報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「学校であった怖い話」 4

2017-01-02 19:12:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日02:00.天候:曇 東京中央学園上野高校・旧校舎(教育資料館)]

 稲生:「魔界の連中は年末年始とか関係無いのかなぁ?」
 キノ:「下等な連中は、そんな概念なんざ無ェんだよ。あるのは、如何に人間の血肉を食らうかだ」
 マリア:「動物以下だな」

 1階への階段を下りる3人。
 そんなことを話し合う。

 稲生:「キノは年末年始、何かやることあるの?」
 キノ:「江蓮が実家に帰ってるっつーからよー、オレも一緒に過ごそうかと思ってよー……。したらこのザマだ、この野郎!」

 たまたま階段を下りた先にいたザコ妖怪に八つ当たりするキノ。

 稲生:「栗原さん家、熱心な日蓮正宗法華講の家だから、元旦はお寺に行くと思うよ」
 キノ:「それでもいい。試しに寺ん中入ってみたけど、何とも無かったぜ?」
 稲生:「そりゃ何も無いでしょうよ」
 キノ:「不浄な妖怪は境内に入れぬと、昔どこかの寺のクソ坊主に言われたんだが、デマだったみたいだ」
 稲生:「どこの宗派なんだい、そこは?真言宗辺りが怪しいけど」
 キノ:「覚えてねーよ、んなもん」
 稲生:「だろうねぇ……。鬼子母神とか鬼関係の神社だったら、堂々と入って行けそうだけどね、キミは」
 キノ:「どういう意味だ、こら」
 マリア:「ついでに御神体代わりになったらどうだ」
 キノ:「うるせーなぁ」

 1階の廊下を突き進む。
 確かに途中には、色々な魑魅魍魎の類が横スクロールのアクションゲームばりに登場した。

 稲生:「捨てられた赤ん坊の幽霊に、闇の中に潜む目のお化けに、うねる闇のお化け、無限廊下に閉じ込められた男子生徒の魍魎化したものと……」
 キノ:「何つー学校だ!」
 マリア:「うーん……」

 おどろおどろしい状態なのだが、中にはコミカルな動きをして襲って来るものまであり、ここでBGMを掛けるとしたら、むしろ軽快なものになるかもしれない。
 そうして、ようやく魔界の穴に辿り着いた。

 キノ:「ここはさっきオレがクソガキを殺った所だぜ?」
 稲生:「この壁、壊されてる。そうか。この壁の向こうに魔界の穴があったんだ。それなのに、壊されたりしたもんだからダダ漏れしたんだな」
 マリア:「よし。早いとこ、塞ぐぞ」

 マリアは穴の前に魔法陣を描いた。

 キノ:「おい、急げ!まだ倒し切ってねぇ奴らがこっちに向かってやがる。ユタ、手伝え!」
 稲生:「ええっ!?」
 キノ:「オレ1人にやらせんなっ!向こうから来るヤツをやれ!」
 稲生:「う、うん!パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!醜く開いた魔界の穴よ!マリアンナ・ベルフェ・スカーレットの名において、その口を再び閉ざさんことを命ずる。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」 

 稲生の魔法の杖(というか3段式の棒)からは、火の弾がボンボン飛んで行き、それでザコ妖怪達を包み込む。
 木造校舎で火の弾はマズいのではと思うかもしれないが、火に包まれるのは妖怪達だけで、不思議と木材に燃え移ることはない。

 稲生:「……メラ!……ギラ!……イオ!」
 キノ:「あいつ、ドラクエ派か?FFの魔法も使ってみろってんだ」

 見習なので、初歩的な攻撃魔法しか使えない。

 キノ:「てか、まだ塞がんねーのか!?」
 マリア:「うるさい!気が散る!黙れ!……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 キノ:「しゃらくせぇっ!」

 キノは最後の一匹を斬り伏せた。

 キノ:「ユタ!オメェ、こいつの手伝いやれ!あとはオレが食い止める!」
 稲生:「う、うん!」

 稲生はマリアの隣に立つと、一緒に呪文の詠唱を行った。

 魍魎A:「魔界の穴が塞がれるぞ!」
 魍魎B:「止めろ!」
 魍魎C:「せっかく人間の血肉を好きなだけ食らえるのに!」
 キノ:「誰に断って出入りしとるんじゃ、ボケェ!!」

