(英語版)
(アラビア語版)
Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
54. 悪魔の発明(2)
『ドクター・ジルゴ』が医学の道を選んだのはキブツでの単調な農作業が厭だったからだ。彼は富と名声を求めて医師を目指した。そして大学に入学すると臨床医ではなく研究者としての道を選んだ。それは適性を自己診断したと言うより、この世界で名を成したいと言う欲望があったからである。
臨床医として患者の治療に取り組み、回復すれば患者から喜ばれる。しかしそれは患者1人からの感謝或いは賞賛に過ぎない。時には患者の家族からも感謝されることもあろう。場合によっては医師としての世評が高まるかもしれない。しかし『ドクター・ジルゴ』はその程度の評価に満足できないのであった。
それに比べ研究者として世界に鳴り響くような発見、そしてそれによって仮にノーベル賞でも受賞できれば-----と言うのが彼が研究者を志した動機であった。そのような世界的発見ができる可能性が極めて低いこと、ノーベル賞など夢のまた夢であることが解らないほど彼も愚かではなかったが、若い彼は名声を獲得する夢に取りつかれていた。医学の道では名声を得れば富は後からついて来る、というのが彼の信念であった。
彼の夢の追求のしかたは極めて現実的である。名声を博するには、現在或いは将来世間が最も注目している分野で業績をあげること。その分野として彼の出した結論は遺伝子ベースの病理学の研究であった。
但し研究のための研究といった地味な取り組み方ではイスラエル政府もメディアもなかなか取り上げてくれない。彼が考えたのは遺伝子コードを解明しユダヤ民族が人類の中で最も優秀であることを証明すると言う壮大なアイデアであった。
もしそのような遺伝子コードが解明されれば、次には遺伝子操作を行うことで優秀なユダヤ人の繁殖率を高めることも可能である、と彼は考えた。現在イスラエル国内ではアラブ系国民の増加率がユダヤ系のそれを上回っており両者の人口比が将来逆転するのではないかと言われており、ミズラフィムなど純粋のユダヤ人(と自らを信じている人々)は本気で憂慮している。従って生物学的な方法でユダヤ人が増えることは大いに歓迎されるに違いない-------。『ドクター・ジルゴ』はそう考えた。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html