[12月30日05:30.天候:晴 JR上野駅]
早朝の上野駅を無言で歩く4人。
江蓮にはケガは無かったものの、かなり衰弱していた為、本来なら病院に運ぶべきだと思われた。
マリアの体力回復薬と回復魔法で、何とか歩けるまでに回復した。
その分、マリアが疲弊することとなったのだが……。
ワンスターホテルに行って、そこで休むという選択肢もあったが、キノが家に連れて帰ることにした。
いずれにせよ、大宮までは自力で帰ることになる。
稲生:「大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「ん……何とか……」
コンコース内のトイレから出て来たマリアと江蓮。
江蓮も完全に回復したわけではなかったが、今はどちらかというと、江蓮がマリアを支えているといった感じだった。
江蓮:「すいませんです、マリアンナ先生。とんだ手間を……」
マリア:「いや、いい……」
ゆっくりとした足取りで、高いホームの6番線に行くと、既に15両編成の電車が停車していた。
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。6番線に停車中の列車は、5時30分発、普通、小金井行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕
さすがの稲生も今回ばかりは、ホイホイと鉄ヲタぶりを発揮して先頭車まで行く体力は残っていなかった。
それでもクハ車を選んで乗り込んだところに、まだその名残がある。
夏ならばもうとっくに立派な朝であろうが、冬場の今はまだ夜の帳が電車の周りに下りている。
暗い学校内を走り回った為に、駅構内や車内の照明は眩しかった。
〔この電車は宇都宮線、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕
4人はちょうど空いている4人席に座った。
キノは江蓮を誰かから守るように、ひしっと肩を抱いている。
稲生:「大丈夫なのかい?刀、折れちゃったけど……」
キノ:「ヘタすりゃオレんとこと商売敵になるかもしれねぇ相手と戦って折れちまったんだ。仕方無ェよ。始末書くらいならいつでも書いてやる」
キノが振るっていた妖刀は、幹部獄卒だけが帯刀を許される官給品らしい。
それは今、麻袋の中に入れてしまっている。
ちょうど剣道部員が自分の竹刀を持ち運びする時のように。
マリアはローブを羽織って、フードを被っていた。
稲生:「マリアさん、家に着いたら少し休みましょう。両親には上手く言っておきますから」
マリア:「ああ……」
キノ:「ユタ、オメェも肩くらい抱いたらどうだ?」
マリア:「……!」
稲生:「い、いや、あの……」
キノ:「こういう時に抱いとかねーと、いつまで経っても進展しねーぞ」
江蓮:「煽ってんじゃねーよ、キノ。……すいません、マリアンナ先生と稲生さん」
稲生:「いや、別に……」
江蓮は高校の時、マリアから勉強を教えてもらったことで、久方ぶりに定期テストの全教科赤点回避を成し遂げた。
その時の恩があるらしい。
それ以来、江蓮はマリアを先生敬称で呼ぶ。
〔「お待たせ致しました。宇都宮線、普通電車の小金井行き、まもなく発車致します」〕
発車の時間が迫り、ホームに発車メロディが鳴り響く。
上野東京ライン開通前はベルだったのだが、今はメロディに変わった。
〔6番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
電車は大きな閉扉音を立てた後、ゆっくりと上野駅のホームを発車した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は宇都宮線、普通電車、小金井行きです。グリーン車は、4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕
稲生:「鬼郎丸君と魔鬼ちゃんは元気?あと美鬼さんも」
稲生はキノに姉弟達のことを聞いた。
蓬莱山家は4人姉弟である。
長姉の美鬼には稲生も世話になったし、キノにとっては絶対に頭の上がらない姉である。
鬼郎丸は次男で、人間で言えば大学生くらいの歳になったか。
幹部獄卒になる為に全寮制の養成学校に入っており、今は実家にいない。
魔鬼は生きている人間に興味を持ったことで、人間界の高校への入学を希望した。
今から思えば東京中央学園に入ってくれれば良かったのだが、あいにくと別の共学校に入っている。
既に、獲物となる人間の男子高校生を物色しているらしい。
愛らしい顔つきをしているので、別に魔鬼が妖術を使わなくても、ホイホイとついていく哀れな男子はいるかもしれない。
魔鬼が狙うのは人間の血肉ではなく、男の精。
今のところ、犠牲者が出たというような話は聞かない。
だが、魔鬼が学校の怪談話の主人公になることはないだろう。
キノ:「ああ、元気でやってるよ。オレの姉弟は元気が良過ぎてウザいくらいだ」
稲生:「姉弟か……。いいなぁ……」
