石油と中東

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SF小説:「新・ナクバの東」(30)

2022-07-26 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

2022年7月

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」

 

30. バーチャル管制:砂漠に消えた二番機()

殆ど地上すれすれになった時わずかに視界が開けた。しかし「マフィア」の目の前に立ちはだかったのは大きくうねる砂丘の壁であった。

<進入高度が低すぎたのか?>

彼は反射的に操縦桿を引き機首を立て直そうとし、車輪が滑走路に触れると同時に再び離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を試みた。これまで訓練で何度となく経験してきたことである。

 

しかし堅いコンクリートで固められた滑走路と砂漠の柔らかい砂とでは全く違う。「マフィア」の意識があったのはそこまでであった。戦闘機は砂丘をこすると砂にめり込み、主翼と胴体そして尾翼は一瞬にしてバラバラに飛び散った。胴体部分はパイロットを収容したまま砂漠の中に転がった。

 

砂嵐は相変わらず激しく吹き荒れ、砂が風防ガラスを叩きつけると周りに少しずつ積り始めた。胴体に描かれた「ダビデの星」が次第に砂に埋もれ、コックピットの中のパイロットもいつしか砂の中に消えて行った。

 

数時間後、砂嵐が止んだ時、砂漠は何事もなかったかのような表情を取り戻した。ジェット機の墜落したあたりは渺渺とした砂丘が連なり、もはやだれも墜落場所を特定することができない。これが何万年も前から繰り返されてきたルブ・アルハリの自然というものだ。砂丘の下には砂漠に迷い込んだまま生きて帰ることのなかったラクダや羊、さらにはベドウィンの骨があちらこちらに埋まっているはずだ。イスラエル機とそのパイロットも誰にも発見されることなく砂漠の中に眠り続けるのであろうか。「ルブ・アルハリ」は大昔から「空白の四分の一」なのだ。

 

ウデイド空軍基地の薄暗い作戦室のレーダー画面から一つの点が消えた。ベテラン管制官の最初の仕事は終わった。彼は次に備え無線を新しい周波数に切り替え、もう一度レーダーを見つめ直した。そして数分以内に現れると聞かされていた新しい点が画面の隅から現れるのを待った。しかしそれはいつまで経っても現れなかった。

 

その時、上官が部屋に飛び込んでくるなり大声で「作戦は中止だ」と叫んだ。回転椅子を回して振り返った管制官に上官の引きつった顔が覆いかぶさるように飛び込んできた。理由を聞いても上官は黙ったままである。管制官は訳も解らず無線のスイッチを切り、立ち上がると室外へ向かった。

 

部屋の扉を開けながら彼は独り言をつぶやいていた。

 

「ありもしない滑走路の管制塔で戦闘機の着陸を誘導するなんて仕事は初めてだ。バーチャルな管制は見習い士官の時にシミュレーターを使って訓練させられて以来だな。」

「やはり仕事は滑走路の横の高い管制塔でやるのが一番だ。あそこで周りの広い景色をながめながら戦闘機の離着陸をコントロールしていると、小さいながらも世界を支配しているような気分になれるからな------」

 

 何となく物足りず納得できない気分を抱きながら廊下に出た彼の耳に若い兵士の会話が飛び込んできた。

 

「さっき東の空でとてつもない閃光が走ったぜ。あれは何なんだ。」

「俺も見たさ。まるで太陽がもう一つ生まれたみたいだったな。」

 

管制官は廊下の窓から空を眺めたが、そこにはいつも通り雲一つない抜けるような青空とギラギラと光り輝く太陽が一つあるだけだった。」

 

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 


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