石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

全世界の成長率は今年3.0%、来年2.9%:IMF世界経済見通し(4)

2023-10-30 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0588ImfWeoOct2023.pdf

 

3. 2023年GDP成長率見直しの推移(続き)

(OPEC+の盟主サウジとロシアに明暗、インドは6%の高度成長!)

3-2 ロシアとサウジアラビアとインド

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03b.pdf 参照)

 サウジアラビアとロシアは米国と並ぶ三大産油国であり、両国はOPEC+(プラス)の盟主として最近は協調減産体制により石油価格を下支えしている。昨年7月時点では2023年の成長率見通しはサウジアラビア3.7%、ロシア▲3.5%であり、同年2月のウクライナ紛争ぼっ発が両国の明暗を分けた。

 

 紛争により石油価格が急騰したことは輸出国のサウジアラビアに大きな追い風となった一方、紛争当事者のロシアは制裁の影響を受け経済に深刻な懸念が生まれ、10月の予測見通しでも両国の成長率予測はほぼ同じ水準で維持された。しかし今年1月はロシアの成長率が0.3%とプラスに見直された一方、サウジアラビアの成長率は2.6%に下方修正され、両者の格差は縮小した。7月の両国の成長率予測はサウジアラビア1.9%、ロシア1.5%に見直され、さらに今回10月見通しでは今年の両国の成長率はサウジアラビア0.8%、ロシア2.2%に修正され両国の成長率は逆転している。

 

米国を中心とする先進国による経済制裁が続いているにも関わらずロシアの成長率が上方修正されていることは、インド、中国をはじめとするグローバルサウスの国々が欧米先進国と共同歩調を取らず、或いはこれをチャンスにロシアから安価なエネルギーを輸入し続けている現状を反映したものとみられる。

 

 アジアの経済大国であるインドの2023年のGDP成長率予測の推移は、6.1%(2022年7月時点)→6.1%(10月)→6.1%(本年1月)→5.9%(4月)→6.1%(7月)→6.3%(10月)である。昨年7月以降ほぼ6%前後で推移しており、インドの今年の成長率は世界平均の5.0%を上回る見通しである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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全世界の成長率は今年3.0%、来年2.9%:IMF世界経済見通し(3)

2023-10-29 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0588ImfWeoOct2023.pdf

 

3. 2023年GDP成長率見直しの推移

 IMFの世界経済見通しは毎年4月、10月に全世界200弱の国について成長率の見直しが行われ、さらに1月及び7月には主要な国と経済圏の成長率が発表されている。主要な国と経済圏については3カ月ごとに検証されていることになる。

 最近の特徴はコロナ禍、ウクライナ紛争、エネルギー価格の高騰など国際経済を取り巻く環境の不透明感が増していることである。このためIMFの成長率見通しも3カ月ごとに大きく変動すると言う特徴が見られる。

 ここでは直近6回(2022年7月、10月、2023年1月、4月、7月及び今回10月)のレポートで今年の成長率がどのように見直されたかを検証する。

 

(5%前後で推移する中国、1%台後半にとどまる日本と米国!)

3-1 全世界及び日本、米国、中国

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03a.pdf 参照)

 直近6回のIMF経済見通しにおける2023年の世界のGDP成長率は2022年7月見通しでは2.9%であったが、その後10月から今年4月までの3回は2.7%→2.9%→2.8%と微修正され、今年7月及び今回(10月)は3.0%とわずかながらアップしている。

 

 米国は1.0%→1.0%→1.4%→1.6%→1.8%→2.1%と連続して上方修正されている。中国の場合は、4.6%→4.4%→5.2%→5.2%→5.2%→5.0%であり、今年1月以降は5%台に見直されている。世界に先駆けて景気回復に向かっていると評価されたものと見られる。

 

