報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「家族旅行当日」 2

2017-01-10 21:14:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日13:44.天候:雪 JR山形駅]

 大宮からでも3時間以上掛かる山形駅。
 雪国育ちのマリアにとって、雪景色はけして物珍しいものではなかった。
 ただ、こんな中を雪煙を上げて高速列車が走行していく車窓が珍しかった。
 尚、ダンテ一門の多く占めるロシア系達にとっては珍しいことだという。
 真冬のシベリアが極寒なのは言わずもがな、しかし雪は降らない。
 ガッチガチに凍るだけ。
 マリアを“魔の者”からなるべく遠ざける為と称して、極東の国・日本まで来たイリーナだったが、最初は雪を珍しがっていたものの、そのうち嫌になってロシアに帰ろうか迷ったくらいだそうである。
 結局、“魔の者”(の手先)は日本にまでやってきた為、あまり意味が無かった。
 今は原点回帰なのか何だか分からないが、再びヨーロッパにいる魔女にスポットを当て直したもよう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、山形です。山形新幹線、大石田、新庄方面、山形線、仙山線、左沢(あてらざわ)線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 勇太:「やっと着いた。てか、雪だぁ……」
 宗一郎:「そりゃそうだよ」

 父親の宗一郎が息子の感想に苦笑いした。
 荷棚から荷物を下ろす。
 勇太はマリアの分も下ろした。

 マリア:「アリガトウ」
 勇太:「いえいえ」

 マリアは自動翻訳魔法を切っていた。
 日本語では硬い表現となって勇太の耳に入るマリアの言葉。
 マリアとしてはそんなに硬い表現をしているつもりはないのだが、どうも直訳される場合が多いらしく、場合によってはイメージダウンになる恐れがある。
 そこでマリアは、勇太の両親の前では素の英語または自力で(少し勇太も教えた)学んだ片言の日本語を使うようにしている。

 列車は切り欠きホームの1番線に入線した。
 これは行き止まりのホームになっており、山形駅止まりの列車が使用する。
 そしてまた今度は山形駅始発の上り列車として運転されるわけである。

〔やまがた、山形、山形。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 県庁所在地の駅なので、周辺の駅と比べれば規模は大きい。
 だが、そこは地方の駅。
 大規模というわけではないが、それでも駅構内が賑やかなのは、ディーゼルカーも発着しているからだろう。
 列車を降りた乗客達は、冷たい風の歓迎を受けることになった。

 勇太:「父さん、駅からは何で行くの?」
 宗一郎:「バスだな。駅から蔵王温泉までのバスが出ていると聞いた」
 勇太:「あんまり本数は多く無さそうだなぁ……」
 宗一郎:「スキーシーズンなんだから、それなりにあるだろう」
 勇太:「どうかなぁ……?」

 勇太は首を傾げた。
 そして、その予感は当たっていたのである。

 勇太:「……だろうねぇ……」

 山形駅の正面は東口。
 その駅前にバスプールがある。
 そこの1番乗り場から蔵王温泉行きのバスが出ているのだが、本数は1時間に1本ほど。
 次のバスは14時20分である。

 宗一郎:「これは何という……!」
 勇太:「取りあえず、乗車券買ってこよう。てか父さん、そこの案内所の中で休めるんだけどね」
 宗一郎:「なにっ?よく知ってるなぁ……」
 勇太:「冬休みに大学の合宿で行ったからね」
 宗一郎:「そんなこと聞いてないぞ?」
 勇太:「うん、言ってないもん」
 マリア:「プッ……!」

 マリアは稲生親子の会話に吹き出してしまった。

 マリア:「あっ、ごめんなさい!つい……
 宗一郎:「いいんだよ。低レベルの会話で申し訳ない

 宗一郎は勇太に向き直る。

 宗一郎:「言ってないとはどういう……あれ?どこ行った?」
 佳子:「案内所にバスのキップ買いに行ったよ」
 宗一郎:「逃げ足の速いヤツだ。ったく、誰に似たのやら……」
 マリア:(いいなぁ……。私の両親も、あんな感じだったら……今頃、魔道師なんかやってなかっただろうに……)

[同日14:20.天候:曇 JR山形駅前パスプール→山交バス車内]

