[12月30日02:30.天候:曇 東京中央学園上野高校・旧校舎(教育資料館)]
稲生達は旧校舎に開いた魔界の穴を塞ぐことに成功した。
だがその直後、同じフロアの女子トイレの壁に血文字で3階に行けという文字が出ていた。
稲生達はそれに従って3階に向かった。
すると、3階の女子トイレにも明かりが灯っていた。
キノ:「どんなヤツが待ち構えてると思う?なあ?」
稲生:「し、知らないよ……」
マリア:「この建物のモンスターは全て倒したはずなのに……」
入口のドアの所まで来ると、中から何かが倒れる音がした。
稲生:「!!!」
キノ:「おい、今の聞いたか?」
キノは右手に刀を持ったまま、左手でドアを開ける。
キノ:「おう、邪魔するぜ!」
学校のトイレだから当たり前だが、造りは1階のそれと全く同じである。
天井の蛍光灯がこうこうと輝いてはいたが、やはりお世辞にも明るいとは言えない。
キノ:「おい、ユタ。その“トイレの花子さん”ってヤツはどこにいる?」
稲生:「奥から2番目の個室ってことになってる」
女子トイレには個室が4つある。
キノ:「そうか」
木製の古めかしいドアである為、使用していない時でもドアが閉まっているタイプだ。
キノ:「……おい、そこの魔女。お前が開けろ」
マリア:「あ?」
キノ:「よく考えたら、ここは女便所だ。開けた最中に【ぴー】だったらマズいだろ」
マリア:「あのなぁ……」
しかしマリアは拒否せずに、奥から2番目のドアの取っ手に手を掛けた。
稲生:「よくよく考えてみたら、妖気も霊気も無くなってるね」
キノ:「……だな」
マリアはドアを開けた。
……中には誰もいなかった。
古めかしい和式便器があるだけ。
ほとんど清掃されていないのは、使用を想定していないからだろう。
あくまでも今は開放時間が限定された教育資料館であり、ここで長い時間過ごすことは想定されていないのだ。
マリアのような欧米人にとっては、この和式便器はなるべく使いたくない代物だ。
しゃがんで用を足すことに、屈辱感があるという。
マリア:「で?この後、何が起きるんだ?」
稲生:「話の主人公は、この後、階下からの叫び声に反応するんです。教室には数人のクラスメートが残っていたという話なんですが、そこから全員の叫び声がしたそうです。主人公が急いで教室に向かうと、何者かに血だらけの状態にされて、引きずられていたと。その後を追うと、反対側の階段からこの女子トイレに続いていたそうです。血の跡が」
キノ:「それで?」
稲生:「トイレに入ると、血の跡がこの奥から2番目の個室の前まで続いていたそうなんですけど、ドアを開けたら何にも無い。どういうわけだか、ここでぷっつり切れていたそうなんですよ」
稲生は個室の前を指さした。
キノ:「で?結局どうなった?」
稲生は結末を知っていた。
だからぞくっと背筋が寒くなった。
稲生:「て、天井から何かがしたたり落ちる音がしたと思って……」
すると、天井から赤い液体がポツッ、ポツッと落ちてきた。
稲生:「天井を見上げると、そこには……」
キノ:「!?」
マリア:「!!!」
稲生:「何者かに血だらけにされて引きずられてきたクラスメートの死体が、天井に五寸釘で打ち付けられていたそうなんですよ!」
正しく、天井には数人の生徒達の死体が五寸釘で打ち付けられていた。
白いワイシャツは血で真っ赤に染まっている。
マリア:「落ち着け。幻影だ」
マリアが天井に向かって魔法の杖を突き上げる。
すると、死体達が煙のように消えた。
キノ:「ホラー屋敷みてぇな所に住んでるくせに、どうした、ユタ?」
稲生:「マリアさんの屋敷は幽霊屋敷じゃないからっ!」
マリア:「幽霊の類は、オマエの出番だろう?」
キノ:「オマエとは気安い魔女だな。安心しな。さっきから、幽霊の気配は無ェって言ってるだろ。これは誰かの仕掛けたヤツだな」
マリア:「誰が?」
キノ:「オレ的には、オメェみてーな魔法使いが犯人だと思ってるんだがな?どうなんだ?」
マリア:「……否定はできない」
稲生:「マリアさん!?」
マリア:「現に、私の魔法の杖で簡単に消せたからな。魔界の穴についてはまだ何とも言えないけど、この件に関しては、魔法の産物のような気がする」
稲生:「魔法使いが関わってるんですか?」
