報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「家族旅行前日」

2017-01-08 21:40:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日16:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 西日の差し込む稲生家の客間。
 畳敷きだが、カーペットを敷いて、その上に折り畳みベッドが設置されている。
 その上に布団が敷かれていて、マリアはそこでうつ伏せで眠っていた。
 家に帰って、着替えもせずに横になると、そのまま寝落ちしてしまったのである。

 マリア:「う……。うう……ん……」

 マリアは窓から差し込む西日の直撃を受けて目を覚ました。
 客間は家の一番西寄りにある為、カーテンが開いていると、そこから差し込む西日が半端無い。
 冬の日差しであり、暑さなど殆ど無いのだが、それでも眩しいことに変わりは無い。
 深く眠りに落ちていたマリアも、これには覚醒せざるを得なかった。

 マリア:「うう……」

 マリアが頭だけ起こすと、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
 それでもすぐに思い出した。

 マリア:(そうか……。ここはユウタの家……)

 しかもマリアが寝ぼけていたのは、この西日が西日と認識しなかったこと。
 つまり、夕方ではなく、朝方だと思ったのである。

 マリア:(もうこんな時間!?)

 枕元の時計はアナログ式で4時を指していたのだが、これをマリアは16時ではなく、本当の4時だと思った。
 日本では(イギリスであっても現地時間の)冬の4時はまだ真っ暗だと思うのだが……。

 マリア:(どんだけ寝てたんだ、私は!?)

 マリアは客間から廊下に出たが、どうも家の中に人の気配がしない。

 マリア:「ユウタ?」

 リビングに行っても、ダイニングに行っても誰もいない。
 試しに、稲生の自室がある2階に行ってみた。
 稲生の自室にも気配は無かったし、シャワールームにもいなかった。

 マリア:(どこかへ出かけてるのか……?)

 寒気がマリアを襲う。
 今の日本は冬なのだから当たり前だ。
 マリアは客間に戻ると、ローブを羽織った。
 眠る時でも、ローブは脱いでいたらしい。
 また、この部屋ではエアコンの暖房が入っていた。
 自分は点けた記憶は無いから、稲生が入れてくれたのだろう。
 ローブは脱いでいたが、その下のブレザーやらは着たままだった。
 よほど体力を消耗していたのだろう。
 さすがに今はたっぷり寝たこともあって、MPも全回復している。
 荷物の中から水晶球を出すと、それで稲生達の居場所を占った。

 『イオンモール与野→稲生家』と出た後、車に乗っている稲生家の姿があった。
 どうやら、家族で買い物に行ったらしい。
 で、今から帰ってくる所だと。

 マリア:(そういうことか)

 マリアはようやく自分の体内時計を修復し、納得していると、稲生達が帰って来た。

 稲生:「あっ、マリアさん、もう起きて大丈夫なんですか?」
 マリア:「うん。悪いな。たっぷり寝かせてもらって……」
 稲生:「いえいえ」
 マリア:「買い物に行ってたのか」
 稲生:「ええ。明日から旅行に行きますからね、色々と準備をしてきたんですよ」
 マリア:「ふーん……?本当に私も行っていいの?」
 稲生:「もちろん……」

 稲生が大きく頷こうとした。

 宗一郎:「Welcome to the family,daughter!」

 宗一郎が流暢な英語でマリアに言った。
 会社では渉外担当で外国にもよく行くことから、英語は流暢である。
 マリアがその英語を聞くと顔を赤らめて、

 マリア:「Thank you so much.」

 と、答えた。
 因みに宗一郎の言葉、直訳すると、『ようこそ家族へ、娘よ!』となるのだが、マリアなどの英語圏の国の人間としてはもっと砕けた表現に聞こえ、『キミも家族だ!』となるらしい。

[同日17:00.天候:晴 稲生家]

 マリア:「いつの間にか、お父様とは英語で話すようになっている。いいんだろうか?」
 稲生:「いいんじゃないですか。父もTOEICマスターできて、喜んでましたから」
 マリア:「確かに、自動翻訳を使ったままだと、何か失礼な言い方をしてしまう恐れがある……」

 マリアは考え込んだ。
 マリアは実は日本語を喋っていない。
 自動翻訳魔法で、日本人にはマリアの英語が自動で日本語に翻訳されて耳に入るのだが、どうも直訳されることが多いせいか、マリアが年齢不相応の硬い表現で喋っているように聞こえてしまう。

 マリア:「お母様は英語は?」
 稲生:「あまり分からないと思います」
 マリア:「そうか……」
 稲生:「どうでしょう?マリアさんは片言でも日本語は喋れるわけですから、それと英語を混ぜるというのは?」
 マリア:「お母様には日本語で、お父様は英語ってこと?」
 稲生:「そうです。もし何でしたら、僕が通訳ってことでもいいですよ」
 マリア:「なるほど……」
 稲生:「夕食の時にでも、試しにやってみては?」
 マリア:「そうだな」

[同日18:00.天候:晴 稲生家]

 夕食にはビーフステーキが出て来た。

 稲生:「旅行はどこに行くの?」
 宗一郎:「山形蔵王さ。あそこにはスキー場もあるし、温泉もある。マリアさん、温泉が好きなんだって?」
 稲生:「好きというか……」

 人間時代に受けた暴力の数々により、全身が痣ができたマリア。
 魔道師になってからも、その傷痕が消えぬままである。
 そこで稲生は、温泉に入ることで、少しでもそういった傷を消そうとした。
 もちろん、ほとんど気休めである。
 だがマリアにとっては、そんな気遣いをしてくれることがありがたかった。
 魔道師になると肉体の成長や老化の速度が、普通の人間よりも極端に遅くなる。
 細胞の劣化が物凄く遅いからなのだが、その為に受けた傷の治癒も遅くなっている。
 魔法使いが回復魔法を使うのはこの為である。

 マリア:「温泉、好キデス。ユウタ君ニ、紹介サレマシタ。トテモ、気持チイイデス」

 マリアは片言の日本語で答えた。
 自動翻訳魔法で強制的に換えられた日本語よりも、こちらの方が柔和に聞こえる。

 宗一郎:「そうか。それなら、期待してもよろしい。大船に乗ったつもりでいてくれ」
 稲生:「ハハハ……」

 稲生は何故か苦笑いした。
 そして、マリアに耳打ちした。

 稲生:「威吹が同居していた時も、一緒に旅行に行ったんですよ。威吹は威吹で有名な妖怪だったものですから、行く先々で色々なことがありましてね。父さん的には、そんな威吹の役回りをマリアさんにやってもらいたいみたいです」
 マリア:「なるほど……。(といっても、東北地方に魔道師はいないから、ご期待に沿えそうにないな)」

 マリアはそう思いながら、鉄板の上に乗ったステーキ肉を頬張った。
コメント (13)
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