 ようやくバスが来たが、明らかな旅行客は意外にも少なかった。
 スキー客は温泉利用と兼ねているだろう。
 そんな観光客は、こんな中途半端な時間に向かおうとは思わないだろう。
 午前中には現地に到着して、1日スキーを楽しみ、夕方に宿泊先に入るのがベタな法則であろう。
 だから稲生家+αのように、温泉だけ向かうという例は少ないのかもしれない。
 その代わり、多かったのは地元の利用者だ。
 いくら特急バスと銘打ったところで、特急料金を取るわけではないし、それなりに途中のバス停にも止まるわけだから、地元の利用者も多いのである。
 しかし、そこは乗車券も発行される特急バス。
 使用車両は一般の路線型ではなく、トイレの無い高速バスタイプだった。
 乗車券は持っているが、運賃後払いの為、整理券も取ってしまった勇太。
 まあ、SuicaやPasmoを当てようとしなかっただけマシか。
 乗り込んで後ろの方の席に座る。
 席順は新幹線の時とだいたい一緒。
 荷物は再び荷棚に乗せる。
 乗客の8割方は地元民っぽいと思われる中、バスは再び小雪が舞ってきた中を出発した。
 車内は暖房が効いているので、マリアはローブを脱いだ。
 その代わり、これを膝の上に置いて膝掛け代わりにする。
 ストッキングははいているが、下がスカートなのでやはり足元が寒いのだろう。

 マリア:「どのくらいで着くの?」

 マリアが勇太にそっと耳打ちした。
 その吐息が耳に掛かった勇太は少しドキッとしながらも、

 勇太:「だいたい、40分くらいです」

 と、答えた。
 バスは除雪されている市街地の中をまずは突き進んだ。
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“大魔道師の弟子” 「家族旅行当日」

2017-01-10 19:38:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日10:45.天候:晴 埼玉県さいたま市・稲生家]
(稲生家が複数で行動する為、これより稲生家の者に限り、下の名前表記とする)

 初期の“ホーム・アローン”シリーズでは、旅行当日に寝坊した家族に置いてきぼりにされた少年が主人公であった。
 ここではどうなのかというと……。

 マリア:「タクシーが来ました!」(英語は和訳して斜字でお送りします)

 マリアが英語で稲生家の面々に伝える。
 尚、マリアは稲生の両親の前では自動翻訳魔法を使うのをやめている。
 素の英語か、片言の日本語かを使い分けることにしている。
 長野の屋敷でもそれでいいじゃないかと思うだろうが、今度は他の魔道師が英語も分からないロシア圏出身者が多いものだから、自動翻訳魔法を使っている方が便利だったりする。

 勇太:「はーい!父さん、急いで!」
 宗一郎:「まだPCの充電が済んでいない」
 勇太:「そんなの新幹線の中で充電すればいいじゃない!」
 宗一郎:「そうだった。母さんはどうだ?」
 佳子:「いつでもOKよ」
 勇太:「早っ!じゃあ、早く行こうよ」

 マカリスター家ほどではないが、なかなか慌しい一家なのであった。
 マリアが助手席に座ろうとすると、宗一郎が制した。

 宗一郎:「いいんだ、マリアさん。連れて行くのは私なんだから、キミは後ろに乗りなさい
 マリア:「でも、今回は家族旅行……
 宗一郎:「言っただろう?『キミも“家族だ”』と
 マリア:「あ、はい……

 マリアは後ろに座った。
 勇太が真ん中になる。

 宗一郎:「大宮駅までよろしく。あー、西口で」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 稲生家とマリアを乗せたタクシーは、ようやく稲生家の前を出発した。

 勇太:「山形は相当な雪みたいだよ」。
 宗一郎:「そりゃそうさ。スキーシーズンなんだから。長野もそうだろう?」
 勇太:「まあね」

 さいたま市は今日も晴れで、積雪は一切なし!

[同日11:00.天候:晴 JR大宮駅・コンコース]

 タクシーは西口の車寄せに到着した。
 タクシープールがいっぱいの場合、そこの車寄せに近づけないので、プールの脇に止まることがある。
 車寄せに止まれれば、あとはエスカレーターやエレベーターが目の前である。
 エスカレーターで2階に上がり、改札口に入る。
 それからすぐ先の新幹線改札口にも入った。

