[12月30日04:00.天候:曇 東京中央学園上野高校・屋内プール]
夏場なら、そろそろ東の空が白みつつあるだろうか。
しかし、こんな真冬の時季ではそんなことは無い。
吹き荒ぶ寒風の中、稲生達はプールに向かった。
公立高校なら屋外プールで、水泳部もこの時季は練習できまい。
しかし、私立高校である東京中央学園ではそんなことはなかった。
屋内にプールがあり、しかも温水プールになっていて、冬でも水泳部は活動できるのである。
キノ:「ユタ、ここでの怖い話の内容は?」
稲生:「うん。女子水泳部の怖い話なんだけど、何でも昔、とても泳ぎの上手い期待のホープがいたんだって。でも、事故で死んじゃったらしいんだ。簡単に言えば、その女子水泳部員が化けて出てくるという話なんだけど……」
キノ:「プールのどの辺だ?……それが女子更衣室ってことか?」
稲生:「うん。その部員が使っていたロッカーが、今や呪われた開かずのロッカーになってるんだってさ。今や、開けるだけで呪われるという噂があるみたいだよ」
キノ:「ある意味、オーソドックスな内容の怪談だな。ま、幽霊なら獄卒のオレに任せてくれりゃいい。さっきの逆さ女みてぇなのが出てきたら、ユタに任すぞ」
稲生:「ええっ?」
キノ:「オマエ、さんざっぱらボコしただろうが」
稲生:「だって、腹が立ったんだ。何人もの人間を食い殺したくせに……。まさか、キミも!?」
キノ:「おいおい、オレは獄卒だぜ?罪人どもを痛めつけはするが、食ったりはしねーよ。ただまあ、食ってみたらどんな味がするだろうなっつー好奇心はあるがな」
そう言いつつ、キノは背中に冷や汗を流していた。
キノ:(なるほど。イブキの気持ちが少しは分かるってもんだ。こんな、ザコ妖怪にも殺されそうな気弱な人間なのに、何故かナメたマネができねぇ。しようとすると、逆にこっちが痛い目に遭いそうな……そんな気がするって感じか)
稲生:「威吹だって人喰い妖狐だったんだ。だけど、さくらさんに負けた時、潔く死を覚悟したそうだよ」
キノ:「話を盛ってやがんなー。慌てて逃げ出したって、鬼族には伝わってるぞ」
稲生:「いずれにせよ、醜く命乞いなんてしなかった。威吹はそうだったのに、あの逆さ女は……っ!」
キノ:(命乞いさせてもらえるほどの余裕が無かったってことだと思うが、あんまり言わねー方がいいパティーンだな、こりゃ)
マリア:「ユウタ。女子更衣室はここでいいのか?」
マリアはとあるドアの前で立ち止まった。
マリア:「あまり、漢字まではよく分からないんだ」
自動翻訳魔法は言葉を自動翻訳するものであって、文字までは翻訳しない。
その時には、専用の眼鏡を掛けることになる。
稲生:「あ、そうですね。ここです」
稲生が肯定すると、マリアは再び開錠魔法で鍵を開けた。
水泳部用と授業用のロッカーも合わさっている為か、その数は意外と多い。
恐らく怪談と連動しているところを見ると、幽霊化した水泳部員のロッカーを開ければ良いのだろう。
しかし、さすがにどこかまでは分からない。
片っ端から開ける必要があるのか……。
キノ:「江蓮ーっ!どこだよーっ!?」
キノは更衣室の中で江蓮に呼び掛けた。
呼び掛けて答えられるわけが……。
ドンッ!
稲生:「!?」
マリア:「What!?」
キノ:「何だ、今の音?聞こえたか?」
それはステンレス製のロッカーに、何かがぶつかる音だった。
キノは長く尖った耳(エルフ耳)をヒクつかせた。
キノ:「あっちだ」
キノは奥のロッカーを指さした。
緊張した面持ちで3人は音のした方へ向かう。
今度はキノが先頭だった。
そして、1番端のロッカーの所まで向かう。
江蓮:「んー!んー!」
そこに江蓮はいた。
両手・両足を縛られ、猿ぐつわをされている。
キノ:「江蓮!!」
キノが江蓮に駆け寄ろうとした時だった。
バァン!
