[12月31日15:00.天候:曇 山形県山形市蔵王]
バスは道路をぐんぐん登って行く。
タイヤにはチェーンを巻いているが、そうでないと登れないと思う程の急坂もあった。
そんな中をバスは突き進み、ようやく蔵王温泉バスターミナルに到着した。
勇太:「マリアさんの屋敷の周りみたいだなぁ……」
マリア:「何だか、もう帰って来たみたいだ」
勇太:「た、確かに……」
そんなことを話しながらバスを降りる。
乗車券と整理券を運賃箱に放り込む。
勇太:「ここから近いの?」
宗一郎:「いや、まだ結構掛かるぞ」
勇太:「どうやって行くの!?」
宗一郎:「ペンションから迎えが来ることになってる」
ターミナルの中はさすがに暖房が効いて暖かい。
スキー客が大勢いる中、温泉だけに来た稲生家は何だか浮いている。
外国人のマリアはどうなのかというと、やっぱり浮いていた。
いや、外国人もいることはいた。
マリア:(あの黒人達、アメリカ人か?英語の訛りがヒドいな……。カリブ辺りからの移民だろうか?……なワケないか)
マリアも生粋のイギリス人から見れば移民の1人である。
出身国のハンガリーは英語圏の国ではない為、それがイジメ加害者達からの恰好のネタにされた。
宗一郎:「おっ、あの車だ」
宗一郎が指さした。
ターミナルの外側に、1台のRV車が止まった。
シルバーのデリカであり、車体の横に『ペンション ビッグフォレスト』と書かれていた。
その運転席から降りてくる1人の壮年の男。
年代は宗一郎と同じくらいだ。
宗一郎:「よお、大森君」
大森:「お待たせしました。稲生専務」
宗一郎:「おいおい。キミが会社を辞めた時は、お互い常務だっただろう?本当は私が座っている席はキミが座るはずで、私がキミに頭を下げる立場になっていたはずだよ?」
大森:「とにかく、どうぞ乗ってください」
大森はスライドドアを開けた。
勇太:「ここから遠いんですか?」
大森:「雪が無かったら20分と掛からないんだけど、この季節だとねぇ、30分くらいは見てください」
勇太:「そうですか」
稲生家とマリアは車に乗り込んだ。
大森が運転席に乗り込んでから、後ろを振り向いて言う。
大森:「あ、申し遅れました。私、ペンション“ビッグフォレスト”のオーナーで大森次郎と申します。よろしくお願いします」
勇太:「オーナーさん自ら迎えに来てくれるなんて……」
大森:「ハハハ……。アルバイトはいるんですけど、お部屋の準備で忙しいものでね。それでは出発します」
車がターミナルを出ると、小雪が舞い始めてきた。
[同日15:40.天候:雪 蔵王温泉 ペンション“ビッグフォレスト”]
圧雪している道を進む車。
当然、冬タイヤ着装であるはずだが、よく滑らずに走れるものだと勇太は感心した。
時々、固くなっている雪の上を走るのか、ガタガタと車が大きく揺れることがあった。
それでもオーナーとしては走り慣れた道なのだろう。
涼しい顔をしてハンドルを握り、宗一郎と話をしていた。
大森オーナーは昔からペンションを経営するのが夢だったらしい。
それが今、こうしてそれを実現させたわけだ。
会社の常務にまで出世するほどのエリートが、自分の夢を叶える為と称して突然離職したのだから、それはもう会社中が大騒ぎになったらしい。
ただ、宗一郎だけは前々から彼の夢を聞いていたこともあり、想定内だと思ったという。
宗一郎:「実家が山形だとは聞いていただけど、まさかこんな山奥とは……」
大森:「山をいくつか持っていたから、そのうちの1つを相続したんだ。温泉を引くことができて良かったよ」
勇太:「山をいくつも!?」
大森:「ハハハ……。野生動物が出没するだけの、何の資産価値も無い山ですよ」
勇太:「いやいや、温泉出てるじゃないですか!」
