[12月31日22:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”]
ペンション女性スタッフの篠原、それに勇太とマリアが209号室に向かった。
勇太はこれで2度目である。
篠原:「失礼します。スタッフの篠原と申しますが、ちょっとよろしいですかぁ?」
篠原がノックをして声を掛けた。
着替えてから1階に下りるということだったので、ここは女性スタッフが声掛けした方が良いと思ったのだ。
だが、応答は無かった。
篠原:「すいませーん!ちょっとだけでいいんで、開けてもらえますかー!?」
マリアが魔法の杖をグッと構える。
と、その時だった。
本田:「ぎゃああああぁ……っ!!」
部屋の中から女性の断末魔が聞こえて来た。
声からして、本田のようだ。
と、次の瞬間、部屋のガラスが割れる音がする。
勇太:「篠原さん、早く鍵を!」
篠原:「は、はい!」
マリア:「開ケタラ、アナタハ外デ待ッテテクダサーイ!」
篠原がカギを開けると、マリアが部屋の中に飛び込んだ。
勇太:「うっ……!」
窓ガラスが割れているので、201号室と同様、吹雪が室内に入り込んでいる。
勇太:「本田さん……」
本田は血だまりの中に倒れていた。
首を掻っ切られており、それが致命傷になったようだ。
マリアが脈を取ったが、既に事切れていた。
勇太:「渋谷さんは……?」
マリアはトイレの個室を開けた。
マリア:「!!!」
勇太:「マリアさん!?」
マリア:「……勇太は見ない方がいい」
そういうマリアも、吐き気を無理やり押さえている感じだった。
ちょっとやそっとのスプラッターなら慣れているはずの魔女でも、吐き気を催すほどだった。
それもそのはず。
トイレには首と胴体を切り離され、虚ろな目をした生首は律儀にも、閉じられた便座の蓋の上にちょこんと乗せられていた渋谷の姿があったのだから。
マリア:「悪霊め……!ひょっとすると、このペンションにいる者全員を殺すつもりかもしれない……!」
勇太:「何ですって!?」
マリア:「恐らく悪霊は島村真理愛の体に憑依したか、或いは島村本人が悪霊の権化だったのかも……!」
マリア繋がりで、マリアに憑依しようとしたこともあったと思う。
だが、そこは魔道師。
持ち前の魔力と警戒心で、それを防ぐことができた。
しかし、島村は……。
マリア:(鋭利な刃物でも持っているのか?随分ときれいに切るものだ)
刀剣で斬首するのは実は難しいということは、マリアも知っていた。
何度も何度も斬りつけて、ようやくその首を落とすのである。
さすがにそれは残酷過ぎるということで発明されたのが、フランスのギロチンである。
渋谷の首は、まるでギロチンで切り落としたかのようにきれいに切れていたのだ。
[同日22:15.天候:雪 ペンション1Fロビー]
大森:「えっ!?あの3人が!?」
篠原:「はい……」
勇太:「実に残念なことですが、本田さんも渋谷さんも殺されてしまいました。悪霊に取り憑かれた島村さんが、何らかの方法で殺害したものと思われます」
マリア:「この分ですと、最初に殺された鈴木という男性客も、島村氏に憑依した悪霊のしわざであると考えられます」
元木:「そうか……。あのコに取り憑いてしまったのか……。かわいそうに」
宗一郎:「大森君、電話は相変わらず通じないのか?」
大森:「はい……」
勇太:「僕のスマホも相変わらずダメだ。マリアさん、何とかイリーナ先生と連絡が取れませんか?」
勇太は日本語で言った後、ハッとしてすぐに英語で言い直した。
マリア:「さっきからやってるんだけど、全く水晶球もダメになってる。それほどまでに、強い悪霊が潜んでいたらしい。油断してしまった」
篠原:「さっきから、魔法使いみたいなことをされてますね」