マリア:「いいな……」
江連:「いいな……」
キノ:「お前ら……w」
ここにいるキノを除けば、全員一人っ子である。
キノ:「姉貴はうるせーし、鬼郎丸は空気だし、魔鬼もたまにウゼー時があるし、ロクなもんじゃねーぜ」
稲生:「鬼郎丸君、空気扱いされてる」
江蓮:「真面目でおとなしくていいコじゃん。稲生さんみたいに」
キノ:「オレの知らねー所で、人間の女食い漁ってるような気がしてしょうがねぇ……」
江蓮:「あー……。『オレはアニキと違って、一途キャラじゃないんです』とか言ってたような気がする……」
キノ:「ほお……。そろそろ説教してやる時期かな」
江蓮:「お姉さんの前でできるんだったら、いいんじゃない?」
キノ:「っ……!いきなりハードル上げるんじゃねーよ」
[同日06:01.天候:晴 JR大宮駅]
〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕
電車が下車駅に近づく。
稲生:「そろそろ降りますよー」
キノ:「んん……もう着いたか」
江連:「うとうとすると、すぐだね」
稲生:「大宮まで中距離電車だと飛ばして行くからね。マリアさん、もうすぐですよ。大丈夫ですか?」
マリア:「ああ……」
電車が大宮駅手前のポイントを通過する。
高崎線より進入速度はゆっくりだが、それでも定刻通りに電車は到着した。
〔「おはようございます。大宮、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線は宇都宮線、普通電車、小金井行きです」〕
4人は電車を降りた。
稲生:「この後、野田線で?」
キノ:「いや、タクシーで帰る。金なら持って来てるんだ」
稲生:「そうか。僕達もそうしましょう」
キノ:「オレとユタだけなら根性出して歩いて帰りゃいいが、さすがに今は無理だな」
稲生:「そうだね」
マリアは魔法の杖を支えに歩いているくらいだ。
もう片方の手は稲生ではなく、江蓮に支えてもらっている。
稲生:「学校、今頃大騒ぎだろうなぁ……」
キノ:「隠蔽なら任せとけ。犯人は分かんねーようにしてある。本当はスケープゴートがありゃ確実なんだがな」
稲生:「別に、僕達が何か悪いことしたわけじゃないのにねぇ……」
稲生とマリア、キノと江蓮はそれぞれタクシーに分乗して、それぞれの家に帰宅した。
マリアは寝泊まりできる部屋として割り当てられた客間のベッドに横になると、すぐに寝入ってしまった。
あまりにも深い眠りに入ってしまったせいか、特段予知夢のようなものを見ることもなく、夕方に目が覚めたようである。
早朝の上野駅を無言で歩く4人。
江蓮にはケガは無かったものの、かなり衰弱していた為、本来なら病院に運ぶべきだと思われた。
マリアの体力回復薬と回復魔法で、何とか歩けるまでに回復した。
その分、マリアが疲弊することとなったのだが……。
ワンスターホテルに行って、そこで休むという選択肢もあったが、キノが家に連れて帰ることにした。
いずれにせよ、大宮までは自力で帰ることになる。
稲生:「大丈夫ですか、マリアさん?」
マリア:「ん……何とか……」
コンコース内のトイレから出て来たマリアと江蓮。
江蓮も完全に回復したわけではなかったが、今はどちらかというと、江蓮がマリアを支えているといった感じだった。
江蓮:「すいませんです、マリアンナ先生。とんだ手間を……」
マリア:「いや、いい……」
ゆっくりとした足取りで、高いホームの6番線に行くと、既に15両編成の電車が停車していた。
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。6番線に停車中の列車は、5時30分発、普通、小金井行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕
さすがの稲生も今回ばかりは、ホイホイと鉄ヲタぶりを発揮して先頭車まで行く体力は残っていなかった。
それでもクハ車を選んで乗り込んだところに、まだその名残がある。
夏ならばもうとっくに立派な朝であろうが、冬場の今はまだ夜の帳が電車の周りに下りている。
暗い学校内を走り回った為に、駅構内や車内の照明は眩しかった。
〔この電車は宇都宮線、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕
4人はちょうど空いている4人席に座った。
キノは江蓮を誰かから守るように、ひしっと肩を抱いている。
稲生:「大丈夫なのかい?刀、折れちゃったけど……」
キノ:「ヘタすりゃオレんとこと商売敵になるかもしれねぇ相手と戦って折れちまったんだ。仕方無ェよ。始末書くらいならいつでも書いてやる」
キノが振るっていた妖刀は、幹部獄卒だけが帯刀を許される官給品らしい。
それは今、麻袋の中に入れてしまっている。
ちょうど剣道部員が自分の竹刀を持ち運びする時のように。
マリアはローブを羽織って、フードを被っていた。
稲生:「マリアさん、家に着いたら少し休みましょう。両親には上手く言っておきますから」
