報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「プールへ、そして体育館へ」

2017-01-05 19:35:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日04:00.天候:曇 東京中央学園上野高校・屋内プール]

 夏場なら、そろそろ東の空が白みつつあるだろうか。
 しかし、こんな真冬の時季ではそんなことは無い。
 吹き荒ぶ寒風の中、稲生達はプールに向かった。
 公立高校なら屋外プールで、水泳部もこの時季は練習できまい。
 しかし、私立高校である東京中央学園ではそんなことはなかった。
 屋内にプールがあり、しかも温水プールになっていて、冬でも水泳部は活動できるのである。

 キノ:「ユタ、ここでの怖い話の内容は?」
 稲生:「うん。女子水泳部の怖い話なんだけど、何でも昔、とても泳ぎの上手い期待のホープがいたんだって。でも、事故で死んじゃったらしいんだ。簡単に言えば、その女子水泳部員が化けて出てくるという話なんだけど……」
 キノ:「プールのどの辺だ?……それが女子更衣室ってことか?」
 稲生:「うん。その部員が使っていたロッカーが、今や呪われた開かずのロッカーになってるんだってさ。今や、開けるだけで呪われるという噂があるみたいだよ」
 キノ:「ある意味、オーソドックスな内容の怪談だな。ま、幽霊なら獄卒のオレに任せてくれりゃいい。さっきの逆さ女みてぇなのが出てきたら、ユタに任すぞ」
 稲生:「ええっ?」
 キノ:「オマエ、さんざっぱらボコしただろうが」
 稲生:「だって、腹が立ったんだ。何人もの人間を食い殺したくせに……。まさか、キミも!?」
 キノ:「おいおい、オレは獄卒だぜ?罪人どもを痛めつけはするが、食ったりはしねーよ。ただまあ、食ってみたらどんな味がするだろうなっつー好奇心はあるがな」

 そう言いつつ、キノは背中に冷や汗を流していた。

 キノ:(なるほど。イブキの気持ちが少しは分かるってもんだ。こんな、ザコ妖怪にも殺されそうな気弱な人間なのに、何故かナメたマネができねぇ。しようとすると、逆にこっちが痛い目に遭いそうな……そんな気がするって感じか)
 稲生:「威吹だって人喰い妖狐だったんだ。だけど、さくらさんに負けた時、潔く死を覚悟したそうだよ」
 キノ:「話を盛ってやがんなー。慌てて逃げ出したって、鬼族には伝わってるぞ」
 稲生:「いずれにせよ、醜く命乞いなんてしなかった。威吹はそうだったのに、あの逆さ女は……っ!」
 キノ:(命乞いさせてもらえるほどの余裕が無かったってことだと思うが、あんまり言わねー方がいいパティーンだな、こりゃ)
 マリア:「ユウタ。女子更衣室はここでいいのか?」

 マリアはとあるドアの前で立ち止まった。

 マリア:「あまり、漢字まではよく分からないんだ」

 自動翻訳魔法は言葉を自動翻訳するものであって、文字までは翻訳しない。
 その時には、専用の眼鏡を掛けることになる。

 稲生:「あ、そうですね。ここです」

 稲生が肯定すると、マリアは再び開錠魔法で鍵を開けた。
 水泳部用と授業用のロッカーも合わさっている為か、その数は意外と多い。
 恐らく怪談と連動しているところを見ると、幽霊化した水泳部員のロッカーを開ければ良いのだろう。
 しかし、さすがにどこかまでは分からない。
 片っ端から開ける必要があるのか……。

 キノ:「江蓮ーっ!どこだよーっ!?」

 キノは更衣室の中で江蓮に呼び掛けた。
 呼び掛けて答えられるわけが……。

 ドンッ!