 キノはまだ残っている魍魎達に刀を振るう。
 時には体術を使うこともあった

 キノ:「まだなのか、お前ら!?いい加減キツいぜ!」
 稲生:「もうすぐ!もうすぐだ!」

 すると、見る見るうちに壁が修復されてきた。

 マリア:「うっ……くっ……!」
 稲生:「マリアさん!?」

 マリアがふらついた。
 そういう稲生も、目まいがした。
 2人とも、MPが無くなり掛けているのだ。
 何とか壁が塞がった。
 つまり、魔界の穴が塞がったのである。
 あれほどまでに漂っていた妖気が嘘みたいに無くなっていた。
 強いて言うなら、キノの妖気だけである。

 キノ:「……あっ!?」

 その時、1階のトイレに照明が灯った。
 この旧校舎にいるのは、この3人だけのはずだ。
 まだ妖怪か魍魎が残っているのか。

 キノ:「……ちっ。オメェら、そこで待ってろ。オレが見に行く」
 稲生:「うん……」

 キノは刀を右手に持ちながら、トイレの前に向かった。
 それは女子トイレだった。
 改築前は停電していた旧校舎だったが、教育資料館として再生した時に通電するようになっている。
 とはいえ、トイレ関係に関しては手つかずであったようだ。
 トイレからは微かに妖気が漂って来た。
 ただそれが、未だに残っている妖怪の放つものなのか、それともただ単に残留していたものなのかはキノでも判断できなかった。

 キノ:「……おい、誰かいるのか?隠れても無駄だぜ」

 恐怖ではないのだが、キノは言い知れぬ焦燥に駆られていた。
 何か、この先の展開にマズいことがあるような……。
 そんな感じだった。
 女子トイレには蛍光灯が灯っていたが、お世辞にも安心できる明るさではなかった。
 個室に入ったら、明かりが届かずに真っ暗であることは想像できた。
 そのトイレの壁に血文字で、『3階へ行け』という文字が書かれていた。

 キノ:「……ッ!まだ何かいやがるのか?」

 キノはウザそうに不快な顔をした。

 稲生:「キノ!」
 キノ:「あぁ?待ってろと言っただろう!」
 稲生:「もう大丈夫だよ」
 キノ:「なに?」
 稲生:「こんなこともあろうかと、魔法の回復アイテムを持ってきたからね」
 キノ:「ああ。薬草とか聖水とか、そんなヤツか。飲めばHPとかMPとか回復するヤツ」
 稲生:「まあね。キノにもあげる」
 キノ:「俺は魔法なんか使えねーぜ」
 稲生:「体力回復薬だよ。キノもだいぶ疲れたでしょ?」
 キノ:「疲れてねーよ」
 稲生:「要らないならいいけど……」
 キノ:「まあ、せっかくの好意だ。頂いておくぜ」
 稲生:「ふふっ……。それより、何かあった?」
 キノ:「あれを見ろ」
 稲生:「うわ……!」
 キノ:「この展開、どう予想する?魔道師様よ?」
 稲生:「まるで、この学校に伝わる“トイレの花子さん”みたいだ」
 キノ:「確か、かなり昔、イジメで自殺した女子生徒の幽霊の話だな?」
 稲生:「そう。だけどもう、この学校にはいないはすだけど……」
 キノ:「で、どうする?行った方がいいのか?伝わる話としては、どうなってる?」
 稲生:「誘われるがまま3階に行ったはいいけど、その時点では誰もいないし、何も起こらないんだ」
 キノ:「はあ?何だそりゃ?」
 稲生:「また、戦いになると思うけどいいかい?」
 キノ:「江蓮が助かるんならな。くそっ!情報が入ると思ってボランティアしてやったのに、未だに江連の情報が入って来ねぇ!」
 マリア:「3階に行った方が良さそうだな」
 稲生:「マリアさん」
 マリア:「あくまでもユウタの聞いた話に似ているというだけで、その通りになるとは限らないだろう?それに、ユウタの話では、張本人はもういないというじゃないか。別の展開になるかもしれないぞ」
 キノ:「それもそうだな。少なくとも、ここで議論してる場合じゃねぇ。一応、何が何だか言ってみる価値はあるな。もし3階で何か情報を知っているヤツがいたとしたら、そいつから聞き出せばいい」
 稲生:「うん、そうだね。3階へ行こう」