 日本の2023年成長率の過去1年間の数値は1.7%→1.6%→1.8%→1.3%→1.4%→2.0%と見直されている。昨年7月から今年1月までの3回は成長率が1%台後半に維持され、その後今年4月及び7月は1%台前半の低めに見直されたが、今回10月は1.0%に見直している。エネルギー価格の急騰が日本経済のアキレス腱となっていたが、日本経済がそれを乗り越えて回復基調に入ったと考えられる。

 

(続く)

 

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全世界の成長率は今年3.0%、来年2.9%:IMF世界経済見通し(2)

2023-10-27 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0588ImfWeoOct2023.pdf

 

2. 2022年~2024年のGDP成長率(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-11.pdf 参照)

 主要な経済圏と国家の昨年(実績見込み)、今年(予測)及び来年(予測)のGDP成長率の推移を見ると以下の通りである。

 

(世界経済は3年連続で鈍化!)

2-1主要経済圏

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-01.pdf 参照)

 全世界の3年間の成長率は3.5%(2022年)→3.0%(2023年)→2.9%(2024年)と予測されている。コロナ禍からは回復する一方、ウクライナ危機が長引き景気の下振れ要因が強く、世界のGDP成長率は3年連続して減速する見込みである。

 

 ウクライナ危機の影響を最も大きく受けるのはEU圏である。3年間の成長率は3.3%→0.7%→1.2%とされ、今年は3年間の中で成長率が大きく落ち込んでおり、他の経済圏と比べても際立って低い。ASEAN5カ国の成長率は5.5%→4.2%→4.5%であり、世界平均を上回る成長率を維持する見通しである。

 

 産油・ガス国が多い中東及び中央アジアの成長率はエネルギー価格の騰落に大きく影響され、3年間の成長率の推移は5.6%→2.0%→3.4%と見込まれている。昨年はエネルギー価格高騰の恩恵が大きかったが、今年は世界平均を下回り逆に来年は世界平均を上回る成長率で推移する見通しである。

 

(中国を上回る高い成長率を続けるインド!)

2-2主要国

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-02.pdf 参照)

米国の昨年の成長率は2.1%であり、今年も同じ成長率が見込まれているが、来年は1.5%に鈍化する見通しである。日本の成長率は1.0%→2.0%→1.0%と推移する見込みである。日本と同様先進工業国であるドイツの成長率は1.8%→▲0.5%→0.9%であり、今年はマイナス成長に落ち込み、来年も低成長にとどまると予測されている。エネルギー輸入価格が高騰する一方、世界景気の低迷で輸出が伸び悩んでいることが低成長の大きな要因と考えられる。

 

中国は3.0%→5.0%→4.2%であり、昨年から今年にかけて成長が回復するものの、その勢いは持続せず来年は4%台前半にとどまる見込みである。コロナ禍以前は二桁台の成長率を誇っていたことに比べ中国の成長率は伸び悩んでいる。これに対してインドの成長率は7.2%→6.3%→6.3%であり、世界平均を大きく上回る6%以上の高い成長を維持するものと推測されている。

 

 中国、インドなどと共に新興経済国BRICSの一翼を担ってきたロシアの成長率は対照的な様相を呈している。昨年(2022年)は一昨年に引き続くマイナス成長(▲2.1%)であり、今年(2.2%)、来年(1.1%)はプラスながらも低い成長率にとどまると予測されている。ウクライナ紛争は未だ終息の見通しが立っておらず、ロシアの今年の成長率がさらに下がる可能性は否定できない。

 

産油国サウジアラビアの3カ年の成長率は8.7%→0.8%→4.0%であり年度による振幅が激しい。昨年は原油価格高騰の恩恵を受けたが、今年及び来年は世界景気の回復が遅れる一方インフレによる輸入価格の高騰のため、昨年のような高い成長率は期待できないようである。

 

(続く)

 

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全世界の成長率は今年3.0%、来年2.9%:IMF世界経済見通し(1)

2023-10-26 | その他

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0588ImfWeoOct2023.pdf

 

IMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し(World Economic Outlook、October 2023)」(以下、WEO)を発表した。 このレポートでは全世界、EU、ASEANなどの主要経済圏及び日米中印など主な国々の2022年(実績)から2024年(予測)まで3年間のGDP成長率が示されている。また同時に公表されたWorld Economic Outlook Database(以下、WEO Database)では全世界の国々の2028年までのGDP成長率、名目金額など詳細な経済指標が網羅されている。

 

本稿では今年(2023年)及び来年(2024年)の成長率を比較し、また前回7月の経済見通しに対してGDP成長率がどのように修正されたかを検証する。そして2021年から2025年の5年間の成長率の推移を比較する。さらに過去6回の経済見通し(昨年7月、10月、今年1月、4月、7月及び今回)で今年の成長率がどのように見直されてきたかを精査する。

 

*WEOレポート: https://www.imf.org/external/datamapper/datasets/WEO

  日本語版:

https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2023/10/10/world-economic-outlook-october-2023

 WEO Database:https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2023/October

 

(今年の世界の成長率は3.0%!)

1.2023年のGDP成長率(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf 参照)

 今回10月見通しでは今年の世界の成長率は3.0%とされており、前回7月見通しと同じである。

 

 経済圏別に見るとEU圏の2023年の成長率は0.7%であり、7月の数値から0.2%ダウンしている。またASEAN5カ国は4.6%から4.2%に下方修正され、中東・中央アジア諸国も2.5%から2.0%に引き下げられている。ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格が不安定なため成長率が鈍化しているようである。

 

 国別では今年の成長率は米国2.1%、日本2.0%、ドイツ▲0.5%、英国0.5%、ロシア2.2%、中国5.0%、インド6.3%である。インドの成長率は世界で最も高く、世界平均(3.0%)の2倍以上である。中国はコロナ禍以前に二桁の高い成長を続け、その後急激に減速したが、それでも世界平均を上回っており、インドと中国が世界の成長をけん引している。これに対してヨーロッパ諸国は上記の通りEU圏の成長率が1%を下回り、ドイツは主要国の中で唯一マイナス成長と見込まれている。

 

産油国のサウジアラビアは0.8%であり、前回7月見通しの1.9%から下方修正されている。同じ産油国のロシアは逆に7月見通しの1.5%が2.2%に上方修正されている。ロシアは欧米先進国から経済制裁を受けているが、中国、インドが同国原油を安値で輸入するなどロシア経済への影響力はさほど大きくないのが現実のようである。

 

(続く)

 

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グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(4)

2023-09-14 | その他

組織の概要と参加国

3.アフリカ連合

 アフリカ連合(African Union, AU)は「アフリカ統一機構」(OAU、1963年設立)を前身とし2002年に発足した。アフリカ大陸の55カ国で構成され、本部はエチオピアのアジスアベバである。

 

 AU加盟国の総人口は13億人を超え、加盟国の公用語はアラビア語、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、スワヒリ語など多様である。植民地時代にヨーロッパ列強により国境、部族、文化、宗教が分断されたことが原因である。AUは地域連合の目的として、EU、ASEANなどと同様域内諸国の経済連携を目指してきたが、多様性が災いして域内諸国の連携は進んでいない。また、石油、天然ガス、ダイヤモンドなどの貴金属あるいは近年脚光を浴びている希少金属など天然資源の産出国とそれ以外の国との経済格差が拡大している。この結果、加盟各国の協力関係は希薄で、むしろ各国内の部族闘争、武力衝突、貧困の格差が拡大する傾向にある。

 

 この結果、現在のアフリカ連合は加盟国数と人口の多さを背景に、欧米先進国から援助を求める圧力団体の様相を呈している。この点で現在のグローバルサウスの潮流はAUの存在感を高めているとも言えよう。

 

 MENA(中東・北アフリカ)諸国の中でAUに加盟しているのはエジプト、リビア、アルジェリア、モロッコなど地中海沿岸諸国である。これらの国は石油・天然ガスに恵まれた国が多く、またヨーロッパとの貿易も盛んであり、サブサハラ(サハラ砂漠以南)の国々に比べて比較的豊かである。北アフリカ諸国は建前上はAUの動きに同調するものの、域内共同体としての協力推進には熱意が乏しいように見える。