マリア:「否定はできない」
稲生:「一体、誰が……?」
キノ:「くそっ!結局、情報無しかよ!」
キノはイラついて、個室の中にある汚物入れを蹴飛ばした。
スチール製の汚物入れがタイル床に転がって、その蓋が開く。
使用されているトイレなら、使用済みのナプキンでも出てくるところだろうが、使用されていないトイレなので、当然そんなもの出てくるはずも無く……。
キノ:「江蓮ーっ!どこだよー!?」
キノは一途に愛する人間の彼女の名を叫んだ。
マリア:「江蓮か。合宿の時とか、勉強教えてあげた記憶がある。なかなか話せる、いいコだと思うね。もう少し魔力が強かったら、是非ともイリーナ組に……ん?」
マリアが稲生以外の人間を褒めるのは珍しい。
だがその時、マリアは何も入っていないはずの汚物入れに何かが入っているのを見つけた。
マリア:「これは……?」
それはもちろん、使用済みの生理用品ではない。
何か、メモを丸めたものだった。
開けてみると、1階の壁にあったのと同じ字体で、『新校舎へ行け』とあった。
マリア:「……だってさ」
キノ:「くそっ、躍らせやがって!」
稲生:「で、でも、新校舎はさすがにマズいよ。あそこには警備員さんが……。仮眠時間は0時から4時半までだから、それまでにこの学校を出ないと」
キノ:「要するに、起こさなきゃいいんだろ?」
マリア:「永眠させる気か?ユウタの気持ちも考えろ」
キノ:「そうじゃねぇ。ガードマンが泊まり込んでるってことは、逆を言えば、そこはそんなに防犯センサーもあるわけじゃねぇってことだろ?」
稲生:「そうかぁ……」
マリア:「さすがに窓を割ったりしたら、アラームくらい鳴るとは思うが……」
キノ:「だから、そこは魔法使いのオメェらの出番だろ?」
稲生:「アバカムで開けろってか。確かに」
2人の魔道師と1人の獄卒は旧校舎をあとにし、新校舎へ向かうことにした。
旧校舎の探索が終了したという意味なのだろうか、今度は旧校舎出入口の扉はすんなり開いた。
それにしても、事故物件どころの騒ぎではなかった旧校舎だったが、新校舎も実はそれに負けず劣らずの事故物件ぶりだったのである。
稲生達は旧校舎に開いた魔界の穴を塞ぐことに成功した。
だがその直後、同じフロアの女子トイレの壁に血文字で3階に行けという文字が出ていた。
稲生達はそれに従って3階に向かった。
すると、3階の女子トイレにも明かりが灯っていた。
キノ:「どんなヤツが待ち構えてると思う?なあ?」
稲生:「し、知らないよ……」
マリア:「この建物のモンスターは全て倒したはずなのに……」
入口のドアの所まで来ると、中から何かが倒れる音がした。
稲生:「!!!」
キノ:「おい、今の聞いたか?」
キノは右手に刀を持ったまま、左手でドアを開ける。
キノ:「おう、邪魔するぜ!」
学校のトイレだから当たり前だが、造りは1階のそれと全く同じである。
天井の蛍光灯がこうこうと輝いてはいたが、やはりお世辞にも明るいとは言えない。
キノ:「おい、ユタ。その“トイレの花子さん”ってヤツはどこにいる?」
稲生:「奥から2番目の個室ってことになってる」
女子トイレには個室が4つある。
キノ:「そうか」
木製の古めかしいドアである為、使用していない時でもドアが閉まっているタイプだ。
キノ:「……おい、そこの魔女。お前が開けろ」
マリア:「あ?」
キノ:「よく考えたら、ここは女便所だ。開けた最中に【ぴー】だったらマズいだろ」
マリア:「あのなぁ……」
しかしマリアは拒否せずに、奥から2番目のドアの取っ手に手を掛けた。
稲生:「よくよく考えてみたら、妖気も霊気も無くなってるね」
キノ:「……だな」
マリアはドアを開けた。
……中には誰もいなかった。
古めかしい和式便器があるだけ。
ほとんど清掃されていないのは、使用を想定していないからだろう。
あくまでも今は開放時間が限定された教育資料館であり、ここで長い時間過ごすことは想定されていないのだ。
マリアのような欧米人にとっては、この和式便器はなるべく使いたくない代物だ。
しゃがんで用を足すことに、屈辱感があるという。
マリア:「で?この後、何が起きるんだ?」