宗一郎:「何しろ、世界一当たるという有名な占い師のお弟子さん達だ。もはや、魔法の領域と言ってもおかしくはないだろうね」
マリア:(世界一有名な占い師というのは、単なる師匠の表の顔に過ぎないのだが……)
小久保:「さっきから魔法だの幽霊だの、よく分かんねぇっスよ。もし本当なら、その魔法とやらで電話を繫げてみてくださいよ」
小久保は呆れたように肩を竦めると席を立った。
……ように見えた。
ソファから立ち上がったと思ったその後には、小久保は宙に浮いた。
……正確には宙に浮いたというよりは……。
小久保:「ぐぐぐぐ……!」
勇太:「!!!」
マリア:「キサマ!!」
小久保の首には、いつの間にか黒いロープのようなものが巻かれていた。
実際にはそれは黒いロープではなく……。
大森:「ま、真理愛!?何をしてるんだ!?」
島村真理愛の黒い髪の毛だった。
それが自由に伸び縮みできるのか、今は伸ばして小久保の首に絡みつき、吊るし上げているのだった。
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……破ッ!!」
マリアは魔法の杖を振るい、まるで剣で切り裂くかのように髪の毛を切り落とした。
小久保:「わあーっ!」
吹き抜け2階近くまで吊るし上げられていた小久保は、そこから真っ逆さま。
幸いソファの上に落ちたものの、バウンドしてテーブルの上に仰向けに乗っかった。
テーブルの上のコーヒーカップやらティーカップなどがメチャクチャに割れる音が響いた。
宗一郎:「キミ!大丈夫かい!?」
勇太:「父さん、逃げて!」
だが、真っ先に逃げたのは大森だった。
靴も履かずに、施錠された玄関から逃げようとしている。
しかしドアが開かない。
悪霊はそんな大森を見逃さなかった。
大森:「うわっ!?」
黒い髪を触手のように伸ばしてきて、大森の首に巻き付いた。
そして、そのままズルズルと談話コーナーに引き戻す。
悪霊:「何故殺シタ……?」
まるで地の底から聞こえてくるかのような声だ。
大森:「し、仕方が無かったんだ!俺は親父に頼まれて手切れ金を持って行っただけなんだ!あの時、お前達が騒ぎ立てなければあんなことには……!」
元木:「あんたが犯人だったのか!」
元木は確信したかのように言った。
悪霊:「コイツダケハ許サナイ……!依リ代ニナル人間ヲ探シテイタ……。今ガ復讐ノ時……!」
大森:「許してくれ……!」
元木:「やめるんだ、姉さん!こんなことしても、死んだ義兄さんは喜ばないぞ!」
宗一郎:「あなたは、さっきの話の弟さんだったのか。それで、事情を知っていたんだな」
元木:「そうです!姉さん、お願いだからやめてくれ!」
悪霊:「ヤメナイ……!」
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。悪霊よ、極楽浄土の夢を見よ。厄払いの……」
悪魔:「邪魔ハサセナイ!!」
大森:「わああああっ!助けてくれーっ!」
悪霊に憑依された島村は、髪の毛で大森を吊るし上げたまま天窓を突き破り、そのまま外へ飛び出した。
勇太:「オーナーが連れて行かれちゃったよ!」
マリア:「くそっ!悪霊の好きにはさせんぞ!個人的には放っておきたいけど!」
今度は玄関のドアが開いた。
宗一郎:「お、おい、キミ達!外は危険だぞ!」
佳子:「あなた、電話が通じるわ!」
宗一郎:「なにっ!?」
恐らく、悪霊がペンションの外に飛び出したからだろう。
佳子がスマホを手にしていた。
宗一郎:「すぐに警察に電話するんだ!」
宗一郎はあえてスマホではなく、フロントの固定電話から110番通報した。
篠原:「あと、救急車もお願いします。小久保君が……」
小久保は割れたカップの破片が体のあちこちに刺さったり切れたりして、体中から出血していた。