宗一郎:「日本は温泉大国だからな、東京23区内ですら温泉が出るくらいだろう?温泉が出るくらいでは、資産価値が上がるわけではないんだよ」
それはさすがに失礼ではないかと思うのだが、宗一郎はその後に続けて言った。
宗一郎:「それを資産価値であるペンションにしてしまうんだから、やはりキミには商才があるんだよ」
大森:「いやいや……」
そんなことを話しながら、車はペンションに到着した。
その頃には、雪は本降りになってきた。
ペンションと称するからには当然洋風な造りなのは当たり前だが、マリアの屋敷みたいな洋館というよりは、もっとカジュアルなログキャビン風になっていた。
宗一郎:「ほお、これはまたオシャレな外観だねぇ……」
大森:「どうもどうも。さ、到着しましたよ。足元に気を付けて」
勇太:「ありがとうごさいます」
稲生家とマリアは車から降りた。
マリア:「……?」
マリアはこのペンションに対し、何か違和感を覚えた。
勇太:「どうしました、マリアさん?」
マリア:「いや……」
勇太:「何かあるんですか?」
マリア:「いや、現時点ではまだ何とも言えない」
勇太:「えっ?」
中に入ると、2階吹き抜けのロビーが現れた。
ソファやテーブルが置かれた談話コーナーを兼ねているロビーがあり、オーナーの部屋と繋がったフロントもある。
開放的な造りで、圧迫感など微塵も無い。
宗一郎:「ここで待ってて。チェック・インの手続きをしてくる」
勇太:「うん」
宗一郎がフロントへ向かい、残りの3人はソファに座る。
暖炉を模したガスストーブが赤々と燃えている。
温度も雰囲気も暖かいのだが、やはりマリアには違和感があった。
マリア:「誰かにどこかで見られてる気がしないか?」
マリアは勇太に耳打ちした。
勇太:「えっ?いや、別に……。防犯カメラとかじゃないですか?」
マリア:「なワケないだろう」
勇太:「イリーナ先生や他の魔道師さんが、僕達の動向を見ているとか?」
マリア:「いや、それとは違う。……何だろう?あの時みたいな……」
勇太:「あの時?何ですか?」
しかしそこへ宗一郎が戻ってきた。
ルームキーを持った大森も来る。
大森はペンションの概要などを説明した。
食堂が1階にあり、今夜の夕食や明日の朝食はそこで出るという。
また、フロント脇の通路の奥へ行くと大浴場があり、そこで温泉にも入れる。
部屋に関してはオートロックにはなっていない。
また、ペンションでは客室にトイレすら付いていない場合が多いが、ここでは部屋によってはシャワーが付いている部屋もあるという。
あいにくと、勇太達に割り当てられた部屋には無いようだが。
尚、客室はツインと、それにエキストラベッドを加えたトリプルがある。
シングルは無い。
勇太の両親は問題無いが、まだそういう関係ではない勇太とマリアは別々にされた。
勇太:「僕の部屋はここですね」
吹き抜けの階段を上がり、稲生は205号室に入った。
勇太:「205系だ」
マリアとは隣り合わせの部屋であるが……。
勇太:「…………」
部屋に入った時、勇太もまた違和感を覚えた。
部屋にはトイレと洗面台がある。
稲生:(何か、肩が重いなぁ……。ま、部屋を替えてもらうほどのものではないか)
試しに洗面台の鏡を覗いてみたり、トイレの個室を覗いてみたが、その時点で変なモノが現れることは無かった。
稲生:(なるほど。マリアさんが言ってたのはこのことか。でもまあ、ここにはいないみたいだな……。この霊気を放つ者はどこか別の場所にいて、そこから漂って来てるって感じか……)
稲生は空いているベッドの横に荷物を置き、ライティングデスクの上には水晶球を置いた。
今のところ、水晶球が何か警鐘を発することはない。