稲生:「話の主人公は、この後、階下からの叫び声に反応するんです。教室には数人のクラスメートが残っていたという話なんですが、そこから全員の叫び声がしたそうです。主人公が急いで教室に向かうと、何者かに血だらけの状態にされて、引きずられていたと。その後を追うと、反対側の階段からこの女子トイレに続いていたそうです。血の跡が」
キノ:「それで?」
稲生:「トイレに入ると、血の跡がこの奥から2番目の個室の前まで続いていたそうなんですけど、ドアを開けたら何にも無い。どういうわけだか、ここでぷっつり切れていたそうなんですよ」
稲生は個室の前を指さした。
キノ:「で?結局どうなった?」
稲生は結末を知っていた。
だからぞくっと背筋が寒くなった。
稲生:「て、天井から何かがしたたり落ちる音がしたと思って……」
すると、天井から赤い液体がポツッ、ポツッと落ちてきた。
稲生:「天井を見上げると、そこには……」
キノ:「!?」
マリア:「!!!」
稲生:「何者かに血だらけにされて引きずられてきたクラスメートの死体が、天井に五寸釘で打ち付けられていたそうなんですよ!」
正しく、天井には数人の生徒達の死体が五寸釘で打ち付けられていた。
白いワイシャツは血で真っ赤に染まっている。
マリア:「落ち着け。幻影だ」
マリアが天井に向かって魔法の杖を突き上げる。
すると、死体達が煙のように消えた。
キノ:「ホラー屋敷みてぇな所に住んでるくせに、どうした、ユタ?」
稲生:「マリアさんの屋敷は幽霊屋敷じゃないからっ!」
マリア:「幽霊の類は、オマエの出番だろう?」
キノ:「オマエとは気安い魔女だな。安心しな。さっきから、幽霊の気配は無ェって言ってるだろ。これは誰かの仕掛けたヤツだな」
マリア:「誰が?」
キノ:「オレ的には、オメェみてーな魔法使いが犯人だと思ってるんだがな?どうなんだ?」
マリア:「……否定はできない」
稲生:「マリアさん!?」
マリア:「現に、私の魔法の杖で簡単に消せたからな。魔界の穴についてはまだ何とも言えないけど、この件に関しては、魔法の産物のような気がする」
稲生:「魔法使いが関わってるんですか?」
マリア:「否定はできない」
稲生:「一体、誰が……?」
キノ:「くそっ!結局、情報無しかよ!」
キノはイラついて、個室の中にある汚物入れを蹴飛ばした。
スチール製の汚物入れがタイル床に転がって、その蓋が開く。
使用されているトイレなら、使用済みのナプキンでも出てくるところだろうが、使用されていないトイレなので、当然そんなもの出てくるはずも無く……。
キノ:「江蓮ーっ!どこだよー!?」
キノは一途に愛する人間の彼女の名を叫んだ。
マリア:「江蓮か。合宿の時とか、勉強教えてあげた記憶がある。なかなか話せる、いいコだと思うね。もう少し魔力が強かったら、是非ともイリーナ組に……ん?」
マリアが稲生以外の人間を褒めるのは珍しい。
だがその時、マリアは何も入っていないはずの汚物入れに何かが入っているのを見つけた。
マリア:「これは……?」
それはもちろん、使用済みの生理用品ではない。
何か、メモを丸めたものだった。
開けてみると、1階の壁にあったのと同じ字体で、『新校舎へ行け』とあった。
マリア:「……だってさ」
キノ:「くそっ、躍らせやがって!」
稲生:「で、でも、新校舎はさすがにマズいよ。あそこには警備員さんが……。仮眠時間は0時から4時半までだから、それまでにこの学校を出ないと」
キノ:「要するに、起こさなきゃいいんだろ?」
マリア:「永眠させる気か?ユウタの気持ちも考えろ」
キノ:「そうじゃねぇ。ガードマンが泊まり込んでるってことは、逆を言えば、そこはそんなに防犯センサーもあるわけじゃねぇってことだろ?」
稲生:「そうかぁ……」
マリア:「さすがに窓を割ったりしたら、アラームくらい鳴るとは思うが……」
キノ:「だから、そこは魔法使いのオメェらの出番だろ?」
稲生:「アバカムで開けろってか。確かに」
2人の魔道師と1人の獄卒は旧校舎をあとにし、新校舎へ向かうことにした。
旧校舎の探索が終了したという意味なのだろうか、今度は旧校舎出入口の扉はすんなり開いた。
それにしても、事故物件どころの騒ぎではなかった旧校舎だったが、新校舎も実はそれに負けず劣らずの事故物件ぶりだったのである。