 稲生達は1階の女子トイレをあとにすると、3階のトイレに向かった。
 魔界の穴は塞ぎ、魍魎の類は全て倒した。
 妖気と言えばキノの妖気くらいしか無いはずなのに、何故かまだこの旧校舎にはそのような類がいるような気がしてしょうがない稲生だった。
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“大魔道師の弟子” 「学校であった怖い話」 3

2017-01-02 14:56:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日01:30.天候:曇 東京中央学園上野高校・旧校舎(教育資料館)]

 稲生:「うん……。確かにもう“花子さん”はいないみたい」
 キノ:「何ぼ使用してねぇトイレだからってよ、女子トイレを堂々と覗くヤツがいるかよ」

 キノは刀を肩に担ぐように乗せて呆れた。

 マリア:(約1名知ってるんだが……)

 マリアはそれは黙っていた。

 稲生:「よし。3階はもう本当に妖怪達はいなくなったみたいだ。2階へ行こう」

 稲生は最終確認をすると、階段へ向かった。

 キノ:「2階はどんな怖い話があるんだ?」
 稲生:「確か昔、宿直の先生が怪奇現象に遭ったって話だよ。夜、巡回中に得体の知れないモノと遭遇して、頭がおかしくなっちゃったんだって」
 キノ:「殺してはいないのか。なるほど……」

 人間側から見れば、「死んではいない」という表現になるのだが、妖怪側から見れば、「殺してはいない」という表現になるのだろう。

 稲生:「何か気になることが?」
 キノ:「いや。それだけじゃ、分かんねーな」
 稲生:「そう」
 キノ:「あ、因みによ、1階の方はオメェらが来る前に探索済みだ。だから、オメェらは魔界の穴を塞ぐだけでいい」
 稲生:「分かった」
 キノ:「1階の方が怪奇現象が多いのか?何か、色々いたぜ?さっきのクソガキ以外にもよ」
 稲生:「あー、確かにそうだねぇ……。僕もこの旧校舎にまつわる怖い話をいくつか知ってるけど、確かに1階が発端になることが多いな……」
 キノ:「だろ?」
 稲生:「うん」
 キノ:「……なあ?そろそろ気づいてもいいんじゃねーのか?」
 稲生:「何が?」
 キノ:「何がって……」

 キノは刀を持っていない左手を頭にやって溜め息をついた。
 赤銅色の肌をした顔の上には、漆黒の髪が伸びている。
 それを沖田総司のように、後ろで束ねて総髪に……って。

 稲生:「あー、キノ!髪切ったんだね!威吹みたいに!」

 確かにキノの髪は肩の所までの長さになっていた。

 キノ:「このドアホ!そういうこと言ってんじゃねぇ!」
 稲生:「だから、なに?」
 マリア:「こうして話している間に、もうとっくに階段の所に辿り着いてもいいはずだろう?なのに私達、全然進んでない」
 稲生:「えっ?……あっ!」

 稲生はやっと気づいた。
 旧校舎の大きさは新校舎の半分も無い。
 階段は南北に1つずつある。
 だから、すぐに辿り着いていいはずなのに、全く階段が見えてこないのだ。

 キノ:「無限廊下だな。2階の奴らが嫌がらせしてるのか、或いは3階にはまだ実は誰かが残っていやがるのか……」
 稲生:「ええっ!?僕が聞いた話だと、旧校舎の無限廊下は1階のはず……!」
 キノ:「オメェにそのネタを提供したネタ元が、ここに来たみてぇだな」
 稲生:「ど、どうするの?」
 キノ:「こうするんだよっ!」

 キノは妖刀を床板に突き立てた。
 すると、ブゥンという音がして、紫色の光が廊下の2方向に飛び去る。

 マリア:「分かった。あとは……」

 マリアはローブの中から小瓶を出した。
 中には聖水が入っている。
 聖水とはいっても、キリスト教のそれではない。

 マリアは空間に向かって、聖水をぶちまけた。

 ???:「ギャッ……!」

 誰かが短い断末魔を上げた。
 と、同時にバリーンとガラスの割れる音がする。
 何かがぶつかって割れる音ではなく、ガラス自身が何らかの理由で割れる音だ。
 但し、それは窓ガラスではななかった。

