報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師2人旅」

2017-01-30 22:12:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月4日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 湯快爽快おおみや]

 マリア:「最後はここで風呂に入るのが定番になってきたな」
 稲生:「戻りが夜行バスなもんで、すいません」
 マリア:「いや、別にこれでいいし」

 2人は食事処で夕食を取っていた。

 マリア:「心なしか、体に残った傷痕が少しずつ消えているような気がする。……気のせいかもしれないけど」
 稲生:「本当ですか?」
 マリア:「何度も温泉に入ったからかもしれない。ありがとう」
 稲生:「いえいえ、そんな……」
 マリア:「師匠達のように、グランドマスター(Grand Master)になる為の条件があって、それは『魔女』からの脱却なの。だから師匠達、体には傷痕が残っていないでしょ?」
 稲生:「そういえば……。イリーナ先生もきれいな肌ですもんね」
 マリア:「もちろん私はまだロー・マスターだから、次はミドル・マスターを目指すことになる。少しずつ人間時代の呪いを消さなくてはならない。そのスティグマが過去に受けた傷だとしたら、それが少しでも消えるのはいいことなんだ」
 稲生:「そうですよね。だけど、エレーナはともかくとして、『魔女』ではない人達も一部にはいるわけで、その人達はどうなるんでしょ?」
 マリア:「純粋に魔法を覚えたかどうかだと思うけど……」
 稲生:「あ、なるほど。……そろそろ、行く準備しましょうか。着替えもありますし」
 マリア:「そうだな」

 2人ともレンタルの作務衣を着ていた。

[同日21:30.天候:晴 湯快爽快おおみや→送迎バス車内]

 運転手:「大宮駅行き最終、発車しまーす!」

 送迎用のマイクロバスにエンジンを掛けた運転手が、建物のエントランスの方まで声を掛けに行く。
 車内には電球色の照明が灯っていた。
 稲生とマリアは2人掛け席に腰掛けている。
 運転手がバスに戻ると、すぐに自動ドアを閉めた。
 その後で駐車場の中を進み、裏手の路地側に出る。
 住宅街の中を通って、国道に出るルートである。

 マリア:「師匠が、特段何も無いから安心して帰ってきてくれとのことだ」
 稲生:「そうですか。それなら安心ですね」

 特に危険なことは占いに出なかったということか。

 稲生:「先生も大師匠様のお相手で大変でしたでしょうから」
 マリア:「それは師匠の仕事だしな。いつも寝てるんだから、たまには仕事してもらわないと」
 稲生:「ははは……」

 バスは国道に入ると、軽やかな速度で南下した。

[同日21:45.天候:晴 JR大宮駅西口→構内]

 バスは15分くらいで大宮駅西口に到着する。
 但し、路線バスではないので、バスプールの中で停車はできないし、バス停の真ん前にも止まれないので、そこから少し離れた所に止まる。
 バスを降りて、ペデストリアンデッキの上に上がる。
 大きな荷物は予め駅のコインロッカーに入れてあるので、途中で取りに行かないといけない。
 因みに、今ではもう自然に手を繋げるようになっている。

 稲生:「えーと、この辺だったかな」

 Suicaで支払いできるタイプのコインロッカー。
 タッチパネルにて荷物を取り出す選択肢を押して、自分のSuicaを当てれば開錠される。

 マリア:「やはりどうしても、来た時よりバッグが重くなってる……」
 稲生:「しょうがないですよ。お土産とかも、色々あるし」
 マリア:「大きいヤツとかは、送ったんだけどなぁ……」
 稲生:「おっ、そろそろ電車が出る時間です。急ぎましょう」

 稲生はマリアの分の荷物を取り出すと、急いで改札口に向かった。

[同日21:53.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム→埼京線2184K10号車内]

〔「19番線から21時53分発、各駅停車の新宿行き、まもなく発車致します。ご利用のお客様は、お急ぎください」〕

 稲生:「よし、間に合った」
 マリア:「うん」

 りんかい線の車両が発車を待っていた。
 埼京線のシンボルカラーの緑ではなく、京浜東北線みたいなブルーのシートが目に飛び込む。
 夜の上り電車ということもあってか、あまり混んでいない。
 先頭車のドア横の座席に腰掛けた。
 それと同時に、発車メロディがホームに鳴り響く。

〔19番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ドアチャイムを3回鳴らしながらドアが閉まる。
 JRのE233系よりも、りんかい線の70-000系の方がドアの閉まるスピードが速いような気がする。
 E233系とは違うVVVFインバータの音色を響かせて、電車は地下ホームを出発した。

〔「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。21時53分発、各駅停車の新宿行きです。途中駅での通勤快速の接続、並びに通過待ちはございません。次は北与野、北与野です」〕

