報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ペンション到着」

2017-01-11 21:43:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日15:00.天候:曇 山形県山形市蔵王]

 バスは道路をぐんぐん登って行く。
 タイヤにはチェーンを巻いているが、そうでないと登れないと思う程の急坂もあった。
 そんな中をバスは突き進み、ようやく蔵王温泉バスターミナルに到着した。

 勇太:「マリアさんの屋敷の周りみたいだなぁ……」
 マリア:「何だか、もう帰って来たみたいだ」
 勇太:「た、確かに……」

 そんなことを話しながらバスを降りる。
 乗車券と整理券を運賃箱に放り込む。

 勇太:「ここから近いの?」
 宗一郎:「いや、まだ結構掛かるぞ」
 勇太:「どうやって行くの!?」
 宗一郎:「ペンションから迎えが来ることになってる」

 ターミナルの中はさすがに暖房が効いて暖かい。
 スキー客が大勢いる中、温泉だけに来た稲生家は何だか浮いている。
 外国人のマリアはどうなのかというと、やっぱり浮いていた。
 いや、外国人もいることはいた。

 マリア:(あの黒人達、アメリカ人か?英語の訛りがヒドいな……。カリブ辺りからの移民だろうか?……なワケないか)

 マリアも生粋のイギリス人から見れば移民の1人である。
 出身国のハンガリーは英語圏の国ではない為、それがイジメ加害者達からの恰好のネタにされた。

 宗一郎:「おっ、あの車だ」

 宗一郎が指さした。
 ターミナルの外側に、1台のRV車が止まった。
 シルバーのデリカであり、車体の横に『ペンション ビッグフォレスト』と書かれていた。
 その運転席から降りてくる1人の壮年の男。
 年代は宗一郎と同じくらいだ。

 宗一郎:「よお、大森君」
 大森:「お待たせしました。稲生専務」
 宗一郎:「おいおい。キミが会社を辞めた時は、お互い常務だっただろう?本当は私が座っている席はキミが座るはずで、私がキミに頭を下げる立場になっていたはずだよ?」
 大森:「とにかく、どうぞ乗ってください」

 大森はスライドドアを開けた。

 勇太:「ここから遠いんですか?」
 大森:「雪が無かったら20分と掛からないんだけど、この季節だとねぇ、30分くらいは見てください」
 勇太:「そうですか」

 稲生家とマリアは車に乗り込んだ。
 大森が運転席に乗り込んでから、後ろを振り向いて言う。

 大森:「あ、申し遅れました。私、ペンション“ビッグフォレスト”のオーナーで大森次郎と申します。よろしくお願いします」
 勇太:「オーナーさん自ら迎えに来てくれるなんて……」
 大森:「ハハハ……。アルバイトはいるんですけど、お部屋の準備で忙しいものでね。それでは出発します」

 車がターミナルを出ると、小雪が舞い始めてきた。

[同日15:40.天候:雪 蔵王温泉 ペンション“ビッグフォレスト”]

 圧雪している道を進む車。
 当然、冬タイヤ着装であるはずだが、よく滑らずに走れるものだと勇太は感心した。
 時々、固くなっている雪の上を走るのか、ガタガタと車が大きく揺れることがあった。
 それでもオーナーとしては走り慣れた道なのだろう。
 涼しい顔をしてハンドルを握り、宗一郎と話をしていた。
 大森オーナーは昔からペンションを経営するのが夢だったらしい。
 それが今、こうしてそれを実現させたわけだ。
 会社の常務にまで出世するほどのエリートが、自分の夢を叶える為と称して突然離職したのだから、それはもう会社中が大騒ぎになったらしい。
 ただ、宗一郎だけは前々から彼の夢を聞いていたこともあり、想定内だと思ったという。

 宗一郎:「実家が山形だとは聞いていただけど、まさかこんな山奥とは……」
 大森:「山をいくつか持っていたから、そのうちの1つを相続したんだ。温泉を引くことができて良かったよ」
 勇太:「山をいくつも!?」
 大森:「ハハハ……。野生動物が出没するだけの、何の資産価値も無い山ですよ」
 勇太:「いやいや、温泉出てるじゃないですか!」
 宗一郎:「日本は温泉大国だからな、東京23区内ですら温泉が出るくらいだろう?温泉が出るくらいでは、資産価値が上がるわけではないんだよ」

