[12月31日16:00.天候:雪 蔵王温泉郊外・ペンション“ビッグフォレスト”]
異常な霊気さえ無ければ、アットホームな雰囲気のペンションである。
しかし勇太が持ってきた水晶球は、何の警鐘も鳴らしていない。
恐らく、付近にそれなりの霊力を持った幽霊はいるものの、いわゆる悪霊ではないということだ。
勇太達に危害を加えるつもりは無いということである。
と、その時、木製のドアがノックされた。
勇太:「! はい!」
勇太が後ろを振り向いて応えると、ガチャとドアが開いて、マリアが入って来た。
室内の電球色の照明に、マリアの金髪が反射する。
マリア:「ふーん……?私の部屋と同じだな」
マリアの部屋は隣である。
勇太:「そうですか?」
マリア:「トイレと洗面所の配置が逆なくらいか。あとは、机とベッドの向き」
勇太:「隣り合わせだと、どうしてもそういう配置になりますよねぇ……」
マリアは空いているベッドに腰掛けた。
まだ16時になったばかりだが、天気が悪いのと、冬季であることから、夕闇が迫ってくるのが早いと窓の外から見て取れた。
勇太達が来た頃はまだライトを点けなくても大丈夫だったが、今車で走ろうとするならば、ライトを点けないと危険であろう。
マリア:「ところで……勇太は気づいたか?」
勇太:「この霊気のことですよね?」
マリア:「そう。何だと思う?」
勇太:「水晶球は何も反応していませんので、危険な幽霊ではないでしょう。ただ、東京中央学園に潜んでいた幽霊並みの霊気の強さですね。悪霊ではないものの、それがこの近くにいる。そこから漂ってくる霊気だと思います」
マリア:「うん、無難な回答だな。師匠なら目を細めて褒めてくれるよ」
勇太:「ありがとうございます。他に考えられませんものね」
マリア:「まあね」
勇太:「どうします?一応、正体について調査しますか?」
マリア:「いや、余計なことはしなくていいと思う。そいつが悪霊で、私達に危害を及ぼす恐れがあるというのなら別だけどね」
勇太:「分かりました」
マリア:「勇太の水晶球には何の反応も無いって?」
勇太:「そうなんです」
勇太は机の上に置いた水晶球を手に取った。
そして窓の方を向いているマリアの所に持って行く。
その際、勇太は窓の方に背を向けることになるわけだが……。
マリア:「Who are you!?」
マリアの自動翻訳魔法が切れた為、そこはガチの英語になる。
勇太:「えっ!?」
勇太は驚いて振り向いた。
マリアは窓の所へ駆け寄る。
手には、いつの間にか魔法の杖を持っていた。
勇太:「……誰もいないみたいですが……?」
マリア:「……!」
マリアは外開きの窓を開けた。
但し、転落防止の為か、大きく開かないようになっている。
マリア:「いない……」
寒風が室内に入り込む。
マリアは急いで窓を閉めた。
バンッという音が室内に響いた。
勇太:「マリアさんは何を見たんですか?」
マリア:「目だ」
勇太:「め……?……目ですか?」
マリア:「そう。金色に光る目だ。動物なんかじゃない。窓の外に、動物がこちらを見れるような場所は無かった」
勇太:「するとそいつは……?」
マリア:「私達が感じている幽霊か何かだろうな」
勇太:「それにしても、どうしてここにそれだけ強い霊気を持った幽霊がいるんでしょうねぇ?」
マリア:「分からない。恐らく、私達がそんな噂をしているのを聞きつけて、様子を見に来たんだろうけど……」
この時点でも、特に水晶球が警鐘を発することは無かった。
マリア:「これだけの雪深い所だから、毎年遭難者が出てもおかしくはないだろうね。ただ、幽霊……それも、悪霊になるかならないかくらいの強い霊気を持った者というのは珍しい」
稲生:「ですねぇ……。それよりマリアさん、夕食の前に温泉に入ってきませんか?サッパリしてから食べるのもいいですよ」
マリア:「それもそうだな」
ペンションなので、浴衣などは備え付けられていない。
このまま、タオルなどを持って向かうことになる。
勇太:「!?」
階段を1階まで降りた勇太は、何とも怪しげな客を見た。
受付でチェックインの手続きをしているようだ。
大森:「こちらがルームキーです。そちらの階段を上がりまして、右手奥の201号室になります」
男性客:「…………」
異様な空気を放つ男だった。
こういう場所に似合わないスーツ姿に黒いロングコートを羽織り、黒い中折れ帽を深く被っていた。
180cmくらいはありそうな長針と、そのような恰好から男性客であるということは分かる。
マリア:「……何だか怪しいヤツだな」
勇太:「そうですね」
2人はフロントの前を通った。
