石油と中東

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SF小説:「新・ナクバの東」(32)

2022-08-09 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

2022年8月

 

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」

 

32. 回転する六角星:海に墜ちた一番機()

 

空母『ハリー・S・トルーマン』の飛行甲板上で整備士の二等水兵がこちらに向かってくる1機の戦闘機を見上げていた。F15の格納作業を終え艦内に戻ろうとした矢先、艦橋からけたたましいサイレンが鳴りわたり、同時に数名の水兵を乗せた救命ボートが海面に降りて行くのを目撃した。

 

<所属機の着艦予定は無かったはずだが-----------。ひょっとして近くの陸上基地から飛び立った戦闘機が事故か何かで緊急着陸許可を求めているのだろうか。だとしても着艦装置を持たない戦闘機が航空母艦に無事着陸できる訳ではないし、着艦経験のないパイロットには土台無理な話だよな。>

 

空を見上げているのは整備士の二等水兵だけではなかった。どこで聞きつけたのか非番の兵士たちがあらゆる物陰から固唾をのんで北の空を仰いでいる。娯楽の乏しい航空母艦の生活でこれほどスリリングな事件に立ち会えるなど滅多にないことだ。

 

その戦闘機はまるでスローモーション映画を見るように真っ直ぐこちらに向かってきた。艦の手前数百メートルのところで風防ガラスが跳ね上がりパイロットが勢いよく放り出された。パラシュートが開きパイロットがゆっくりと海面に着水するのが見えた。救命艇が甲高いエンジン音を響かせながら着水地点に向かった。

パイロットを放り出した無人の戦闘機はそのまま海面に向かって墜ちていく。機体の横の日頃見慣れない六角星のマークが目に入る。水兵たちは一様にどよめいた。

 

イスラエル機は海面に機体をぶつけると水しぶきを高くあげて一度跳ね上がった。機体はつんのめるように機首を真下に垂直になると、次に180度仰向けに引っくり返り海面に叩きつけられた。

 

その間、横っ腹の六角星もゆっくりと180度回転した。米兵たちは最初その星が余りにもスムーズに転がるように見えたことに違和感を覚えたが、彼らはすぐにその理由に気がついた。彼らが日頃見慣れた五角形の星は回転がぎこちない。それに比べ六角形の星は滑らかに転がる。

 

彼らは同時に六角形よりも五角形の方が安定していることにも気がついた。五角形は両手両足を広げた人間の姿である。二本足で立ち、両腕を真っ直ぐ横にあげ、頭がしっかりと正面を向いている五角形の星。どっしりと構えた五角形の星は自信を示している。それに比べ上下左右ともに対照である六角形の星は一見安定的に見えるが、目の前の『ダビデの星』は流れるように転がって行く。そして『ダビデの星』は水面を滑るように一回転し、やがて水兵たちの視界から消えていった。

 

『ダビデの星』は海の中でもしばらくはゆっくりと回転していたが、やがて胴体は回転を緩め今度は木の葉のようにゆらゆらと揺れながら沈んでいった。海面からの光は弱まり、星の形も見分けられなくなりつつあった。そして機体はペルシャ湾の漆黒の闇に吸い込まれて行った。

 

艦橋からイスラエル軍パイロットの救助を双眼鏡で確認した艦長は直ちにペンタゴンに状況を報告した。

 

報告を受け取った国防長官は独り言をつぶやいた。

 

<これで『シャイ・ロック』の親父に貸しができた>と。

 

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 


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