なので、特段気にする必要は無いのだろう。
バスは道路をぐんぐん登って行く。
タイヤにはチェーンを巻いているが、そうでないと登れないと思う程の急坂もあった。
そんな中をバスは突き進み、ようやく蔵王温泉バスターミナルに到着した。
勇太:「マリアさんの屋敷の周りみたいだなぁ……」
マリア:「何だか、もう帰って来たみたいだ」
勇太:「た、確かに……」
そんなことを話しながらバスを降りる。
乗車券と整理券を運賃箱に放り込む。
勇太:「ここから近いの?」
宗一郎:「いや、まだ結構掛かるぞ」
勇太:「どうやって行くの!?」
宗一郎:「ペンションから迎えが来ることになってる」
ターミナルの中はさすがに暖房が効いて暖かい。
スキー客が大勢いる中、温泉だけに来た稲生家は何だか浮いている。
外国人のマリアはどうなのかというと、やっぱり浮いていた。
いや、外国人もいることはいた。
マリア:(あの黒人達、アメリカ人か?英語の訛りがヒドいな……。カリブ辺りからの移民だろうか?……なワケないか)
マリアも生粋のイギリス人から見れば移民の1人である。
出身国のハンガリーは英語圏の国ではない為、それがイジメ加害者達からの恰好のネタにされた。
宗一郎:「おっ、あの車だ」
宗一郎が指さした。
ターミナルの外側に、1台のRV車が止まった。
シルバーのデリカであり、車体の横に『ペンション ビッグフォレスト』と書かれていた。
その運転席から降りてくる1人の壮年の男。
年代は宗一郎と同じくらいだ。
宗一郎:「よお、大森君」
大森:「お待たせしました。稲生専務」
宗一郎:「おいおい。キミが会社を辞めた時は、お互い常務だっただろう?本当は私が座っている席はキミが座るはずで、私がキミに頭を下げる立場になっていたはずだよ?」
大森:「とにかく、どうぞ乗ってください」
大森はスライドドアを開けた。
勇太:「ここから遠いんですか?」
大森:「雪が無かったら20分と掛からないんだけど、この季節だとねぇ、30分くらいは見てください」
勇太:「そうですか」
稲生家とマリアは車に乗り込んだ。
大森が運転席に乗り込んでから、後ろを振り向いて言う。
大森:「あ、申し遅れました。私、ペンション“ビッグフォレスト”のオーナーで大森次郎と申します。よろしくお願いします」
勇太:「オーナーさん自ら迎えに来てくれるなんて……」
大森:「ハハハ……。アルバイトはいるんですけど、お部屋の準備で忙しいものでね。それでは出発します」
車がターミナルを出ると、小雪が舞い始めてきた。
[同日15:40.天候:雪 蔵王温泉 ペンション“ビッグフォレスト”]
圧雪している道を進む車。
当然、冬タイヤ着装であるはずだが、よく滑らずに走れるものだと勇太は感心した。
時々、固くなっている雪の上を走るのか、ガタガタと車が大きく揺れることがあった。
それでもオーナーとしては走り慣れた道なのだろう。
涼しい顔をしてハンドルを握り、宗一郎と話をしていた。
大森オーナーは昔からペンションを経営するのが夢だったらしい。
それが今、こうしてそれを実現させたわけだ。
会社の常務にまで出世するほどのエリートが、自分の夢を叶える為と称して突然離職したのだから、それはもう会社中が大騒ぎになったらしい。
ただ、宗一郎だけは前々から彼の夢を聞いていたこともあり、想定内だと思ったという。
宗一郎:「実家が山形だとは聞いていただけど、まさかこんな山奥とは……」
大森:「山をいくつか持っていたから、そのうちの1つを相続したんだ。温泉を引くことができて良かったよ」
勇太:「山をいくつも!?」
大森:「ハハハ……。野生動物が出没するだけの、何の資産価値も無い山ですよ」
勇太:「いやいや、温泉出てるじゃないですか!」