 稲生:「あっ、目の前に階段が!?」
 キノ:「オレ達を廊下に閉じ込めたつもりなんだろうが、そうはいかねーぜ」
 マリア:「その通り」

 3人は階段を下りた。
 尚、ここにも階段をいくら降りても2階に辿り着かない無限階段の罠が待ち構えていた。
 これに関してはキノが妖刀を振るう。
 振った後で、掌サイズのクモが慌てて逃げ出して行った。
 キノはすかさずそれを踏み潰す。

 キノ:「廊下に関しては幻魔獣、階段に関してはクモが犯人だったか」
 稲生:「そうだったんだ」

 そうしてようやく2階に辿り着く。

 稲生:「さて、何が待ち構えていることやら……」

 廊下に出て少し進むと、早速敵がやってきた。

 ???:「あいつは私のお友達……♪私もあいつのお友達……♪皆で死のう……♪楽しく死のう……♪」

 廊下の向こうからやってきたのは、白ワイシャツ姿に黒いズボンをはいた男。
 手には懐中電灯を持って、ふらふらと歩いてくる。
 見た目は人間のようだが……。

 キノ:「ユタ、そいつはオメェの知り合いか?」
 稲生:「え、えーと……。多分、知らないと思います」
 キノ:「なら、いいな」

 キノは一歩前に出ると、刀でその男を斬り伏せた。

 稲生:「思い出した!もしかしてこの人、桜田先生じゃないかな!?」
 マリア:「……おい、学校の関係者を殺したぞ。獄卒としていいのか?」
 キノ:「妖刀で斬れたんだから生きてる人間じゃねぇよ」
 マリア:「それもそうか」
 稲生:「さっきの宿直の先生の話に出て来た先生ですよ」
 キノ:「死んでたってことか。で、その黒幕が奥にいるって話だな」
 稲生:「そういうことみたいだね」
 マリア:「その桜田先生ってのは、どうして狂い死にさせられたんだ?」
 稲生:「何か恐ろしいものを見たらしいんです。でも、それが何なのかは分かっていない」
 キノ:「ふーん……。そうなのか」
 マリア:「おっ、奥から何か来たぞ」

 何かスルスル、スルスルという音が廊下の向こうから聞こえてくる。
 それが段々とこちらに近づいて来た。

 キノ:「……!おい、ユタ。もしオメェ、まだ頭がおかしくなりたくねぇんだったらよ、目ェ瞑っておいた方がいいぜ」
 稲生:「えっ!?それはどういう……!?」

 そしてそれは姿を現した。

 マリア:「ユウタ!」

 マリアは稲生を突き飛ばした。

 稲生:「わあっ!?」

 稲生の眼前に現れようとしたそいつは、稲生が突き飛ばされ、視線がそれたことで、稲生をピンポイントで襲うのに失敗した。
 歪んだ稲生の視界に一瞬現れたのは、訳の分からない闇だった。
 稲生が床に倒れるのと、キノがそいつを斬り伏せるのは同時だった。

 稲生:「いてっ!」
 マリア:「ユウタ、大丈夫か!?」
 稲生:「ええ……。これは一体……?」
 キノ:「闇だよ」
 稲生:「闇!?」
 キノ:「多分、普通の人間には見えねーだろうさ。だがそいつに捕まると、頭をやられる。やられた人間は、まるでこの世の物とは思えないほどの恐ろしいヤツに出会ったかのような記憶を残すんだ。ま、実際、人間界にはいねぇヤツだけどよ。そんでさっきの桜田っつーヤツのようになるわけだ」
 稲生:「そうだったのか……。2階の方が怖いんだな……。キノがいてくれて良かったよ」
 キノ:「ふん、よく言うぜ。さっきは怖がって思いっ切り逃げ出したくせによ」
 稲生:「いや、あれはその……」
 キノ:「まあ、怖がらせたオレもオレか。……どうやら、今のが2階の中ボスみてーだな。2階の妖気が一気に無くなったぜ」
 マリア:「本当だな」
 稲生:「じゃ、次はいよいよ1階に下りて、魔界の穴を塞ぐんですね」
 キノ:「1階はオレが探索した。ま、ざっとだけどな。ただ、その1階からまだ妖気が漂ってきやがる。油断はできねーぜ」
 マリア:「その通りだな」

