報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「落第点」

2017-01-19 21:24:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日13:40.天候:晴 山形県山形市]

 世間ではお正月で盛り上がっている中、ペンション“ビッグフォレスト”に宿泊していた客やスタッフ達は散々な年明けを迎えた。
 あれだけの猛吹雪がウソみたいに晴れて、冬の太陽が積もった雪に反射して眩しい。
 宗一郎の通報により、やっと外部にペンション内での惨劇が伝わった。
 だが、猛吹雪で警察や消防が駆け付けることができず、ようやく警察が駆け付けたのは、吹雪も収まった翌朝だった。
 あまりの惨劇に、蔵王温泉街は騒然となった。
 マスコミも駆け付け、上空にはヘリコプターが飛んだくらい。

 ペンションの関係者達は当然ながら、警察の事情聴取を受けた。
 だがもちろん、幽霊がどうたらの話など信じてもらえるわけがない。
 結局、島村真理愛1人の連続猟奇殺人事件ということになった。
 因みに悪霊に取り憑かれ、大森オーナーを連れ去った島村は行方不明となっている。
 ペンションのエントランスやホールには防犯カメラが取り付けられていたが、それに一連の流れが記録されていた。
 いずれにせよ、生き残った者達への疑いは晴れたわけである。

〔「7番線に停車中の電車は13時56分発、仙山線快速電車の仙台行きです。……」〕

 本当は山形市内に2泊するつもりであったが、事件のせいで中止を余儀無くされてしまった。
 山形市内に残っていてもマスコミの取材がある為、早いとこ山形市から出る必要があった。
 明日の山形新幹線はキャンセルし、その代わり、仙台からの東北新幹線に切り替えた。
 年始の期間で予約は取りにくかったが、それでも何とか取ることに成功した。
 ホテルに関しては難しそうに思えたが、意外とそうでもなかった。
 元旦の今日にはチェックアウトするパターンが多いからだろう。
 あと、宗一郎が何かコネでも利かしたか。

 電車はホームに既に入線していて、取りあえず席だけ先に確保しておいた。

〔この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子(あやし)と愛子からの各駅です〕

 イリーナ:「事件の経過は見させてもらったけど、あまり良い対応ではなかったわね。少なくとも、ユウタ君の母校での動き方と比べてもダメだったと言わざるを得ないわ」

 イリーナはマリアの水晶球を通じて、辛辣な評価を下した。
 満点なのは死亡者を1人も出さないこと。
 それなのに、憑依された島村も含めて6人も死者を出してしまった。
 ゲームによっては、バッドエンド扱いになる被害状況ぶりである。

 イリーナ:「しかもエネミー(敵)を取り逃がし、事件の謎解きも真相明かしもできていない。マリア、これは赤点ね。補習もしくは追試ものだわ」
 マリア:「くっ……!」
 イリーナ:「とにかく、あなたはしばらくの間、ロー・マスターのままね。ユウタ君も、マスターへの昇格はしばらくは無いものと思いなさい」
 勇太:「すいませんでした……」

 稲生とマリアは失意のうちに、電車内に戻った。

 勇太:「例の旧校舎と違って、明らかな廃墟での戦いでは無かったので、ちょっと戦い難かったというのはありましたけどね」
 マリア:「師匠に言わせれば、そんなの理由にならないそうだ」
 勇太:「厳しいですねぇ……」

 つまり、この事件ですら、ある程度は予知できなければダメだということらしい。

[同日13:56.天候:晴 JR仙山線3838M電車・先頭車内]

 発車メロディがホームに鳴り響く。
 地方の駅であるが、メロディは大宮駅・宇都宮線ホームと同じものだ。
 それと似た内装の電車が運転されているのだから、都会的と言えば都会的なのだろう。
 ただ、ボックスシートは首都圏の中距離電車のそれよりは広く造られている。
 雪が降り積もった線路の上を、4両編成の電車(E721系)は走り出した。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子と愛子からの各駅です。次は北山形、北山形。お出口は、右側です。山形線と左沢(あてらざわ)線は、お乗り換えです〕

 車内の自動放送も、首都圏の電車と同じ声優、似たような言い回しである。
 宗一郎は少しでも旅の気分を出す為なのか、缶ビールを開けていた。
 首都圏の電車には無い設備として、ボックスシートの窓際にはテーブルが置かれている。
 丸い窪みは明らかに、缶などを置くことを想定している。

 進行方向向きの窓側に座る宗一郎はビールを口に運んだ後、それを窓際にテーブルに置いて言った。

 宗一郎:「そうか。イリーナ先生に怒られたか。まあ、気を落とすんじゃない。別に、破門になっただとか、何か処分を受けたとか、そういうことではないんだろう?」
 勇太:「まあ……」

 宗一郎の隣に座る勇太は頷いた。

 宗一郎:「勇太はまだ弟子入りして間もない見習なんだからしょうがない。マリアさんも、そう思いませんか?
 マリア:「あっ、はい。そう思います。ダディ
 勇太:(こりゃ、先生に何か土産でも持って帰らないと、もっとこっ酷く怒られそうだ)
 佳子:「それにしても、ホテルは何とか取れたからいいようなものの、着いたらどうしましょう?」
 宗一郎:「それは着いたら考えればいいさ。勇太も何か考えてくれよ」
 勇太:「うーん……。元々は家族旅行として、温泉に行くつもりだったわけだから……」

 勇太は自分のスマホを出して、取りあえず何か検索することにした。

 宗一郎:「といってもさすがに疲れたし、昨夜はあの事件のせいで、ほとんど寝ていないというハンデがあるのだが」
 佳子:「無理しないで、今日は早めに休みましょうよ。どうせ、明日の新幹線は夜なんでしょう?」
 勇太:「普通車は軒並み満席。やっと固まって取れた席がグリーン車の、それも最終列車という有り様だよ」
 宗一郎:「ま、そんなところだろうね。ユウタの鉄道趣味を生かしても、その結果ということだ」
 勇太:「だから結局、明日は丸々1日過ごせるってわけ」
 宗一郎:「なら今日は早く休んで、明日に備えるか。ホテルは市街地にあるから、夕食なども場所には困らないだろう」

 快速電車は取りあえず、山形市内を北に向かって走行した。
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