 稲生:「!?」
 マリア:「What!?」
 キノ:「何だ、今の音?聞こえたか?」

 それはステンレス製のロッカーに、何かがぶつかる音だった。
 キノは長く尖った耳(エルフ耳)をヒクつかせた。

 キノ:「あっちだ」

 キノは奥のロッカーを指さした。
 緊張した面持ちで3人は音のした方へ向かう。
 今度はキノが先頭だった。
 そして、1番端のロッカーの所まで向かう。

 江蓮:「んー!んー!」

 そこに江蓮はいた。
 両手・両足を縛られ、猿ぐつわをされている。

 キノ:「江蓮!!」

 キノが江蓮に駆け寄ろうとした時だった。

 バァン!

 稲生:「あっ!?」

 江蓮の横のロッカーが内側から開けられた。
 そこから腐った手が2本伸びてきて、江蓮を掴んだ。

 キノ:「てめぇっ!!」

 ロッカーの中から姿を現したそいつは、競泳水着を着ていた。
 どうやら、これが部活中に溺死したという部員の幽霊らしい。
 キノが斬り掛かるより先に、幽霊が江蓮をロッカー内に引きずり込むのが先だった。
 そして、また乱暴にパタン!とドアが閉められた。

 キノ:「待ちやがれ!!」

 キノは刀で扉を切り開いた。

 稲生:「ええっ!?」

 そしてキノはその中に飛び込んだ。
 稲生がロッカーを覗くと、中には漆黒の闇があった。

 稲生:「魔界の穴ですか!?」
 マリア:「いや、それとはまた違う……」

 稲生達が飛び込むのを躊躇っていると、そのロッカーの中の闇がブワッと稲生達を包み込んだ。

 マリア:「しまっ……!」
 稲生:「な、何だ!?」

 稲生の意識は、ここで一旦飛ぶ。

 稲生:「う……」

 稲生が次に目を覚ました時、そこは闇の中だった。
 やはり、どこかの異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
 痛む体に鞭打ちながら、何とか上半身だけ起こしてみた。
 何かの気配がすると思って、よく目を凝らしてみると、そこにはキノがいた。
 刀を構え、険しい顔をして立っている。
 しかしそれは、稲生に向けられてはいない。
 稲生から見て、右の方を見ていた。
 そうしているうちに、段々と目が慣れてくる。
 どうやら、異世界にいたのではなかった。
 ここは体育館だった。
 照明は点いていないので、明かりと言えば非常口誘導灯の緑色のそれと消火栓の赤ランプ、そして窓から差し込む外灯の明かりくらいだった。
 稲生がようやく起き上がると、キノが何に向かって立っているのかが分かった。
 体育館の中には、大きな鏡がある。
 普段は扉で閉ざされているが。 
 それが開いていて、キノはその鏡を睨みつけていたのだった。

 稲生:「一体、何が?」
 キノ:「出てきやがれっ!」

 大きな鏡の向かって左側には、縛めは解かれているものの、鏡の中に閉じ込められている江蓮がいた。
 そして向かって右側には、マリアがいた。

 稲生:「マリアさん!?」

 マリアが悔しそうな顔をしていることから、マリアも捕らえられたらしい。

 そして鏡の中央から、ヤツは現れた。

 稲生:「うわっ!?」

 それは身の丈3メートルはあるような者で、黒いローブを羽織り、フードを深く被っていた。
 これだけならどこぞの魔道師と思うかもしれないが、ローブから覗く顔はガイコツそのもので、しかも手には一振りの大きな鎌を持っていた。
 まるで、死神のような出で立ちだった。
 稲生は驚愕を隠し切れなかったが、キノは怯むことなく刀の切っ先を死神のようなヤツに向けている。

 地獄界の獄卒と死神(?)のガチンコ勝負が、今ここに始まろうとしている……!
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“大魔道師の弟子” 「逆さ女はサスペンデッドより弱かった」

2017-01-05 13:25:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日03:30.天候:曇 東京中央学園上野高校・新校舎]