 稲生達は反対側の階段から1階に下りた。
 今度は空間を無限ループさせる妖怪と遭遇することはなかった。
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“大魔道師の弟子” 「学校であった怖い話」 2

2017-01-02 12:15:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日00:47.天候:曇 東京中央学園上野高校・旧校舎(教育資料館)]

 魔界の穴を塞ぎにやってきた稲生とマリア。
 A級以上の妖怪や悪魔は慎重派が多いから、まだ侵入してきてはいないだろうとタカを括っていたマリアだったが、とんでもなかった。
 S級妖怪がいて、稲生達に襲い掛かって来たのだ。
 そして2人は追い詰められた。

 S級妖怪:「こっちを向け」

 稲生達が恐怖のあまりに固まっている。

 S級妖怪:「向けっつってんだっ、ゴルァッ!!」

 恐らく人間時代はそうして性的暴行を受けた経験があるのだろう。
 マリアは全く動けない。
 稲生だけが恐る恐る後ろを振り向いた。
 その時、ふと気づいたのだが……。

 稲生:(あれ?声の感じ、誰かに似てるぞ……?)

 昇降口のドアには窓ガラスがあり、外灯の明かりが差し込んでいる。
 稲生が振り向いて、その僅かな灯かりに照らされているS級妖怪の姿を確認した。
 そこにいたはのは……。

 稲生:「キノ!?キノじゃないか!」

 地獄界の1つ、叫喚地獄の獄長家の長男にして、幹部獄卒をしている鬼族の蓬莱山鬼之助だった。
 愛称はキノ。
 赤銅色の肌をした赤鬼である。
 身長は180cmを超える長身であり、小柄な稲生やマリアからすれば見上げて話をする相手である。

 キノ:「何かおかしいと思ったら、ユタじゃねーか。あと……えー……誰だっけ?」
 マリア:「マリアンナだ!」
 キノ:「あー、そうそう」

 魔王城大決戦の際は共闘したし、その前の藤野の合宿所でも一緒に過ごした仲である。
 今はその決戦の時の活躍ぶりを認められ、閻魔庁の本庁勤務のエリートとなったと聞いている。

 キノ:「何しに来たんだ?あ?まさか、オメェらがオレを呼び出したんじゃねーだろ?」
 稲生:「当たり前だよ!キミこそ誰に呼び出されたんだ!?」
 キノ:「……江蓮をパクりやがったヤツだ」
 稲生:「栗原さん、さらわれたの!?」

 栗原江蓮はキノが一途に愛する人間の女性である。
 すぐにでも嫁にしたかったのだが、せめて高校卒業まではと待っていた。
 それがようやく高校卒業をしたので、キノの実家に連れて行って、一緒に暮らしていたはずなのだが……。
 栗原も稲生ほどではないが、霊力の強い女性であった。
 もしも彼女が稲生ともっと近い年齢で、尚且つこの学園の生徒であったなら、かなりの戦力になるくらい。
 それが為、稲生と同じく他の妖怪に狙われたりもしたのだが、稲生には威吹が睨みを利かせていたのと同様、栗原に近づく妖怪達にはキノが睨みを利かせて追い払っていた。

 キノ:「だから人間界には戻るなと行ったんだ……」

 どうやら別に、栗原はキノのことが嫌いになったわけではない。
 地獄界の生活が退屈になったので、また学校に通いたいと言い出したらしい。
 キノの強いアプローチが無ければ、むしろ大学まで行きたかったくらいだったという。
 さすがにそれは諦めて、せめて専門学校には通おうと思ったらしい。
 その為の資料集めや入学願書を取り寄せる為に、一時期帰省していたとのことだ。
 それから連絡が取れなくなり、キノの実家の所に脅迫文が届いたという。

 キノ:「魔界の穴を開けるバカな人間がいて、それはそこの住民が殺るから、オマエ……まあ、俺のことだな。魔界の穴を塞ぎに来るヤツを殺せというんだ。でなかったら、江蓮は食い殺すと……」
 稲生:「これは明らかに、僕達をキノに殺させる為の罠だよ」
 マリア:「確かに、今の私達にはS級妖怪の対応は難しい」

