[12月31日13:44.天候:雪 JR山形駅]
大宮からでも3時間以上掛かる山形駅。
雪国育ちのマリアにとって、雪景色はけして物珍しいものではなかった。
ただ、こんな中を雪煙を上げて高速列車が走行していく車窓が珍しかった。
尚、ダンテ一門の多く占めるロシア系達にとっては珍しいことだという。
真冬のシベリアが極寒なのは言わずもがな、しかし雪は降らない。
ガッチガチに凍るだけ。
マリアを“魔の者”からなるべく遠ざける為と称して、極東の国・日本まで来たイリーナだったが、最初は雪を珍しがっていたものの、そのうち嫌になってロシアに帰ろうか迷ったくらいだそうである。
結局、“魔の者”(の手先)は日本にまでやってきた為、あまり意味が無かった。
今は原点回帰なのか何だか分からないが、再びヨーロッパにいる魔女にスポットを当て直したもよう。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、山形です。山形新幹線、大石田、新庄方面、山形線、仙山線、左沢(あてらざわ)線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
勇太:「やっと着いた。てか、雪だぁ……」
宗一郎:「そりゃそうだよ」
父親の宗一郎が息子の感想に苦笑いした。
荷棚から荷物を下ろす。
勇太はマリアの分も下ろした。
マリア:「アリガトウ」
勇太:「いえいえ」
マリアは自動翻訳魔法を切っていた。
日本語では硬い表現となって勇太の耳に入るマリアの言葉。
マリアとしてはそんなに硬い表現をしているつもりはないのだが、どうも直訳される場合が多いらしく、場合によってはイメージダウンになる恐れがある。
そこでマリアは、勇太の両親の前では素の英語または自力で(少し勇太も教えた)学んだ片言の日本語を使うようにしている。
列車は切り欠きホームの1番線に入線した。
これは行き止まりのホームになっており、山形駅止まりの列車が使用する。
そしてまた今度は山形駅始発の上り列車として運転されるわけである。
〔やまがた、山形、山形。ご乗車、ありがとうございました。……〕
県庁所在地の駅なので、周辺の駅と比べれば規模は大きい。
だが、そこは地方の駅。
大規模というわけではないが、それでも駅構内が賑やかなのは、ディーゼルカーも発着しているからだろう。
列車を降りた乗客達は、冷たい風の歓迎を受けることになった。
勇太:「父さん、駅からは何で行くの?」
宗一郎:「バスだな。駅から蔵王温泉までのバスが出ていると聞いた」
勇太:「あんまり本数は多く無さそうだなぁ……」
宗一郎:「スキーシーズンなんだから、それなりにあるだろう」
勇太:「どうかなぁ……?」
勇太は首を傾げた。
そして、その予感は当たっていたのである。
勇太:「……だろうねぇ……」
山形駅の正面は東口。
その駅前にバスプールがある。
そこの1番乗り場から蔵王温泉行きのバスが出ているのだが、本数は1時間に1本ほど。
次のバスは14時20分である。
宗一郎:「これは何という……!」
勇太:「取りあえず、乗車券買ってこよう。てか父さん、そこの案内所の中で休めるんだけどね」
宗一郎:「なにっ?よく知ってるなぁ……」
勇太:「冬休みに大学の合宿で行ったからね」
宗一郎:「そんなこと聞いてないぞ?」
勇太:「うん、言ってないもん」
マリア:「プッ……!」
マリアは稲生親子の会話に吹き出してしまった。
マリア:「あっ、ごめんなさい!つい……」
宗一郎:「いいんだよ。低レベルの会話で申し訳ない」
宗一郎は勇太に向き直る。
宗一郎:「言ってないとはどういう……あれ?どこ行った?」
佳子:「案内所にバスのキップ買いに行ったよ」
宗一郎:「逃げ足の速いヤツだ。ったく、誰に似たのやら……」
マリア:(いいなぁ……。私の両親も、あんな感じだったら……今頃、魔道師なんかやってなかっただろうに……)
[同日14:20.天候:曇 JR山形駅前パスプール→山交バス車内]
ようやくバスが来たが、明らかな旅行客は意外にも少なかった。
スキー客は温泉利用と兼ねているだろう。
そんな観光客は、こんな中途半端な時間に向かおうとは思わないだろう。
午前中には現地に到着して、1日スキーを楽しみ、夕方に宿泊先に入るのがベタな法則であろう。
だから稲生家+αのように、温泉だけ向かうという例は少ないのかもしれない。
その代わり、多かったのは地元の利用者だ。
いくら特急バスと銘打ったところで、特急料金を取るわけではないし、それなりに途中のバス停にも止まるわけだから、地元の利用者も多いのである。
しかし、そこは乗車券も発行される特急バス。
使用車両は一般の路線型ではなく、トイレの無い高速バスタイプだった。
乗車券は持っているが、運賃後払いの為、整理券も取ってしまった勇太。
まあ、SuicaやPasmoを当てようとしなかっただけマシか。
乗り込んで後ろの方の席に座る。
席順は新幹線の時とだいたい一緒。
荷物は再び荷棚に乗せる。
乗客の8割方は地元民っぽいと思われる中、バスは再び小雪が舞ってきた中を出発した。
車内は暖房が効いているので、マリアはローブを脱いだ。
その代わり、これを膝の上に置いて膝掛け代わりにする。
ストッキングははいているが、下がスカートなのでやはり足元が寒いのだろう。
マリア:「どのくらいで着くの?」
マリアが勇太にそっと耳打ちした。
その吐息が耳に掛かった勇太は少しドキッとしながらも、
勇太:「だいたい、40分くらいです」
と、答えた。
