報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「日本在住の魔道師たち」

2017-01-28 20:37:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月4日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 さいたま新都心]

 稲生:「昨日は一転して家の手伝いやらされたから、今日は戻りまで遊びましょう」
 マリア:「別に、無理しないでいいのに……」
 稲生:「いえいえ。ここは1つ、屋敷にいてはできないことを」
 マリア:「しかし、そう上手く行くかな?」
 稲生:「どうしてです?」
 マリア:「私達が上手くやっているという話を聞きつけて、普段はヨーロッパを拠点にしている組が日本に向かっているという話を昨日聞いたんだ」
 稲生:「そんなに珍しいことですか?」
 マリア:「そもそも、ダンテ一門に男は全体の1割しかいないからなぁ……」
 稲生:「そりゃそうですけど……」
 マリア:「私も魔女の1人だった。それが勇太と仲良くやれていることがレアケースということで、噂になっているらしいんだ」
 稲生:「どうしてまた?」
 マリア:「アンナが手を引いた男、というのはかなりインパクトが強いんだよ。1度あいつに目を付けられたら、生存率は20%にも満たない」
 稲生:「何ですか、それ!?」
 マリア:「あと、リリィに襲われて、リリィは後で詫びに自分の体を差し出そうとしたけど、勇太は何もしなかっただろう?」
 稲生:「そりゃまあ……」

 魔道師のクリスマスパーティ(忘年会)での勇太の振る舞いもまた評価の対象らしい。
 あと何より、まだ見習でありながら、総師範ダンテより表彰を受けたというのも大きいようだ。

 マリア:「元々、誰かが水晶球で見ているというのもあるだろうけどね」
 稲生:「えっ?じゃあ、今でも監視されてるんですか?」
 マリア:「師匠に常に監視されているというのは、魔道師の弟子の宿命さ。それがたまたま他の魔道師からも、というだけに過ぎない」
 稲生:「そりゃそうですけど、せっかく2人きりになれたと思ったのに……」
 マリア:「いいからいいから。早く映画見よう」
 稲生:「はい」

 2人の魔道師はMOVIXへ入った。

[同日10:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナはフロントで宿泊客のチェックアウトの対応をしていた。
 バックパッカーの多いホテルなので、外国人の利用が多い。
 そんなホテルでは、マルチリンガルなエレーナの存在が重宝されている。
 尚、妹弟子のリリアンヌは、魔界で師匠のポーリンに直接付いていることが多い為、ここにはいない。
 ポーリンがイリーナと敵対していた頃は、自分も弟子として向こうの弟子であるマリアを叩き潰すつもりで敵対した(尚、稲生はまだ正式に弟子入りをしていなかった)。
 今では師匠同士が和解した為、弟子同士が対立するわけにも行かず、今では協力する側になっている。

 エレーナ:「オーナー、これで今日チェックアウトのお客様は全て出られました」
 オーナー:「お疲れ様。じゃあ、今日はもう上がっていいよ」
 エレーナ:「はい」
 オーナー:「今日は『宅急便』の仕事は無いの?」
 エレーナ:「明日、ありますよ。午前中指定で長野まで」
 オーナー:「大変だねぇ……」
 エレーナ:「意外と日本も広いですから」

 ウクライナ出身のエレーナ。
 ストリートチルドレンをやっていた頃は、まさか日本に来て安ホテルのフロント係をやるとは思ってもみなかった。
 弟子を探していたポーリンに、魔力の素質を認められて拾われた経緯を持つ。
 マリアの出身国であるハンガリーとは隣国同士であるが、いずれも政情不安な国家であり、そういった境遇もマリアと仲良くできた理由である。
 だから正直、故郷を政情不安に陥らせたロシアが好きにはなれない。
 ダンテ一門にロシア人が多数所属しているが、もしポーリンがイギリス人じゃなかったら、組替えを希望したかもしれない。