 だからこそ稲生は現役時代、威吹にも協力を仰いだのである。
 威吹もS級だからだ。
 稲生の為ならと、威吹は快諾した。
 威吹の敵対に、跋扈していた妖怪達は面食らったことだろう。

 稲生:「魔界の穴を塞ぎに来たのは僕達だ。でもキミが僕達を殺したとしても、栗原さんが無事に返ってくるとは思えない」
 キノ:「そうだな。あまりにも、話が出来過ぎてるぜ。だが、このままにしても、江蓮が返ってはこねぇだろ」
 マリア:「魔界の穴を塞ぐ前に、そこから入ってきた魔族達を倒しておこう」
 稲生:「優先して倒すのは、2人の後輩を殺した妖怪だな」
 キノ:「もしかしてそれ、さっきのクソガキじゃねーのか?」
 稲生:「えっ!?」
 キノ:「『人間のお兄ちゃん2人の血をもらったけど、それでもお腹いっぱいにならないの。だから、お兄ちゃんのも吸わせて!』なんて言ってきたからよ、オレの実家まで送ってやったぜ」
 稲生:「さっきのコだったの!?」
 マリア:「人間と鬼族の区別も付かないとは……」
 キノ:「ま、ガキの幽霊なんてそんなもんさ。オレが昔バイトしてた賽の河原送りになるのがオチなんじゃねーか?」

 賽の河原の話は有名であるが、実はこの地獄、どこの宗教でも語られてはいない。
 仏教で語られる八大地獄のどこにも所属していないし、キリスト教における地獄でもない。
 しかし、存在はしている。
 閻魔庁が管轄しており、獄卒としての内規に違反したキノが謹慎処分を受けたものの、例外として賽の河原における獄卒の補助要員として送られたことがあった。
 そこでは栗原江蓮の本当の魂と出会い(今現在、栗原江蓮の体を使用しているのは、川井ひとみという別の少女)、その魂を救ったことで謹慎処分を解かれている(建前)。

 稲生:「じゃあ、僕達はもう魔界の穴を塞ぐだけでいいんだね」
 マリア:「その前に、ここに侵入してきた妖怪達を何とかしないとな」

 マリアは魔法の杖を出した。

 キノ:「しゃあねぇ、乗り掛かったバスだ。オレもボランティアで手伝ってやるぜ」
 稲生:「乗り掛かった舟だろ?」

 階段を上がって3階から対処していく。
 キノが妖刀を振るうと、それだけで妖怪は消され、或いは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
 そこで、1つの事実が明らかになる。
 旧校舎は3階建てで、3階の妖怪を片付けた時だった。
 そのフロアの中ボスだか分からないが、とにかくその地位を張っているらしき者をキノが倒した時だった。

 中ボス:「お、鬼の分際で……!に、人間の女なんぞに……!堕ちたものだな……!へへ……!」

 キノは中ボスの胸倉を掴む。

 キノ:「その鬼にブッ殺される寸前のヤツはどこのどいつだ、あぁっ!?……てか、テメェ!江蓮のこと知ってんのか!?」
 中ボス:「2階のヤツに聞きな……!ごぶっ……!」

 中ボスは血反吐を吐いて絶命した。

 キノ:「ちっ、この程度の情報かよ。使えねーな!」

 キノは中ボスの死体を蹴飛ばすと、血糊のついた妖刀を手拭いで拭いた。
 幹部獄卒ともなると、妖刀も上等なものが支給されるらしい。
 地獄の獄卒というと、一張羅に金棒というイメージだが、それは下級の獄卒。
 キノのように幹部ともなると、今着ているような袴をはいて、金棒ではなく刀を持つようになる。
 その腕前は剣豪とも言えるほどで、同じく妖狐の剣豪である威吹とは互角である。
 キノの場合は指導者としての素質もあるようで、江蓮に剣を教えてあげたら、女子剣道部員として埼玉県大会で優勝し、全国大会でも上位に食い込むほどにまでなったという。

 稲生:「2階へ行こう。キノの活躍のおかげで、弱い妖怪達は魔界に逃げ帰っているみたいだ」
 マリア:「それは好都合だ」
 キノ:「……お前ら、江蓮の救出には力を貸せよな?」
 稲生:「僕達にできることはするよ」
 キノ:「それならいいが……」