 それはさすがに失礼ではないかと思うのだが、宗一郎はその後に続けて言った。

 宗一郎:「それを資産価値であるペンションにしてしまうんだから、やはりキミには商才があるんだよ」
 大森:「いやいや……」

 そんなことを話しながら、車はペンションに到着した。
 その頃には、雪は本降りになってきた。
 ペンションと称するからには当然洋風な造りなのは当たり前だが、マリアの屋敷みたいな洋館というよりは、もっとカジュアルなログキャビン風になっていた。

 宗一郎:「ほお、これはまたオシャレな外観だねぇ……」
 大森:「どうもどうも。さ、到着しましたよ。足元に気を付けて」
 勇太:「ありがとうごさいます」

 稲生家とマリアは車から降りた。

 マリア:「……?」

 マリアはこのペンションに対し、何か違和感を覚えた。

 勇太:「どうしました、マリアさん?」
 マリア:「いや……」
 勇太:「何かあるんですか?」
 マリア:「いや、現時点ではまだ何とも言えない」
 勇太:「えっ?」

 中に入ると、2階吹き抜けのロビーが現れた。
 ソファやテーブルが置かれた談話コーナーを兼ねているロビーがあり、オーナーの部屋と繋がったフロントもある。
 開放的な造りで、圧迫感など微塵も無い。

 宗一郎:「ここで待ってて。チェック・インの手続きをしてくる」
 勇太:「うん」

 宗一郎がフロントへ向かい、残りの3人はソファに座る。
 暖炉を模したガスストーブが赤々と燃えている。
 温度も雰囲気も暖かいのだが、やはりマリアには違和感があった。

 マリア:「誰かにどこかで見られてる気がしないか?」

 マリアは勇太に耳打ちした。

 勇太:「えっ?いや、別に……。防犯カメラとかじゃないですか?」
 マリア:「なワケないだろう」
 勇太:「イリーナ先生や他の魔道師さんが、僕達の動向を見ているとか?」
 マリア:「いや、それとは違う。……何だろう?あの時みたいな……」
 勇太:「あの時?何ですか?」

 しかしそこへ宗一郎が戻ってきた。
 ルームキーを持った大森も来る。
 大森はペンションの概要などを説明した。
 食堂が1階にあり、今夜の夕食や明日の朝食はそこで出るという。
 また、フロント脇の通路の奥へ行くと大浴場があり、そこで温泉にも入れる。
 部屋に関してはオートロックにはなっていない。
 また、ペンションでは客室にトイレすら付いていない場合が多いが、ここでは部屋によってはシャワーが付いている部屋もあるという。
 あいにくと、勇太達に割り当てられた部屋には無いようだが。
 尚、客室はツインと、それにエキストラベッドを加えたトリプルがある。
 シングルは無い。
 勇太の両親は問題無いが、まだそういう関係ではない勇太とマリアは別々にされた。

 勇太:「僕の部屋はここですね」

 吹き抜けの階段を上がり、稲生は205号室に入った。

 勇太:「205系だ」

 マリアとは隣り合わせの部屋であるが……。

 勇太:「…………」

 部屋に入った時、勇太もまた違和感を覚えた。
 部屋にはトイレと洗面台がある。

 稲生:(何か、肩が重いなぁ……。ま、部屋を替えてもらうほどのものではないか)

 試しに洗面台の鏡を覗いてみたり、トイレの個室を覗いてみたが、その時点で変なモノが現れることは無かった。

 稲生:(なるほど。マリアさんが言ってたのはこのことか。でもまあ、ここにはいないみたいだな……。この霊気を放つ者はどこか別の場所にいて、そこから漂って来てるって感じか……)

 稲生は空いているベッドの横に荷物を置き、ライティングデスクの上には水晶球を置いた。
 今のところ、水晶球が何か警鐘を発することはない。
 なので、特段気にする必要は無いのだろう。
コメント
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