 

(続く)

 

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グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(3)

2023-09-11 | その他

組織の概要と参加国

2.アラブ連盟

 アラブ連盟(Arab League, 略称AL)は20世紀前半のアラブ民族主義の高まりを受けて1945年3月、エジプト、イラク、サウジアラビアなど中東のアラブ7カ国により結成された。加盟国は22カ国とPLO(パレスチナ解放機構)である。エジプトが主導した経緯から本部はカイロに置かれ、エジプトがイスラエルと単独和平を結び連盟から除名された1979年から1989年までの10年間を除き、連盟本部はカイロに置かれ、事務局長も歴代エジプト人である。

 連盟の主導権はエジプトが握り、創立以来イスラエルーパレスチナ問題を最重要視しており、イスラエル・ボイコットを主導してきた。君主制国家、強権独裁主義国家が混在する連盟は当初から結束力に欠け、2011年の「アラブの春」運動も当初は静観していたが、民衆弾圧問題でシリアを除名処分にした。しかしロシアとイランのバックアップでアサド政権が安定すると今年に入り復帰を決議している。

 

 連盟はアラブ民族の共同体である。従ってMENA域内のアラブ国家はすべてメンバーであるが、域内であってもアラブ民族以外のイスラエル(ユダヤ民族)、トルコ(トルコ民族)、イラン(ペルシャ民族)は対象外である。ただアラブ民族と言うことだけが共通項であるため、国境問題など個別利害問題に対する調整力が弱く、対外的にも対内的にも実行力に限界が見られる。

 

(続く)

 

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グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(2)

2023-09-09 | その他

組織の概要と参加国

1. G20

 G20は米英仏独日加伊及びEUのG7各国・機関にロシア及び新興11カ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ)からなる20カ国の国際会議であり、毎年首脳会議(Summit)及び財務大臣・中央銀行総裁会議を開催している。

 

 議長は各国持ち回りで議長国が事務局機能を果たすため恒久的な事務局はない。今年の議長国はインドであり、2024年はブラジル、2025年は南アフリカの予定である。G20は世界のGDPの90%、貿易総額の80%、人口の3分の2を占めている。

 

 MENAではトルコ及びサウジアラビアがメンバー入りしており、トルコは2015年、サウジアラビアは2020年に議長国として首脳会合(summit)を主催している(但し2020年のサミットはコロナ禍のためテレビ会議方式で開催)。

 

(続く)

 

 

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二大産油国サウジとロシアで分かれる明暗:世界主要国のソブリン格付け(2023年8月現在) (下)

2023-08-21 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0584SovereignRatingAug2023.pdf

 

2.2020年7月以降の格付け推移

  ここでは2020年7月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(格付け無しが続くロシア、A-からAに格上げされたサウジアラビア!)

(1) 世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間常に最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げている。最近S&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingが同国をトリプルAからAAに引き下げている。FitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であることを引き下げの理由としているのは興味深い。

 

アジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツとは4ランク、米とは3ランクの格差があり、過去3年間格差は解消していない。台湾は2020年までAA-であったが、2021年上期に韓国と並ぶAAに格上げされ、2022年上期に再度引き上げられ現在はAA+に格付けされている。これら欧米・アジア各国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは上半期にA-からAにアップした。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国については、上述のとおり中国がA+である。その他の4カ国を見ると、インドは過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。

 

南アフリカとブラジルは共にBB-で投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ、信用度が低い。BRICsの一角を占めるロシアは、昨年1月までインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であったが、4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。

 

(アブダビに並んだカタール、サウジも1ランクアップ、復調著しいオマーン!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2020年7月時点ではUAE(アブダビ)最も高いAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に落ちている。これに対してカタールは昨年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-であったが、今年上半期にAに格上げされている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