そこにはオーナーの大森がいた。
勇太:「温泉入れますか?」
大森:「どうぞ。こちらの廊下の奥にあります」
勇太:「どうも。ところでさっきの人、何か怪しい感じでしたね」
大森:「まあ、珍しいお客さんですね」
勇太:「何しに来たんでしょう?」
大森:「一応、さっき書いてもらったシートには、『ビジネス』の所にチェックがされてるんですよ。でも、お客さんのプライバシーもあるんで、何の仕事かまでは聞けないですけどね」
勇太:「ま、それもそうですね」
もちろん、あの時点では単なる見た目が怪しくて無愛想な客というだけであり、それだけで宿泊を断れるものではない。
客室に行った後は、再び出てきて何かするということでも無いようだ。
大森:「夕食は6時からなんで、ゆっくり入ってきてください」
勇太:「はい、ありがとうございます」
勇太とマリアは廊下の奥へ歩いた。
勇太:「さすがに、この霊気のことについては聞けませんでしたね」
マリア:「仕方が無い。あのオーナーには霊感が殆ど無いようだし、面と向かって聞いたところで、変な顔されるのがオチだろう」
勇太:「ですよねぇ……」
マリア:「ところで、御両親は誘わなくていいのか?」
勇太:「うちの両親のことだから、とっくに入ってると思いますよ」
マリア:「なるほど」
当たり前だが、男女で入口が分かれている。
稲生:「じゃ、マリアさん、また後で」
マリア:「ああ」
マリアは赤い暖簾を潜って脱衣場に入った。
マリア:(ここに来ても、変な霊気が漂ってるな……)
マリアは警戒しながらブラウスを脱いで、スカートも脱いだ。
ブラジャーのホックに手を回した時、背後に気配を感じた。
マリア:「!?」
バッと後ろを振り向くと、そこには洗面台があった。
その鏡に一瞬だけ、女の姿が映った。
そして、それはすぐに消えた。
マリア:(またか。一体、何だっていうんだ……?)
ただ一応、幽霊の性別が女だというところまでは分かった。
複数の幽霊がいるというわけではない。
漂う霊気の種類は1つだけだからだ。
マリア:(もしかして昔、このペンションで誰か死亡者でも出たのか?)
マリアは怪訝な顔をしながら一糸まとわぬ姿になると、大浴場に向かった。
尚、やはり正体は女の幽霊で間違い無さそうということで結論づいた。
後で勇太に聞いてみると、男湯に入ったらかなり霊気が弱まっていたということだ。
異常な霊気さえ無ければ、アットホームな雰囲気のペンションである。
しかし勇太が持ってきた水晶球は、何の警鐘も鳴らしていない。
恐らく、付近にそれなりの霊力を持った幽霊はいるものの、いわゆる悪霊ではないということだ。
勇太達に危害を加えるつもりは無いということである。
と、その時、木製のドアがノックされた。
勇太:「! はい!」
勇太が後ろを振り向いて応えると、ガチャとドアが開いて、マリアが入って来た。
室内の電球色の照明に、マリアの金髪が反射する。
マリア:「ふーん……?私の部屋と同じだな」
マリアの部屋は隣である。
勇太:「そうですか?」
マリア:「トイレと洗面所の配置が逆なくらいか。あとは、机とベッドの向き」
勇太:「隣り合わせだと、どうしてもそういう配置になりますよねぇ……」
マリアは空いているベッドに腰掛けた。
まだ16時になったばかりだが、天気が悪いのと、冬季であることから、夕闇が迫ってくるのが早いと窓の外から見て取れた。
勇太達が来た頃はまだライトを点けなくても大丈夫だったが、今車で走ろうとするならば、ライトを点けないと危険であろう。
マリア:「ところで……勇太は気づいたか?」
勇太:「この霊気のことですよね?」
マリア:「そう。何だと思う?」
勇太:「水晶球は何も反応していませんので、危険な幽霊ではないでしょう。ただ、東京中央学園に潜んでいた幽霊並みの霊気の強さですね。悪霊ではないものの、それがこの近くにいる。そこから漂ってくる霊気だと思います」
マリア:「うん、無難な回答だな。師匠なら目を細めて褒めてくれるよ」
勇太:「ありがとうございます。他に考えられませんものね」
マリア:「まあね」
勇太:「どうします?一応、正体について調査しますか?」
マリア:「いや、余計なことはしなくていいと思う。そいつが悪霊で、私達に危害を及ぼす恐れがあるというのなら別だけどね」
勇太:「分かりました」
マリア:「勇太の水晶球には何の反応も無いって?」
勇太:「そうなんです」
勇太は机の上に置いた水晶球を手に取った。
そして窓の方を向いているマリアの所に持って行く。
その際、勇太は窓の方に背を向けることになるわけだが……。
マリア:「Who are you!?」