稲生:「あっ!?」
江蓮の横のロッカーが内側から開けられた。
そこから腐った手が2本伸びてきて、江蓮を掴んだ。
キノ:「てめぇっ!!」
ロッカーの中から姿を現したそいつは、競泳水着を着ていた。
どうやら、これが部活中に溺死したという部員の幽霊らしい。
キノが斬り掛かるより先に、幽霊が江蓮をロッカー内に引きずり込むのが先だった。
そして、また乱暴にパタン!とドアが閉められた。
キノ:「待ちやがれ!!」
キノは刀で扉を切り開いた。
稲生:「ええっ!?」
そしてキノはその中に飛び込んだ。
稲生がロッカーを覗くと、中には漆黒の闇があった。
稲生:「魔界の穴ですか!?」
マリア:「いや、それとはまた違う……」
稲生達が飛び込むのを躊躇っていると、そのロッカーの中の闇がブワッと稲生達を包み込んだ。
マリア:「しまっ……!」
稲生:「な、何だ!?」
稲生の意識は、ここで一旦飛ぶ。
稲生:「う……」
稲生が次に目を覚ました時、そこは闇の中だった。
やはり、どこかの異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
痛む体に鞭打ちながら、何とか上半身だけ起こしてみた。
何かの気配がすると思って、よく目を凝らしてみると、そこにはキノがいた。
刀を構え、険しい顔をして立っている。
しかしそれは、稲生に向けられてはいない。
稲生から見て、右の方を見ていた。
そうしているうちに、段々と目が慣れてくる。
どうやら、異世界にいたのではなかった。
ここは体育館だった。
照明は点いていないので、明かりと言えば非常口誘導灯の緑色のそれと消火栓の赤ランプ、そして窓から差し込む外灯の明かりくらいだった。
稲生がようやく起き上がると、キノが何に向かって立っているのかが分かった。
体育館の中には、大きな鏡がある。
普段は扉で閉ざされているが。
それが開いていて、キノはその鏡を睨みつけていたのだった。
稲生:「一体、何が?」
キノ:「出てきやがれっ!」
大きな鏡の向かって左側には、縛めは解かれているものの、鏡の中に閉じ込められている江蓮がいた。
そして向かって右側には、マリアがいた。
稲生:「マリアさん!?」
マリアが悔しそうな顔をしていることから、マリアも捕らえられたらしい。
そして鏡の中央から、ヤツは現れた。
稲生:「うわっ!?」
それは身の丈3メートルはあるような者で、黒いローブを羽織り、フードを深く被っていた。
これだけならどこぞの魔道師と思うかもしれないが、ローブから覗く顔はガイコツそのもので、しかも手には一振りの大きな鎌を持っていた。
まるで、死神のような出で立ちだった。
稲生は驚愕を隠し切れなかったが、キノは怯むことなく刀の切っ先を死神のようなヤツに向けている。
地獄界の獄卒と死神(?)のガチンコ勝負が、今ここに始まろうとしている……!
夏場なら、そろそろ東の空が白みつつあるだろうか。
しかし、こんな真冬の時季ではそんなことは無い。
吹き荒ぶ寒風の中、稲生達はプールに向かった。
公立高校なら屋外プールで、水泳部もこの時季は練習できまい。
しかし、私立高校である東京中央学園ではそんなことはなかった。
屋内にプールがあり、しかも温水プールになっていて、冬でも水泳部は活動できるのである。
キノ:「ユタ、ここでの怖い話の内容は?」
稲生:「うん。女子水泳部の怖い話なんだけど、何でも昔、とても泳ぎの上手い期待のホープがいたんだって。でも、事故で死んじゃったらしいんだ。簡単に言えば、その女子水泳部員が化けて出てくるという話なんだけど……」
キノ:「プールのどの辺だ?……それが女子更衣室ってことか?」
稲生:「うん。その部員が使っていたロッカーが、今や呪われた開かずのロッカーになってるんだってさ。今や、開けるだけで呪われるという噂があるみたいだよ」
キノ:「ある意味、オーソドックスな内容の怪談だな。ま、幽霊なら獄卒のオレに任せてくれりゃいい。さっきの逆さ女みてぇなのが出てきたら、ユタに任すぞ」
稲生:「ええっ?」
キノ:「オマエ、さんざっぱらボコしただろうが」
稲生:「だって、腹が立ったんだ。何人もの人間を食い殺したくせに……。まさか、キミも!?」
キノ:「おいおい、オレは獄卒だぜ?罪人どもを痛めつけはするが、食ったりはしねーよ。ただまあ、食ってみたらどんな味がするだろうなっつー好奇心はあるがな」
そう言いつつ、キノは背中に冷や汗を流していた。
キノ:(なるほど。イブキの気持ちが少しは分かるってもんだ。こんな、ザコ妖怪にも殺されそうな気弱な人間なのに、何故かナメたマネができねぇ。しようとすると、逆にこっちが痛い目に遭いそうな……そんな気がするって感じか)
稲生:「威吹だって人喰い妖狐だったんだ。だけど、さくらさんに負けた時、潔く死を覚悟したそうだよ」
キノ:「話を盛ってやがんなー。慌てて逃げ出したって、鬼族には伝わってるぞ」
稲生:「いずれにせよ、醜く命乞いなんてしなかった。威吹はそうだったのに、あの逆さ女は……っ!」
キノ:(命乞いさせてもらえるほどの余裕が無かったってことだと思うが、あんまり言わねー方がいいパティーンだな、こりゃ)
マリア:「ユウタ。女子更衣室はここでいいのか?」
マリアはとあるドアの前で立ち止まった。
マリア:「あまり、漢字まではよく分からないんだ」
自動翻訳魔法は言葉を自動翻訳するものであって、文字までは翻訳しない。
その時には、専用の眼鏡を掛けることになる。
稲生:「あ、そうですね。ここです」
稲生が肯定すると、マリアは再び開錠魔法で鍵を開けた。
水泳部用と授業用のロッカーも合わさっている為か、その数は意外と多い。
恐らく怪談と連動しているところを見ると、幽霊化した水泳部員のロッカーを開ければ良いのだろう。
しかし、さすがにどこかまでは分からない。
片っ端から開ける必要があるのか……。
キノ:「江蓮ーっ!どこだよーっ!?」
キノは更衣室の中で江蓮に呼び掛けた。
呼び掛けて答えられるわけが……。
ドンッ!