 LED蛍光灯の白い光が車内を包む中、マリアは魔道書を取り出した。

 勇太:「マリアさん、勉強熱心ですね」
 マリア:「違う違う。これは、いわゆる日誌さ」
 勇太:「日誌?」
 マリア:「今日どういうことをして、何があったかを記録するもの……。『冒険の書』とも言うかな」
 勇太:「なるほど。セーブデータみたいなものですか」
 マリア:「そんな感じ」
 勇太:「じゃ、ゲームオーバーになったら、この電車の中から再スタートですか?」
 マリア:「あくまでも例えであって、本当にゲームオーバーになったら、本当に人生終了だからな?」
 勇太:「おっと、そうでした」
 マリア:「私も勇太も魔道師になった以上は、長い時を生きることになる。それこそ、勇太のダディやマミーが年老いて亡くなったとしても、勇太と私の姿は殆ど変わっていないはず」
 勇太:「歳を取らないと……いうわけですか。イリーナ先生がそうですもんね」
 マリア:「師匠の場合、実態は婆さんだよ。ただ、魔法であの姿になっているだけでね。あの体が元々きれいな人だったってことさ」
 勇太:「それは聞いています」
 マリア:「でも記憶となると別。師匠も、恐らく800年前に何があったかまではよく覚えていないと思う。ていうか、前に聞いたことがあったけど、殆ど答えられなかった。だから私は、こうしていい思い出ができたら、白紙の魔道書を日誌代わりにしてるんだ。魔道書はその魔道師の魔法が掛かっている限り、朽ち果てることはないからね」
 勇太:「なるほど……。あっ、旅日記!旅日記ですね!」
 マリア:「旅日記?……なるほど。それもいいかもね」

 マリアは本の表紙に手を翳した。
 マゼンタ色の表紙には何も書かれていなかったが、マリアが手を翳すと、『Tabi Diary』と出た。
 あえて、Tripではなく、Tabiと来たか。
 あいにくと、旅日記という単語そのものに相当する英単語は存在しない。

 マリア:「因みにこの中には、前に北海道で“魔の者”やその眷属達と戦った事も書いてあるよ」
 稲生:「おっ、そうですか。何だか、あれも随分昔にあったように感じるなぁ……」
 マリア:「魔道師として年数を重ねれば重ねるほど、時間の感覚がズレてくるそうだ。私もこうして、勇太に連れ出してもらえなかったら、とっくにそうなってたさ」
 稲生:「そうなんですか……」

[同日23:00.天候:晴 東京都渋谷区 バスタ新宿]

 JR新宿駅やバスタ新宿など、名前は新宿なのに住所は渋谷区という罠。

 マリア:「向こうに着くまで、一眠りってところか……」
 勇太:「そうですね」

〔「23時5分発、アルピコ交通、信濃大町駅経由、白馬八方バスターミナル行きはC7番乗り場から発車致します。……」〕

 バス乗り場に1号車の表示が出されたバスがやってくる。
 正月三ヶ日が過ぎたとはいえ、学生はまだまだ冬休みの時期である。
 1号車には既に満席の表示が出ていたので、2号車以降の続行便が出るのだろう。
 但し、それはこのバスタ新宿からは出発しないという罠。
 従来の新宿西口26番から出るという。
 稲生達は1号車に乗るので、ここで良い。
 スキー客を狙っての運行なので、実際にその装備でバスを待つ客が多かった。
 稲生達のように、ただ単にそこに住んでいて、戻るだけという乗客はかなり少ない。
 最近の夜行バスは3列シートが主流になっているが、こちらは4列シートのまま。
 但し、1号車はトイレが付いていて、シートピッチ等は少し広い(JRバスの楽座シートみたいなもの)。
 大きな荷物は荷物室に預け、荷棚に乗るものだけ持ち込む。
 因みに、ミク人形とハク人形は荷棚である。

 稲生:「バスに車内販売は無いからね」

 稲生が荷物を荷棚に乗せようとすると、ミク人形とハク人形が顔を覗かせた。
 4列シートであるが、稲生達のような2人連れならむしろ大歓迎である。
 但し、毛布やスリッパ等は無い。
 既にカーテンは閉まっており、外の様子を窺い知ることはできない。

 バスは2〜3分ほど遅れて出発した。
 乗り場は4階なので、公道に出る為にスロープを下りることになる。
 高速道路に入るまでは、まだ車内の照明は点いたままだ。
 マリアは欠伸をして、ローブに付いているフードを被った。

 マリア:「勇太、私はもう寝るから、着いたら起こして」
 勇太:「分かりました。おやすみなさい」

 とはいえ、このバスの終点まで乗るので、寝過ごしの心配は無いが。
 バスはバスタ新宿を出ると、夜の甲州街道を高速の入口に向かって行った。
コメント
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