オマーンとバハレーンは投資不適格の格付けである。有力な産油(ガス)国が多いGCCの中で石油生産量がほとんどないバハレーンのソブリン格付けは過去3年間B+にとどまったままである。オマーンは2020年7月にはBB-であったが、下期に1ランク格下げされてバハレーンと同じB+に落ち込んだ。しかし2022年中に2ランク格上げされ、今年7月現在では3年前の2020年7月を上回るBBに格付けされている。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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二大産油国サウジとロシアで分かれる明暗:世界主要国のソブリン格付け(2023年8月現在) (上)

2023-08-09 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0584SovereignRatingAug2023.pdf

 

 本レポートは著名な格付け会社Standard & Poors (S&P)[1]の2023年8月現在の世界主要国及びMENA諸国のソブリン格付け[2]を取り上げて各国を横並びに比較するとともに、いくつかの国について過去3年間にわたる半年ごとの格付け変化を検証するものである。

 

 因みにS&Pの格付けは最上位のAAAから最下位のCまで9つのカテゴリーに分かれている。このうち上位4段階(AAAからBBBまで)は「投資適格」と呼ばれ、下位5段階(BBからCまで)は「投資不適格」又は「投機的」とされている。またAAからCCCまでの各カテゴリーには相対的な強さを示すものとしてプラス+またはマイナス-の記号が加えられている[3]。なおC以下でS&Pが債務不履行と判断した場合はSD(Selective Default:選択的債務不履行)格付けが付与され、さらに格付けを行わない場合はN.R.(No Rating)と表示される。

 

S&P(日本)ホームページ:

https://disclosure.spglobal.com/ratings/jp/regulatory/delegate/getPDF?articleId=3027987&type=COMMENTS&subType=REGULATORY&defaultFormat=PDF

 

*過去のレポートは下記ホームページ参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/SovereignRating.html 

 

(1ランク上がったサウジアラビア、格付けから外れたままのロシア!)

1.2023年8月現在の各国の格付け状況

(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)

2023年8月現在の格付けを1月のそれと比べると最高格付けAAA(トリプルA)のドイツ、カナダ、シンガポール等の他、AA+の米国[4]、AAの英仏、A+格付けの日本、中国など主要な国々に変動はなかった。

 

極東各国(地)の格付けは台湾と香港がAA+に格付けされている。韓国はこれら2カ国より1ランク低いAAであり、日本と中国はさらに2ランク低いA+とされている。台湾と香港の格付けは米国と同じであるが、米中の対立および中国の同化政策により香港の国際金融都市としての高い格付けが今後も維持されるかは不透明である。また台湾は政治的、軍事的に緊張をはらんだ状況に置かれているが、IT産業が好調であるなど、経済的には日本或いは中国よりも安定していることから高いソブリン格付けを得ている。今後、格付け機関が台湾と香港に対してどのような評価を下すのか注目されるところである。

 

G7の国々のうちドイツ及びカナダはAAAの最高格付けであり、米国は1ランク下のAA+、英国及びフランスはさらに1ランク低いAAである。そして日本はAAAより5ランク低いA+に格付けされ、イタリアは投資適格ではあるがBBBにとどまっている。因みに格付け定義ではAAは「債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(トリプルA)との差は小さい」とされ、これに対して格付けAは「債務を履行する能力は高いが上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」とされている。そしてBBBの定義は「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」である。

 

G7以外の国ではアジア諸国のうちシンガポール及びオーストラリアがAAAに格付けされ、またMENA諸国では、アブダビ及びカタールがAAに格付けされている。カタールは昨年下半期にそれまでのAA-から1ランクアップしている、これはウクライナ紛争によるエネルギー危機が顕在化し、世界的に天然ガス(LNG)の需要がひっ迫したことがLNG輸出国のカタールの経済的地位を高めたためである。

 