幸い、客室の被害者達のように致命傷を負うほどのケガではないようだが……。
ペンション女性スタッフの篠原、それに勇太とマリアが209号室に向かった。
勇太はこれで2度目である。
篠原:「失礼します。スタッフの篠原と申しますが、ちょっとよろしいですかぁ?」
篠原がノックをして声を掛けた。
着替えてから1階に下りるということだったので、ここは女性スタッフが声掛けした方が良いと思ったのだ。
だが、応答は無かった。
篠原:「すいませーん!ちょっとだけでいいんで、開けてもらえますかー!?」
マリアが魔法の杖をグッと構える。
と、その時だった。
本田:「ぎゃああああぁ……っ!!」
部屋の中から女性の断末魔が聞こえて来た。
声からして、本田のようだ。
と、次の瞬間、部屋のガラスが割れる音がする。
勇太:「篠原さん、早く鍵を!」
篠原:「は、はい!」
マリア:「開ケタラ、アナタハ外デ待ッテテクダサーイ!」
篠原がカギを開けると、マリアが部屋の中に飛び込んだ。
勇太:「うっ……!」
窓ガラスが割れているので、201号室と同様、吹雪が室内に入り込んでいる。
勇太:「本田さん……」
本田は血だまりの中に倒れていた。
首を掻っ切られており、それが致命傷になったようだ。
マリアが脈を取ったが、既に事切れていた。
勇太:「渋谷さんは……?」
マリアはトイレの個室を開けた。
マリア:「!!!」
勇太:「マリアさん!?」
マリア:「……勇太は見ない方がいい」
そういうマリアも、吐き気を無理やり押さえている感じだった。
ちょっとやそっとのスプラッターなら慣れているはずの魔女でも、吐き気を催すほどだった。
それもそのはず。
トイレには首と胴体を切り離され、虚ろな目をした生首は律儀にも、閉じられた便座の蓋の上にちょこんと乗せられていた渋谷の姿があったのだから。
マリア:「悪霊め……!ひょっとすると、このペンションにいる者全員を殺すつもりかもしれない……!」
勇太:「何ですって!?」
マリア:「恐らく悪霊は島村真理愛の体に憑依したか、或いは島村本人が悪霊の権化だったのかも……!」
マリア繋がりで、マリアに憑依しようとしたこともあったと思う。
だが、そこは魔道師。
持ち前の魔力と警戒心で、それを防ぐことができた。
しかし、島村は……。
マリア:(鋭利な刃物でも持っているのか?随分ときれいに切るものだ)
刀剣で斬首するのは実は難しいということは、マリアも知っていた。
何度も何度も斬りつけて、ようやくその首を落とすのである。
さすがにそれは残酷過ぎるということで発明されたのが、フランスのギロチンである。
渋谷の首は、まるでギロチンで切り落としたかのようにきれいに切れていたのだ。
[同日22:15.天候:雪 ペンション1Fロビー]
大森:「えっ!?あの3人が!?」
篠原:「はい……」
勇太:「実に残念なことですが、本田さんも渋谷さんも殺されてしまいました。悪霊に取り憑かれた島村さんが、何らかの方法で殺害したものと思われます」
マリア:「この分ですと、最初に殺された鈴木という男性客も、島村氏に憑依した悪霊のしわざであると考えられます」
元木:「そうか……。あのコに取り憑いてしまったのか……。かわいそうに」
宗一郎:「大森君、電話は相変わらず通じないのか?」
大森:「はい……」
勇太:「僕のスマホも相変わらずダメだ。マリアさん、何とかイリーナ先生と連絡が取れませんか?」
勇太は日本語で言った後、ハッとしてすぐに英語で言い直した。
マリア:「さっきからやってるんだけど、全く水晶球もダメになってる。それほどまでに、強い悪霊が潜んでいたらしい。油断してしまった」
篠原:「さっきから、魔法使いみたいなことをされてますね」
宗一郎:「何しろ、世界一当たるという有名な占い師のお弟子さん達だ。もはや、魔法の領域と言ってもおかしくはないだろうね」
