報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「家族旅行の終わり」

2017-01-26 22:50:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日18:00.天候:晴 JR仙台駅3F・すし通り]

 稲生家とマリアは旅行最後の夕食に、仙台駅構内の寿司店に入っていた。
 寿司の他に、焼き物や揚げ物も出す店である。
 稲生家は寿司を頼んでいたが、マリアは主に天ぷらや焼き物を頼んでいた。
 人間時代に受けた暴行の1つに、冷たい川に投げ込まれたというものがある。
 その際に、泳いでいた魚が口の中に飛び込んで来たのがトラウマになっていた。
 尚、その後の復讐劇で川に投げ込んだ奴らは全員この世からその存在が抹消されている。
 怠惰の悪魔ベルフェゴールにとっては、良い金づる……もとい、魂づるであっただろう。
 同じ悪魔なのに、契約先が人間と魔道師とでは全然態度と立ち回り方が違う。

 マリア:「会計は自分で持てよ?勇太のダディに払わせるなよ?」

 マリアはカウンター席で、刺身盛り合わせと日本酒に舌鼓を売っているベルフェゴールにツッコミを入れた。
 勇太達の前では、映画俳優みたいな派手なスーツ姿に中折れ帽を深く被った状態で現れる。
 因みにベルフェゴールの隣には、色欲の悪魔アスモデウスも座っていた。
 それまでは如何にも色欲の悪魔らしく、ビッチな黒ギャルの姿をしていたのに、今は肌もだいぶ白くなっている。
 アスモデウスの目的は、偏に勇太との契約である。
 ダンテ一門ではその方針により、見習いはまだ悪魔との契約が許されていない。
 その弟子にどんな悪魔を契約させるかは直属の師匠が決めるのだが、たまにこうして悪魔の方から契約しに来ることがある。
 ……ま、こんなことやっていれば、そりゃ魔女狩り肯定派のキリスト教派に追い回されるのも当然と言えば当然か。

 ベルフェゴール:「もちろんですよ。あそこで酔い潰れている中年客のカードに被せておこう」
 マリア:「他人の金だと思って……」

 アスモデウスが黒ギャルから白ギャルに変わったのは、勇太の心境の変化かもしれない。
 実は悪魔の姿は、見る人間により姿が全く違って見えるという。
 怠惰の悪魔がどうしてスーツ姿のダンディな男に見えるのかは不明だが、アスモデウスが白くなったのは、好きなマリアが白人だからか?

 宗一郎:「ん?誰と話していたんだい?マリアさん
 マリア:「あ、すいません。ちょっと、占いのことで……
 宗一郎:「?」

 因みに宗一郎がカウンターを見ると、そこには誰もいなかった。
 綺麗に平らげられた皿と徳利とお猪口が置かれていただけだった。
 尚、後で店員から起こされた中年客が伝票を見てムンクの叫びを上げたかどうかは【お察しください】。

[同日20:00.天候:晴 JR仙台駅・東北新幹線ホーム]

 夕食を終えた勇太達は、新幹線のキップを手に新幹線乗り場に向かった。
 在来線改札口より大きい新幹線改札口を通過する。
 ただ、この時点ではまだ若干時間があったので、トイレに行ったりして時間を潰した。

 宗一郎:「仙台駅始発じゃないのか」
 勇太:「うん、盛岡始発。まあ、でもちゃんと席は取れたからね。夜の上りだから、空いてるんだと思うよ」
 宗一郎:「そうか」

 エスカレーターでホームに上がると、佇まいは大宮駅と似たものである。
 それでも寒風がホームの中を吹き抜けるところは、ここが高架であることを物語っている。

〔13番線に20時ちょうど発、“やまびこ”56号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。まもなく13番線に、“やまびこ”56号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 ホームに接近放送が鳴り響く。
 仙台駅にはまだホームドア(安全柵)が無い。
 そこは東海道新幹線より遅れているが、運行車両が統一されていないからだろう。

〔「13番線、ご注意ください。20時ちょうど発、“やまびこ”56号、東京行きが参ります。10両編成での到着です。ホーム前寄りでお待ちください。黄色い線までお下がりください」〕

 下り方向から眩いヘッドライトが接近してくる。
 古参のE2系である為、最新車両の白いHIDランプではなく、黄色い通常のヘッドランプであった。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。13番線に到着の電車は20時ちょうど発、“やまびこ”56号、東京行きです。次は、福島に止まります。……」〕

 前の車両の自由席も比較的空いていた。
 やはり、夜の上りは空いているらしい。
 グリーン車も似たような状況だった。
 それでもさすがに明日や明後日は混雑するだろう。
 勇太達は9号車のグリーン車に乗り込んだ。
 向かい合わせにすることはなく、両親の後ろの席に勇太とマリアが座る形を取った。

 2分の停車の後、ホームにオリジナルの発車メロディが流れる。
 『青葉城恋唄』をアレンジしたものである。

〔「13番線、発車致します。駆け込み乗車は、おやめください。ドアが閉まります」〕

 プー!という客終合図のブザーの音と共に、ドアが一斉に閉まる。
 そして、VVVFインバータの音を車内外に響かせて列車が走り出した。

 マリア:「昨日泊まったホテルだ」
 勇太:「そうですね。今度は列車内から見る側です」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 勇太:「イリーナ先生へのお土産も送ったし……」
 マリア:「エレーナが届けに来てくれるよ」
 勇太:「あいつも忙しいですね」
 マリア:「多分、ダンテ一門の中では働き者の部類だろう」

 多くの魔女は、あまり外に出ることはない。
 それは人間時代に受けた体や心の傷を背負ったままであるからだ。
 エレーナなどの一部の者はそこまでヒドい経験をしたことが無いので(貞操も無事)、魔道師になっても外を出歩いている。

 マリア:「エレーナにも送ったのか」
 勇太:「エレーナには“萩の月”でいいでしょう。あいつも甘い物が好きですから」
 マリア:「エレーナにはいいのに……」
 勇太:「大丈夫。僕達には僕達用のお土産があります。イリーナ先生への牛タンと一緒に届く予定です」
 マリア:「それを早く言ってくれ。びっくりしたなぁ、もう……」

 かつては敵対していたエレーナも、今では勇太達の味方である。
 勇太が纏めた魔道師名鑑でも、まだ名前も顔も知らない者に関しては黒いローブを羽織ってフードを深く被っている状態だが、名前も顔も知っている者に関してはそれを出している。
 但し、敵対している者に関しては険しい顔付きをしているが。
 最近ではアナスタシアもそうだったのだが、今では無表情になっている。

 勇太:「それにしても、まだ僕はダンテ一門の魔道師と全員会っていないんですね」
 マリア:「ヨーロッパを拠点に活動している組は、なかなか日本まで来ないよ。やっぱり遠いし」
 勇太:「なるほど……」

 列車は仙台市内を出るとグングン加速して行った。
 夜景を楽しむ間も無くトンネルが断続的に続く区間に入ると、町を出た証拠である。
コメント
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