マリア:「ああ……」
キノ:「ユタ、オメェも肩くらい抱いたらどうだ?」
マリア:「……!」
稲生:「い、いや、あの……」
キノ:「こういう時に抱いとかねーと、いつまで経っても進展しねーぞ」
江蓮:「煽ってんじゃねーよ、キノ。……すいません、マリアンナ先生と稲生さん」
稲生:「いや、別に……」
江蓮は高校の時、マリアから勉強を教えてもらったことで、久方ぶりに定期テストの全教科赤点回避を成し遂げた。
その時の恩があるらしい。
それ以来、江蓮はマリアを先生敬称で呼ぶ。
〔「お待たせ致しました。宇都宮線、普通電車の小金井行き、まもなく発車致します」〕
発車の時間が迫り、ホームに発車メロディが鳴り響く。
上野東京ライン開通前はベルだったのだが、今はメロディに変わった。
〔6番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
電車は大きな閉扉音を立てた後、ゆっくりと上野駅のホームを発車した。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は宇都宮線、普通電車、小金井行きです。グリーン車は、4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕
稲生:「鬼郎丸君と魔鬼ちゃんは元気?あと美鬼さんも」
稲生はキノに姉弟達のことを聞いた。
蓬莱山家は4人姉弟である。
長姉の美鬼には稲生も世話になったし、キノにとっては絶対に頭の上がらない姉である。
鬼郎丸は次男で、人間で言えば大学生くらいの歳になったか。
幹部獄卒になる為に全寮制の養成学校に入っており、今は実家にいない。
魔鬼は生きている人間に興味を持ったことで、人間界の高校への入学を希望した。
今から思えば東京中央学園に入ってくれれば良かったのだが、あいにくと別の共学校に入っている。
既に、獲物となる人間の男子高校生を物色しているらしい。
愛らしい顔つきをしているので、別に魔鬼が妖術を使わなくても、ホイホイとついていく哀れな男子はいるかもしれない。
魔鬼が狙うのは人間の血肉ではなく、男の精。
今のところ、犠牲者が出たというような話は聞かない。
だが、魔鬼が学校の怪談話の主人公になることはないだろう。
キノ:「ああ、元気でやってるよ。オレの姉弟は元気が良過ぎてウザいくらいだ」
稲生:「姉弟か……。いいなぁ……」
マリア:「いいな……」
江連:「いいな……」
キノ:「お前ら……w」
ここにいるキノを除けば、全員一人っ子である。
キノ:「姉貴はうるせーし、鬼郎丸は空気だし、魔鬼もたまにウゼー時があるし、ロクなもんじゃねーぜ」
稲生:「鬼郎丸君、空気扱いされてる」
江蓮:「真面目でおとなしくていいコじゃん。稲生さんみたいに」
キノ:「オレの知らねー所で、人間の女食い漁ってるような気がしてしょうがねぇ……」
江蓮:「あー……。『オレはアニキと違って、一途キャラじゃないんです』とか言ってたような気がする……」
キノ:「ほお……。そろそろ説教してやる時期かな」
江蓮:「お姉さんの前でできるんだったら、いいんじゃない?」
キノ:「っ……!いきなりハードル上げるんじゃねーよ」
[同日06:01.天候:晴 JR大宮駅]
〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕
電車が下車駅に近づく。
稲生:「そろそろ降りますよー」
キノ:「んん……もう着いたか」
江連:「うとうとすると、すぐだね」
稲生:「大宮まで中距離電車だと飛ばして行くからね。マリアさん、もうすぐですよ。大丈夫ですか?」
マリア:「ああ……」
電車が大宮駅手前のポイントを通過する。
高崎線より進入速度はゆっくりだが、それでも定刻通りに電車は到着した。
〔「おはようございます。大宮、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線は宇都宮線、普通電車、小金井行きです」〕
4人は電車を降りた。
稲生:「この後、野田線で?」
キノ:「いや、タクシーで帰る。金なら持って来てるんだ」
稲生:「そうか。僕達もそうしましょう」
キノ:「オレとユタだけなら根性出して歩いて帰りゃいいが、さすがに今は無理だな」
稲生:「そうだね」
マリアは魔法の杖を支えに歩いているくらいだ。
もう片方の手は稲生ではなく、江蓮に支えてもらっている。
稲生:「学校、今頃大騒ぎだろうなぁ……」
キノ:「隠蔽なら任せとけ。犯人は分かんねーようにしてある。本当はスケープゴートがありゃ確実なんだがな」
稲生:「別に、僕達が何か悪いことしたわけじゃないのにねぇ……」
稲生とマリア、キノと江蓮はそれぞれタクシーに分乗して、それぞれの家に帰宅した。
マリアは寝泊まりできる部屋として割り当てられた客間のベッドに横になると、すぐに寝入ってしまった。
あまりにも深い眠りに入ってしまったせいか、特段予知夢のようなものを見ることもなく、夕方に目が覚めたようである。