宗一郎:「日本は温泉大国だからな、東京23区内ですら温泉が出るくらいだろう?温泉が出るくらいでは、資産価値が上がるわけではないんだよ」
それはさすがに失礼ではないかと思うのだが、宗一郎はその後に続けて言った。
宗一郎:「それを資産価値であるペンションにしてしまうんだから、やはりキミには商才があるんだよ」
大森:「いやいや……」
そんなことを話しながら、車はペンションに到着した。
その頃には、雪は本降りになってきた。
ペンションと称するからには当然洋風な造りなのは当たり前だが、マリアの屋敷みたいな洋館というよりは、もっとカジュアルなログキャビン風になっていた。
宗一郎:「ほお、これはまたオシャレな外観だねぇ……」
大森:「どうもどうも。さ、到着しましたよ。足元に気を付けて」
勇太:「ありがとうごさいます」
稲生家とマリアは車から降りた。
マリア:「……?」
マリアはこのペンションに対し、何か違和感を覚えた。
勇太:「どうしました、マリアさん?」
マリア:「いや……」
勇太:「何かあるんですか?」
マリア:「いや、現時点ではまだ何とも言えない」
勇太:「えっ?」
中に入ると、2階吹き抜けのロビーが現れた。
ソファやテーブルが置かれた談話コーナーを兼ねているロビーがあり、オーナーの部屋と繋がったフロントもある。
開放的な造りで、圧迫感など微塵も無い。
宗一郎:「ここで待ってて。チェック・インの手続きをしてくる」
勇太:「うん」
宗一郎がフロントへ向かい、残りの3人はソファに座る。
暖炉を模したガスストーブが赤々と燃えている。
温度も雰囲気も暖かいのだが、やはりマリアには違和感があった。
マリア:「誰かにどこかで見られてる気がしないか?」
マリアは勇太に耳打ちした。
勇太:「えっ?いや、別に……。防犯カメラとかじゃないですか?」
マリア:「なワケないだろう」
勇太:「イリーナ先生や他の魔道師さんが、僕達の動向を見ているとか?」
マリア:「いや、それとは違う。……何だろう?あの時みたいな……」
勇太:「あの時?何ですか?」
しかしそこへ宗一郎が戻ってきた。
ルームキーを持った大森も来る。
大森はペンションの概要などを説明した。
食堂が1階にあり、今夜の夕食や明日の朝食はそこで出るという。
また、フロント脇の通路の奥へ行くと大浴場があり、そこで温泉にも入れる。
部屋に関してはオートロックにはなっていない。
また、ペンションでは客室にトイレすら付いていない場合が多いが、ここでは部屋によってはシャワーが付いている部屋もあるという。
あいにくと、勇太達に割り当てられた部屋には無いようだが。
尚、客室はツインと、それにエキストラベッドを加えたトリプルがある。
シングルは無い。
勇太の両親は問題無いが、まだそういう関係ではない勇太とマリアは別々にされた。
勇太:「僕の部屋はここですね」
吹き抜けの階段を上がり、稲生は205号室に入った。
勇太:「205系だ」
マリアとは隣り合わせの部屋であるが……。
勇太:「…………」
部屋に入った時、勇太もまた違和感を覚えた。
部屋にはトイレと洗面台がある。
稲生:(何か、肩が重いなぁ……。ま、部屋を替えてもらうほどのものではないか)
試しに洗面台の鏡を覗いてみたり、トイレの個室を覗いてみたが、その時点で変なモノが現れることは無かった。
稲生:(なるほど。マリアさんが言ってたのはこのことか。でもまあ、ここにはいないみたいだな……。この霊気を放つ者はどこか別の場所にいて、そこから漂って来てるって感じか……)
稲生は空いているベッドの横に荷物を置き、ライティングデスクの上には水晶球を置いた。
今のところ、水晶球が何か警鐘を発することはない。
なので、特段気にする必要は無いのだろう。