 3人は3階の教室をあとにし、2階へと向かった。
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“大魔道師の弟子” 「学校であった怖い話」

2017-01-02 10:17:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 ※新年の挨拶を作品の枠を越えて、登場人物達に行わせようと思っていたのだが、何ぶん喪中の身。仕方が無いので、作者自身が行うという形とさせて頂いた。……ん?逆だって?いやいや……。

[12月30日00:30.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 稲生はマリアを伴って、かつての母校にやってきた。
 現役時代は魔界の入口が校内のあちこちに開いてしまい、ダダ漏れする妖気に晒されたことで起きた数々の怪奇現象に立ち向かった(“顕正会版人間革命”または“妖狐 威吹”より)。
 稲生と同じく、霊力の強い現役生達や威吹と共に妖怪達と戦った。
 そこで命を落としてしまった者もいる。

 稲生:「あの努力を無駄にしない為にも、早いとこ魔界の穴を塞がないと……!」

 因みに魔道師が使用する魔界の穴は、きちんとその魔道師が管理しているものであり、しかも基本的には人間界から魔界への一方通行となっている為、妖怪や悪魔がそこから流れ込んでくることはない(その後、魔道師は瞬間移動魔法を使うか、冥鉄に便乗して人間界に戻る)。
 問題視されるのは、何らの拍子に偶然開いた穴。
 これは誰も管理しているわけではない為、魔界からも妖気がダダ漏れしてしまう。
 それに乗って、妖怪や悪魔が出てきてしまうパターンだ。
 稲生が入学した頃は、既に下級妖怪や悪魔が跋扈しているのを見て、今度は中級クラスが蹂躙しようとしていた頃だった。
 霊力の強い稲生達が団結し、また、高等妖怪である威吹やその協力者達が対処してくれたこともあって、対応に成功した。

 そんなことを思い出しながら、稲生は通用門の中から敷地内に入った。
 既に宿直制度は廃止され、警備会社と契約しての夜間警備になっているはずだ。
 実はこの時間に稲生達が来た理由は、もし警備員の配置体制が変わっていなければ、この時間帯は仮眠時間になっていることを見越してのことだった。

 稲生:「う……!?この嫌な感じ……!」
 マリア:「ああ。間違い無く、魔界の穴が開いてる」
 稲生:「せっかく塞いだのに!」
 マリア:「いくらユウタの霊力が強いからって、所詮そこは素人だ。せいぜい、高等妖怪の威光を笠に着させて中等以下の悪魔達を追い払っただけに過ぎない。その後、この数年の間はその威光が効いていたんだろうが、さすがにもう効力を失ったってところだろう」
 稲生:「やっぱり威吹を連れて来た方が……」
 マリア:「いやいや。そこで、私達魔道師の出番だ。私達は魔界の穴の正式な塞ぎ方を知っている。それを実行すれば良い。私が塞ぐから」

 魔道師が魔界の穴を塞げば、その効力は半永久的なものとなる。
 何故なら効力の期間はその魔道師が生きている間であるのだが、基本的に魔道師は悠久の時を生きるからである。
 その魔法を破るには、現時点においてはマリアより力のある魔道師が更に強い魔法を使う必要があるのだが、ロー・マスター(Low Master。「一人前に成り立ての下級魔道師」)であるマリアの上、ミドル・マスター(Middle Master。「ある程度経験を積んだ中級魔道師」)以上の地位にある者がそんなことをする動機が無いので心配は無い。

 今は教育資料館と銘打っている旧校舎に近づく。
 本来なら昇降口だった正面玄関には鍵が掛かっており、無理やり開けて入ろうとすれば、館内に張り巡らされた防犯センターが感知して警報が鳴るシステムになっている。
 にも関わらず、魔界の穴が侵入してきた魍魎達はそんな防犯センサーに引っ掛からない。

 マリア:「ちょっと待って。今、鍵を開ける」

 マリアは魔法の杖を取り出し、その頭をドアの方に向ける。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我らの進入を拒む扉よ、その鍵を開き……」

 ガチャ。

 稲生:「マリアさん、最初から鍵開いてる」
 マリア:「What!?」(←自動翻訳切れた)