 稲生達は新校舎内を講堂に向かって進んだ。
 ステージの裏手には、更に上に昇る階段がある。

 稲生:「宿泊施設か。僕は行くの初めてだな」
 マリア:「OBなのに?」
 稲生:「ごく一部の部活しか使わないみたいなんです。理由は……出るそうですから」
 キノ:「根性無し共が」

 立入禁止の表示がしてあって、ここにも鍵が掛かっていたが、これもマリアの魔法で開錠する。
 中に入って階段を登ると、そこには宿泊施設があった。
 二段ベッドがずらっと碁盤の目のように並んでいて、全部で50人は泊まれるようになっている。

 キノ:「で?4番ベッドはどこだ?」
 稲生:「確か、奥から数えるから……」

 しかも、1つのベッドで1番と数えるわけではないらしい。
 下段が奇数、上段が偶数ということになっている。

 稲生:「これだ」

 奥の壁側から2番目にある2段ベッド。
 その上段が4番ベッドだった。

 稲生:「ここに寝ると、逆さ女が現れる。そして、『自分と会ったことを誰にも喋ってはいけない。喋ったら殺す』と約束させるんだ」
 キノ:「あー、なるほど。とんだサイコ野郎だな。約束させなけりゃ殺せねぇヘタレか。……隠れてねぇで出てこい」

 キノは右手に刀を持ち、それを右肩に担ぐようにして持っていた。
 そして、ブワッと自分の妖気を放つ。

 キノ:「……出てこいと言ってるんだ!」

 キノが威嚇するように言うと、天井からスルスルと下りてくる者がいた。

 稲生:「うわっ!」

 それは白い着物を着て、逆さ吊りになった女だった。
 逆さまになっているわけだから、セミロングの髪も当然下を向いている。

 逆さ女:「鬼様が何の御用ですかねぇ……?」

 顔立ちと声からして、そんなに若い女というわけではないようだ。
 アラフィフか?

 キノ:「オレは叫喚地獄、獄長の長男、蓬莱山鬼之助という」
 逆さ女:「ヒイッ!?蓬莱山様……!」

 何故か逆さ女が怯えている。

 キノ:「ちょっと聞きてぇことがある。オレの大事な“獲物”を横取りしやがった馬鹿がいてよ、その犯人に関する情報をお前が知っているという情報を掴んだんだ。で、お前は何を知っている?」
 逆さ女:「ヒイッ!そ、それだけは……!殺されてしまいますぅ……!!」
 キノ:「……てことは、知ってるっつーことだな。オレはまだどんな“獲物”か何も言ってねーぞ」
 逆さ女:「お、お許しください……!い、命だけはぁ……!」

 だが!

 稲生:「ふざけるな!!」

 稲生が憤怒の形相で、逆さ女を殴り付けたのだ。

 稲生:「てめぇ、今まで何人の人間を食い殺して来たんだ!えっ!?そのくせ、今度は自分が殺されるかもしれないと思って命乞いだとォ!?ふざけるなって言ってんだよ!!キノが殺す前に僕が殺してやるぞ!!」

 稲生は魔法の杖で逆さ女をボコボコに殴り付けた。
 これにはマリアもキノも唖然とした。

 逆さ女:「アヒッ!?……ヒッ!……や、やめ……!!」
 キノ:「お、おい、ユタ……。もうその辺で……。取りあえず殺すのは、こいつから情報を聞き出してからにしてくれ……」

 キノが止めなかったら、稲生は逆さ女を殴り殺していただろう。

 キノ:「落ち着け!取りあえずここはオレに任せろ!」
 稲生:「はぁ……はぁ……!」
 キノ:「まあ、そういうわけだ。確かにこいつはただの人間じゃねぇが、まあ、まだ人間に近い存在だよな。オメェはそんな人間をエサにしてきたんだろ?ところが、その人間にボコされてしまった。面目丸つぶれだ。意味が分かるか?……もう、オメェの縄張りは無ェってことだよ。エサとなる人間にボコされた妖怪なんて、他の妖怪からもバカにされんぜ?ああ?」
 逆さ女:「うう……うううううう……!」