 宗一郎:「まだ時間があるから、弁当でも買ってきなさい。マリアさんの分も」

 宗一郎は財布から紙幣を出すと、勇太に渡した。

 勇太:「ありがとう。行きましょう、マリアさん」
 マリア:「Year...」

 さすがに売店で2人きりになると、マリアは自動翻訳魔法を入れた。

 マリア:「随分と優しいお父様だ。羨ましいよ」
 勇太:「何でも父親も昔、学生だった頃に白人の留学生に一目惚れしたことがあったみたいですよ。結局、叶わなかったみたいですけど」
 マリア:「そうなのか」
 勇太:「そういうこともあって、僕とマリアさんはせめて是非……というのがあるみたいですよ」
 マリア:「そうなのか。……まさか、お父様が好きになった白人ってのも魔道師だったりして?」
 勇太:「だとしたら、凄い偶然ですね。でも、カナダ人らしいですよ」
 マリア:「カナダかぁ……。ダンテ一門にいたかなぁ……?」

 マリアは首を傾げた。
 ただ、マリアがパッと思いつかないのだから、恐らくいないのだろう。
 南北アメリカ方面には、あまりそちら出身の魔道師はいないもようだ。
 仕事柄、行くことはあるにしてもだ。

 マリア:「あ……クリスマスプレゼント、ありがとう。早速、使わせてもらってるよ」

 マリアはそう言って、頭のカチューシャを指差した。
 赤を基調としたものである。
 マリアのようなストレート・ボブだと、これを着けている魔女は多い。
 中には改造して、魔法具を仕込む者もいるという。

 勇太:「いえいえ。マリアさんには僕のイメージが浮かんだから良かったですけど、イリーナ先生は難しかったですねぇ……」
 マリア:「そりゃそうだろう。師匠は1000年以上も生きてるし……。でも、ブローチに落ち着いたんだ?」
 勇太:「ええ。あれ、魔法具じゃなかったんですね」
 マリア:「私も意外だった、あれは」

 イリーナが普段着ているピンク色のドレスコート。
 腰のベルトには魔法具を着けているのは知っていたが、右胸に着けているブローチも何かの魔法具だと思っていたのだ。
 勇太は魔道師のことだから、元は普通の装飾品だとしても、それを魔法具に改造しているに違いないと思った。
 だから渡す時、『魔法具の材料に使ってください』と渡した。
 イリーナは最初何のことだか分からず、きょとんとしていたが、勇太から説明を受けた時、ようやく普段着けているブローチの代わりだということに気づいた。
 そこでそのブローチは魔法具でも何でもない普通のブローチで、胸元が寂しいから着けているだけだと話した。
 そして再び目を細め、あえてロシア語で礼を言ったのだった。

 勇太:「おっと!早いとこ、弁当買わないと」
 マリア:「ご両親の分は?」
 勇太:「2人とも大宮弁当でいいはずです」
 マリア:「さすが分かってるな」

 あとは2人とも、自分の好きな弁当を購入した。

[同日11:25.天候:晴 JR大宮駅・新幹線ホーム]

 新幹線ホームは帰省ラッシュのピークである一昨日や昨日と比べれば落ち着いているのだろうが、それでも普段の土休日よりは多くの人出で賑わっていた。
 自由席に長蛇の列ができているのは序の口である。

〔17番線に11時25分発、“やまびこ”135号、仙台行きと“つばさ”135号、山形行きが17両編成で参ります。黄色い線まで、お下がりください。……〕

 勇太達は11号車の列に並んでいる。
 これは山形新幹線のグリーン車が来る位置だ。

 宗一郎:「マリアさん、カツサンドだけでいいのかい?遠慮しないで好きなもの頼んで良かったんだよ?
 マリア:「いえ、私はこれだけで結構です

 マリアは体質上、食べても体の肉付きが良くならない方である。
 せめてそれなら身長が高くなっても良さそうなのだが、それも無理だった。
 悪魔と契約した際の副作用かもしれないが、当のベルフェゴールは否定している。

 勇太:「来た来た。E3系だ」

 山形新幹線を前にして、2つの列車が入線してくる。
 このように行き先の違う短編成同士を連結させて運行させる新幹線は、今のところJR東日本だけである。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや~、大宮です。17番線に到着の電車は11時26分発、東北新幹線“やまびこ”135号、仙台行きと山形新幹線“つばさ”号、山形行きです。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。次は、宇都宮に止まります」〕

 グリーン車は空いていたが、稲生達を含む大宮駅からの乗客で満席になったようだ。

 勇太:「向かい合わせにする?」
 宗一郎:「いや、2人で仲良くやりなさい」

 そう言って両親は勇太達のすぐ前の席に座った。
 勇太とマリアがその後ろの席に座ると、すぐに列車は走り出していた。
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