バスは除雪されている市街地の中をまずは突き進んだ。
大宮からでも3時間以上掛かる山形駅。
雪国育ちのマリアにとって、雪景色はけして物珍しいものではなかった。
ただ、こんな中を雪煙を上げて高速列車が走行していく車窓が珍しかった。
尚、ダンテ一門の多く占めるロシア系達にとっては珍しいことだという。
真冬のシベリアが極寒なのは言わずもがな、しかし雪は降らない。
ガッチガチに凍るだけ。
マリアを“魔の者”からなるべく遠ざける為と称して、極東の国・日本まで来たイリーナだったが、最初は雪を珍しがっていたものの、そのうち嫌になってロシアに帰ろうか迷ったくらいだそうである。
結局、“魔の者”(の手先)は日本にまでやってきた為、あまり意味が無かった。
今は原点回帰なのか何だか分からないが、再びヨーロッパにいる魔女にスポットを当て直したもよう。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、山形です。山形新幹線、大石田、新庄方面、山形線、仙山線、左沢(あてらざわ)線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
勇太:「やっと着いた。てか、雪だぁ……」
宗一郎:「そりゃそうだよ」
父親の宗一郎が息子の感想に苦笑いした。
荷棚から荷物を下ろす。
勇太はマリアの分も下ろした。
マリア:「アリガトウ」
勇太:「いえいえ」
マリアは自動翻訳魔法を切っていた。
日本語では硬い表現となって勇太の耳に入るマリアの言葉。
マリアとしてはそんなに硬い表現をしているつもりはないのだが、どうも直訳される場合が多いらしく、場合によってはイメージダウンになる恐れがある。
そこでマリアは、勇太の両親の前では素の英語または自力で(少し勇太も教えた)学んだ片言の日本語を使うようにしている。
列車は切り欠きホームの1番線に入線した。
これは行き止まりのホームになっており、山形駅止まりの列車が使用する。
そしてまた今度は山形駅始発の上り列車として運転されるわけである。
〔やまがた、山形、山形。ご乗車、ありがとうございました。……〕
県庁所在地の駅なので、周辺の駅と比べれば規模は大きい。
だが、そこは地方の駅。
大規模というわけではないが、それでも駅構内が賑やかなのは、ディーゼルカーも発着しているからだろう。
列車を降りた乗客達は、冷たい風の歓迎を受けることになった。
勇太:「父さん、駅からは何で行くの?」
宗一郎:「バスだな。駅から蔵王温泉までのバスが出ていると聞いた」
勇太:「あんまり本数は多く無さそうだなぁ……」
宗一郎:「スキーシーズンなんだから、それなりにあるだろう」
勇太:「どうかなぁ……?」
勇太は首を傾げた。
そして、その予感は当たっていたのである。
勇太:「……だろうねぇ……」
山形駅の正面は東口。
その駅前にバスプールがある。
そこの1番乗り場から蔵王温泉行きのバスが出ているのだが、本数は1時間に1本ほど。
次のバスは14時20分である。
宗一郎:「これは何という……!」
勇太:「取りあえず、乗車券買ってこよう。てか父さん、そこの案内所の中で休めるんだけどね」
宗一郎:「なにっ?よく知ってるなぁ……」
勇太:「冬休みに大学の合宿で行ったからね」
宗一郎:「そんなこと聞いてないぞ?」
勇太:「うん、言ってないもん」
マリア:「プッ……!」
マリアは稲生親子の会話に吹き出してしまった。
マリア:「あっ、ごめんなさい!つい……」
宗一郎:「いいんだよ。低レベルの会話で申し訳ない」
宗一郎は勇太に向き直る。
宗一郎:「言ってないとはどういう……あれ?どこ行った?」
佳子:「案内所にバスのキップ買いに行ったよ」
宗一郎:「逃げ足の速いヤツだ。ったく、誰に似たのやら……」
マリア:(いいなぁ……。私の両親も、あんな感じだったら……今頃、魔道師なんかやってなかっただろうに……)
[同日14:20.天候:曇 JR山形駅前パスプール→山交バス車内]
ようやくバスが来たが、明らかな旅行客は意外にも少なかった。
スキー客は温泉利用と兼ねているだろう。
そんな観光客は、こんな中途半端な時間に向かおうとは思わないだろう。
午前中には現地に到着して、1日スキーを楽しみ、夕方に宿泊先に入るのがベタな法則であろう。
だから稲生家+αのように、温泉だけ向かうという例は少ないのかもしれない。
その代わり、多かったのは地元の利用者だ。
いくら特急バスと銘打ったところで、特急料金を取るわけではないし、それなりに途中のバス停にも止まるわけだから、地元の利用者も多いのである。
しかし、そこは乗車券も発行される特急バス。
使用車両は一般の路線型ではなく、トイレの無い高速バスタイプだった。
乗車券は持っているが、運賃後払いの為、整理券も取ってしまった勇太。
まあ、SuicaやPasmoを当てようとしなかっただけマシか。
乗り込んで後ろの方の席に座る。
席順は新幹線の時とだいたい一緒。
荷物は再び荷棚に乗せる。
乗客の8割方は地元民っぽいと思われる中、バスは再び小雪が舞ってきた中を出発した。
車内は暖房が効いているので、マリアはローブを脱いだ。
その代わり、これを膝の上に置いて膝掛け代わりにする。
ストッキングははいているが、下がスカートなのでやはり足元が寒いのだろう。
マリア:「どのくらいで着くの?」
マリアが勇太にそっと耳打ちした。
その吐息が耳に掛かった勇太は少しドキッとしながらも、
勇太:「だいたい、40分くらいです」
と、答えた。
バスは除雪されている市街地の中をまずは突き進んだ。