その他の主要MENA諸国では、イスラエルがAA-である。またGCC諸国を見るとクウェイトはアブダビ、カタールより2ランク低いA+である。サウジアラビアは今年上半期にA-からAに1ランクアップしている。石油需要が回復し、またロシアなどを含めたOPEC+(プラス)の協調減産の結果、油価が好調に推移しサウジアラビアの財政が大幅な黒字基調になったことが格上げの要因と見られる。GCC諸国の中で石油天然ガスの生産量が比較的少ないオマーンと殆ど石油が無いバハレーンは共に投資不適格のランクであり、オマーンはBB、バハレーンB+である。

 

MENAでは大国に位置付けられているエジプト及びトルコは共にBの格付けであるが、トルコは昨年後半にB+からBに格下げされている。人口の多い両国はここ数年のコロナ禍で観光客が激減していることに加え、ウクライナ紛争による燃料、穀物価格の値上げで国内のインフレが悪化していることが格付けの低い原因である。因みに格付けBの定義は「現時点では債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた発行体よりも脆弱である。事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれ易い」である。

 

 アジアの国々の多くは投資適格では最も低いBBBの格付けであり、タイ及びフィリピンがBBB+、インドネシアはBBBである。インドは投資適格では最も低いBBB-、ベトナムは投資不適格では最も上位のBB+である。南米のブラジルはBB-であり、南アフリカも同格である。またアルゼンチンの格付けは前回より2ランク下がりCCC-とされている。

 

 ロシアは昨年初めまでインドと同格のBBB-を維持していたが、ウクライナ紛争が長引き、同国経済の先行きが不透明となった結果、格付け対象から外さ、現在はN.R.(No Rating)とされている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。

[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。

[3] S&Pの格付け定義についてはhttp://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-02.pdf参照。

[4] FitchRatingは最近米国格付けを最上位のAAAからAAに引き下げた。S&Pはすでに2011年にAAAからAAに引き下げている。引き下げの理由はFitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であるためとしている。

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IMF世界経済見通し:群を抜き6%以上の高成長を続けるインド(4完)

2023-08-04 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0582ImfWeoJuly2023.pdf

 

3. 2023年GDP成長率見直しの推移(続き)

(OPEC+の盟主サウジとロシアに明暗、インドは6%の高度成長!)

3-1 ロシアとサウジアラビアとインド

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03b.pdf 参照)

 サウジアラビアとロシアは米国と並ぶ三大産油国であり、両国はOPEC+(プラス)の盟主として最近は協調減産体制により石油価格の下落を抑え込んでいる。昨年4月時点では2023年の成長率見通しはサウジアラビア3.6%、ロシア▲2.3%であり、同年2月のウクライナ紛争ぼっ発が両国の明暗を分けた形であった。

 

 紛争により石油価格が急騰したことは輸出国のサウジアラビアに大きな追い風となった一方、紛争当事者のロシアは制裁の影響を受け経済に深刻な懸念が生まれた。2022年10月までの両国の成長率予測はほぼ同じ水準で維持されてきた。しかし今年1月はロシアの成長率が0.3%とプラスに見直された一方、サウジアラビアの成長率は2.6%に下方修正され、両者の格差は縮小した。さらに今回7月にはサウジアラビア1.9%、ロシア1.5%に見直され両国の格差はさらに縮小している。

 

米国を中心とする先進国による経済制裁が続いているにも関わらずロシアの成長率が上方修正されていることは、インド、中国をはじめとするグローバルサウスの国々が欧米先進国と共同歩調を取らず、或いはこれを奇貨としてロシアから安価なエネルギーを輸入し続けている現状を反映したものとみられる。

 

 アジアの経済大国であるインドの2023年のGDP成長率予測の推移は、6.9%(2022年4月時点)→6.1%(7月)→6.1%(10月)→6.1%(本年1月)→5.9%(4月)→5.9%(7月時点)である。昨年7月に下方修正され今回に至っているが、それでもインドの今年の成長率は世界平均を大きく上回る見通しである。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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