 逆さ女は泣きじゃくった。
 逆さまになっているので、涙は頭の上の方に流れて行く。

 キノ:「さて、本題だ。オレの“獲物”、栗原江蓮はどこにいる?ついでにそれを横取りしやがった犯人はどこだ?両方かどっちか片方、いずれでもいいから教えろ」
 逆さ女:「そ、それは……!」
 キノ:「答えられねぇってんなら、またこいつにバトンタッチするぜ?」
 稲生:「こ、こんなヤツに……!こんなヤツに、僕の友達が……!!」
 マリア:「ユウタの友達がこいつに殺されたのか。なら、しょうがないな」

 マリアも眉を潜めて魔法の杖を構えた。

 逆さ女:(な、何てことなの……!?段々状況が悪化していく……!)
 キノ:「四面楚歌ならぬ、三面楚歌だ。だが、オメェにとってはどっちでも似たようなもんだろ?」
 逆さ女:「い、言います。あの人間は、プールの女子更衣室ですよぉ……!」
 キノ:「プールの女子更衣室だぁ?」

 キノは稲生を見た。

 稲生:「女子水泳部の部室でもあるな。確かに、そこにも怖い話はある」
 キノ:「ウソだったら、分かってるよな?まあ、獄卒のオレにウソつけるわけ無ェがな」

 閻魔大王は亡者のウソを簡単に見分けられる。
 その下で働く獄卒達に、似たような能力が無いわけではない。

 マリア:「で、どうなんだ?」
 キノ:「おおかた、本当のようだ。どうしてお前はそれを知っている?」
 逆さ女:「あなた達より先に来た魔ほ……ぐええっ!!」

 逆さ女が呻き声を上げて、天井から床に落ちた。
 いつの間にか頭には、何か突き刺さっていた。

 キノ:「な、何だァ!?」
 稲生:「!?」

 キノと稲生は目を丸くした。
 逆さ女の左耳に何かが突き刺さっていたのだが、それが耳の穴から中に入って消えた。

 マリア:「呪い針……!?」

 マリアがその正体について知っているようだった。

 キノ:「あ?何だって?」
 稲生:「呪い針?どこかで聞いたような……?」
 キノ:「おい、魔女。オメェは何か知ってるのか?」
 マリア:「いや……。現時点ではまだ何とも言えない」
 キノ:「あー!そりゃ言えねぇよなぁ!?『犯人は私の仲間です』なんてよ!」
 稲生:「何だって!?言い掛かりはやめてくれ!」
 キノ:「魔法使いが犯人だったとすれば、辻褄が合うだろうが!ユタ、オメェは知らねぇかもしれねーが、犯人はどうやらこいつの知り合いみてェだぜ」
 稲生:「そんな!マリアさん、違いますよね!?偶然ですよね!?」
 マリア:「ああ。偶然だ……」
 稲生:「ほら!」
 マリア:「……と、信じたい」
 稲生:「ええっ!?」
 キノ:「ほらよ、見たことか!で、実際に犯人は誰なんだ?」
 マリア:「特定するまでには至らない。栗原氏の件に関しては、確かに魔道師なら犯行可能ということだけだ」
 稲生:「取りあえず、プールの女子更衣室に行ってみよう。そこに何かがあるはずだ」
 キノ:「もし犯人が魔女だったとしても、オレは遠慮無くボコボコにさせてもらうからな?」
 マリア:「……勝手にしろ。だが、栗原氏は助けてあげたい」
 稲生:「それはそうだね。マリアさんが褒めるくらいの人ですもんね」

 メンヘラの多い魔女。
 マリアのその1人であるが、そのメンヘラが褒めた人間が稲生と栗原江蓮なのである。
 江蓮はマリアにとって、「なかなか話せる良い子」らしい。

 3人はプールの女子更衣室へと向かった。
コメント (2)
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