 稲生は更にドアを開けた。
 古めかしいドアなもので、ギィィィィィと蝶番の擦れる音が響く。

 マリア:「どういうことだ?」
 稲生:「誰か既に中にいるってことですかね?」
 マリア:「防犯センサーは?」
 稲生:「ちょっと待ってください」

 稲生は自分のローブの中から眼鏡を取り出した。
 最近はダンジョンなんかでも、センサーの付いている物が魔界にあったりするもので、それを見破る眼鏡が発明された。
 それを掛けてみる。

 稲生:「センサーなんか入ってませんよ。……こりゃ、ひょっとして、警備員さんが中を巡回してるってことなんじゃ!?」
 マリア:「何だって!?……人の気配なんかしないぞ?するのは魔族達の気配くらいだ。そいつらのせいじゃないのか?」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「多分、大丈夫だと思う。いざとなったら、ル・ゥラで逃げるよ」
 稲生:(マリアさん、ルーラ使えたっけ???)

 取りあえず2人は旧校舎の奥へ進むことにした。

 マリア:「古めかしい建物だが、そんなに荒れてはいないな」
 稲生:「教育資料館として再生する時に、ある程度は改築したそうですから」
 マリア:「ふーん……」

 マリアは水晶球を持っていた。
 それで魔界の穴を探す。
 どうやら、1階の奥の方のようだ。

 稲生:「3階の“トイレの花子さん”じゃないのか」
 マリア:「何だそれ?」
 稲生:「イジメで自殺した女子生徒の幽霊ですよ。最後はこの旧校舎から出て行ってくれましたが。顕正会の祈りを捧げたので、浅井センセーの大信力で成仏してくれたものと思っていましたが、今から思うと、却って地獄界に叩き落してしまっただけでしたね。申し訳無いことをしたものです」
 マリア:「自殺した時点で大きな罪だ。どこの神に祈ろうと、救済はされないさ」
 稲生:「?」
 マリア:「だから私も、死ぬことは許されず、こうして魔道師として悠久の時を生かされるハメになっているんだ」
 稲生:「マリアさんの場合は別に……」
 マリア:「ん、なに?」
 稲生:「あ、いや、何でも……!あ、そろそろ現場ですよ」

 稲生達が校舎の反対側に辿り着こうとした時だった。

 少女:「うぎゃ……ッ!」

 蒼白い顔をした小学生くらいの少女が小さい断末魔を上げて、壁に叩き付けられた。

 マリア:「?!」
 稲生:「!!!」

 すると壁の中から現れたモノがいた。
 場所は真っ暗闇なので、姿がよく見えない。
 どうやら、何か武器を持っているようだ。
 そのモノはその武器で、少女の幽霊と思しき者にトドメを刺した。

 ???:「クソ生意気なガキが!イキがってんじゃねぇぞ、コラ!……ん?」

 その者は稲生達に気づいたようだ。

 マリア:「え、S級魔族!?」

 つまりとても強い妖怪だということだ。

 稲生:「何ですって!?」

 S級妖怪:「テメェらか?オレを体育館裏……もとい、旧校舎に呼び出したんは……!?」

 暗闇で姿は分からないが、両目の瞳だけ赤くボウッと光っているのは分かった。

 マリア:「な、何のことだ!?私達は……」
 稲生:「ま、マリアさん、逃げましょう!!」

 稲生はマリアの手を引いて、昇降口へ一目散に逃げ出した。

 S級妖怪:「逃げられると思ってんのか、コラ……!」

 S級妖怪は、どうやら刀剣を手にしているらしい。
 その刃をペロッと舐めると、全力ダッシュの稲生達に対し、早歩き程度の速さで追い掛けた。

 稲生:「あ、あれ!?鍵なんて掛けてないのに!」

 稲生はドアを開けようとしたが開かない。

 マリア:「ぱ、パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!こ、このドアの鍵を……!」

 ガッ!という音がして、稲生とマリアの間から刀剣が出てきて、木製のドアの枠に突き刺さった。
 背後には強大な妖気と殺気を孕んだS級妖怪の気配がする。

 S級妖怪:「……テメェら、何モンだ?こっちを向け」

 稲生達は追い詰められてしまった。
 魔道師は往々にして魔族達の敵になることが多い。
 取り締まる側だからだ。
 ただの人間なら恰好の獲物、魔道師なら……言わずもがな。
 絶体絶命とは、正にこのことであった。
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