石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

仏、イスラエルは格下げ:世界主要国のソブリン格付け(2024年7月現在) (2)

2024-07-04 | 今日のニュース

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0606SovereignRatingJuly2024.pdf

 

1.2024年7月現在の各国の格付け状況(続き)

(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)

 

新興経済勢力として注目されるBRICS各国の格付けを見ると、中国は上述のとおりA+であり欧米先進国に次ぐ高い評価を得ている。しかしインドは投資適格では最も低いBBB-であり、ブラジルはBB及び南アフリカは投資不適格のBB-である。ブラジルは上半期にBB-からBBに格上げされている。因みにブラジルの隣国アルゼンチンも上半期にCCC-からCCCに格上げとなっている。一方、ロシアはウクライナ戦争による欧米の経済制裁を受け、格付け対象から外れるNR(No Rating)の扱いが続いている。

 

アジア諸国のうちシンガポール及びオーストラリアがAAAに格付けされ、またMENA諸国では、アブダビ及びカタールがAAに格付けされている。世界的に天然ガス(LNG)の需要がひっ迫しておりLNG輸出国カタールの格付けが高い。

 

その他のMENA主要国では、これまでAA-であったイスラエルがA+に格下げされた。またGCC諸国を見るとクウェイトはアブダビ、カタールより2ランク低く、イスラエルと同じA+である。サウジアラビアは昨年上半期にA-からAに格上げされたが、ロシアなどを含めたOPEC+(プラス)の協調減産の結果、油価が比較的高目に推移し財政が黒字基調であることもあり、格付けは現状維持されている。

 

GCC諸国の中で石油天然ガスの生産量が比較的少ないオマーンと殆ど産出しないバハレーンは共に投資不適格のランクであり、オマーンは投資不適格の中では最も上位のBB+に格付けされている一方、バハレーンは3ランク低いB+である。因みに格付けBの定義は「現時点では債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた発行体よりも脆弱である。事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれ易い」とされている。

 

MENAの大国に位置付けられているトルコ及びエジプトは今年初めまで共にBの格付けであった。しかし上半期にトルコはB+に格上げされた一方、エジプトはB-に格下げされ両国の明暗が分かれた。エジプトはイエメンによる紅海船舶に対する攻撃によりスエズ運河収入が減少し、また新型コロナ及びパレスチナ情勢の影響で観光収入が停滞した結果、財政が悪化しインフレが亢進している。このためIMF、世界銀行からの借款、或いはUAEによる財政支援など国外からの資金導入に加え、食料・燃料補助金の削減などの自助努力を行っているが、当面の財政事情は苦しく格下げされた。

 

アジアの国々の多くは投資適格では最も低いBBBの格付けであり、タイ及びフィリピンがBBB+、インドネシアはBBBである。

 

(続く)

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(176)

2024-07-04 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(9

 

176 短かった春の宴(1/5)

「アラブの春」を欧米先進国(特にメディア、インテリ層)は中東・北アフリカ諸国における独裁者の圧政に対する住民の抵抗運動、政治の民主化運動と定義づけた。「春」という言葉が持つ肯定的で開放的なニュアンスを政治の場面で使ったのは、冷戦下のチェコの民主化運動「プラハの春」が多分初めてであろう。それはソビエト共産主義の圧政に対する抵抗運動を象徴する言葉となり、西欧のメディアはこの言葉に自己陶酔した。1968年の「プラハの春」はソ連の介入によりあえなく踏みにじられたが、21年後には同じチェコで「ビロード革命」が発生、翌年には東西ドイツ統一が実現して、西欧諸国は自分たちの信奉する民主主義が絶対的に正しい思想(イデオロギー)であり、「プラハの春」はその先駆けであったと確信したのである。

 

プラハの春のひそみに倣い西欧諸国は「アラブの春」も必ず成功すると信じて疑わなかった。しかし「アラブの春」がそれ以前よりさらに劣悪な混乱と停滞を各国にもたらしたことは否定しようがない。大きな変革の直後には更なる変革を求める勢力と古き良き時代の復活を求める両極端の勢力が激突し、混乱が発生するのは歴史の習いである。チェコの民主化運動が成就するのに20年以上かかったことを考えれば、「アラブの春」の歴史的評価を下すのは早すぎるかもしれない。今から20年後のアラブ諸国はひょっとして西欧型の民主主義国家に変貌しているかもしれない。それはまさに「インシャッラー(神のみぞ知る)」である。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

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