とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

『京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)ー人間豹の最期ー』観劇

2009-10-25 23:15:20 | 社会人大学
社会人大学の課外講座として、東京国立劇場まで歌舞伎を見に行ってきた。朝早く浜松を出発して、国立劇場に着いたのは11時ちょっと過ぎだった。この日の演目は、『京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)ー人間豹の最期ー』昨年上演して好評だったという江戸川乱歩の『人間豹』の続編である。原作の人間豹こと恩田乱学と明智小五郎の設定だけを借りて、市川染五郎が原案を、岩豪友樹子が脚本を、松本幸四郎の演出という舞台である。

社会人大学では、バレエ鑑賞会や文楽鑑賞会、正倉院展見学等の企画もあったが、今回の歌舞伎の演目が江戸川乱歩の小説から題材をとっているということを知り、一番興味を引いたので参加することにしたのだった。子供の頃、少年探偵シリーズをむさぼるように読んで名探偵明智小五郎と怪人二十面相の対決に胸をおどらせていたものだ。そんなこともあって、怪人二十面相は登場しないものの、大人向きの作品では名高い「人間豹」の舞台化ということで大いに期待して行った。

歌舞伎自体の鑑賞は、昔歌舞伎座に行ったこともあり今回は2回目だった。今回の演目は伝統的な歌舞伎とは異なり、初めての人にもわかりやすく娯楽性に徹した作品だったような気がした。配役は、人間豹こと恩田乱学と娘みすずの二役を演じた市川染五郎、明智小五郎の松本幸四郎、陰陽師鏑木幻斎の中村梅玉などである。特に市川染五郎はコミカルな女形役と凶暴な人間豹恩田の二役をこなし、大活躍だった。劇中の激しい立ち回りやワイヤーで吊るされ、花道から2階客席後方への斜めに客席を飛ぶ宙乗りなど目を見張るものがあった。また、陰陽師鏑木幻斎の悪役ぶりもなかなか見ごたえがあった。

ただ、この演目は江戸川乱歩原作からの続編とはいえ、原作を離れて自由な脚色を施しており、乱歩らしいおどろおどろしたシーンもいくつかあったが、違和感を感じざるを得なかった。時代背景が江戸時代末期で登場人物も侍、町人、農民、公家等の衣装を着ていることもあり昭和初期のレトロなイメージを期待していた自分としては乱歩の世界とは思えなかった。歌舞伎として演じるのだから、時代背景は江戸時代になるのは仕方ないことかもしれない。もちろん歌舞伎役者が洋服で出たら確かに変だろう。江戸川乱歩のイメージを借りたまったく別物の作品と思えば面白かったともいえる。残念だったのは、明智小五郎の役が今一重要な役どころでなかったことだ。はっきりいって陰陽師鏑木幻斎の悪役ぶりと人間豹の人間らしさに目覚めるあたりがメインで明智小五郎の存在感がまったくない。明智小五郎と人間豹の息詰まる対決を期待していただけに、その点は期待はずれだった。

驚いたのは、演出関係で陰陽師の鏑木幻斎の屋敷が現れるシーンである。なかなか凝っていて、舞台がぐるっと回りながら屋敷が登場したのは凄かった。一軒家が丸ごと舞台下からせりあがってくるのだから驚く。歌舞伎というのは、こういった演出がよく考えられており、舞台の早変わりや役者の衣装の早変わりなど感心するところは多い。

今回の歌舞伎で、一番気に入ったのは、人間豹や明智小五郎、鏑木幻斎などではなく、まだ13歳だという中村梅丸という少年が演じた花形見人形だった。人間ではなく美しい人形の役で、ほとんどじっとしているのだが、魂が吹き込まれ急に動き出すシーンは見事だった。人形が何かに操られ動く様が素晴らしい。しかも本物の女性以上に妖しく色っぽい。とても女形とは思えない美しさで魅了されてしまった。これからの歌舞伎界のスターになりそうな役者である。