 エレーナは自分が寝泊まりしている地下室へ降りると、すぐに自室に入った。

 エレーナ:「ふう……。ホテルの仕事より、パン屋の店番の方が楽かもな」

 地下は本来、ボイラー室になっていて、そこの一角を改造した部屋である。
 それでも六帖間くらいの広さはあって、ベッドやらシャワールームやら設置されている。

 エレーナ:「そうだ。確かマリアンナ達がこっちに来てるんだっけ」

 エレーナは机の上に置いてある水晶球に手を翳した。
 どんなジャンルに関わらず、水晶球を使うのはダンテ一門の本科として習得する魔法なので、エレーナも使える。
 尚、無期限の免許皆伝延期はようやく有期に切り替えられ、来年度より正式にInternからLow Masterへの昇格が確約されている。

 エレーナ:「おっ、相変わらず仲良くやってるねぇ……」

 映画館で仲良く隣同士で座り、映画を観ているマリアと稲生の姿が映し出された。

 エレーナ:「てかこの中継、他に3人くらい観てるしw 絶対、映画観てんじゃないよな」

 エレーナはニヤッと笑って、画面を切り替えた。

 エレーナ:「よぉ、ナディア。なに、カップルのイチャ付きを覗き見してんの?」
 ナディア:「ち、違いますよ。ゴローが従兄弟の様子を見てくれと……」

 ナディアもまたエレーナと同様、『魔女』ではない魔道師である。
 実は日本人の彼氏がいて、一緒にウラジオストクで暮らしているはずだ。
 で、その彼氏というのが稲生の従兄弟という世間の狭さぶりだ。

 エレーナ:「まあ、アンタはいいけどさ……」

 エレーナはまた水晶球の画面を切り替える。

 エレーナ:「アンタ、『オトコなんて要らない!追い出してやる!』とか言ってなかった?」
 ゼルダ:「な、何のことだ?」
 エレーナ:「『マリアンナの裏切り者!』とか言ってたような気がするけど?」
 ゼルダ:「気のせいだ。私は今後の参考にと、こっそり……あ、いや、邪魔しないように、だな……」
 エレーナ:「ま、あんま妬み過ぎると、ジルコニアやウェンディの二の舞になるからね。気をつけなよ」
 ゼルダ:「わ、分かってるって」

 エレーナはまたチャンネルを切り替える。……って、テレビかよ。

 エレーナ:「アンタんとこのスポンサー、経営状態ヤバいみたいよ?マリアンナの覗き見してないで、そっちの対策したら?」
 ミア:「エレーナ、後で見ときな……!」
 エレーナ:「はーいはい。いつでも日本で待ってるから。じゃね」

 エレーナは水晶球の画面を消した。

 エレーナ:「ミアもヘタすりゃ、ウェンディの仲間になっていたくらいだからなぁ……。ま、ウェンディじゃなくて、マリアンナの後に続くつもりならいいんだけど……」

 マリアが魔女から脱却できたモデルケースになれれば、それはとてつもなく大きなことである。
 逆を言えば……。

 エレーナ:(もし仮に稲生氏がマリアンナを裏切るようなことがあれば……マリアンナだけじゃなく、『魔女』達全員が敵になるわけか……。はは……稲生氏は、とんでもない世界に入って来たね)

 エレーナは服を脱いでシャワールームに入った。
 マリアとは同じ金髪でも髪質は違い、ウェーブの掛かったロングである。
 そして、体中に残っている傷痕は人間時代に暴行や虐待を受けた痕ではなく、魔道師になってから“魔の者”との壮絶戦を繰り広げた後についたもの。
 さすがにマフィアからマシンガンの銃撃を食らった時には、死んだと思ったが。
 魔道師は普通の人間よりも、少しは頑丈にできているらしい。
 但し、体中に銃弾を受けた傷痕は残ってしまったが。
 おかげさまで、今ではエレーナは“魔の者”から狙われることもなくなったが、ヤツがその次に目を付けたのがマリアだったのは皮肉である。

 エレーナ:(仮眠取ったら、今度はチェックインの対応か……)

 明らかに他の魔道師と比べて働いているという自負のあるエレーナだった。
 因みに顔の広さは、マリア以上なのは間違いない。
コメント
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