マリア:(世界一有名な占い師というのは、単なる師匠の表の顔に過ぎないのだが……)
小久保:「さっきから魔法だの幽霊だの、よく分かんねぇっスよ。もし本当なら、その魔法とやらで電話を繫げてみてくださいよ」
小久保は呆れたように肩を竦めると席を立った。
……ように見えた。
ソファから立ち上がったと思ったその後には、小久保は宙に浮いた。
……正確には宙に浮いたというよりは……。
小久保:「ぐぐぐぐ……!」
勇太:「!!!」
マリア:「キサマ!!」
小久保の首には、いつの間にか黒いロープのようなものが巻かれていた。
実際にはそれは黒いロープではなく……。
大森:「ま、真理愛!?何をしてるんだ!?」
島村真理愛の黒い髪の毛だった。
それが自由に伸び縮みできるのか、今は伸ばして小久保の首に絡みつき、吊るし上げているのだった。
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……破ッ!!」
マリアは魔法の杖を振るい、まるで剣で切り裂くかのように髪の毛を切り落とした。
小久保:「わあーっ!」
吹き抜け2階近くまで吊るし上げられていた小久保は、そこから真っ逆さま。
幸いソファの上に落ちたものの、バウンドしてテーブルの上に仰向けに乗っかった。
テーブルの上のコーヒーカップやらティーカップなどがメチャクチャに割れる音が響いた。
宗一郎:「キミ!大丈夫かい!?」
勇太:「父さん、逃げて!」
だが、真っ先に逃げたのは大森だった。
靴も履かずに、施錠された玄関から逃げようとしている。
しかしドアが開かない。
悪霊はそんな大森を見逃さなかった。
大森:「うわっ!?」
黒い髪を触手のように伸ばしてきて、大森の首に巻き付いた。
そして、そのままズルズルと談話コーナーに引き戻す。
悪霊:「何故殺シタ……?」
まるで地の底から聞こえてくるかのような声だ。
大森:「し、仕方が無かったんだ!俺は親父に頼まれて手切れ金を持って行っただけなんだ!あの時、お前達が騒ぎ立てなければあんなことには……!」
元木:「あんたが犯人だったのか!」
元木は確信したかのように言った。
悪霊:「コイツダケハ許サナイ……!依リ代ニナル人間ヲ探シテイタ……。今ガ復讐ノ時……!」
大森:「許してくれ……!」
元木:「やめるんだ、姉さん!こんなことしても、死んだ義兄さんは喜ばないぞ!」
宗一郎:「あなたは、さっきの話の弟さんだったのか。それで、事情を知っていたんだな」
元木:「そうです!姉さん、お願いだからやめてくれ!」
悪霊:「ヤメナイ……!」
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。悪霊よ、極楽浄土の夢を見よ。厄払いの……」
悪魔:「邪魔ハサセナイ!!」
大森:「わああああっ!助けてくれーっ!」
悪霊に憑依された島村は、髪の毛で大森を吊るし上げたまま天窓を突き破り、そのまま外へ飛び出した。
勇太:「オーナーが連れて行かれちゃったよ!」
マリア:「くそっ!悪霊の好きにはさせんぞ!個人的には放っておきたいけど!」
今度は玄関のドアが開いた。
宗一郎:「お、おい、キミ達!外は危険だぞ!」
佳子:「あなた、電話が通じるわ!」
宗一郎:「なにっ!?」
恐らく、悪霊がペンションの外に飛び出したからだろう。
佳子がスマホを手にしていた。
宗一郎:「すぐに警察に電話するんだ!」
宗一郎はあえてスマホではなく、フロントの固定電話から110番通報した。
篠原:「あと、救急車もお願いします。小久保君が……」
小久保は割れたカップの破片が体のあちこちに刺さったり切れたりして、体中から出血していた。
幸い、客室の被害者達のように致命傷を負うほどのケガではないようだが……。