マリアの自動翻訳魔法が切れた為、そこはガチの英語になる。
勇太:「えっ!?」
勇太は驚いて振り向いた。
マリアは窓の所へ駆け寄る。
手には、いつの間にか魔法の杖を持っていた。
勇太:「……誰もいないみたいですが……?」
マリア:「……!」
マリアは外開きの窓を開けた。
但し、転落防止の為か、大きく開かないようになっている。
マリア:「いない……」
寒風が室内に入り込む。
マリアは急いで窓を閉めた。
バンッという音が室内に響いた。
勇太:「マリアさんは何を見たんですか?」
マリア:「目だ」
勇太:「め……?……目ですか?」
マリア:「そう。金色に光る目だ。動物なんかじゃない。窓の外に、動物がこちらを見れるような場所は無かった」
勇太:「するとそいつは……?」
マリア:「私達が感じている幽霊か何かだろうな」
勇太:「それにしても、どうしてここにそれだけ強い霊気を持った幽霊がいるんでしょうねぇ?」
マリア:「分からない。恐らく、私達がそんな噂をしているのを聞きつけて、様子を見に来たんだろうけど……」
この時点でも、特に水晶球が警鐘を発することは無かった。
マリア:「これだけの雪深い所だから、毎年遭難者が出てもおかしくはないだろうね。ただ、幽霊……それも、悪霊になるかならないかくらいの強い霊気を持った者というのは珍しい」
稲生:「ですねぇ……。それよりマリアさん、夕食の前に温泉に入ってきませんか?サッパリしてから食べるのもいいですよ」
マリア:「それもそうだな」
ペンションなので、浴衣などは備え付けられていない。
このまま、タオルなどを持って向かうことになる。
勇太:「!?」
階段を1階まで降りた勇太は、何とも怪しげな客を見た。
受付でチェックインの手続きをしているようだ。
大森:「こちらがルームキーです。そちらの階段を上がりまして、右手奥の201号室になります」
男性客:「…………」
異様な空気を放つ男だった。
こういう場所に似合わないスーツ姿に黒いロングコートを羽織り、黒い中折れ帽を深く被っていた。
180cmくらいはありそうな長針と、そのような恰好から男性客であるということは分かる。
マリア:「……何だか怪しいヤツだな」
勇太:「そうですね」
2人はフロントの前を通った。
そこにはオーナーの大森がいた。
勇太:「温泉入れますか?」
大森:「どうぞ。こちらの廊下の奥にあります」
勇太:「どうも。ところでさっきの人、何か怪しい感じでしたね」
大森:「まあ、珍しいお客さんですね」
勇太:「何しに来たんでしょう?」
大森:「一応、さっき書いてもらったシートには、『ビジネス』の所にチェックがされてるんですよ。でも、お客さんのプライバシーもあるんで、何の仕事かまでは聞けないですけどね」
勇太:「ま、それもそうですね」
もちろん、あの時点では単なる見た目が怪しくて無愛想な客というだけであり、それだけで宿泊を断れるものではない。
客室に行った後は、再び出てきて何かするということでも無いようだ。
大森:「夕食は6時からなんで、ゆっくり入ってきてください」
勇太:「はい、ありがとうございます」
勇太とマリアは廊下の奥へ歩いた。
勇太:「さすがに、この霊気のことについては聞けませんでしたね」
マリア:「仕方が無い。あのオーナーには霊感が殆ど無いようだし、面と向かって聞いたところで、変な顔されるのがオチだろう」
勇太:「ですよねぇ……」
マリア:「ところで、御両親は誘わなくていいのか?」
勇太:「うちの両親のことだから、とっくに入ってると思いますよ」
マリア:「なるほど」
当たり前だが、男女で入口が分かれている。
稲生:「じゃ、マリアさん、また後で」
マリア:「ああ」
マリアは赤い暖簾を潜って脱衣場に入った。
マリア:(ここに来ても、変な霊気が漂ってるな……)
マリアは警戒しながらブラウスを脱いで、スカートも脱いだ。
ブラジャーのホックに手を回した時、背後に気配を感じた。
マリア:「!?」
バッと後ろを振り向くと、そこには洗面台があった。
その鏡に一瞬だけ、女の姿が映った。
そして、それはすぐに消えた。
マリア:(またか。一体、何だっていうんだ……?)
ただ一応、幽霊の性別が女だというところまでは分かった。
複数の幽霊がいるというわけではない。
漂う霊気の種類は1つだけだからだ。
マリア:(もしかして昔、このペンションで誰か死亡者でも出たのか?)
マリアは怪訝な顔をしながら一糸まとわぬ姿になると、大浴場に向かった。
尚、やはり正体は女の幽霊で間違い無さそうということで結論づいた。
後で勇太に聞いてみると、男湯に入ったらかなり霊気が弱まっていたということだ。