稲生:「!?」
マリア:「What!?」
キノ:「何だ、今の音?聞こえたか?」
それはステンレス製のロッカーに、何かがぶつかる音だった。
キノは長く尖った耳(エルフ耳)をヒクつかせた。
キノ:「あっちだ」
キノは奥のロッカーを指さした。
緊張した面持ちで3人は音のした方へ向かう。
今度はキノが先頭だった。
そして、1番端のロッカーの所まで向かう。
江蓮:「んー!んー!」
そこに江蓮はいた。
両手・両足を縛られ、猿ぐつわをされている。
キノ:「江蓮!!」
キノが江蓮に駆け寄ろうとした時だった。
バァン!
稲生:「あっ!?」
江蓮の横のロッカーが内側から開けられた。
そこから腐った手が2本伸びてきて、江蓮を掴んだ。
キノ:「てめぇっ!!」
ロッカーの中から姿を現したそいつは、競泳水着を着ていた。
どうやら、これが部活中に溺死したという部員の幽霊らしい。
キノが斬り掛かるより先に、幽霊が江蓮をロッカー内に引きずり込むのが先だった。
そして、また乱暴にパタン!とドアが閉められた。
キノ:「待ちやがれ!!」
キノは刀で扉を切り開いた。
稲生:「ええっ!?」
そしてキノはその中に飛び込んだ。
稲生がロッカーを覗くと、中には漆黒の闇があった。
稲生:「魔界の穴ですか!?」
マリア:「いや、それとはまた違う……」
稲生達が飛び込むのを躊躇っていると、そのロッカーの中の闇がブワッと稲生達を包み込んだ。
マリア:「しまっ……!」
稲生:「な、何だ!?」
稲生の意識は、ここで一旦飛ぶ。
稲生:「う……」
稲生が次に目を覚ました時、そこは闇の中だった。
やはり、どこかの異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
痛む体に鞭打ちながら、何とか上半身だけ起こしてみた。
何かの気配がすると思って、よく目を凝らしてみると、そこにはキノがいた。
刀を構え、険しい顔をして立っている。
しかしそれは、稲生に向けられてはいない。
稲生から見て、右の方を見ていた。
そうしているうちに、段々と目が慣れてくる。
どうやら、異世界にいたのではなかった。
ここは体育館だった。
照明は点いていないので、明かりと言えば非常口誘導灯の緑色のそれと消火栓の赤ランプ、そして窓から差し込む外灯の明かりくらいだった。
稲生がようやく起き上がると、キノが何に向かって立っているのかが分かった。
体育館の中には、大きな鏡がある。
普段は扉で閉ざされているが。
それが開いていて、キノはその鏡を睨みつけていたのだった。
稲生:「一体、何が?」
キノ:「出てきやがれっ!」
大きな鏡の向かって左側には、縛めは解かれているものの、鏡の中に閉じ込められている江蓮がいた。
そして向かって右側には、マリアがいた。
稲生:「マリアさん!?」
マリアが悔しそうな顔をしていることから、マリアも捕らえられたらしい。
そして鏡の中央から、ヤツは現れた。
稲生:「うわっ!?」
それは身の丈3メートルはあるような者で、黒いローブを羽織り、フードを深く被っていた。
これだけならどこぞの魔道師と思うかもしれないが、ローブから覗く顔はガイコツそのもので、しかも手には一振りの大きな鎌を持っていた。
まるで、死神のような出で立ちだった。
稲生は驚愕を隠し切れなかったが、キノは怯むことなく刀の切っ先を死神のようなヤツに向けている。
地獄界の獄卒と死神(?)のガチンコ勝負が、今ここに始まろうとしている……!