしら?」
勇太:「そういう所の部屋の方がむしろ空きやすいのかもね。僕はいいんだけど……」
佳子:「そりゃ、勇太は電車好きだからねぇ……」
佳子が苦笑いする。
しばらくして、宗一郎が鍵を3つ持ってきた。
宗一郎:「ツインは父さんと母さんが取って、シングルは勇太とマリアさんだ。それはいいが、ツインは12階でシングルは8階になるそうだが、大丈夫かな?」
勇太:「いいよいいよ」
勇太は鍵を受け取った。
マリアの部屋とは隣り合わせになっている。
宗一郎:「夕食は牛タンでも食べに行こう。フロントで場所を聞いてきたから、それでいいかな?」
勇太:「うん」
4人はエレベーターに乗り込んだ。
宗一郎:「夕食は6時に予約したから、ロビーに5時45分に集まろう」
勇太:「分かった」
8階と12階のボタンを押す。
ホテルのエレベーターにしては珍しく、マンションのエレベーターのように、ドアに窓が付いているタイプだった。
勇太:「じゃ、また後で」
マリア:「失礼シマス」
勇太とマリアは8階でエレベーターを降りた。
勇太:「えーと……ここですね」
マリア:「せっかくの家族旅行が、とんでもないことになってしまって申し訳無い」
勇太:「いえいえ、マリアさんのせいじゃないですよ。悪霊に憑依された人をどうするかって、いつの間に試験にされていたのやら……」
もちろんイリーナが意図したわけではなく、あくまで事件の概要を精査した上で、もしこれが昇格試験だったとしたら落第だと言ったのである。
別に、仕組まれたわけではない……はずだ。
勇太:「昨年泊まったホテルと同じ使い勝手のはずですよ」
マリア:「分かった。それじゃ、また」
……マリアは勇太と別れると、その隣の部屋に入った。
リーズナブルなホテルのせいか、室内の造りはシンプルなものだ。
ドア横にキーを差し込むと、室内の照明が点灯する。
マリアはローブを脱いで室内のクロゼットに掛けると、窓の外を見てみた。
マリア:「おっ?」
窓の外は東北新幹線の高架線があった。
防音窓になっているのか、こっちが静かにしていれば、そんなに通過音が響いてくるわけではない。
駅に近いので、列車自体が速度を落としているからというのもあるだろうが。
マリア:(これは勇太が喜びそうだな)
室内のエアコンは家庭用のものが設置されている。
あと、室内の壁には時計が掛けられていた。
ロビーに集まるまで、あと2時間近くある。
マリア:(シャワーでも浴びて少し休むか。さすがに今、あまりMPが回復していない状態だと……)
MP、マジックポイント。
魔法使いをプレイヤーキャラとして操作できるゲームならお馴染みだが、別にダンテ門流でそのような用語を公式に使っているわけではない。
初出は勇太。
魔法の使用に必要な魔力をゲームでは便宜上数値化しているが、実際は数字で測れるものではない。
その魔力を半ば冗談としてMPと勇太が呼んだ為に、マリアやイリーナが真似をして、エレーナが真似をして……的に広がり、MPという言葉と意味を知っている若い魔道師達まで使うようになった。
いっそのこと、本当に数値化する魔法具でも作ろうかと、魔法具の開発・研究をしているチームが半分本気で言ったくらいである。
そんなことを考えながらマリアは着ている服を脱いで一糸まとわぬ姿になると、早速シャワーを浴びた。
その後で、また服を着るとベッドの上に寝転がったのである。
マリア:「ミカエラ、5時半になったら起こしてね」
ミク人形は人形形態のまま、ライティングデスクの椅子に座った。
そして、女主人の命令にコクコクと頷いたのである。